Girls Just Want To Have Fun!

Back to her roots.

少女から大人になる前に、エモン久瑠美が叶えたかったこと。
Photo_Takahiro Otsuji

それまでは前だけを見てひたすらに突っ走ってきたけれど、
人生のある節目にふと、辿ってきた道を振り返りたくなる。
成人(=ハタチ)を迎える、人生でおそらく重要な10代最後の10日間、
モデルとして活躍するエモン久瑠美さんは初の写真展を開催しています。
かねてより趣味だったフィルムカメラを片手に、
彼女のルーツであるカナダはケベック州で撮り下ろしてきました。
同行したフォトグラファーの大辻隆広さんと共に、
いま伝えたい「撮られる私と、撮る私。」について。

“ハーフ”よりも“ミックス”の方が、私らしい。

写真展『MÉLANGÉ』おめでとうございます! 本展を企画したのはどれくらい前ですか?
エモン久瑠美(以下久瑠美):ありがとうございます。たしか、今年の2月です。
何かきっかけがあったのでしょうか?
久瑠美:これまで3年ちょっとモデルをやっていて、もうすぐ20歳になるんですけど、成人を迎えるにあたってこれまでの活動に加えて何か変化のあることに挑戦しようと思いました。考えた結果、私の唯一の趣味であるカメラで何かしようって。普段は撮られることが仕事なんですが、撮ることも結構好きなんです。
展示期間中にお誕生日を迎えられるんですか。
久瑠美:いえ、展示は6月11日までで、誕生日は6月12日です。10代最後の10日間を開催期間としました。
撮影することにハマったのはいつからですか?
久瑠美:それも3年前です。友達に教えてもらって、ひとりでカメラを買いに行きました。習ったのがたまたまフィルムカメラだったので、未だにフィルムカメラで撮影し続けているって感じです。デジタルの使い方がわからなくて…(笑)。
展名を『MÉLANGÉ』にした理由を教えてください。
久瑠美:フランス語でミックスされているという意味で、今回のテーマが自分のルーツに立ち返るということだったので、ぴったりなワードでした。最初は“HALF”にしようとしたんですけど、“半分”よりも色んな要素が混ざってる“ミックス”の方が私には合っているよって意見をいただきまして。自分でもかなり腑に落ちたんですよね。撮られる私と撮る私のミックス、フランス語を話す私と日本語を話す私のミックス…とか。
そうか、ケベック州はカナダの中でも唯一フランス語圏でしたね。ケベック州で過ごしていたのは、いつ頃ですか?
久瑠美:はい。9歳〜15歳までいたのでフランス語はある程度話せます。ただ、訛りがひどくて(笑)。いまは移住民が多くて英語を話せる人も増えていますが、第一言語はやっぱりフランス語で、テレビや街の看板も全部がフランス語。「スターバックスコーヒー」もフランス語で表現するなら「カフェスターバックス」って言うんですよ。
Photo_Kurumi Emond
モントリオール出身なんですよね…?
久瑠美:モントリオールは東京でいうと渋谷みたいなところで、私の地元は厳密に言うと町田にあたるようなエリア。ケベックは州でモントリオールは都市です。
撮影された写真の中から、故郷のエピソードを教えてください。
久瑠美:写真のレストラン(下)は、帰国する直前に私が通っていた学校のすぐ近くにあったところ。お昼はだいたいここで食べていました。むこうだとランチタイムが自由で、家が近い人は食べに帰ったり、レストランに行ってもOKだったんです。そんな感じで、写真のほとんどが自分と馴染みのある景色です。
Photo_Kurumi Emond

直感にしたがって、自分だけのかわいい瞬間を捉える。

普段は撮られる側だったのが、趣味ベースで撮るということも始めて、感覚的におもしろいなと思ったことや新たな発見などはありましたか?
久瑠美:私が撮るのは風景が多いので、写真を撮ることとモデルの表現方法がリンクして影響を受けたっていう経験はないのかも。でも友達を撮るときは、どう撮ったらかわいくなるのかがわかるようになりました。自分がモデルをしているときにちょっと苦手な角度で撮られたのを思い出して、『ああ、この角度がダメでこの角度がかわいいんだ』と構図のカラクリを理解できたのは新鮮でした。
撮る側になってみて、よりモデルとしてのベストな角度を掴めたんですね! #kurumiphのタグを拝見しても、モデルさんのいちばんかわいい瞬間を捉えられているようで…。
久瑠美:ありがとうございます。そうやって写真を撮りためていくうちに、写真展をどうしても形にしたくなって、もともとプライベートでも仲良しだったフォトグラファーの大辻隆広さんに相談しに行きました。
大辻隆広(以下大辻):最初に写真展をやりたいって相談を受けたとき、彼女はモデルの友達を撮った写真を持ってきました。ポートレート集みたいにしようと思ってたみたいなんですけど、それって写ってるモデルは当たり前にかわいいんだから写真も必然的にかわいくなるわけだし、企画としても誰かの二番煎じっぽくなってしまうのは否めない。もっとこの10代最後の時期に写真展をやる意味はなんなのかというのを考えて、意味合いを持たせるという部分でサポートするよと話しました。そんな経緯もあって、彼女自身のルーツに立ち返ろうというテーマを設定することになったんです。
ケベックの風景を撮るときもフィルムカメラで?
久瑠美:こだわっている訳ではないんですけど、こっちの方が性に合ってるのかな…。
大辻:久瑠美の性格上、デジタルだとすぐ現場で確認できちゃうから、気に入らないのを消したり、何度も撮り直したりして迷走しそう。けど、フィルムってその瞬間は撮れているかどうか分からないじゃないですか。仕上がりをすぐに確認できない性質ゆえに不安にさせられる部分もあるんですが、彼女の作品に関しては、そういう有限的なところでセンスが際立ったんじゃないかなと感じました。僕もカメラマンなんでケベックにいる間は風景の写真を撮ってたけど、全然ピンときてなかった場所でふと横を見ると、久瑠美が突然何かを狙うかのようにファインダーを覗いてシャッターを切ってるんです。『ええ…いまの大丈夫? ちゃんと撮れてるの? 』って心配してたんですけど、仕上がりをみたら思いの外よくて。僕が撮ろうとしているタイミングと全然違った、彼女なりに何かビビッとくるポイントがあるようでした。
Photo_Kurumi Emond
Photo_Kurumi Emond
Photo_Kurumi Emond
たしかに、写真を拝見するとどれもその瞬間に対して素直に向き合っているのが印象的でした。
大辻:言い方が悪いけど、何も考えてないんだと思います。だからこその写真なのかな。あとひとつ重要な点がありまして…久瑠美の写真って全部タテで撮っているの、お気付きでしたか?
本当だ…!
大辻:ポートレートならタテで撮ることの方が多いんですけど、風景でタテってなかなか見ないですよね。クルマがずらっと並んだ写真も、本当はもっと両隣にクルマが並んでいて、迫力ある画が撮れたはずなんですよ。
普通は、保険をかけるつもりでタテとヨコで撮ったりしますもんね。
久瑠美:いや…もう単純に癖です(笑)。ヨコの撮り方がわからないんです。しっくりこないというか。タテの方が、撮りたいものにめがけることができるし、決まりやすいんです。
大辻:作風として、ターゲットがあってそれに向かっていることが多いからなのかも。ヨコの写真は割と全体を写そうとするというか。ポートレートはタテが多いっていうのもそうですが、何かに向かって寄っていく感じがあるので、撮りたい被写体や狙いたい場所が定まっているからこその、タテなのかもしれません。
久瑠美:そうかも! クルマの写真も、狙っていたのは真ん中のクルマに混じってひっそりと建っている小屋で。あそこを撮りたくてずっと上から眺めていました。
今回の展示に際してZINEも製作されてましたが、表紙の写真は最初から決めていたんですか?
久瑠美:全く想定せずでした。アートディレクターの中村浩恵さんが決めてくださいました。
ちなみに、本作が初めてのZINEですか?
久瑠美:そうです。
初ZINEですでに最高の陣営ですね!
久瑠美:もともと、浩恵さんとは仲良くさせてもらっていたんですが、アートディレクターを誰にするかっていう話になったときに大辻さんが『中村さんがいいと思うよ』って言ってくれて。私は“浩恵さん”で覚えていたから、誰か素敵なアートディレクターさんを紹介してもらえるんだと思っていました。いざ3人で顔合わせをした場所に、浩恵さんがいたからビックリ! まさか同一人物だと思わなかったんですよね。こうして巡り合わせのように、いいチームで製作できたのはこの上なく嬉しいです。
Photo_Kurumi Emond
Photo_Kurumi Emond
Photo_Kurumi Emond

実は…おじいちゃんを見ると撮らずにはいられないんです。

絶対に使いたいカットとかはありました?
久瑠美:私…おじいちゃんが写っている写真が大好きなんです。これでも少なめにセレクトしたんですけど。撮りためた写真をよく見たらおじいちゃんばっかりで(笑)。
あのおじいちゃんが撮りたい! みたいにターゲットを何かしら定めて撮影しに行ってます?
久瑠美:そうかもしれないです。一回ロックオンしたらどこまでも追いかけちゃいます。ジャムパンを頬張っているおじいちゃんの写真は、30分くらい粘って撮りました。バレないように大辻さんを盾に、大辻さんごしで狙いながら(笑)。あ、あとはゴミ箱もたくさん撮りました(笑)。実はおじいちゃんに次ぐ勢いで多いです。
Photo_Kurumi Emond
Photo_Kurumi Emond
こうして写真展を開催することで、これまでは趣味だったところからもう一歩先のフェーズに進めたということにもなりますね。
久瑠美:たしかに、ケベックを舞台にした写真展なんて聞いたことないかも。
大辻:僕も、そこに興味があって同行しました。『Mommy』っていう映画が同じ地を舞台にしているんですけど、実際に行ってみてストーリーと重なる部分が多々ありました。
その作品の監督グザヴィエ・ドランもそうですが、モントリオールの人たちってコミュニティがかなり狭いみたいですよね。
大辻:そうみたいですよね。モントリオールもそうだったんですが、旧市街の方へ行くともっと古い建物が並んだり、普通にフランス語が飛び交っていて、カナダではないような不思議な感じがしました。
今回の旅で、大辻さんに撮られているときの久瑠美さんは具体的にどんなことを意識していましたか?
久瑠美:できるだけナチュラルでいること。モデルっぽさを捨てました。
ポスターの写真も、家にいるかのようにリラックスされていますね。
久瑠美:まさに、そんなイメージです。
では逆に大辻さんは、第2の故郷にいる久瑠美さんを間近で見てきて、何か感じたことはありましたか?
大辻:春になるちょっと前に行ったから、まだ街も寒かったんです。だからファッションも、久瑠美が撮った写真の人たちのような暗いトーンばっかり。そして、すごく静かでした。そこが彼女とも重なっているような気がしています。一見華やかな世界でポップな服をまとっているイメージですが、こうして故郷に帰ってみるとこの街に馴染んでいるというか。それは写真を撮るときも同じです。例えば、おじさんを狙って撮ろうとしているときも、僕だったら自分が近づいて撮りに行きますが、久瑠美の場合は違います。すごーーーく遠い場所からひっそりとズームで狙って撮るんです。そこは、日本人の奥ゆかしさがミックスされているのか、それともカナダ人の個性がそうさせているのかはっきりとわからないけど、何か彼女のルーツのひとつと関係しているのかなって思ったりも。
Photo_Kurumi Emond
Photo_Kurumi Emond
Photo_Kurumi Emond

本当は、目立つことが昔から苦手でした。

じゃあ、撮りたい被写体に『撮らせて! 』って話しかけには行かないんですね。
久瑠美:行かないです。カナダで最初に住んだ家も撮影したんですが、これもクルマに乗ったまま撮りました。キャノンのオートボーイで思いっきりズームして(笑)。
大辻:しかもあの写真、手前に僕がいるんですよ(笑)。僕ごしのクルマごしの家。『この家は自分のもっとも重要な場所だし、ちゃんと撮らなきゃだよ? 』って言ったんですが『あのおばさんに何か言われて、撮り逃したくないからここで大丈夫です』とのことでした。
結果的に、あの人たちがいる瞬間を押さえられてよかったですね。
久瑠美:はい。前にスーパーで撮影したとき、ひどく怒られたのがトラウマで、そこからズームで撮ることに徹してました。シャッターチャンスを逃したくないし、できるだけ被写体の妨げにならないような距離感を保つようにしています。
例えば、観光客とかがバシバシ撮ってるのを嫌がる人とかも多いんですか?
久瑠美:うーーーん。意外とそうかもしれないです。そもそも観光客はあんまりいませんが。
カナダの性質とケベック州の性質って違うんですか?
久瑠美:ケベック州の人は、自分たちのことをカナダ人だとは思ってないみたいです。“Canadian”ではなく“Quebecois”と呼んでいるくらい。
大辻:カナダに限らず、寒い地域に住む人特有の性質なのかもしれないです。内にこもるというか。僕もいろんな国で撮影しに周っていますが、街を撮ってて怒られることなんてなかったから、ちょっとビックリしました。
住んでいたときと、ファインダーを通してみたとき、ケベックの景色は違って見えましたか?
久瑠美:全然違いました。田舎の町なので知り合いばっかりだし不思議な気持ちでした。レストランで撮影したときは偶然高校の同級生がいて、トイレで話しかけてくれました。私のことをInstagramでチェックしてくれていて、日本でモデルをやっているのを知ってたみたいです。
地元でもモデル活動をしているのは、知られているんですね。
久瑠美:結構、知ってくれているみたいです。Instagramでもコメントが来たりします。でも、有名になる一方で嫉妬されてしまうこともありました。
大辻:なんか、そういう国民性もあるみたいですね。閉鎖的じゃないけど気にしなくていいことを気にする感じ。話を聞いていてより『Mommy』っぽい! って思いました。たぶん、夏になって暖かくなったらその分、弾けるんじゃないかな。
久瑠美:たしかに、ハッピーになる人が多いかも。
Photo_Kurumi Emond
Photo_Kurumi Emond
Photo_Kurumi Emond
風景の写真も寂しそうな感じもしながら、どこか光は柔らかいような気もしました。
大辻:1週間ほど滞在していたんですけど、ほとんど晴れていました。太陽が出てると半袖でも過ごせるくらい暖かかったんですよ。でも…スモッグというか砂埃がすごかったな…。
久瑠美:工事をそこら中でやっているから空気がよどんでいます。カナダは冬が本当に寒いから、一度凍ったコンクリートが溶けたときに道路が割れちゃうんですよ。それでどうしてもボロボロになってしまって工事をするという…。毎年、あちこちで起こるから本当にキリなくて。
道が凍るってすごいですね! 冬はどれくらいまで寒くなるんでしょうか…?
久瑠美:真冬はマイナス15度が普通で、ひどい時はマイナス20度くらい。本当にみんな<カナダグース(CANADA GOOSE)>を着ていますよ。
写真展を開催したばかりですが、現在もカメラを持ってどこかに撮影しに行くことは習慣的に続けているんですか?
久瑠美:撮ってますね。出掛けるときは持ち歩くようにしていますし、オフの日はモデルの友達と遊びに行きがてら撮影します。カメラにハマっている子が多いから、最近はお互いを撮り合うなんてこともよくあります。
東京でも風景を撮ったりします?
久瑠美:あんまり撮る機会は少ないかもしれません。建物に関してはヨーロッパの方が好きみたいで。前にロンドンに行ったときもずっと建物ばっかり撮っていました。時間が経ったのを感じられるようなレンガが好きなのかもしれません。だからこの間、韓国に行ったときも楽しかったです。結構レンガの建物が多かったんですよね。
最後に、これからがんばってみたいことを教えてください。
久瑠美:新しいことには常に挑戦し続けたいです。最近、韓国のモデル事務所にも入って、2週間くらい滞在していろんな撮影をしてきたんですが、日本とは違った雰囲気で楽しかったです。たくさん行く機会ができるようにがんばりたいな。もちろん韓国でも写真はマイペースに撮りためていくつもりなので、また近いうちに写真展を企画できたらなとも考えています!