Virgil was in Paris.

ヴァージル・アブローのパイオニア精神。
Photo_Yuichiro Noda
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モードとストリートカルチャーがリンクした
現在のファッションシーンにおける最大の功労者といえば、
〈オフ-ホワイト C/O ヴァージル・アブロー™(OFF-WHITE C/O VIRGIL ABLOH™)〉の
ヴァージル・アブローをおいて他にいない。
今年10月にパリで発表された18SSコレクションでも、
往年のスーパーモデル、ナオミ・キャンベルの登場というサプライズとともに
超満員のゲストの視線を釘付けにした。
デザイナーとして全世界の注目を集める彼が語る、いままでとこれから。

これまでの〈オフ-ホワイト™(OFF-WHITE™)〉のウィメンズラインはストリート色が強く、どこか“メンズの延長”というイメージがありましたが、パリで発表された2018SSコレクションではより女性らしい、メンズとは全く異なる世界観となった印象を受けました。何かきっかけはあったんですか?
ヴァージル・アブロー(以下ヴァージル):特別なきっかけはないよ。ぼくにとっては、全てがファーストシーズンのようなものだからね。常に変わるのがファッションというものさ。
男性であるあなたが、ウィメンズコレクションを作る上で大切にしていることを教えてください。
ヴァージル:ぼくにとってはストーリーテリングが大事なんだ。いま、都会的なシチュエーションで生活する最先端の女の子たちが何を着たいと思っているかを、新しい物語として伝えるようにしている。伝統と新たな価値のミックスといえるね。
18SSコレクションのテーマは?
ヴァージル:テーマは“女性らしさ”だった。プリンセス・ダイアナがぼくのインスピレーション源で、彼女の記憶が若い世代の中でも生き続けるようにしたかったんだ。当時プリンセス・ダイアナが若い女性達に与えた衝撃は、現代に生きる女性のスタイルにも影響していると思う。
今回は、ナオミ・キャンベルがランウェイを歩いたことも話題となりました。どういう経緯で実現したのですか? また、彼女に出演してもらった感想は?
ヴァージル:ぼくらは以前から友人同士でね。彼女に出てもらうことでよりインパクトがあるショーにしたかったから、話しているときに直接「出てくれない?」って。彼女はアイコンだろ? ぼくが実現したかったのは、新しいユースカルチャーにアイコンを登場させることだったんだよ。
コレクションで登場したフットウェアはすべて〈ジミー チュウ(JIMMY CHOO)〉とのコラボによるものでした。その他にも、〈ナイキ(NIKE)〉との“THE TEN”やSNS上で話題になった〈イケア(IKEA)〉など様々な企業とコラボレーションしていますが、その意図は?
ヴァージル:単純に、コラボレーションすることが好きなんだ。普段関わらない人たちと一緒に仕事をすると、新しいアイデアが湧いてくるから。自分自身と対話する方法のひとつとも言えるかな。ちなみにいまは文具メーカーの〈ぺんてる〉が気になっている。一緒にマーカーを作りたくて。
たしか他のブランドの展示会で、そこがカスタマイズしたペンをもらったことはありますよ。
ヴァージル:彼らコラボレーションしてるのかな? だとしたらクールだね!
デザイナーとしてのあなたの話を聞かせてください。キャリアのスタートは、遡れば〈パイレックス・ヴィジョン〉だと思います。当時の、自身に近しい友人にプレゼントして浸透させるスタイル、そして先に伺った様々なブランドとコラボレーションするスタイルは、日本の裏原ブランドを彷彿とさせます。日本からの影響は少なからず受けているんですか?
ヴァージル:100%だね。ぼくはアメリカ人として日本にやってきて、ここでインスパイアされて自分のプロジェクトを始めたわけだから、原宿、青山、渋谷のような日本のストリートカルチャーのシーンをリスペクトすることが一番大切だと思っている。
特に影響を受けた日本人がいれば教えてください。
ヴァージル:(藤原)ヒロシとNIGO。この偉大な2人がいまの僕をつくったと言っても過言ではないね。彼らがいなかったら、ぼくのキャリアは存在していなかったかもしれない。人々が昨日今日で目にしていることではなく、彼らが最初に始めたスピリットが重要なんだ。ぼくはシカゴで生まれてニューヨークに住み、ファッションの都にストリートカルチャーを持ち込みたいと思っていた。当時は、ここまでファッションとストリートカルチャーが密接になるとは予想していなかったけど、例えばパリのファッションシーンよりは、ヒロシやNIGO、髙橋盾のような存在により共感し、親しみを感じていたからね。つまり、彼らがぼくがパリでファッションビジネスをやる基礎をつくってくれたようなもの。ヒップホップやロックといった音楽、スケートにアメカジなどの異なる要素をファッションに落とし込んでいるのを目にして、ストリートウェアはぼくのなかでアートとなった。だから、まずはヨーロッパに行くより、東京に来ることでグローバルになる選択をしたんだよ。
以前インタビューしたエイサップ・ロッキーも、藤原ヒロシさんのことをゴッドファーザーだと言っていました(笑)
ヴァージル:本当に?(笑)
日本に来たら必ず行くお店はありますか?
ヴァージル:日本にいるときは、いつも夢中で買い物しているんだ。原宿、青山、新宿、あとは代官山の蔦屋とかね。特に好きだったのは「リカー、ウーマン&ティアーズ」なんだけど、あそこがクローズしてしまったのは本当に残念。最近だと、日本のデザイナーズブランドがたくさん置いてある渋谷の「ガーデン」にはよく行くかな。あそこはぼくの好きなショップのひとつだね。
いまでは、世界中の数多くのセレブがあなたが作る服を愛用しています。そのような形で話題となることを、あなた自身はどう感じていますか?
ヴァージル:それはぼくにとって、〈オフ-ホワイト™〉がオーセンティックであるということの証明だと考えられる。どんなブランドなのか、強いアイデンティティを持って示せることじゃないかな。だから友達でも超有名人でも、誰でもいいんだ。誰であれ、その服が着る人のパーソナリティに合っていれば完璧だと思う。
まだ〈オフ-ホワイト™〉のアイテムを身につけていないであろうセレブのなかで、ぜひ着てもらいたい人はいますか?
ヴァージル:うーん誰だろう…、アデルかな。
その答えは想像していませんでした。
ヴァージル:(笑)
〈パイレックス・ヴィジョン〉のスタートから現在まで、デザイナーとして成功するに至ったターニングポイントはどこだと思いますか?
ヴァージル:それは特にないかな。ぼくはただ自分がやるべきことをやってきた。キャリアは、その人の手のなかにあると思っているんだ。他の誰のものでもないんだよ。自分のキャリアが誰かのコントロール下にあると考える時点で間違っていると思うね。
最後に。消費者からは圧倒的な支持を得ているものの、“ストリート上がり”というルーツは、モードシーンにおいては受け入れられづらいこともあるかと思います。それについてはどう感じていますか?
ヴァージル:全く問題ないね。ぼくは、どんな新しい世代でも、何かをタダで得ようとするべきではないと感じている。困難に立ち向かうことが、カルチャーを前進させるからね。それこそが時計の針を前に進めるんだよ。何かを得るには、良い仕事をして周りからリスペクトされないと。もし与えられるだけだったら、世界が発展していくということにはならないよね。そういうチャレンジングなことが、新しいアートのムーブメントに刺激を与えているんだと思う。だから、ぼくも大丈夫だよ。