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赤いリップが地球を救う。
赤いリップが地球を救う。

Farewell to plastic.

赤いリップが地球を救う。

2019.12.12

リフレッシュオープンした伊勢丹 新宿店の化粧品フロアで買えるようになった、
ラグジュアリーなリップスティック〈ラ ブーシュ ルージュ(La Bouche Rouge)〉を知っていますか?
プラスチックを一切使わないサステナブルなブランドとして話題です。
ケースはひとつひとつメゾンブランドの製品を扱う革職人がつくっていて、中身は美容液の固まりみたい。
ファウンダーのニコラス・ジェルリエさんが来日したので、話を聞いてきました。

Photo_Mitsugu Uehara
Interview & text_Kyoko Endo

つまらないってサステナブルじゃない。クールでファッショナブルでいないと!

ーようこそ日本へ!
もともと日本のデザインや歴史に興味があったので、来日できてうれしい。個人的に安藤広重のファンなんです。
ー先日伊勢丹 新宿店のオープンにも伺いましたが、すばらしいコレクションでした。また、通常口紅には中身にもプラスチックが入っているって驚きました。〈ラ ブーシュ ルージュ〉はプラスチックをまったく使っていないんですよね?
世界初の試みですからね。ちなみに製品だけじゃなくて、製造工程でもプラスチックは使っていないんです。このシステムのほか、材料の確保やリフィルが交換できる仕組みなどをつくるのに、2年かかりました。ところで通常、リップスティックのケースはプラスチックでできているものがほとんどですが、世界で年間何本捨てられているか知っていますか?
ーすごく多いってことですよね。1億本くらい…?
なんと10億本です! 残念なことに化粧品業界は、自動車・衣料に次いで3番目にプラスチック汚染を排出してしまっているのです。マイクロプラスチックで世界の水資源の83%が汚染されているいま、このままだとどうなってしまうのか…。それで僕は「No more plastic for beauty!」と言うことに決めたんです。ディストリビューションでもプラスチックは使いません。伊勢丹のショップに来てくれたのなら、見てくれましたよね?
ー内装は大理石とメタルだけですよね。店頭で使用されていたリボンもコットンでかわいかったです。
あれも化学繊維を使わないためなんです。
ーサステナビリティはヨーロッパではもう流行ではなく常識って感じですが、日本ではプラスチック汚染のことが全然知られてないんです。ネットニュースなんかでトップに上がることもあまりありません。
ではリップスティックから変えていけばいいですね(笑)。僕たちの商品を買ってくれた人から情報が伝わるのが、いちばん効果的だと思います。リップスティックは誰もがバッグに入れているものですよね。おしゃれな人がシックなレザーの口紅を使う。周りの人が私も欲しいと思って使いはじめる。そうして世界が変わっていく。それがフェミニンな変わり方だと思います。僕らのリップスティックはセラムだから肌にもいいですし。
リフィルの底にマグネットがついていてケースから簡単に着脱できる仕組み。2色持って付け替えることも可能。
〈ラ ブーシュ ルージュ〉レザーケース ¥13,500+TAX、リフィル(70’S AMERICA)¥4,600+TAX(エドストローム オフィス 03-6427-5901)
ー誰かが変えてくれるとか、大多数が変わるのを待っていたら、その間に汚染が広がってしまうかもしれませんよね。
日常生活でペットボトルを使うのをやめたりするのも大事ですが、こんな可能性もありますよって示したかった。みんなが習慣を変えたいと願う、その願いを生み出したいと思ったんです。あなたの行動が変わったら、翌年にはお友だちの行動が変わるでしょう。みんなが変われば大きな企業も変わっていくはず。みんなが欲しがるものをつくりたいと思ってるので、僕たちはつまらないものは絶対つくりません。つまらないってサステナブルじゃないじゃないですか。僕たちはクールでファッショナブルでいたいんです。その気持ちをメッセージにしてこの箱に印刷しています。
ーギフトボックスの文章ですね。この色もロゴもかわいいです。
僕たちはエッジィで、エレガントでアーティスティックなものをつくりたい。そのほうが多くの人が僕たちのメッセージを聞いてくれるんじゃないかと思います。
ーケースにはどうして布や紙じゃなく、革を選んだんですか?
化粧品に職人技を入れたかったからです。フランスには革製品の伝統があります。いいものには職人の魂が感じとれますよね。それに革って、何年も使い込まれて味が出てくる素材で古びないので、毎日使うのには理想的だと思います。自分の持ち物に愛着がわきますし。僕も息子のお土産のペンケースを2年くらい使ってるけど、どんどん風合いがよくなってくるんですよ。サステナビリティを考えるならヴィーガンレザーに変えようかという話も出ました。いまはヴィーガンレザーの製品もつくっているけれど、革も使い続けています。
ーすごくシックだと思います。
フランスで最上級の革なめし職人を探したんです。今年の秋冬コレクションでは、革の端切れを使いました。こうすれば捨てられてしまうものが素晴らしいものに変わりますよね。ただ、漫然と革を使うのではなくて、革職人にも敬意を払って新しいアプローチでいいものをつくり出したいんです。

リフィルは口紅だけじゃなくバームもある。革ケースにイニシャルを刻印することもできる。

ー蜜蝋を使わないのはなぜですか? 蜜蜂を保護するなら蜜蝋をもっと使ったほうがいいという人もいると思うんですが。
じつは僕たちも最初は蜜蝋を使っていました。自然な原料だし入手しやすかったんですが、会社を始めて1年経ってすごく成功して生産量を増やさなくてはならなくなったとき、それだけの量の蜜蝋のトレーサビリティを確保できなくなりました。蜜蝋の大半は化粧用としては使えないんです。蜜蝋にはグレードがあって、僕が好きなのは風景がきれいな田舎や島の小さな養蜂場でつくられたもの。でもそんな小さな生産者からの蜜蝋では量が賄えない。もう少し大きな生産者もいい蜜蝋を生産しているけど、化粧用には不充分なんです。ナショナルジオグラフィックで読んだんですが、化粧品原料として使われている蜜蝋は抗生物質漬けの蜂からのものだと。これらの、トレーサビリティが確認できないんです。
ー蜜蜂がどんどんいなくなっていることは知ってはいましたが。深刻ですね…。
それで蜜蝋を使うのをやめました。「オーガニック」とか「ナチュラル」と言いながら鉱物油を使ったりしている会社もあります。みんなナチュラルなものをほしがるけど、ビジネスはその通りでもないってことですね。でもそれは僕のやり方じゃない。
ーEauVive Internationalとのトーゴでの水の普及活動のニュースも見ましたが、化粧品ブランドがそこまでしなくてはならないと考えた理由はなんですか。
プラスチックを使わないこと、職人技にこだわること、ポジティブな経済プロジェクトに関わること。この三つが複合しているのが〈ラ ブーシュ ルージュ〉に大事なことだと思うんです。新世代の人たちのために、健康や人々の尊厳を大事にする経済プロジェクトに参加したい。トーゴのように水に恵まれていない国の人々を支援することが会社として重要だと思って、リップスティックを1本買うと100リットルの水がトーゴに寄付される仕組みをつくりました。

主成分はマンゴバターなど。La Bouche Rouge公式サイトでも成分を公開している。

ーなるほど。ところでどうしてロレアルのような大企業を出て独立したんですか?
もともとは現代アート業界で働いていて、ロレアルでキャリアを伸ばせると思ったんです。実際、仕事は面白かったし、受けたものも大きかった。でも、自分独自の製品をつくってみたかったんです。それに化粧品業界のプラスチック汚染を知って、怒りを感じました。僕たちの世代で状況を変えないと未来はない、いまやらなくてはと思って会社を立ち上げたんです。プラスチックはそこら中にあります。リップスティックのブランド名を刻印するためだけにシリコンの型が毎年3億個も使い捨てられているんです。すごい量ですよね。
ーすごい改革を実現してこられましたが、今後、さらになにかやってみたいことはありますか?
もういま日本に来ているし、夢は結構叶ってるんですけど(笑)メゾンの発展のために考えていることはあります。美容業界の古いやり方からは離れて自分たちのやりたいことをやっていきたいなと。9月に新しいプロダクトを発表するつもりだけど、いまは秘密。試作中なんです。
ー先日も「ドーバーストリートマーケット」で限定商品を出されましたよね。
いつもいろんな方々とのお取り組みは積極的に検討しています。いまはイブ・クライン財団とクライン・ブルーを再現できないか話しているところです。
ーなにかほかの製品もつくる計画があるんでしょうか。アイメイクとか…。
僕たちのマニフェストを伝えるのにはやっぱりリップスティックがいいと思っています。世界一ホットで個性的なリップスティックをつくりたいし、それが世界一クリーンであることが重要。ひとつの商品に固執するのはリスクが大きいかもしれないけど、もし10種類もの商品を抱えていて毎月新製品を出さなくちゃならなくなったら…。僕たちのメゾンがシンプルにやっていけるのは、職人的なものをひとつひとつ段階的につくっているからです。進み方はゆっくりだけど、生産効率はいいんですよ。
ー今後、アジア進出も考えていらっしゃるのでしょうか。
そうですね。ただ中国では動物実験が義務づけられているんです。だから中国本土への出店は断りました。香港は大丈夫なんですが、中国本土はだめなんです。だから中国でいろんなブランドのロゴを見るかもしれないけど、どこも動物実験してるってことですね。でも、僕たちが動物実験を断ったことが、彼らが動物実験を止めるきっかけになるかもしれません。例えば中国の大きなデパートが僕たちを出店させようとしたら、僕たちが中国で最初に動物実験をしないブランドになるかもしれない。彼らもルールを変えようとしているし、その計画も進行中なんです。
ーちょっとショックですね。そんなことまったく知りませんでした。
ショッキングですよね。誰も知らないと思います。でも、ラグジュアリー業界ではサステイナブルだと言っているブランドがそうでもないことはよくあります。会社が真実を隠しているわけだからそれは罪だと思うし、僕はそういうところとは反対の立場でいたいですね。
ーこのリップスティックは日本の若い女性がサステナビリティについて考え始めるすごくいい機会になると思うんですが、何か私たちにメッセージをお願いできますか。
リップスティックで世界を変えられると思ってみてください。もしも毎日使うリップスティックで海がきれいになるなら。もしもリップスティックでプラスチックを削減できるなら。もしもリップスティックで健康になるなら。だってプラスチック入りのリップスティックを使うのは、プラスチックを食べるのと同じことなんですよ。誰もプラスチックを食べたいとは思ってないし、プラスチックとキスしたいなんて思ってませんよね!(笑)

INFORMATION

La Bouche Rouge

Instagram @laboucherougeparis