髪を切るだけじゃない。SakieがFLEURIで伝えたい美のセンセーションとは。
Respect for All Beauty.
髪を切るだけじゃない。
SakieがFLEURIで伝えたい美のセンセーションとは。
2019.10.30
放っても勝手に生えてくるヘア、せっかく手入れするならどんな姿になりたい?
表参道の有名店から独立し、代官山に自身のヘアサロン「FLEURI」をオープンしたSakieさんは
そんな変化を求める人たちへ、ベストなスタイルを提供してくれるヘアメイクアーティスト。
オープンから約2ヶ月が経過し、既にモデルやアーティストを始め高感度の人が足繁く通う
人気店へと成長を遂げたいま、お店から発信する“美”は何なのか、大きく広がる美容業界のこと、
そしてひとりひとりが持つ本当の美しさの見つけ方について。たっぷりとお話を伺いました。
Sakieさんがヘアメイクを手がけた撮り下ろしヴィジュアル、その制作裏カットと合わせてチェック。
Photo_ Hayato Takahashi
Hair & Make-up_Sakie
Model_Ashley, Eriko Harako
ヘアサロンだからって髪を切って、染めて、パーマかけて終わりじゃない。
- ー「FLEURI」にはどんなお客さんが来ますか?
- 若い子だけじゃなくて、年配の方も来るから様々。私を育ててくれたお店にリスペクトがあるからこそ、「FLEURI」はそこを超えられるようなところにしたいなと思っています。その前にいたお店は、行きやすさはないけどわざわざ行くだけの価値があるって思わせられる魅力があって。その空気感を作れるのはすごいけど、私はポップアップショップとか違った形で盛り上げていきたいです。
- ーお店に行く目的が、髪を切るだけじゃないということですね。
- そう。お店でかけてる音楽も、水原佑果ちゃんやオカモトレイジ君とかいろんな人にプレイリストを作ってもらう予定なんだけど、そういう試みにも興味持ってもらえたら嬉しいです。
- ー「FLEURI」を立ち上げたいまどんなことを発信したい?
- 前にいたお店はニューヨークにもお店があったから、いろんなことを経験させてもらえたんだけど、自分がやりたいことをすぐにできる環境ではなくて。だから、いまは挑戦してみたいことがたくさんあります。例えば、この間は古着屋さんのポップアップをお店でやったんだけど、そのお店はメンズのお客さんが多くて女の子に知られてないというのもあったからちょうどいいね!って話になり。「FLEURI」オープンのときにTシャツを作ったのもそこなんだけど、いろいろ手伝ってくれるし、そういう知り合いとおもしろいことをたくさんできたらいいなと思ってます。で、年に2回ぐらいはアートワークもつくれたらいいなと思ってて。前回は台湾のアーティストと一緒にやったけど、次はロンドンにいるアーティストと一緒にやろうかなって計画しているところ。いまはひとりで頑張らなきゃいけないけど、そのうち人も増やしたいし、美容というものを使っておもしろいことをたくさんしたいんです!
- ーサロンワークよりヘアメイクに注力しようとは思わなかったんですか?
- 実は、そのヘアサロンをやめるときに一度考えてみたんですが、やっぱりお客さんとの時間も好きだったことに気づいて。だからベースはサロンワークがよくて、お店に来たことをきっかけに何か新しいことをキャッチしてもらえるようにいろいろトライしていきたいんです。ヘアサロンだからって髪を切ったり、染めたり、パーマかけて終わりにするんじゃなくてそこから新しい広がりがあってもいいなと。
- ー一言で“ヘアサロン”と括れない、新しい溜まり場みたいな感じですね。
- そうそう。でも、やりすぎるとチャラくなっちゃうから様子を見つつ。あとエディトリアルをやる理由は、フォトグラファーとか私ができない分野で表現しているすごい人たちともっと関わりたくて。方法を考えたときに、ヘアメイクだったら一緒に作りあげることができると思いました。だから、そういうことは楽しみの範囲としてやって、お店でやることとバランス持って取り組んでいます。
- ーエディトリアルのヘアメイクとサロンワークのバランスの取り方はどうやって取っていますか?
- まずヘアサロンでやることってリアル。私に髪の毛を切ってもらったお客さんは1、2ヶ月間はその髪型で過ごすわけなので。対照的にヘアメイクは、その場がかわいくなればいいものだから全然取り組み方が違うんです。
- ーSakieさんに切ってもらっているお客さんは当然、Sakieさんのヘアメイクの作品もSNSなどで目にしていると思うんですが。そのイメージ的に作りあげたものからインスパイアされて、実際に髪の毛を切りにくるお客さんもいるんですか?
- ありがたいことに、撮影で一緒になったモデルの子が、その後もお店に通ってくれるなんてことはあるかな。それがすごく嬉しくて。実はヘアメイクのときも、作品だけで完結しないように髪を作ってて、自分が切った髪型をその後もアレンジしてもらえたらおもしろいなと。さっきは取り組み方が違うって言ったけど、一貫してるとも思うんです。お客さんも最初はインスタきっかけかもしれないけど、お店で私に髪を切ってもらって嬉しいって感覚を持ってもらえるので。
本来の美容師はもっと感覚的で、みんながアーティストだったはず。
- ーヘアサロン以外の多角的な取り組みは、美容業界が持つコンサバなイメージをも変えるような挑戦だなと思いました。
- そのコンサバなムードがあるのはずっと変だなと思っていました。よく1年目は雑用しなきゃいけないとか、3年間はアシスタントをやらなきゃいけないとか、店長はすごく歳上の人で一生追いつくことができないとか…。考えてみるとおかしなルールがある気がして。そういう人間関係に必死になりすぎていたら、そもそも自分がなんで美容師になろうと思ったのかさえ忘れちゃうんですよ。そんな気持ちでアシスタントからスタイリストになれても、もうそのときは自分の仕事を楽しいと思えなくなっていると思うんです。
- ー古い体制があるんですね。
- 美容師って本来は感覚でやる仕事で、ひとりひとりがアーティストだと思ってるんだけど、日本は美容師が多すぎるから、その集団が会社化しちゃったような気がして…。
- ー日本はヘアサロンがコンビニの数より多いんでしたっけ?
- (笑)。1年目でも何年目でも掃除はするべきだし、美容の本来の魅力にいま一度気づいて欲しいんです。私は美容が好きで楽しいし、毎日でもこの仕事をやりたいって思うけど、そういうマインドでこの職をやっている人ってすごく少ないんじゃないかな。そんな背景もあるから、いまはとくに求人を出してないんだけど、もし人を雇うなら事務所みたいにしたいです。外部でも働いてもらいながら自分のやりたいことを「FLEURI」でやるとか。これが少しずつ大きくなれば、業界のムードも変わりそうですよね!
- ー確かに、若いアシスタントの子って手はボロボロだし、床に落ちてる髪の毛をずっとホウキで掃いたり、シャンプーしたり…いろんなことに奔走してるイメージがあります。でも、その若い時期だからこその感覚もあるんですよね?
- そうなんです。よくあるのは、その子のファッションは飛ばしているのに作るスタイリングが地味になっちゃうってパターン。その所属してるヘアサロンのテイストに染まりすぎて自分の個性がなくなっちゃうんです。例えばタトゥーアーティストだったら、師弟関係はあっても基本的には各々のスタイルがあるわけですよね? でもタトゥーって、一生残るって意味ではヘアより大事なものなのに、美容師より義務感なく楽しんでやっている人が多いなって。
- ー仕事として構えてないということ?
- 好きだからやってるって感じがするんです。
- ーでも時代のムードでいうと、少しずつ本来自分がなりたかった個性を尊重できるような流れになってきているのかなと思ったんですよね。例えば、最近の就活は黒染めがマストじゃなくなってきたりしてて。
- 有名な子をサロンモデルに使っている理由って、サロンの知名度を上げたいからだけじゃなくて。その子を登場させることによってより多くの人をインスパイアさせる影響力があるんです。例えば、水原佑果ちゃん。彼女がモデルなのにピンクヘアにしたことって結構衝撃的で。撮影内容によっては止むを得ずウィッグを被るときもあるって言ってたけど、それでも彼女が髪の毛をピンクにする意思があるってすごいことだと思うんです。そういうおもしろい感覚を持った人たちにインスパイアされて、同じように変化を求めている人が少しずつ増えているのが嬉しい。
- ー変化したい欲に対して何が自分に合うのかを探すのって大変だと思うんですが、それぞれに合うスタイルをSakieさんはどうやって見抜いているんですか?
- それこそ昨日の撮影現場でフォトグラファーに、「どうやったらそういう服ごとでベストなスタイルを作れるんですか?」と聞かれたんですけど、直感でやってることだから考えたことなくて。たぶん無意識のうちに自分でバランスを取ってて、そのなかで新しい一面を引き出せるようにしているのかなって思いました。お客さんも同じで、その人の雰囲気や着てる服、話し方とかメイク…いろんな要素をお店に来てくれた瞬間から感じ取って、その人にとって何がおしゃれなのか考えています。
- ー瞬間的に捉えられる感覚は何で培ったんですか?
- 雑誌やアート本をたくさん読み込んだし、映画を観たり、自分の服を買い物するのも好き。美術館に行くのも好きだし、とにかくいろんなものを目にして知らぬ間にバランス感覚を得たような気がします。それは口ではどうしても説明できないんですけどね、でも見たらわかるんですよ!
- ー理想とする女性像はありますか?
- 特定の人はいない。というのも、私自身が自分のことをあまりよくわかってなくて、これが私のスタイルっていうのを掲げながらやってないから、「Sakieさんってこういうスタイル作るの上手ですよね」とか言われて初めて気づくことが多いんです。理想の女性像というか、お店にイメージ写真を持って「こういうスタイルにしたい」って言ってきても、それが実際そのお客さんとマッチするとは限らないときがあって。イメージは参考にするし、そういうニュアンスは汲み取れるけど、オーダー通りに作るんじゃなくて、完成形でその人とマッチした髪型を作ってお家に帰してあげるのがベストだと思ってます。
- ーその人の雰囲気とマッチしてるというのはどういうことかを掴むべく、具体的にどんな女性にハッとしたのかだけ教えてください!
- 私ってすごく直感的に動いていて、それってなんか女性らしいなと思うんですけどね。男性はもっとロジカルに生きてるというか自分が好きなものに対しての理由もはっきりしてて。私はもっと感覚的に「これかわいい」とかハッとときめく瞬間瞬間でインプットしてるから、本当に特定ですぐこれ! って言えなくて…。でも最近なら、『27クラブ』ってドキュメンタリーかな。カート・コバーンとか、ジミ・ヘンドリクスとか、スターがみんな27歳で死んじゃうという伝説? があって、その人たちの生き様を紹介するって話。そのなかに出てきたエイミー・ワインハウスにすごくインスパイアされました。もともと熱狂的に好きだったわけではないけど、でも彼女の音楽だけを聴いてる分にはそんな暗い部分を感じられなくて、むしろお天気の日に聴きたくなるような陽気な音なのになって。ああいう人生を過ごしてきたのかと思うと…曲が完成するまでどういう状態で作ったのか気になりました。最近、影響されたことはそれくらいで。
- ー例えば、流行りの髪型をやりたいと思ってお店に行った子が、実際はもっと別の髪型をした方がいいだろうなってときはどうしてます?
- そういうときは結構あるから、相談して決めます。その子が似合うかどうかはわかるから、なぜそのスタイルになりたいのか、欲してる部分は何かを会話のなかで汲み取って提案するって感じです。全身ブランド品を着ている人がおしゃれとは限らないのと同じで、どんな髪型であれその人に似合ってるかどうかがいちばん大事だと思っています。
- ー理想そのままを実現しても、完成した姿を見て「違ったかも…」と感じさせてしまうんでは残酷ですもんね。
- 洋服のように似合わなかったら着なければいいってわけには行かないし、慎重に進めてます。
ひとりひとりが似合うベストなスタイルを探したい。
- ー難しい塩梅ですよね。美容室に行った当日に自分が慣れてないってのもあるけど、とにかく鏡見るのが怖くなった経験があります。きっと誰しもが経験したことあると思うんですが…!
- 3日くらい経つと慣れてくるやつですね。私も学生のときはヘアサロンに行ったあと、近くのデパートのトイレに駆け込んで髪型を直しちゃったりしてたな。しっかりセットしてくれたんだけど、それが自分と馴染んでなくて。そういう実体験があったからこそ、その当日に違和感を抱いてしまうのもわかるから、変化も必要だけどその人に馴染ませることもかなり意識しています。それは前にいたお店で教えてもらったことで、すごく大切なこと。別に最初に落ち込んで3日目から慣れる必要はないし、初日から自信持って帰ってもらえたら!
- ーそれってお客さんにとってはいちばん嬉しいことかも!
- そう。だから左右対称でお手本のような髪型を作ることが正解じゃないんです。おもしろい話があって、モデルの福士リナちゃんの髪の毛をきるとき、彼女は少しクセ毛だから本人のなかでしっくりくるバランスがあって本当に細かいミリ単位で調整したりするんですよ。その感覚って海外の人と似てるなと思ってて。テキトーそうに見えて実はものすごい細かいバランスやニュアンスにこだわっているんです。シーミストってテクスチャーがでるスタイリング剤を使ったり、自分がいちばんよく見える方法をちゃんと実践していて、ああいう抜け感あるスタイルが保たれているんだと知りました。日本人にはまだその感覚がなくて、ヘアサロンに行って美容師さんにやってもらうヘアスタイルが正解だと思っているから、なんかそこで本当は違和感を抱いていたとしても、正解なんだろうと半ば追求を諦めてしまっているのかなって思うんです。それはゴールじゃなくてちゃんとなりたい自分になれるのに、それを求める方法と叶えてくれる美容師さんに出会えてないだけなんだよ! という。髪の毛って本当はそれくらいこだわっていいものだし、楽しいものだって知ってもらいたい。それでもし知らなかったら私でできることがあれば提案したいなとは思ってます!
- ーそういう変化を求めているお客さんはお店に行くとき何を用意したらいいですか?
- なんのイメージもないまま来る子も全然いますよ。でも「なんでもいいです」って言う子でも必ずどこかにこだわりはあるはずだから、それは聞き出したいし、全体の空気感から感じとりたい。
- ーじゃあ具体的なイメージを抱いておかなきゃいけないってわけじゃない?
- もちろん! この間、「初めて来て、こんなこと言うのもなんですけどすべてお任せしたいんです」って言ってきたお客さんがいて。すごく嬉しかったし、初めて来たのにすべて委ねてくるのは結構やばいなと思いました!(笑) で、いろんな話をしてPinterestで「こういうのはどう?」って何個かイメージを出すんです。そしたらその人のなかでもアリナシがあるのが掴めてきて提案できるって感じです。
- ーこのすり合わせる時間が違和感をなくすことに繋がるんですね。
- 大事にしてます。あとは、ひと括りに“モテヘア”とかいって押し売る感じはあんまり好きじゃない(笑)。別にモテヘアを作りたくないわけじゃないし、お姉さんっぽいヘアスタイルもやるんですけど、やっぱりすべては似合ってるかどうかなので。だから、実はいろんなジャンルの人が来てくれるのはやりがいがあるんですよ。OLさんの紹介でOLさんが来てくれたりして、それって一見ジャンルは違うのかもしれないけど欲してるところを共感することができたからすごく嬉しかった!