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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#26『ガーデンアパート』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#26『ガーデンアパート』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#26『ガーデンアパート』

2019.06.07

実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
プレスリリース引き写しのサイトでは読めない情報をお届けします。今回ご紹介するのは『ガーデンアパート』。
家にもストリートにもいられない、あるいはどちらにもいたい人が愛と格闘する物語を
映像作家としても活躍するUMMMI.こと石原海監督が撮りました。
彼女はまだ20代。ガール世代の監督の作品をチェックしてみませんか?
今回はインタビューもあります! いつもの“おまけ映画”も一緒に選びました。

Text_Kyoko Endo

石原海による、21世紀版こわれゆく女たち。

今回ご紹介する映画は誰もが共感する作品ではないでしょう。奇矯な言動の中年女性と終始不機嫌な女の子それぞれのたった一晩の出来事は、人によっては嫌悪感を抱くかもしれないし、人によってはだから何?って感じかもしれないし、人によってはざらざらした何かが残るかもしれないし、人によっては、これは自分のための映画だと熱狂するかもしれない。ガール世代の日本人女性監督がどうしても撮りたかった作品として、この映画を紹介したいと思います。

シャワーを浴びながら体毛を剃っている女の子のモノローグからこの映画は始まります。愛について、何か考えをまとめたいようだけれど言い尽くせない。怒ったような顔でバスルームから出てきて、彼氏に髪を撫でられながらもずっと不機嫌な顔のまま。場面が切り替わって、バーのようなところで目覚め、下着姿でウォッカを飲み、シケモクを吸っている女がいます。何か急に思い立ったように羽織を羽織って出ていく。このふたりが主要登場人物。

で、女の子が彼氏と「バイミースタンド」で朝ごはんを食べていると、下着に羽織姿の中年女性がふらっと入ってきて絡んでくる。ホラーか、という登場です。ここのやりとりでそれぞれひかり、太郎、京子という名前なんだなとわかる。京子は太郎の叔母で、太郎は京子から金をもらっていたのです。付き合っているひかりが妊娠したからなのですが、京子から金をもらったのはひかりには内緒。京子には亡くなった夫の遺産があってクラブのような家に住み、若者をはべらせている。ひかりは京子に抗議しに来てパーティに招かれ、パーティで京子の愛人の世界(という名前の男の子)に手を取られ…と物語は展開していきます。

京子は夫を亡くした悲しみから全然回復していなくて、酒を飲んで泣くか憂さ晴らしで狂ったようにパーティで遊ぶかで感情失禁みたいな状態です。だけど壊れているように見える京子のほうが、ひかりよりはわずかに幸せそうに見えてくる。それは金があるかないかの問題ではなくて。京子は誰かがいないと生きていけないとすぐ泣きわめくのですが、感情を外に出せる強さがある。金の力ではべらせている若い子たちからも、そんな関係なのに愛されている。ひかりはひとりでもそつなく生きていけそうだけれどずっと無表情のまま。太郎という恋人はいるけれど、太郎ってそのへんのタピオカに並んでるような子を具現化したような男の子で、まったくなんにも真剣に考えていないのです。

だいたいこの映画、男子は女子の付け合わせみたいな感じなんです。太郎は京子とひかりに翻弄されっぱなし。その過程でまったく普通だった彼も感情的になっていくのですが、おそらく感情をむき出しにした自分のことさえも認めたくないかもしれません。京子の愛人の世界くんはふらふらと自由そうに見えますが、『不思議の国のアリス』の白ウサギ程度の存在。ひかりがアリスだとしたら京子はラスボス、ハートの女王。ひかりが娘だとしたら京子は母。京子の狂い方とは対照的に、ひかりは「自分がやりたいことを心のままに実行することは自分がとことん傷つくから危ない」などと言う。情報が多すぎて身動きが取れなくなっているいまの多くの人たちを象徴するかのような、何もしないでずっと不機嫌なままのひかりという女の子がいて、対極的な存在として、やりたいことをやって好きなように(必要以上に)傷ついている京子がいる。

京子が見苦しいとしたら、みんなが見たくないものを見せつけてくる役だからですね。でも恐らくは傷ついていても京子のほうがひかりより太郎より世界より自分の人生を生きている。京子は感情的すぎるほどに感情的で、何年も前に亡くなった夫の悲しみから癒えず、癒えて楽になろうとも思っていない。ずっとずっと夫の死を悲しみ続けることが自分の存在理由だと思っているのです。愛の思い出だけで生きている。でもそれが彼女が生きたい人生なのです。ひかりは理性的すぎるほどに理性的で、だから不機嫌なのです。愛するきっかけがあったとしても、そこには飛び込めず「愛したり愛されたりということにも得意不得意があるというあたり前のことに絶望する」。結局、ひかりは自分が差し出せない愛を得ようとして苦しんでいるのです。それにしてもこんなに若い監督が、こんなに分かりにくい愛というものと格闘しきったことに改めて驚いています。本当に今後が楽しみな才能です。

『ガーデンアパート』

(2018/日本/77分)

監督・脚本:石原海
出演: 竹下かおり、篠宮由佳里
配給:アルミード
3月22日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
6月7日(金)よりテアトル新宿にてレイトショー
公式サイト

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、フリーのライター、編集者に。『EYESCREAM』『RiCE』『SENSE』に寄稿。