Merci à vous, Jean!

ジャン・アンドレ。
『ガールフイナム』のロゴを描いたグラフィスト。
Photo_Yuichiro Noda
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画面左上(スマートフォンでは最下部)にハートを象ったロゴがあるのはお気づきでしょうか?
『ガールフイナム』のローンチに際し、編集部がその制作をお願いしたのが、
パリ在住のグラフィックアーティストであるジャン・アンドレ。
キュートなロゴを描いてくれたお礼を伝えに、遠路はるばるジャンに会ってきました。

やっとお会いできて、とてもうれしいです。
ジャン・アンドレ@je_andre(以下ジャン):わざわざ日本から来てくれてありがとう。
ジャンにロゴを描いてもらった『ガールフイナム』が、1月20日にようやくローンチしました。ご覧いただけましたか?
ジャン:すばらしいね! こういう形でロゴの制作を依頼されたときは収まりがいいように横長で作ることが多いから、今回はどう使われるかずっと気になっていたんだ。若い女の子のパワーが溢れているし、それらのコンテンツの雰囲気ともマッチしていて僕もうれしいよ。
以前ジャンが来日した際に開催されたイベントに『ガールフイナム』の編集長が遊びに行って、そこで見たあなたの作風が強く印象に残っていたらしく、今回ロゴの制作を依頼させていただきました。“ハート”のモチーフにしてもらったのも、ジャンらしさが一番表現されるかと思って。
ジャン:自分の作品に欠かせないのは、“フェミニズム”というキーワード。70年代に起こった女性解放運動を経て女性がより自由になったから、今は肌を露出したり裸になっても許されるよね? 本来ならデリケートな問題だけど、グラフィックを通してそういう部分を描きたいんだ。とはいえ、アーカイブばかりに執着しているわけではなくて、例えばインスタグラムやファッションといった現代の日常に溢れているものからもたくさんインスピレーションを受けているけどね。
イラストを描き始めたきっかけは?
ジャン:もともとはタトゥーを彫っていたんだよ。特に誰かに習ったというわけではなく、自分で針を買ってきて彫って。次第に友達に頼まれることも増えて、その下絵を描くようになったのが始まりかな。当時は40、50年代のモチーフを取り入れることが多かった。
初めて入れたタトゥーはまだ残っていますか?
ジャン:GODZILLA! 彫ったのはたしか18か19歳の時だったと思う。
ゴジラ! 昔から日本のカルチャーが好きだったんですか?
ジャン:ゴジラほどになるとインターナショナルに知られているけど、日本のカルチャーは若いときから常に僕の中心にあったんだ。マンガにしてもゲームにしても日本のグラフィックはとても丁寧に描かれているから、ひとりのグラフィストとして学ぶこともたくさんあったし。
好きなマンガやキャラクターは?
ジャン:大好きなのは任天堂! 腕に“MARIO BROTHERS”という文字を彫ったくらい(笑)。でも、有名なものは大体網羅しているよ。『ドラゴンボール』や『ゼルダの伝説』、『AKIRA』、それからスタジオジブリの作品まで。
ジャン自身の身体にも、たくさんのタトゥーが入っていますね。
ジャン:100個以上はあると思う。僕の奥さんもタトゥーが彫れるから、彼女に入れてもらうこともあるし。
今は日本では線画のワンポイントタトゥーを入れる女の子が増えています。ちょうどジャンの作品のような。パリでもタトゥーにトレンドはあるんですか?
ジャン:パリも同じで、名前や好きな言葉を小さく彫るのが流行っているよ。僕が始めたころから変わらず、マシーンを使わずに小さい針で小さいタトゥーを手彫りするスタイルを好む人が多いね。でも、日本ではタトゥーはあまりイメージが良くないでしょ? そういう考えが薄れてきたということ?
そういうわけではないかも。温泉は入れないし、場所によってはジムが利用できないこともあります。
ジャン:僕も日本にいったときは、入れてもらえる温泉を探すのに一苦労したな…。名前は忘れちゃったけど、この前行ったときは富士山の近くでやっと入れてくれる旅館を見つけて。
今はタトゥーのお仕事をやりながら、グラフィックアーティストとしても活動されているんですね?
ジャン:そうだね、両方やっているよ。
グラフィックアーティストとしてのジャンが手掛けたものだと、今日取材場所として使わせてもらっている「Le Pigalle Hotel」やEd Banger Recordsのグラフィックが挙がりますが、ほかに最近はどんな仕事をしているんですか?
ジャン:南仏にあるホテルや、オステルリッツ駅近くにある「WANDERLUST」というクラブのグラフィックをちょうど手掛けているところ。ロゴやポスター、壁にグラフィックを描いたり。あとはたまにエクスポで作品を売ったりもしている。でも、この前日本で行ってからは、あまり大きい規模ではやっていないかな。ガツガツ仕事をするのは僕の性格に合っていないから、依頼があればやるという感じ。タイミングや内容次第では、もちろん断ることもあるし。
そのジャッジは何を基準に?
ジャン:自分がグラフィックを描くときに大事にしているのは、頼んできたクライアントに気に入ってもらうことよりも、それを見に来た人たちがおもしろいと感じてくれるかということ。だから、クローズドな場所よりは、たくさんの人に見てもらえる場所に自分の作品を描かせてもらいたいね。
そういう意味でこのホテルは、外国人を含むたくさんの人にジャンの作品を見てもらえそうですね。
ジャン:メニュー表のイラストやデザイン、ネオン管、あとは部屋に飾ってある作品も僕が手掛けたものなんだ。4人のアーティストの友達と共有している部屋が4階にあって、僕もそこに泊まることがあるんだけど、とても素敵なホテルだよ。ちなみに彼女と初めて泊まったホテルもここで、プロポーズしたのもここ。僕と彼女にとっても大切な場所だから、関われたことは本当にうれしかった。あと地下にはタトゥースタジオがあって、タトゥーを彫るのも基本的には自宅かここ。
最近婚約されて、生活や創作活動に変化はありましたか?
ジャン:いろいろ変わったね。まずタバコをやめて、スポーツも始めたし、彼女がスキンヘッドはあまり好きじゃないって言うから髪も伸ばしている(笑)。あと、特定の女性の絵を描くのをやめたことが一番大きいかも。彼女と出会ってからは女性のイメージを具現化している感じかな。
彼女をモデルにすることは?
ジャン:それはないかな(笑)。プライベートと仕事は分けたいから。仕事に割く時間も変わって、以前は1日1点のペースで描いていたけど、今は3日に1点くらい。その分ひとつひとつを丁寧に描くようになれたし、本当にポジティブな影響ばかりだね。
世界中からたくさんの観光客が訪れる反面、テロが起こったりあまり景気が良くなかったりとネガティブな事象も少なからずありますが、最近のパリは住んでいてどうですか?
ジャン:僕が思うに、特に何かが起こったからというのはあまりなくて、もともとフランスは長い歴史の中でいろんな人種が混ざりあってきたし、失業率が高いのも相変わらずだし、今はヨーロッパ全体が不景気だから、正直そういったことには慣れているんだ。ネガティブな面ばかりを見ずに自分のことに没頭するように心がけてはいるけど、他の国に行くと「住みやすいな」と思うこともあるし、行きたい国もたくさんあるから、「どこか違う国に住みたい」と思うことは正直たまにあるけどね(笑)。
SNSの発達に伴って、日本ではメディアが情報を発信するときに世の中のリアクションを気にし過ぎてどこか臆病になっている節があるように感じます。いち表現者として、フランスでもそう感じることはありますか?
ジャン:たしかにフランスでもそう思うことは増えた。でも、社会の中における労働組合の影響力が強くて、頻繁にデモが起こることからもわかるように、とにかく何でも言う国ではあるかな。叩かれようが何されようが、「自分の意見は絶対に言う!」というカルチャーは根付いていると思うよ。
お仕事以外で、最近ジャンがパリで気になっていることは何ですか?
ジャン:「DYNAMO」という自転車を使ったエクササイズにハマっている。小さいジムクラブのようなところで、お尻は付けずに立ち漕ぎのようなスタイルで45分間音楽に合わせて運動するんだ。最初は彼女と一緒に始めて、今では彼女がそこのコーチになったから、彼女がコーチについてくれるときに行っているよ(笑)。あとは、これも自転車なんだけど、Alex Jumelinという友達がシンガポールから持ってきたバイクがとにかくクール。自分たちでプロモーションをしていて、パリでは「Collete」でも販売されているしね。
次はいつ日本に来てくれるんですか?
ジャン:今年の年末にまたエクスポで日本にいくつもり。本当は4月に行こうと思っていたけど、結婚式の準備やらで忙しくてもう少し時間がかかりそうで(笑)。でも、彼女は昔日本のホテルで働いていたこともあるし、子供ができたら将来は日本に住みたいと思っているくらい好きな国だから、行けるのが待ち遠しいね。
最後に。『ガールフイナム』は主に20代の女の子に向けたWEBマガジンなのですが、20代はジャンにとってどんな時間でしたか?また、それらの女の子に向けてメッセージをください。
ジャン:一言でいえば、カオス(笑)。自分のことも周りのことも何も考えないで、ただ好き放題に生きていた。タバコをたくさん吸うとか、身体に良くないものばかり食べるとか。もっと旅行に行っていろんなことをインプットしておくべきだったし、もっと自分の身近で起こっていることにアンテナを張るべきだったと後悔している。だから、今20代を生きている人には、自分に自信を持って自分をケアして、自分の周りにいる人をたくさん愛してあげてほしいな。