WHO IS STUTS?
名曲の呼び声高し!
「夜を使いはたして」を作ったSTUTSとは何者?
「夜を使いはたして」を作ったSTUTSとは何者?
Photo_ Yuki Kumagai
Interview&Text_ Takashi Inomata
Interview&Text_ Takashi Inomata
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朝方のクラブで最近耳にすることが増えた「夜を使いはたして feat. PUNPEE」。
胸の奥がざわざわするようなノスタルジックなこの楽曲を手がけたのは、
平成生まれのトラックメーカー、STUTSさん。
音楽の原体験から曲の誕生秘話、今後の展望まで、気になるあれこれをインタビューしました。
- まずはSTUTSさんの音楽ルーツを紐解いていきたいんですが、最初に買ったCDは何ですか?
- 小6の頃に買ったCHEMISTRYのファーストアルバム(『The Way We Are』)です。最初はシングル曲目当てで買ったんですけど、アルバムに「BROTHERHOOD」というDABOさんをフィーチャリングした曲があって、そこで初めてラップというものを聞いたんです。「なんだろうな、この音楽は」っていう感じですごく気になって、ずっとその曲ばかりリピートしてました。
- それがヒップホップへの目覚めにもなるんですか?
- そのときは、これがヒップホップだっていう意識がなかったですけど、そのあとRIP SLYMEとかKICK THE CAN CREWとかエミネムとか、当時流行ってたものを聴くようになって。そこに参加してるアーティストをどんどん掘り下げたりして、だんだんハマっていったんです。
- 小さい頃から、興味があるものは掘り下げていく気質だったんですか?
- ハマったらとことん調べるところはあったかもしれないです。あと、小学生の頃から何かしら自分で作りたがる子供だったんです。当時RPGゲームにハマったんですけど、自分でオリジナルのRPGゲームを考えて、キャラクターのHPとか数値を細かくノートに書き込んでました(笑)。
- その後の中学時代はヒップホップにどっぷりという感じ?
- そうですね。中3くらいになると、BUDDHA BRANDとか雷とかMICROPHONE PAGERとか、わりとコアなものも聴くようになって。そんなときに、CDショップの試聴機でA Tribe Called Questとかが入ってるコンピを見つけたんです。それを聴いてクラシックなヒップホップにどっぷりハマって、それが自分のルーツになってるんです。
- トラックを自作するようになったキッカケは?
- 中3のとき、最初はラップをしたいと思ったんです。でも、そのラップをするビートがないから自分で作るしかないかって。
- 自分でRPGゲームを作ろうとした発想と似てますね。
- そうかもしれません(笑)。で、まずは数千円のドラムマシーンを買って来て、簡単なシーケンスを組んでみたのがキッカケです。高1のときにはそれじゃ物足りなくなってMPC-1000を買ったんです。それでビートを作っていったらどんどんハマっていって、自分はラップをするよりトラックを作る方が向いてるなって。
- トラック作りを始めてからデビューに至るまでの間で転機になったことは?
- 自分でMPCを叩いてライブするようになったことです。それで僕のことを知ってくれた人がたくさんいるので。
- なぜ人前でMPCを叩こうと思ったんですか?
- その前からDJをやってたんですけど、もっと自分の曲を聴いて欲しいと思ったんです。そのためにはどうすべきか?と考えていたときに、日本だとHIFANAさんとか、海外だとアンチコンという集団がMPCでパフォーマンスしてる映像を見て、「こういうやり方があるんだ」と思って、そこからMPCを叩いてライブをやり始めたんです。それが2009年とか2010年ですね。
- 2013年にNYのハーレムでMPCを使った路上ライブを行っていますが、どんなリアクションがありましたか?
- 近所に住んでるおばあちゃんが「これがハーレムの音楽だ」みたいなことを言ってくれたり、おじいちゃんがビートに合わせて踊ってくれたり、現地に住んでるラッパーが飛び入りでフリースタイルをやってくれたりして、あまり日本じゃ見られない光景だなって。こんなにみなさん乗ってくれるんだって思ったし、すごくうれしかったです。
- NYでのライブ経験で心境の変化はありましたか?
- 自分にはもうちょっと可能性があるんじゃないかと思うようになりました。NYへは大学の卒業旅行を兼ねて行ったんですけど、帰国後は大学院に進むことが決まっていたんですね。だから、まずは大学院と音楽制作を両立させつつ、チャンスがあったら音楽で勝負してみたいなって。音楽はライフワークだと考えていたし、ずっとこの先も作り続けられたらいいなと思ってました。
- 昨年4月にリリースした『Pushin’』は、90年代ヒップホップを感じさせるサウンドに貫かれていて、やわらかな聴き心地がたまらない一枚でした。
- 『Pushin’』は、それまでに作り溜めてた曲からずっと聴けると思うものをピックアップして作ったんです。だから、大学院の頃に作ってたビートもありますし、それ以前の曲もあるんです。
- 今年2月には同作のアナログ盤もリリースされました。アナログな質感を大事にしているトラックメイカーとしては、喜びもひとしおなんじゃないですか?
- すごく感慨深いです。すごく音が良くて感動したし、温かみのある音が好きなので、やっぱりアナログ盤にはこだわりがありますね。
- CDとアナログ盤でミックスは変えてるんですか?
- 「夜を使いはたして feat. PUNPEE」だけ変えてます。ビートはほとんど変えてないんですけど、PUNPEEさんのボーカルだけ少しいじりました。というのも、あの曲の制作は結構ギリギリで完成したのがアルバムのマスタリング前日だったんです。最終的にはあの荒削りな感じが良い味になったと思うんですけど、今回は「これも試してみたかったな」っていうミックスにしてるんです。
- その「夜を使いはたして」は、アルバム発売時から名曲の呼び声が高い人気曲でしたが、昨年秋に7インチのアナログ盤でシングルリリースして以降、ますます広がりを見せていますね。
- PUNPEEさんは昔から尊敬していたので、そういった方と曲を作れてこういった形で発表できて本当に良かったなって思います。
- PUNPEE人気もあるでしょうけど、まずは何より曲の良さが評価されてるんだと思います。
- ありがとうございます。ビートを作ったとき、この曲に迎えるのは絶対PUNPEEさんだと思ったんです。温かくてメロウでキャッチーな部分もあるトラックなので、PUNPEEさんだったらバッチリだろうっていう直感が働いて。その読みが当たったのはすごくうれしいですね。いい曲できて多くの方に聴いて貰えてやったーって感じです(笑)。
- トラックはいつ頃、どんなイメージで作ったんですか?
- 2013年の大晦日に、「今年最後の曲を作ろう」と思って作ったんです。そのときは原型だけで、そのあといろいろ練っていったんですけど。
- ノスタルジーがありながら、じんわりと高揚感や幸せな気分に包まれる曲ですが、それはひょっとして大晦日に作ったところにも起因するのかなと、今思ったんです。1年を振り返りつつ、新たなスタートを迎える年末の気分にリンクしてるなと思って。
- 確かにそれはあるかもしれないですね。最初はそういうことをあまり意識してなかったですけど、言われてみるとそうかもしれない。いろんなことを考えながらビートを作った記憶があるので。
- PUNPEEさんにリリックをお願いするとき、どんなリクエストをしたんですか?
- 夕焼けとか朝焼けとか、そういう中間の時間帯で哀愁を感じるようなイメージがある曲なんです、と伝えました。その程度のざっくりしたイメージで書いてもらったんです。PUNPEEさんに書いてもらったものを二人で相談しながら練り上げていきました。
- PUNPEEさんはこの曲をどんな思いで書いたと話していましたか?
- 「いい歌詞が書けました」って連絡が来たのが2016年の2月頃で。最近、「フリースタイルダンジョン」とかでヒップホップが世間に知られつつあるけど、本当にこのままでいいのかな?っていう期待と不安が入り交じった感じを歌ったと言ってて、本当にその通りの歌詞だなって。だから実は、クラブで遊んで朝帰りするときの夜明けと、シーンの夜明けを掛けてるんです。
- この曲を聴いてると、胸の奥にずっと渦巻いてる熱いものをくすぐられるところもあるんですよね。「いつかやってやるんだ」みたいな気持ちを思い出させてくれるっていう。
- そうなんですよ。できあがったものを聴いたときは本当に自分のことを歌われてるような気持ちになりました。ビートメイカーにも当てはまることを歌ってるなと思って感動したし、ひたむきに頑張ってる人の心情に重なるところもあるんじゃないかと思ってます。
- 普段、曲作りはどんな時間に、どんなふうに行ってるんですか?
- 最近は毎日作ってます。毎日ちゃんと朝起きて、午前10時くらいには机の前に座って作り始めます。で、昼休憩を1時間挟んで18時とか19時くらいまでやって、そのあと残りを作るときもあれば、音楽の本を読んでコードについて勉強するときもあります。
- 完全に会社員スタイルですね(笑)。
- そうです(笑)。家で作っている分、人の目がないのでしっかり時間管理しないとダラけちゃうなと思って。
- 作業部屋のこだわりは?
- こだわりというか、作業机は自作しました。レコードを入れてるカラーボックスを2つ置いてその上に板を乗せてるだけなんですけど、モニタースピーカーの台にしているブロックがいい感じに重しになってくれて、しっかりしてます。
- DIY精神ですね。そういうところもRPGゲームを自作したところからつながってるのかも(笑)。
- あはは。あと、机にしまえるパソコンのキーボードスタンドも自分で作りました(笑)。。
- 今日はこのあとレコード屋さんに行くそうですが、STUTS流の良盤の見極め方は?
- まずジャケットですね(笑)。基本ジャケ買いが多くて、あとはレーベル、プロデューサー、アレンジャーとかリリース年で買うことも多いです。以前は76年、77年モノ……70年代の中期~後期のものを買ってました。ちょっと前から年代は少しバラバラになってきて、いまは80年代ものも良く買います。
- 最近買った当たりのレコードは?
- Diane Tellの「Souvent, Longtemps, Enormement」。この前、熊本に行ったときに買ったんですけど良かったです。82年のAORモノですね。
- 今、音楽以外に興味があることは?
- 興味というか、考えてるのは、部屋の電灯とかエアコンのスイッチを全部自動で制御するプログラムを作ろうかなって。
- プ、プ、プログラミングですか!?
- これまで仕事にもしていたのでプログラミングは好きなんです。(部屋の片隅に置いてあった小箱を手に取り)これがラズベリーパイっていう名前の小さなコンピュータなんですけど、これで部屋中の電化製品を制御して、規則正しい生活を手に入れようかなって。
- たとえば毎朝7時になると電灯が点いたり、寝る時間になるとエアコンが切れるようにしようと?
- そうです。なんとなく仕組みはわかるので。
- 世の中はこれからAI時代に突入すると言われてますけど、まさかアーティストの口からプログラミングという言葉が出るとは。
- それで言うと、音声認識とか機械学習とか、そういうAIの勉強もしたいなと思ってるんです。本も買って空いてる時間に読んだりしてますね。
- だったらもうトラックを自動で作ってくれるプログラムを書けばいいんじゃないですか? 人工知能でヒット曲も作る時代もまもなくだ、と言われますし。
- それ、考えたことがありました(笑)。自分がサンプリングするネタとか、その使い方の傾向をデータ化してやってみたら面白そうだなって。好奇心はあるけど、そこまで機械でやっちゃうのはどうなのかな? とは思ってます。音楽に関しては、そこまでデジタルなものを持ち込まないようにしたいんです。もっとフィジカルな感じで作りたいんですよね。
- 最後に、今後の活動予定と今後チャレンジしてみたいことを教えてください。
- 今年も音源をリリースするつもりなので、ライブ活動と並行しながら、新しい曲を色々と作っていこうと考えています。その中で挑戦したいのは、まだやれるかどうか全然わからないですけど、ミュージシャンの方がセッションした生演奏をサンプリングした曲作り。いろいろやりたいことはありますけど、あまりルールに縛られることなく、自分の好みを大切にしながら、多くの方と曲を作っていきたいと思ってます。
(撮影協力)
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