GIRLS’ CINEMA CLUB
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
A24祭り+役所広司さんカンヌのヴェンダース新作…年末公開作盛りだくさん過ぎます!
実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
しかし、1本に絞るのが今月は本当に本当に難しい。というより、いい作品揃いで切れない…。
おせちのCMにさえ切迫感を感じる人も多いかもしれぬ師走、先生も走るほどに忙しい日々、
時間ないのに! と怒られることを承知で、是非ご覧いただきたい劇場公開作をご紹介します。
Text_Kyoko Endo
『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』
A24の傑作ホラー。
監督もキャストもまだ有名じゃなかったのに、全米でA24ホラーの中でNo1ヒットとなった本作。親がいない間にパーティを繰り返すオーストラリアのティーンたち。トベる遊びも流行っているわけですが、薬物ではなく心霊体験でというのが新発想です。
母が亡くなって友だちにつきまとってしまい、そのためにかえってクラスで浮いているミアはパーティでの憑依チャレンジにノリノリで参加。死人の“手”に触ると霊と交信することができて、スーパーハイになれて友だちの間でもデカい顔できるわけですが、90秒以上触っていると悪霊に取りこまれてしまいます。
ミアはすっかりイケイケになってしまい…そうなんですよね、若気の至りとよく言われますが、やっちゃいけないことをやるときって、仲間うちの見栄が動機の一つになることも多い。仲間うちのノリをSNSに持ち込んで炎上したりしている人をよく見かける社会ではこれはリアル。多分『コンジアム』の影響受けまくってるんですけど、設定が上手いんです。
監督は双子で登録者数679万人のYouTuber。ホラー好きな方はもちろん、何か新しい映画が見たい方は是非。
『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』
監督:ダニー&マイケル・フィリッポウ出演:ソフィー・ワイルド、アレクサンドラ・ジェンセン(2022/オーストラリア/95分)
配給:GAGA
12月22日(金)より全国ロードショー
©2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia
『ファースト・カウ』
ケリー・ライカート映画が全国公開
これまたA24製作。ケリー・ライカートが描くオフビート西部劇。重要なインディペンデント映画作家と評価されながら日本ではなかなか見ることができなかったライカート作品ですが、2021年の特集上映で一気に話題に。本作は全国公開。スクリーンで貴重な作品を見るチャンスです。
開拓時代、毛皮猟師たちに料理番として雇われていたクッキーは、過去に助けた中国人のリーと再会。はるばるイギリスからオレゴンまで運ばれてきた高価な牛が放牧されているのを見かけ、成り行きで牛乳を盗んでお菓子をつくってみたらすごくおいしいのができちゃった。マーケットでドーナツを売って荒稼ぎする二人は…という物語で、なんとなくこういうことなんだろうなあと想像させつつオープンエンディングで終わるのもすごく良いです。
A24は「A24の知られざる映画たち」という、これも見逃せない特集上映が12月22日から4週間限定でロードショー。こちらではケリー・ライカートの最新作で、ミシェル・ウィリアムズが友だちの成功に焦る現代美術作家を演じる『ショーイング・アップ』が公開。南部の自然の中で育った女性の意識の流れを素晴らしい映像で描く『オール・ダート・ロード・テイスト・オブ・ソルト』など、A24ファンの年末年始は映画一色になりそう。
『ファースト・カウ』
監督・脚本:ケリー・ライカート出演:ジョン・マガロ、オリオン・リー、トビー・ジョーンズ(2019/アメリカ/XX分)
配給:東京テアトル、ロングライド
12月22日(金)より全国ロードショー
©2019 A24 DISTRIBUTION. LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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『PERFECT DAYS』
ヴィム・ヴェンダース監督の最新作
トイレ清掃員の平山はルー・リードやパティ・スミスなど好きな音楽をカーカセットで聴きながら通勤し、公園の自然や古本屋の文庫や居酒屋の酎ハイといったささやかな楽しみを味わいつつ規則正しく暮らしている。しかしある人の訪問で、振り捨ててきたはずの過去への悲しみや悔悟が露わに…。
自分の価値観で静かに生きるために何かを捨てたけれど、捨てたはずのものにやはり心を乱されてしまう人生のどうしようもなさをも描いた傑作で、すでに役所広司さんのカンヌ主演男優賞受賞で話題になっていますね。寡黙というより極端に無口な平山を表情だけで演じる役所さんの演技はもちろんめっちゃよいですし、さらに通常は白やグレーの作業用バンをカラーコーディネートしちゃった車大好きヴェンダースの美意識も見られます。しかし平山みたいに金や社会的地位には価値を見出さない人、仙人みたいに描かれていますが、学生運動していた方なんかには実際にいらっしゃるのではないかと思うのですが。
『PERFECT DAYS』
監督:ヴィム・ヴェンダース出演:役所広司、柄本時生(2023/日本/124分)
配給:ビターズ・エンド
12月22日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
©2023 MASTER MIND Ltd.
『ラ・メゾン 小説家と娼婦』
売春のリアルを女性が描いたパワフルな作品
自伝的小説で文壇に出たものの次作が書けなかったエマは、自暴自棄な気持ちと好奇心の両方から娼館の面接を受け高級娼婦になるのですが…。
実際に娼館に潜入取材したフランスの女性作家エマ・ベッケルの原作をもとに、女性たちが作った映画。
売春という仕事を美化することも卑下することもなく描いていますが、しかし待遇がいいはずの店に行っても男性客から暴行されたり、仲良くなった娼婦がいつの間にか店を辞めてしまったり、恋に落ちるものの職業を知った相手が離れていってしまったり…。
売春というもののリスクや人間関係が続かないことの感情的負担や結局金に縛られてしまう不自由さなどもしっかり描かれた力作です。映像はとても美しいのですが、女性の人権先進国であってもセックスワーカーへの差別はあからさまにあって仕事はまさに肉体+感情労働で超ハード。仕事や生き方そのものについて考えたいときに見ておくと良い作品だと思います。
『ラ・メゾン 小説家と娼婦』
監督・脚本:アニッサ・ボンヌフォン出演:アナ・ジラルド、ロッシ・デ・パルマ(2022/フランス、ベルギー/89分)
配給:シンカ
12月29日(金)新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
© RADAR FILMS-REZO PRODUCTIONS-UMEDIA-CARL HIRSCHMANN-STELLA MARIS
まだまだある!年末年始に見たい映画
本編で4本紹介しても、まだまだどうしても紹介したい作品がある2023年末…。そして2024年にも素晴らしい映画をご紹介できる予感、というか、確信。みなさま、映画を楽しんで良いお年をお迎えくださいませ。
『市子』
3年間仲良く一緒に暮らした女性が婚姻届を一緒に出そうとプロポーズした翌日に失踪。彼女を探す過程で、さまざまな証言から驚愕の事実が浮かび上がる…。在留資格がないまま育った人などにも共通する人権問題がさりげなく描かれている力作。公開中。『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』
じつは悪い子がヒドい目にあう子どものしつけ映画『チョコレート工場の秘密』でジョニデが演じたウォンカ社長の若いころを描きます。主役はティモシー・シャラメ。今回は悪巧みする大人たちが痛い目を見るストーリー。ヒュー・グラントのウンパルンパが見ものです。公開中。『最悪な子どもたち』
カンヌ「ある視点」大賞受賞作。フランス北部の街に撮影にきた映画監督たち。オーディションで選んだのはドロップアウトした子どもたちだった…労働者階級の子どもと、子どもの生活の複雑さに困惑する完璧ではない中流階級の大人たちとの交流を描いた良作。公開中。『ポトフ 美食家と料理人』
トラン・アン・ユン監督の美意識が結晶化したような美しい映画。ブリア・サヴァランをモデルにした美食家をブノワ・マジメルが、彼の理想を具現化するかけがえのない料理人をジュリエット・ビノシュが演じていて、恋愛以上のより成熟した愛を描いています。公開中。『枯れ葉』
スーパーで働くアンサはある日カラオケバーで工場労働者のホラッパと出会い…。ウクライナ戦争で世相も気持ちも暗くなったいま、引退を撤回して帰ってきたアキ・カウリスマキ監督が描くハッピーな恋愛映画。誰もがスマホを持っている現代を舞台にすれ違う恋を描いたのもさすが。公開中。『レザボアドッグス 4K』
クエンティン・タランティーノの初期衝動が4Kデジタル化。70年代風のロゴデザインも、構図も、脚本も、すべてがクール。長編第1作で天才ぶりを証明したタランティーノの、映画史に残る重要作をスクリーンで見られるチャンスです! 年明け一発目にふさわしい1月5日公開。PROFILE
遠藤 京子
東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』、『BANGER!!!』に寄稿。
Instagram @ cinema_with_kyoko
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