GIRLS’ CINEMA CLUB
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#100『コンセント/同意』
実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
なんなら、おもしろくて役に立つ映画を紹介するコラムと言いきりたい。
今回ご紹介するのは『コンセント/同意』。
恋愛相手だった50代のロリコン男性作家に精神的に追いこまれた当時ローティーンの少女が、
成長後自分の問題に向き合って回想録を出版。本国フランスでは社会を変えた話題作で、書籍も映画も大ヒット。
マインドコントロールってこういうふうにされるのか!など学ぶことが多いです。
成人女子のあなたもワクチンだと思って打っといてください。
Text_Kyoko Endo
フランス映画を見て知って防ぐ
マインドコントロール被害
「同意」とはつまり性同意のこと。同意がなければセックスだけじゃなくキスもハグもNG。いまだに壁ドンに萌えるような人がいるのかなと思いますが、まあ、考えてもみてください。絶対に抱かれたくない相手のみならず、まったく性的なパートナーとして意識したこともない相手から壁ドンや顎クイや後ろからのハグをされる気持ち悪さを。大半の性暴力が哀れな勘違い男のやらかしから起こっている現実を。
日本では同意がないスキンシップは昨年6月の刑法改正で「不同意性交等罪」になりました。ちなみにこれは当事者が16歳以上で適用される法律で、そもそも成人による16歳未満への性行為はすべてNGです。同意があってもダメ。というのも、年齢が高いほうが力を持って相手をコントロールするので、年少者はどうしても年長者の顔色をうかがってしまいNOと言いたいと思っていてもYESと言ってしまうことが過去のさまざまな例からわかってきたから。
ほんの数ヶ月前にご紹介した『ブレインウォッシュ』でも「ロリコンは同意があったと裁判で逃げるけど、13歳の少女に同意が何かわかっているの?」という言葉がありましたな。同意を無粋だなどと言う昭和のおっさんおばさんもまだ生息していますが、もはや同意は世界的ルール。男性ストリッパーが主役の『マジック・マイク ラストダンス』も相手に同意を取っていたけどちゃんとロマンチックでムードを壊すようなことはなかったですよ。
この映画の原作を執筆したヴァネッサ・スプリンゴラは13歳のときに、当時50歳のロリコン作家ガブリエル・マツネフに出会います。マツネフは小児性愛を堂々と小説にしていて反逆的な作家として人気があったので(それにつけても当時のフランス文壇どうかしてるぜ!)まだ何者でもない中学生女子は有名作家から熱烈なラブレターをもらって舞い上がってしまい、彼の言いなりになってしまいます。
ヴァネッサの場合は母親にも問題がありました。子離れしていず、子どもが自分と別の人格だということもあまり認めていなかった。そもそも文芸編集者だった母親がヴァネッサをマツネフと同席させたのです。ヴァネッサは母親から逃避するかのようにマツネフに会いに行き、母親が知ったときにはあとの祭りというような状況に。しかも旧世代ゆえ女性の人権の意識が低い母親は、問題が起こっても右往左往してマツネフに振り回されて犯行を追認する共犯者のようになってしまいます。
マツネフはヴァネッサとの関係を純愛だと陶酔しまくりますが、交際期間が長くなってくると彼が捨てた少女がまだ講演会に来たりすることもわかってきます。成長すると相手に興味をなくすのがロリコンの悪質さなんでした。しかもヴァネッサを操ろうとしてほかの少女を呼んだり、ヴァネッサがセックスを拒むとほかの少女の話をしてきたりします。二人の間柄は性奴隷支配みたいな関係に陥っていきます。マツネフは小説家で語彙力があるから言葉の暴力も半端ない。ヴァネッサは次第に判断力を失い不健康になっていきます。
グルーミングで懐柔して、マインドコントロールで支配する様子も手に取るようにわかります。いつしかヴァネッサは好きなメイクもできず、母親にも会えなくなってしまいます。マインドコントロールは年の差カップルだけに起こることではないので、このへんはものすごく参考になるところです。こんなふうにメイクに口出してくる男とか「私より母親(あるいは友だちとか仕事とか)を選ぶのか」などと言ってくる男はマインドコントロール野郎認定。いますぐ逃げてー!と言いたいです。そもそもロリコンて同年齢の女性の才知を怖がっている時点でダメダメなんですが、フェミ否定論者もダメです。人権意識が低いからです。
ヴァネッサはさすがにマツネフと関係を断とうするのですが、待ち伏せされたりトラブルが続き、別れてからも自分とのことを小説に書かれてセカンドレイプみたいになり、しかも「アイツとやったんだからオレにもワンチャン」的な勘違い男につきまとわれたりして18歳くらいで30歳くらいに見えるくらい老けこんでしまうほどのエライ目に。それもこれも、意味がよくわかっていなかったのに“同意”しちゃったから…。一方マツネフは文壇に君臨しつづけ追従者は彼を持ち上げつづけました。
被害を受けてから30年以上あとになってヴァネッサが回想録を出して初めて、社会全体がマツネフの行為にドン引き、追従者もネットに晒され、マツネフはフランスに住んでいられなくなってリビエラに逃亡しました。しかし、この映画の舞台となったフランスのジェンダーギャップ指数は世界22位(2024年)なんです。118位の日本ではジェンダーバイアスはもっとそこかしこにあって、女性の人権に対する意識はまだまだ低い。
賢くて実績も出してきた女性がそれゆえにキツイと貶され、若者たちは実績を出していないがSNSの使い方は巧みな男性候補者になびいてしまう。その根底には根深いミソジニーがあります。児童ポルノは野放し、コンビニではシス男性向けポルノが子どもが手に取れる場所に置いてある。ジェンダー差別がまだまだ続きそうなこんな世の中で自分の身を守るため、この映画を観ておいて損はないんじゃないでしょうか。
『コンセント/同意』
監督・脚本:ヴァネッサ・フィロ出演:キム・イジュラン、ジャン=ポール・ルーヴ、レティシア・カスタ、エロディ・ブシェーズ(2023/フランス、ベルギー/118分)
配給:クロックワークス
8月2日(金)ロードショー
© 2023 MOANA FILMS – WINDY PRODUCTION – PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE – FRANCE 2 CINEMA – LES FILMS DU MONSIEUR
『コンセント/同意』だけじゃない!そのほかのおすすめ映画
いよいよ夏休みシーズン。ハリウッドメジャー大作からハードコア邦画ドキュメンタリーまで、ノンジャンルで豊作です。なかなか劇場で見ることのできない知られざる傑作の特別公開もお見逃しなく!
『How To Have Sex』
受験を終えたばかりの春休み、ヴァージン捨て旅でクレタ島のマリアに仲良し女子三人で旅行に来たタラ。イギリスのティーンのダンス青春ものかと思いきや、ここにもまた女子が傷つく現実が。捨て旅だから乱暴に扱われていいってもんじゃないのだ。ほろ苦い女子の成長物語。7月19日公開『墓泥棒と失われた女神』
世界の映画人が激賞するイタリア人女性監督アリーチェ・ロルヴァケル。新作ではエトルリア遺跡を盗掘する一味とともに墓荒らしを続ける男の旅路を描く。オルフェウスのように亡くした恋人に囚われた男の末路は…実験的な映像が美しく、ユーモアに溢れたファンタジー。7月19日公開『村と爆弾』
台湾巨匠傑作選2024は本当に傑作揃いなんですが、その中でも必見なのが日本初公開の王童(ワン・トン)監督の名作の数々。なかでも本作は、戦争を背景に描きながら登場人物の魅力と不屈さに救われるアナーキーな傑作。7月20日から8月30日まで新宿K’sシネマにて。『タレンタイム』
コロナのとき仮設映画館上映作としてGCCでご紹介した青春映画の傑作『タレンタイム』がヤスミン・アフマド監督没後15年企画で特別に劇場公開!超保守的な国で家父長制や検閲と戦ってきたヤスミンが、そんな状況下こんなにピュアで優しい映画を残したことに改めて感動です。7月20日公開『時々、私は考える』
孤独な生活を好みながらそれでも死ぬことばかり考えているフラン。会社に新しく入ってきたロバートとチャットでやり取りするうち何となく会話するようになり…人見知り女子が少しずつ世界に心を開いていく様子が丁寧に描かれた応援したくなる物語。7月26日公開『インサイド・ヘッド2』
あなたの感情はあなたの感性に直結する――どんな感情も自分をつくっていると教えてくれた前作から、感情の持ち主のライリーが思春期になって、さらに複雑な感情たちが現れたのが本作。またまたハッピーな気持ちで重要なことを学べます。8月1日公開『ツイスターズ』
グレパ出演で話題ですが『ミナリ』の監督の作品で、ほかの出演者も文芸映画で重要な役を演じている人ばかり=ミニシアター系好きな人も納得して見られるパニック映画。鑑賞後の会話も弾みそうで友だちや家族orデートで見に行くのにちょうど良い作品では。8月1日公開『うんこと死体の復権』
このタイトル、あなたの空目でもなく悪ふざけでもないのです。生物の循環を大真面目に考察したハードコア大自然ドキュメンタリー。若い女子向け媒体でどうかと一瞬思いましたが、女子だからヌルいもん見てろというのも私はジェンダー差別だと思うので、虫とか大丈夫な方限定でお勧め。8月3日公開『#スージー・サーチ』
ポッドキャストで未解決事件について話しているけど聴いてくれる人はいないスージー。誘拐されていたインフルエンサーのジェシーを発見して人気者になったけれど…。ネタバレてもなおまた見たくなる、冴えた設定と脚本の才気に溢れたブラック・コメディ。8月9日公開『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』
イタリアの赤軍派「赤い旅団」によるアルド・モーロ元首相誘拐事件。共産党と連立政権をつくろうとしていたモーロはなぜ殺されたのか?国内の融和を邪魔したアメリカの友人とは?見応えだらけの前編170分+後編170分の大作。情報量も多いので体力蓄えて観に行ってください。8月9日公開PROFILE
遠藤 京子
東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』、『RiCE』、『BANGER!!!』に寄稿。
Instagram @ cinema_with_kyoko
Twitter @ cinemawithkyoko