GIRLS’ CINEMA CLUB
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#60『新感染半島 ファイナル・ステージ』
実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
プレスリリース引き写しのサイトでは読めない情報をお届けします。
今回ご紹介するのは『新感染半島 ファイナル・ステージ』。Kゾンビという言葉さえも生み出した、
韓国ゾンビものの傑作『新感染』の後日譚です。もしもコロナで辛い思いをされた方がいらっしゃいましたら、
ウイルス感染ホラーをこういう時期に紹介することをお許しください。
しかしこういう時期だからこそ、人間ドラマに裏打ちされた良質なエンタメをマスク着用で楽しみませんか。
Text_Kyoko Endo
コロナ禍下にこの感染ゾンビ映画を勧める理由。
前作『新感染』の衝撃はすごかったですね。ウイルス感染でゾンビに、という設定はこれまでもありましたが、雪崩が起きるほどのゾンビ大量投入と韓国高速鉄道KTX車内という密室のおもしろさをかけあわせ、すでに描かれすぎていたゾンビものをまったく新しい演出で蘇らせた傑作。前作から4年、同じ世界の後日譚である本作が公開! 後日譚で続編ではないので前作を見ていなくても楽しめます。前作の続きを期待していた方は、前作がインディーズのように見える、と言われるほどに製作規模が拡大した点にご注目ください。
物語は4年前、軍人ジョンソクが家族と逃げるシーンから始まります。もうみんな自分たちのことしか考えていない。「私たち感染者じゃありません! 」と助けを求める家族を振り切って逃げるジョンソク。前作に出てきた「ウイルスの発生源はバイオ団地」という噂がもうはっきりニュースとして報道されている。韓国のバイオ産業はコロナ禍下でも堅調な成長産業。全国にバイオ団地があり、死んだペットのクローンを1匹1100万円でつくる富裕層向けビジネスが報道されるほど。だから説得力あるのです。
ジョンソクの姉を演じるのが『愛の不時着』で盗聴係の奥さんを演じたチョン・ソヨン。ジョンソクたちは家族で日本への避難船に乗るのですが、日本は受け入れ拒否。行き先が香港に突然変更になり対応に追われるなか、船内に感染→発症した人間が出て大パニックに。ここまでが回想シーンなんでした。ちなみに北朝鮮は国境封鎖して無傷。こんなアナーキーな設定、あったでしょうか。
生き延びたものの難民として香港で惨めに暮らしているジョンソク。そんな彼のもとに、韓国に放置されている現金輸送トラックを港まで運転してきてほしいという依頼が来ます。トラックには2000万ドルが積まれていて、そのうち1000万を山分けできるという。断ろうとしたジョンソクでしたが、唯一残された家族が行くと言い張り、さらに屋台の客から「ウイルスうつすな! 」と差別されてしまう。ほかに生きる道はないとゾンビランドと化した故郷へ。
もうここからの韓国の描写がデスすぎて…。赤外線スコープで見た駅はゾンビの缶詰みたいになっていて、音を立てればうようよとゾンビが集まります。しかしそんな地獄を生き抜いた生存者がいます。全員がヒャハハハハハと笑いそうな狂戦士集団631部隊と、母と二人の娘とおじいちゃんの家族。しかし家族が弱っちくなく、ちゃんとそれぞれスキルがあるところがいいのです。
とくに昔の薬師丸ひろ子に似た爆走少女ジュニが最高。監督が『ランド・オブ・ザ・デッド』のほか『マッドマックス2』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』から影響を受けたと言っている通りカーアクション満載の本作ですが、そのなかでも凄腕ドライバーの役でジョンソクを助けます。妹のユジンも強くて生意気でかわいらしく、サスペンスだらけの物語中ちょいちょい和ませてもくれます。
そう、これ女子が強い映画で、そこもお勧めポイントなんです。なにしろジョンソク役のカン・ドンウォンがモデル出身で、本作でもそれなりにかっこいいのに、なんかかすむ(ファンの皆様、すみません)。しかしそれくらい母娘がいい。じつは前作『新感染』のそのまた前日譚『ソウル・ステーション/パンデミック』も女性の物語だったのですが、『82年生まれ、キム・ジヨン』と#metooで韓国はだいぶ変わったと言われていて、世相を反映しているのかもしれません。
ジョンソクと彼らは生きて還れるのか、最後の最後まで二転三転して目が離せません。身を挺して誰かを助ける人間が描かれていて感動的なシーンもあり、ストーリーがおもしろいのですが、ゾンビからして素晴らしい身体能力と演技。ゾンビなんて大きくクレジットされないエキストラ的役柄なのに、避難船の最初の感染者など特筆すべき演技者多数が映画をリアルに見せるのに重要な役割を果たしていて、韓国映画の層の厚さが感じられます。
ところでコロナは、政治家の人間性と能力を露呈させ、有名人や財界人にツイートやブログでアホを晒させ、モラルの低い庶民を買い占めに走らせ…と、バカを見分けるリトマス試験紙のような働きもしましたが、韓国もそうだったらしい。いみじくもヨン・サンホ監督がスクリーンデイリーのインタビューで「映画で描いた悲劇に繋がる集団的身勝手さをニュースで見かけるようになった」と語っています。そんないまだからこそ、どんな行動をする人に私たちは助かってほしいと思うのか、映画で確認するのもいいのではと思いました。ネタバレちゃいますと、スカッと感動しますしね!
去年最後にご紹介したのが『パラサイト』でした。今年の最後も韓国の超弩級エンタテインメントで締めくくれるのをうれしく思います。
『新感染半島 ファイナル・ステージ』
(2020/韓国/116分)監督:ヨン・サンホ
出演:カン・ドンウォン、イ・ジョンヒョン、クォン・ヘヒョ、キム・ミンジェ、ク・ギョファン、キム・ドゥユン、イ・レ、イ・イェオン
配給:ギャガ
1月1日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
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公式サイト
『新感染半島 ファイナル・ステージ』だけじゃない! 1月のおすすめ映画。
年末年始は話題作だらけ。12月の初めに公開された名作もフォローしたく、またまた本数多めです。しかし自粛期間のことを思い出せば、こんなにおもしろい映画が何本も公開されるって幸せなことですね。
『燃ゆる女の肖像』
18世紀のフランス、女性画家は貴族の娘の肖像画を描くために屋敷に呼ばれるが、娘の反抗で仕事が進まない。肖像画=お見合い写真で結婚させられたくないからなのだけど、その二人が惹かれあい…女性版『君の名前で僕を呼んで』とも言うべき傑作。上映中。『ブレスレス』
妻を水難事故で亡くした男が、知らずにSMクラブに立ち入り、首を締められて妻に出会う幻影を見たことから首を絞めてきた女王様にはまってしまう…という驚きの恋愛映画。痛い映像がちょいちょいあれど、結末には唖然としつつ感動してしまいます。上映中。『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』
ファッション誌の全盛期に芸術的かつ挑発的な写真を撮りまくり、写真界に君臨した鬼才のドキュメンタリー。ナチスの迫害を逃れたユダヤ人青年だった過去や、美しいモデルに囲まれても写真家の妻とは同士のような愛情を育んでいたなど、見どころしかないです。上映中。『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』
ひたすら楽しいカルト的人気シリーズのなんと29年ぶりの新作。オールドファンには相変わらずバカでかわいい二人に会える喜びに、初めて見る方には昔の二人のキュートさ&分断の時代の調和への呼びかけに、うっかり感動してほしい逸品です。上映中。『レディ・トゥ・レディ』
ダンスの世界は男女がペアを組む。だけど女性同士でダンス大会に出場しちゃった二人の物語。古い体制のダンス協会やテレビ業界を二人は動かせるのか? オープンエンディングですが、こうした作品を日本人の男性監督が撮ったことに時代の変化を感じます。上映中。『エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット』
クロマニヨンズやオカモトズのレコードジャケットを制作するアーティストの制作現場に密着したドキュメンタリー。誰もが何かをコピペする時代に、自分で絵も描きオブジェもつくり写真も撮る。そのプロセスから立ち現れる矜恃に心洗われます。2021年1月8日公開。