Tell me about the book !
本の虫に聞く、頭から離れない本が読みたい!
いまやスマホでなんでも調べられる世のなかだけど、
たまには本で情報をアップデートするのもいいかも。というわけで、
今回は読書好きの4名に、一度読んだら忘れられない本と、
それぞれにとっての読書についてを取材。どうせ読むなら、
マインドや生活に少しでも変化を与えてくれる本だとうれしいですよね。
Photo_ Yuko Nakamura
紹介する本はこちら
木越 明
『ニーチェ』 竹田青嗣
『あばよ思想なき現代人』 総理
- ―『ニーチェ』との出会いは?
- 撮影で大阪に行ったときに西成の古本屋で出会った本です。そこでは、いわゆるビニ本が売られていたんですけど、店内で流れていた曲はワーグナーで(笑)。お店の雰囲気も相まって、おもしろそうだなと。
- ー出会いから特別な感じがします。どんな内容ですか?
- ニーチェが哲学者として書いてきた本を軸にした、彼の思想の解説本です。彼が大学教授になった頃から最後に書いた本までを辿って、その考え方がどう始まって完成したのかが記されています。哲学者のなかでも、捉え方が定められない思想だからこそ、いろいろな解釈をされやすい人らしくって。この本はニーチェの考えをもとに忠実に書かれていると思います。
- ーニーチェの解説本って世のなかにたくさんあると思いますが、この本が他と違うところってどこでしょう?
- おもしろいイラストによってニュアンスが与えられるので、より感覚的に内容が頭に入ってくるところです。平安時代の遊び歌など、既存の文化に対して読者が持っているイメージをうまく使って描かれていていいなと。衝撃的な挿し絵なのに、内容はニーチェの考え方がしっかりと伝わるもので、そのギャップにもグッときました。
- ー『あばよ思想なき現代人』はいつ購入したものですか?
- 映画の撮影で共演した総理さんという方が所属しているロックバンドのライブに一度足を運んだことがあり、そこの物販スペースで売られていました。テキストが手書きだったことに衝撃を受けて購入しました。
- ー表紙もなかなかインパクトがありますね。どんな内容ですか?
- これは哲学者でもある総理さんが書いた詩集です。彼はパンクロッカーでもありながら、大学院で哲学の勉強をして本を出版しています。なので、詩にはいろいろな哲学者の考えが入っていて。なかでもパンクロッカーとしてのロックンロールな匂いが強いです。
- ―ロックンロールな匂いというのはどういったものでしょう?
- もともとの語源は違うけど、要するにロックンロールとは岩が転がり落ちるような生き方のことだ、と総理さんは言います。『ニーチェ』にも出てくるのですが、この本は個人にとっての“然り”という生き方を体現しているんです。“こういう風にしか生きられない”と言う、哀愁と悦びが感じられる作品が、私は好きなんだと思います。
読書には価格を超えた価値がある!
- ー紹介してくれた本は2冊とも哲学の本ですが、普段から哲学書を?
- そうですね。考えていることをうまく言葉にできないことが多いけど、本はそんな私が言葉と出会うための手段でもあるんです。哲学書ってそういう意味でいちばん手っ取り早いものだなと。私が言葉にできないことを言葉で表現している本に触れることで、そんな自分を昇華しているような気がします。
- ーどれくらいの頻度で本を読みますか?
- 必ずバッグに本を一冊入れて出かけます。実は、本をすごく読むようになったのは最近なんです。自分があまりにも世のなかのことを知らなさすぎて、それに耐えられなくなりました。小さい頃から、ひとつでも多くの物事を知りたいって欲求はあったんですけど、人って成長とともにやさぐれていくじゃないですか。それが底をついて、耐えられないモードにまた突入しています(笑)。
PROFILE
木越 明
役者、マルチアーティスト。『太陽とボレロ』などに出演するほか、漫画短編集『いとしいとしというこころ』を出版。また、“浪漫”を軸とした創作活動を行い、昨年は「国立新美術館」で作品を展示。
璃子
『焼きそばうえだ』 さくらももこ
『発光地帯』 川上未映子
- ー『焼きそばうえだ』はさくらももこさんの本ですね! 彼女の作品のなかでも、なぜこれを?
- 私がアイデンティティを損失した時期に、自分のことが分からないなら、他の人の脳みそを覗けばいいんだと思ったんです。それなら、エッセイだ! って。近くにあった書店に入って、適当に検索して出てきた5、6冊を買ったんですけど、そのうちの一冊が『焼きそばうえだ』でした。もともと、さくらももこさんは有名だし、知っていたので。あとは、表紙がおいしそうだなと思って(笑)。
- ー表紙には焼きそばのイラストが描かれていますが、どういうストーリーですか?
- さくらももこさんって小学生の男子レベルのくだらない話を延々としゃべることを目的に結成された“男子の会”っていうのがリアルに存在するらしいんですけど、そのなかの上田さんって方が、もうどうしょうもないらしくて。 「もういっそ、仕事をやめてバリで適当に焼きそば屋をやった方がいいんじゃない?」っていう話が、彼のいないところで勝手に進んでいくんです。で、みんなでお金を少しずつ出し合って、大人が本気で人で遊ぶっていう変わった話です。
- ー実話なんですね!
- そうです。さくらももこさんのイラストって、ほんわかしている印象だけど、他人の不幸を平気で笑い話にしているのが衝撃でした(笑)。なにより、自分のことをよくも悪くも見せようとせず、ありのままの姿として昇華しているので、ヤバい哲学を持った人なんだろうなと。自分や他人を受け入れる心の広さが、読んでいてすごいと思いました!
- ー『発光地帯』と出会ったきっかけは?
- 川上未映子さんは芥川賞や谷崎賞を取っているすごく賢い小説を書く作家なんですけど、前にも彼女の本を読んだことがあったので買いました。文章が独特でおもしろい人だなと思ってて。今度はこの方のエッセイを読んでみたくなりました。
- ー実際にエッセイを読んでみていかがでしたか?
- 日常生活から切り取られたシーンが喋り口調でポロポロと書かれているので、会話をしているみたいに著者の脳内に入り込めました。内容はお花見に行った話とか、電車に乗ってて寝ぼけながら考えた「死んじゃうくらいの片思いってなんだろう」とか、みんなが毎日考えるようなことが短い日記のように書かれています。
- ーそのなかで印象に残ったことはなんですか?
- 愛とはなにかを語っていたのが印象的でした。片想いとか本当の愛って、誰も知らないところで勝手に完結させて、相手になにも悩ませないことだって、ありきたりな話じゃないですか。でも、川上未映子さんが噛み砕くとするなら、それは理解できないし、そういう愛情の注ぎ方はない、って言うんです。ただ、彼女の別の短編を読んだときに、いや、そういう愛し方してるじゃん、って思いました。
- ―読者だからこそ、本人が気づいてない著者の性格を読み解けたんですね。
- この本はそういう人間の自分自身では気づかない部分の思考を客観的に読み取れておもしろいんです。
ときに本は心のシェルターとなる。
- ー璃子さんにとって本はどんな存在ですか?
- 正反対の場所に飛び込める現実逃避の道具です。映画を観て嫌なことを忘れる人も多いと思いますが、私は長時間ずっとひとつのストーリーを観るっていうのがすごく苦手で。でも、本は自分のペースで読めるし、途中で閉じたとしても、そこからまたその世界に戻ってこられるから好きです。
PROFILE
璃子
俳優、モデル。自身の絵の個展を開くなど幅広く活動中。最近は朗読劇にも挑戦!
中西ジョー雄太郎
『Russian Criminal Tattoo Encyclopedia』
Danzig Baldaev
『ニガーよ死ね!』 ラップ・ブラウン
- ー『Russian Criminal Tattoo Encyclopedia』の方はイラストがたくさん描かれていますね。
- これはロシアの囚人たちを取材した本で、彼らのタトゥーに込められた意味が記されています。おもしろいのが、当時の人はタトゥーをなんとなく入れたりするのではなく、そこに時代背景を投影した深い意味を込めているところ。
- ー例えば、どんな意味が込められているんですか?
- この本に描かれている目がつった男のタトゥーはアジア人を風刺したものなんですが、日本と戦争をしていた時代背景を映し出しています。あと、この本の登場人物は”MRI”って文字を入れてる人が多くて、これには、”平和は暴力の裏にある”って意味が込められています。
- ー当時は、いまとはまた違った役割がタトゥーにあったんですね。
- そうですね。彼らの覚悟や、信じるものを大事にしていることが感じ取れて、自分にはその覚悟があるのかな、と考えさせられましたね。タトゥーを入れたいなと思っているからこそ、この本を読んで自分は生半可な気持ちで入れるのはやめようと思いました。そういう意味で、かなり影響を受けた一冊です。
- ー『ニガーよ死ね!』を読もうと思ったきっかけは?
- ブラックパンサー党について学ぶ機会があって、そのタイミングで。この本は、学生非暴力調整委員会に投じていたラップ・ブラウンって人物が書いた自伝です。自分がたどった人生をもとに、1960年代頃のアメリカにおける黒人差別の話で。ただ、この人は100パーセント白人が悪いっていう言い方はしていなくて、黒人にも見つめなおす部分があるよね、って考えでした。
- ーJoeくん自身がその考えに共感する部分はありましたか?
- ありましたね、自分と著者では生きる時代は違うけど。いまも差別が消えた訳じゃないけど、過去に対する恨みってあるじゃないですか。自分はサンフランシスコで育って、子供の頃、喧嘩の最中に”真珠湾のこと忘れてないからな”、って言われたことがありました。それって自分たちは現代を生きているんだから、お門違いだなと思うんです。歴史を知る手段や、ブラック・ライブズ・マターなどの運動は増えたけど、結局いまも状況が変わったわけではないと思います。
- ―衝撃的なタイトルだと思います。ここに込められた意味について、どう思いますか?
- 白人のセリフを皮肉めいて使っているんだと思いました。黒人が排除されるべきだと使われていた当時の言葉は、現代では彼らしか使えないという事実を逆手にとっていますよね。単純に、差別的な言語表現のなかでも最上級の単語だけど、彼らはそこに違和感を感じなくなっている気がします。
本が果たす教訓としての役割。
- ー読書は日課ですか?
- ぶっちゃけた話、本は滅多に読まないです。音楽を聴く、映画を観る、本を読む、ってどれかに熱中するフェーズがあって。ただ、そのタイミングがくると、かなりの量を一気に読みます。
- ー本を読みたくなるフェーズはどんなときにやって来るのでしょうか?
- インプットが足りてない時期ですね。作品の制作時に行き詰まったり、新しいインスピレーションを求めているときはたくさん本を読んでいます。インプットが乏しいと、アウトプットも完成度が低いものになるので。
- ー自身の音楽活動をするうえでも、大きな役割を果たしているんですね。そうすると、Joeくんにとって本とはなんでしょう?
- 生きている実感を得る手段のひとつです。本ってページを捲ったり、目次で読む箇所を選択したり、そういうひと手間の作業が人間らしくていいなと思います。そういう意味で本はデジタルではなく、ハードで読んでいます。
- ー確かに。最近は電子書籍で本を読む人も多いですが、ハードのよさってありますよね。
- あとは、本って何百年と受け継がれてきた情報です。デジタル化が進むけど、人間にとって最も大切な情報源は本だと思っていて。ネットって単語や断片的ななにかがないとその情報に辿り着けないと思うんです。だけど、本って表紙を見て気に入れば、自分の知らない世界にゼロから行けて、そこに美学があるなと思います。なので、自分は小説よりも、自伝や評論分を読むことが多いです。
PROFILE
中西ジョー雄太郎
アメリカ生まれ台湾育ちのアーティスト。青山学院大学英米文学科を卒業。先日アーティスト名Joe Cupertinoで『DOOR』をリリース。
喜耕
『ロリータ』 ウラジーミル・ナボコフ
『町でいちばんの美女』 チャールズ・ブコウスキー
- ー『ロリータ』はダメージからして、かなり読み込んでいる印象ですが、いかがでしたか?
- 背表紙の「ロリータ我が命の光は腰の炎」って煽り文句に惹かれて買ったんですけど、現代の“ロリータ”の意味とはまた違っておもしろかったです。おじさんと少女の恋愛の話で、私たちが想像するところの“ロリコン”ではあるけれど、実際はどちらかというと純愛に近いし、伏線回収もあったりして。
- ーこの本で描かれている純愛な“ロリコン”って、なんでしょう?
- 主人公のおじさんが女の子と数年後に再会したときに、成熟した彼女を見ても愛していた、っていう場面があって。いまのロリコンって、“幼い”とか、お人形みたいなファッションのイメージじゃないですか。だけど、この小説に登場する少女は若いけど、内面はすごく大人びているんです。
- ー話のなかで印象に残っている場面はどこですか?
- このおじさん、彼女にゾッコンだけど、最初は彼女のお母さんと結婚するんです(笑)。そうすれば、彼女とも一緒にいられると思って。だけど、お母さんはおじさんと2人きりになりたいもんだから、彼女を全寮制の学校に入れようとします。で、ここからの昼ドラ的展開がおもしろいです。ネタバレになるのでこの辺で(笑)。
- ー『町でいちばんの美女』って映画にもなった作品ですよね。
- そうです。もともとロシア文学にちょっとハマっていた時期に、素敵なタイトル! と思って新書で買っちゃいました。基本的に、タイトルとかジャケ買いが多くて。
- ー新書で買うことが多いんですか?
- 古本屋もたまに行くけど、私は小説家に対価を支払いたいので新書を買うようにしています(笑)。あとは街の本屋に行くことが好きです。顧客のニーズに答えているから『ちゃお』とかが前面に置いてあったりして、小学生も来るんだな、とか。街の色が出ていて好きですね。
- ー確かに。自営業でやっているような本屋さんには地域の個性が出ていますよね! では、この本の内容について教えてください。
- ろくでなし男の切ない恋愛がこの表題作になっています。読んでいて気になったのは「不細工だから、あなたが愛されたら、それは外見じゃないところで愛されてるのよ」ってセリフです。若い女の子だからって理由で人から好意を受けることがあるけど、それって外見であって、私自身に対するものではないなって。その反面、もし私が不細工なら、内面性を見られているっていう確実性があるから素敵だなと思いました。
- ーそれって、いまの私たちが得ているものと比べると、同じかもしれないですね。
- 本のなかで美少女が、自分が愛される理由は内面じゃないって信じ込んでいるんです。幸せになれるはずの女の子が自ら幸せにならないようにしているようで。自分の外見によって得られるものすべてを憎んでいる感じがして、考えさせられました。
読みたい本でその日の居場所が決まる。
- ー喜耕さんは常に本を持ち歩いている印象が強いです。実際はどうですか?
- 基本的に毎日、持ち歩いて読んでいます。ただ、旅行のときはこの本、これはここで読む! って自分ルールを決めています。行く場所によって、食べたいものが変わるように、読みたい本も違うんです。
- ー例えば、旅行や喫茶店だと?
- 旅行だったら絶対にミステリー小説! ワクワク感とドキドキ感が旅行に行くモチベーションに繋がるというか。『オリエント急行殺人事件』を電車で読むとテンションが上がります。暗い小説は、喫茶店とか限られた空間で読んで、その場を去る瞬間には余韻をなくしています。
- ーなるほど。本を読むタイミングってより、本主体で行き先を選んでいるんですね。本と生活が密接な印象ですが、読書とは喜耕さんにとってなんですか?
- 生活の一部であり、いろいろな体験をさせてくれるもの。例えば、私は探偵になれないけど、本を読むと少しでもその世界に触れられます。『町でいちばんの美女』で言うと、仕事がないのにギャンブルばかりの生活って、私とかけ離れた人の気持ちだけど、共感できる部分もあったりするんです。
- ー確かに! 現実では体験できないような職業の世界を覗けますよね。
- そうなんです。短い時間のなかで普段とは違った体験ができるから、本って楽しいです。あとは、何千年も昔の人の言葉が本には残ってて、それを自分がいま感じられてるって、単純にすごいなって思います。
PROFILE
喜耕
国語教師。好きな喫茶店のタイプは、常連とアルバイトの学生が世間話をしていたり、冷蔵庫にマスターのお昼が見え隠れするようなお店。