Vintage Military Dialogue

女子的ヴィンテージミリタリー、頂上会談。
Photo_Hiroyo Kai(STUH)
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女子の間で、にわかに盛り上がりを見せるヴィンテージのデニム。
デニムについてはみんなわかってるでしょ?、ということで
ガールフイナムでは海外ではすでに注目されてきているネクストブーム、
ヴィンテージミリタリーについて有識者の対談を決行しました。
ご登場いただくのは日本の女性でいちばんヴィンテージミリタリーをカッコよく着こなす(個人調べ)
ファッションディレクターの小島令子さんと、
小島さんのミリタリー服探しに欠かせない古着屋「ベルベルジン(BerBerJin)」のディレクター、藤原 裕さん。
ちょっぴりマニアック、だけど“服の起源”がわかる
オリーブグリーンな世界をのぞき見してみましょ。

藤原 裕
日本を代表するヴィンテージショップ、「ベルベルジン(BerBerJin)」の名物ディレクター。ヴィンテージデニムの知識を詰め込んだディレクションブック『THE 501XX®-A COLLECTION OF VINTAGE JEANS』は完売し、第二版が発売間近!? 海外の好事家の間でもその名がささやかれる、古着界の生き字引。

小島令子
いまはなき原宿の名店でのディレクター並びにブランドデザイナーを経て、現在はさまざまなブランドのアドバイザー・ディレクターを務める。古着にも造形が深く、所有するヴィンテージデニムは100本を超えるほど。ブログ『Style&Life in Tokyo』にも参考にしたいミリタリーの着こなしが満載。

女子がヴィンテージミリタリーを着こなす方法は?

まずは、ユース世代の女子がミリタリーを着るときのアドバイスからお願いします。
小島
大前提として、日本の女の子がミリタリーに手を出しにくい要因があるとすれば「ミリタリー=ヤンキーっぽい」という方程式があるから。ミリタリーアウターの背中に大きくラインストーンでドクロを描いちゃうような文化ね(笑)。ちょっとでもメイクが濃いと“そっち側”にカテゴライズされてしまいがち。かといってサラサラストレート系だとミリタリーアイドルみたいだし、すっぴんで着ると近所のスーパーにいそうで“ファッション”とは認識してもらえない。例えば表参道や原宿にいるとき以外も、サイズ感✕着こなしで「ミリタリーをファッションで着ている」って一目瞭然に見せるのって、着慣れていないと難しいんだよね。いかにナチュラルに、カッコよくミリタリーを着ることができるかが要だと思います。
藤原
なるほど、女子は大変だね(笑)。その点、男子はミリタリーに関するうんちくだけ重視するればいいからラクかもね。
小島
女子はうんちくより着たときのかわいさ重視だから! いまは〈ヴェトモン(VETEMENTS)〉の流れで運よくビッグサイズシルエットが流行っているから、ジャストで着るのが流行ったときより選択肢が断然多くて、ヴィンテージミリタリーの世界に触れるのに絶好のタイミングだと思います。
ガール世代の女の子の間ではこの冬、MA-1やユーロもののミリタリーベレー帽が流行りました。
藤原
原宿駅からとんちゃん通りにあるうちの店まで歩くだけで、一体何人MA-1を着ている女子を見たかわからないくらいのすごいブームだったね。
小島
MA-1をベースにしたようなミリタリー“風”アウターを細身のデニムに合わせて、足元はオールスターのハイ、って感じのスタイルが街に溢れていたよね。ミリタリーブランドを選べる子だと、赤いリボンが特徴の〈アルファ(ALPHA)〉のほか、背中に大きくロゴが入った〈アヴィレックス(AVIREX)〉派もよく見かけた。全体的に強めのデザインが受けているよね。アウターだと、MA-1、M-51、M-65あたりが主流かな。
藤原
でもヴィンテージを着ている子はまずいない(笑)。ダメージがあるものを着るのが難しいのかな。かといってデッドストックできれいなものを選びたい、という考えじゃないだろうし。
小島
ミリタリーをベースにいまっぽくアレンジした服って確かに着やすいと思うけど、やっぱり本物を手にとってほしいな。ガールフイナムを読んでいる人はちゃんと物を選びたい子が多そうだから、人と違うモデルを古着屋さんで見つける楽しさをわかってくれそう。あとヴィンテージだと、ボロボロ系とデッドとで、人によって似合う/似合わないが分かれるのよね。私は状態が悪いものをよく着るけど、デッドが似合わないんだよね。
藤原
女性は肩幅があるとボロボロ系があまり似合わないかもね。
小島
サイズ選びでなんとかなることも多いけど。軍モノって最高の体型カバーだと思うんだよね。ボディがごつい分、手首とか足首とか女性のきゃしゃなパーツが際立つし。
ベルベルではベレー帽って売れました?
藤原
小物はそんなに力を入れてないからねぇ。
小島
そもそもアメリカものが主流だしね。
藤原
ヨーロッパ系には触れないようにしているから(笑)。
小島
私もヨーロッパヴィンテージはおしゃれすぎて苦手なの。ディテールひとつ、例えばフラップの入り方なんかも高尚で、アメリカくらいのテンションがちょうどいいんだよね。
藤原
デザインの話から逸れちゃうけど、ヨーロッパミリタリーって「お、いいな」って思うものもあるんだけど、縫製がよくないんだよね。アメリカもののほうが断然しっかりしてる。軍パンひとつにしても、少し前に流行ったジャーマン系でも縫い目がすぐにほどけたりするし。
小島
戦争していた時代がアメリカより昔だから、単に技術が古いってだけじゃなくて?
藤原
いや、同年代で見比べてもアメリカのほうがいいね。ほら、アメリカは戦争への力の入りようがハンパないから。
小島さんはいつヴィンテージミリタリーに目覚めたんですか?
小島
自分で服を作るようになって初めて魅力がわかったかな。その前はケイト・モスがM-65を着ているのを見て「かわいいな」って思うくらいだったから。
藤原
いまはオリーブグリーンばっかり着てるよね。
小島
ミリタリー服はデザインはもちろん、色も好きなのよ。
藤原
アメリカのミリタリーで言うと、フライト系も含めて最初に登場した色って茶色なのね。そもそもコットンじゃなくて、ウールだから。で、機能性を重視するうちにいわゆる“オリーブグリーン”に自然と移行して、いまの「ミリタリー=オリーブグリーン」のイメージが定着していったんだけど。みんなにとって見慣れた色でもあるから、女性でもファッションに取り入れやすいと思うんだよね。例えばカーキのコーデュロイパンツだったとしても、遠目からならそれっぽく見えるわけだから。まずは“ミリタリー”に囚われすぎずにファッションとして楽しんでほしいですね。
小島
例えば〈マッキントッシュ(MACKINTOSH)〉のカーキは上品に見えるし、着慣れてない人でも取り入れやすいかも。「本物」はもちろん軍で使われていた服ではあるんだけど、着ることである意味、平和利用になっているのかとも思う。別に戦争が好きで着てるわけじゃないし、むしろ“戦争”っていう印象を薄めるためにファッションとして取り入れているから。あとミリタリーを女性が着るのって色気があるよね。女子だからこそ出せるミリタリー服の魅力ってあると思う。
藤原
で、もちろんブランドものもいいけど、“ミリタリー調デザイン”のオリジナルはやっぱり本当の軍モノだから、持っていない人はぜひ挑戦してほしいんですよ。まず手始めに1枚買うなら無地の軍パンかな。1着持っていれば何にでも合わせられるから。で、ちょっと攻めたい子は迷彩にトライする感じ。

ガール的にチェックすべきヴィンテージミリタリーとは?

軍パンの話が出たので、お次は女の子が取り入れやすいアイテムについてもお伺いしたいです。
藤原
女子はコットンパンツかベイカーパンツがはきやすいかな。
小島
同じモデルでも年代やコットンの厚みでオリーブの色みに差があるよね。個人的には、外ポケタイプ✕リップストップ生地(生地が裂けてもダメージが広がらないようにするために、ナイロン繊維を格子状に編み込んだもの)が好き。はき心地重視だから、ノンリップより軽いリップを選びがちかな。あと外ポケがないベイカーパンツは最近、ほっこり&ナチュラル派の女子がはいているイメージがついちゃって苦手なんだよね。
藤原
(笑)。今日は令ちゃんも私物を持ってきてくれたんだよね。
小島
ほぼ、ベルベルで買ったものだけどね(笑)。
60S U.S.ARMY ERDL Pattern Pants(小島さん私物)
こんなに小さいサイズの軍パンがあるんですね。
小島
オリジナルでここまで細い形ってないから、たぶんリメイクしてある。小さくていいサイズだよっておすすめしてもらったの。
藤原
1968年のものだから、ベトナム戦争のときに支給されたものだろうね。柄は通称“グリーンリーフ”。茶色の割合が高い“ブラウンリーフ”もあるんだけど、グリーン強めのほうが人気。見た目が全然違うから。
小島
グリーンリーフのほうがポップだよね。茶色のほうが暗くてくすんで見える感じ。
藤原
これはリップ入りだけど、ノンリップもある。単に数が少ないからマニアはグリーンリーフ✕ノンリップを欲しがるけど、女子はリップでいいんじゃないかな。
そうですね、そこまで見ないと思います(笑)。
小島
私もそうだけど、女子はうんちくよりかわいさ重視だから。価値があっても気に入っていなければ、結局はかなくなってもったいないよね。ヴィンテージとしての価値や知識を知ったうえで、自分でジャッジするのがいいと思う。
藤原
いつも令ちゃんが試着しているときに横で俺が解説をしているんだよね。「このディテールは何のためにあるの?」っていう質問に答えたり、うんちくを教えたり。俺がヴィンテージの「説明」が専門で、令ちゃんは「着こなし」の専門。サイズが小さくていいものが入荷して、タイミングよく令ちゃんがお店に来てくれたときに「好きだと思うよ」って渡して、着こなしや反応を見てます(笑)。
小島
中には「えー、これやだー」って言うのもあるよね(笑)。
藤原
印象的だったのは、1940年代ものの山岳部隊が着ていたアウターを見せたとき。ウエストのベルトは本気っぽくなりすぎるから男的には邪魔なんだけど、令ちゃんは前を留めてベルトをキュって締めて。「こんなにかっこよく着られるのか」って驚いたよ。最近、レディスではベルトを締めるのが流行っているなーとは思ってたけど、まさかこの40Sのジャケットがハマるとは。
40S U.S.ARMY Mountain Jacket(小島さん私物)
小島
(笑)。基本的には中にサーマルを着て前を閉じて、ワンピースっぽく着ることが多いです。
藤原
ベルトが取れているものが多いから、完全な形は珍しいんだよね。裏地の背中部分には背負うためのベルトが付いていたり、大きなバックポケットがあったりするのが特徴。
お次はM-65ですね。
80S U.S. ARMY M-65 Field Jacket(小島さん私物)
小島
流行ってるよね。人とかぶるのが嫌な天邪鬼だから、今冬はわざとフードをつけて着ていました(笑)。M-65は定番中の定番で、昔からよく見ていたけど買わなかったのね。ある日、急にスイッチが入ってベルベルでデッドを買ったんだよね。これはサイズがレギュラー・スモールだから少し大きめに着たいとき用。フードが取り外せないタイプのXSも持っています。定番ものはサイズ違いで揃えることが多いんです(笑)。
藤原
M-65なんかはまだ数はあるけど、シェル・フード・ライナーが揃ったデッドはもうなかなか見つけられなくなってきたよ。
40S USN WET WEARHER PARKA(小島さん私物)
これも古そうですね。かわいい。
小島
めっちゃかわいいよね。ネイビー(海軍)のデッキパーカだから、小雨ならしのげるし生地にハリがあるのがお気に入り。バック裾が少し広がってAラインっぽく見えるのも好き。
藤原
最近はもうこんなにキレイなものは出てこないな。たいていオリーブの色も薄くなっちゃっているのが多いし。あとカッパとして使っていた服だから裏地にテープが貼ってあるんだけど、加水分解しちゃってツギハギ部分からバリバリって剥がれてきちゃうのが多い。でも、これは状態が本当にいい!
小島
ちょうどキャンプ用に〈エルエルビーン(L.L.Bean)〉のバクスター・ステート・パーカを探してたんだけど、最近はあんまり出ないみたいだし、これでいいじゃん!、って思って即決(笑)。下にはスウェットパンツ✕紐なしのビーンブーツとか、サンダルを合わせることが多いです。
年代不明 USAF L-2B Flight Jacket(小島さん私物)
小島
これだけベルベルジンで買ったものではないんだよね。太子堂付近にあったリサイクルショップで見つけたもの。いまはMA-1が流行っているから、最近はクローゼットの中で眠っているけど(笑)。中綿がないL-2Bだけどぱっと見、MA-1と区別がつかないと思うから。
藤原
エポーレットがついているからわかるよ。
小島
そんなの誰も見てないから(笑)。ちなみにこのL-2Bは左ポケットの上とか背中とか、ナイフか何かで切られているんだけど、すごくキレイにリペアしてあるんだよね。その「他にはない」感じが気に入ってる。
藤原
令ちゃんの私物は全部ヴィンテージなんだけど、実は2000年代あたりのデッドストックにも注目が集まっているんだよね。戦場でいかに快適に、動きやすく戦えるか考えて作られている服だから、アメリカの最先端の技術が集結しているわけ。あと経年劣化していないから、女性でも取り入れやすいと思う。
US Muticam Anorack ¥7,800(ベルベルジン)
藤原
2007年ごろのモデルだと、〈パタゴニア(patagonia)〉〈アークテリクス(ARC’TERYX)〉〈ワイルドシングス(WILD THINGS)〉など、トップクラスのアウトドアブランドが作っているから本当に素材もいいし、放出品なら市場価格より安く手に入るし。あと軍モノだとブランドロゴが表にないんだよ。
小島
へー、それはポイント高い。私、ブランドロゴが大きく入っている服が苦手だから。しかも軍モノの〈パタゴニア〉って心をくすぐられる。アースカラーや迷彩柄はファッション仕様と本物ってやっぱり色みとか雰囲気が違うもんね。いま、小さめのサイズってお店にある?
藤原
ごめん、いまはないなー。数年前はパッと出ることが多かったけど、最近は小さいサイズはほとんど見つけられなくて。アメリカでも取り合いなんだよ。
藤原
あとおすすめがこれ。5、6年前に作られたアメリカ軍のアウターで、通称・モンスターパーカ。もともと極寒の地でアウターの上に着るために作られたので、Sサイズでもかなりのボリュームなんだよね。女の子が着るにはXSがいいけど、売り切れちゃった。
小島
(試着して)うーん、さすがにSでも大きすぎる。ビッグサイズでぶかっとはおりたかったけど。これ、着てみた?
藤原
うん、サイズはピッタリだったんだけど俺が着るとマジもんの軍人みたいになっちゃうから…(笑)。
US Aemed Force PCU Level 7 MONSTER PARKA ¥59,800(ベルベルジン)
藤原
ヴィンテージデニムはもちろん、ヴィンテージミリタリーもコレクターズアイテムだからね。しかもミリタリーマニアも狙っているから、いいものは本当に競争率が高いけど。
小島
頻繁にチェックしないと手に入りにくいけど、たまに小さいサイズも出るし、ぜひいろんな古着屋さんに行ってほしいですね。
BerBerJin
東京都渋谷区神宮前3-26-11 原宿SHビル
03-3401-4666
12:00〜20:00