Be nude.

ヴィンテージ界の新流儀、ウェブ限定のnude vinatgeはどうして高評価?
Photo_Yuka Uesawa

昨年4月にInstagram上でオープンを告知するやいなや瞬く間に噂が広がり、
6月8日の開店前にフォロワー2000人超えという驚異的な動きを見せた
オンライン限定のヴィンテージショップ〈nude vintage(ヌード ヴィンテージ)〉。
さらに伊勢丹新宿店本館2階のTOKYOクローゼット/リ・スタイルTOKYOで
過去2回行ったポップアップショップはどちらも大盛況のうちに終了。
有名店で修行をしたわけでもなく、海外にコネクションがあるわけでもない
女性がたった1人で始めたお店がなぜここまで支持を受けるのか。
オーナーの佐藤友美さんに〈nude vintage〉の唯一無二の魅力をお伺いしました。

昨今、実店舗を持たないオンライン限定のヴィンテージショップが増えてきました。〈nude vintage〉は商品のもつ魅力はもちろんのこと、Instagramでの拡散力が類を見ないように感じます。まずは佐藤さんがお店を始めるきっかけから教えていただけますか。
もともとは服飾の専門学校に通ってスタイリストを目指していました。ただ地方出身で家賃や学費を自分で払っていたこともあり、金銭的にスタイリストさんの下でアシスタントを何年も続けることが難しくて。そのまま学生のときからアルバイトをしていたスターバックスジャパンに就職したんです。で、去年の3月までは渋谷で店長をしていました。
〈nude vinatge〉のオープンが6月ですから、かなり直前までスタバで働かれていたんですね。
トータル13年くらいいましたし、会社自体にもすごく愛着があったのですが。少し前に父が亡くなったのをきっかけに今後の人生について深く考えてしまって。ずっと心のどこかで拭えなかった「アパレルの仕事をしたい」という気持ちに素直になりたくて一念発起しました。
なぜヴィンテージショップを作ろうと思ったのですか?
祖母が文化服装学院出身なのですが、その影響もあって母がすごく服好きな人で。小さい頃からよく近所のブティックに連れて行かれたのですが、服がギッシリ詰まった店内で掘り出し物を見つけるのが大好きだったんです。3、4時間くらい飽きもせず服屋で遊べる子供でした。あとは母が10代、20代の頃に着ていた服が好きで、よく借りていたんです。セルフヴィンテージじゃないけど、ほぼ同じ体型なので。なので根本的には家族の影響でしょうか。
なるほど。では特定のヴィンテージショップに憧れがあったわけではなく?
ヴィンテージショップも大好きです。そもそも私、ウィンドウショッピングができない性格で。買い物に行く前に頭の中で「こういう形で、素材で、色で」って欲しいアイテムを決めて、それを探しに行くタイプだったんです。このルールを覆してくれたのが海外のヴィンテージショップでした。自分の想像の範疇を超えるアイテムとの出会いがあったんです。漠然と憧れはあったけど、具体的にヴィンテージショップを作ろうと思ったのは一昨年くらいですね。
買いつけは主にどちらで?
ファーストバイイングはL.A.で、いまもずっと西海岸です。当初はヨーロッパ古着、とくにイギリスものをやりたかったんです。でも敷居が高いし数も引っ張ってこれないから、まずは量があるアメリカを選びました。あとはたまたま友人がL.A.に住んでいたので退職直後に1ヵ月半ほど泊まらせてもらったり、ショップのロゴを友達が作ってくれたり…。普通は立ち上げってそういう助けてくれる人を探すのにすごく苦労するものだと思うんですけど、トントン拍子に進んでいって。背中を押してもらっている気がして心強かったですね。いまは基本的にアメリカで買いつけを行っていますが、ゆくゆくはヨーロッパヴィンテージにも挑戦したいです。
オンラインショップだとお客様の顔が見えない中での買い付けになると思うのですが、どのように選んでいるのですか?
ほぼ直感で選んでいます。たまに「あの人に着せたい」とかイメージで選んだり、トレンドに左右されることもありますけど(笑)。
〈nude vintage〉のセレクトには一貫性がありますもんね。
嬉しいです。自分の感性を元に選ばなくちゃいけないから、集中力を高めるために買いつけ中はご飯もそこまで食べず、あまり寝ないっていうのを自分に課していて。欲を抑えて神経を研ぎ澄ませた中でピックしています。例えばローズボウルなど大きいマーケットでは午前3時に起きて、水も飲まずに12時までピックし続けて、終わったらもぬけの殻状態。行き先がアメリカなのに痩せて帰国する、みたいな(笑)。
修行僧のような買い付けですね(笑)。
そうですね(笑)。これは寅さんでおなじみの渥美 清さんにあやかった私のジンクスなんです。渥美さんは売れない時代に「禁煙するから仕事をください」と小野照崎神社に願かけに行って、『男はつらいよ』のオファーを受けたみたいで。私も当時大好きだったチョコを絶ってお参りに行ったら、それまで八方塞がりだった仕事が好転した経験があって。以来、「何かを抑制しないと新しいものは生まれない」というのが私のルールです。
なるほど。なかなか誰かと一緒には買いつけできないですね。
「私らしさ」とか「個性」っていうのは私には生み出せないものなので。食欲や睡眠欲をなるべく抑えることでいろんなフィルターを取り払って、潜在的な意識や直感で選べるようにしています。感性を作るっていう意味では映画を観たり、人と話したりすることも絶対必要だとは思うんですけど。だからこそ1人でしか買いつけしないし、物量もそんなに取れないのでオンラインショップという形をとっています。実店舗を作るとなると、たくさんの量を買いつけなくてはいけないというプレッシャーから100%納得していないものも選んでしまいそうな気がして。私らしさや〈nude vinatge〉らしさを表現していくことを第一に考えているので、いまはこのスタイルがフィットしています。
特別にファッション業界やヴィンテージ業界にコネクションがあったわけではないのに、開店前からInstagramで話題となった理由はなんだと思いますか。
私自身、オープン前にどれくらいフォロワーを増やそうとか戦略的に考えていたわけではないんです。だけど他のショップと同じやり方をしても意味ないし、何か特別なサービスができないかなと考えてスタイリストさんへの無料の商品貸し出しを始めたんです。お店が始まる前は商品を届けるし、取りに行きます、というサービスもしていました。自分がファーストバイイングした服をどのように評価していただけるのかも知りたかったですし。
確かにヴィンテージショップでの貸し出しは価格の何%かリース料がかかるところがほとんどですもんね。
リース料フリーはいまも続けています。私がスタイリストになれなかった分、いま活躍されている方にとって優しい場所を作れたらって思って。服を集めるのに交渉をしなくちゃいけないのってすごく手間だと思うんです。あとは美容師さんに知り合いが多くて、宣伝してくださったのも要因だと思います。Instagramではちょっと知名度が上がればいいなくらいに考えていたんですけど、思っていたペースよりも速くたくさんの反響をいただいて、ちょっと自分自身が追いつけていない感じもあります。SNSってすごいですよね(笑)。
伊勢丹新宿店リ・スタイルTOKYOでは定期的にヴィンテージショップのポップアップが行われていますが、こちらへの出店もかなり早い段階で声をかけられていたんだとか。
お話をいただいたのは開店する1ヵ月前で、買いつけから帰ってきた直後。最初は何かの間違いかと思ってメールを二度見しました(笑)。でもまさか半年のうちに2回もポップアップをするとは思ってもみませんでした。次のポップアップも春以降に予定しています。たまたまポップアップを訪れてくれた新規のお客様に自分の世界観を知っていただきつつも、フォロワーの方の期待を裏切らないバランスで今後も続けていけたら。
〈nude vintage〉が支持を受ける理由ってなんだと思いますか?
買い付けから撮影まで自分1人でやっているので世界観が統一できていることでしょうか。オンラインやInstagramにあげる写真はアイテム別ではなくカラーブロッキングで並べたり、アメリカの空気感が伝わるような写真になるように努めています。あとは心から服が好きっていうのが伝わっているのであれば嬉しいですね。
お店の名前を「nude」とした理由は?
ある程度いろんな服を経てきた女性に「気張らなくていいけど、自分らしさが光る服」として提案していきたいんです。直感で選んだ服を、素直な気持ちで選んで欲しくて「nude」っていう名前をつけました。そもそもnudeって卑猥な言葉じゃないですか。でも変なエロティックさじゃなくて、女性本来の品やボディラインの美しさが際立つラインナップになることを大切にしています。私自身いい年齢なので(笑)、1980年代のようなイケイケでファッションファッションしすぎている服より、ライフスタイルの一部となるリアルクローズをピックするようにしています。
佐藤さん自身がお好きなヴィンテージっていつ頃のアイテムなんですか。
1920、30年代ごろの服が好きです。封建的な時代が終わり、女性もコルセットを外してゆったりとしたシルエットを着られるようにはなった。けど、首が詰まったデザインなど保守的な空気が残っている時代ですね。1800年代の女性像から解放された自由な感じと、奥ゆかしさとが混在しているのが日本人的だなと思っていて。あとは昔の服、とくに1950年代以前のものはどこか人の手で作り込まれた部分が必ずあって、人間らしさがにじみでているので愛を感じます。手仕事の温かみが感じられて、どこか垢抜けていないんだけど個人的な主張も感じられる服が好きですね。
既製品が安く手に入る中で、ヴィンテージが注目を集める理由はどこにあるんでしょう。
他の人とかぶらないっていうのが大前提だと思うのですが。例えば久しぶりに聴く音楽で情景が浮かんだり、香りをかいで誰かを思い出したりするような出来事がすごく好きなんですけど。ヴィンテージって昔を生きてきたものなので、同じように「当時のシーンを回想できるもの」なんですよね。古着屋さんは誰しも「昔誰かが着ていた服をいまの人につなげる。新しい歴史をつないで再生していく」って気持ちを大切にしていると思うんですけど。その思いがお客様にも伝わっているのではないでしょうか。
最後に今後の目標を教えてください。
まずは土台をしっかり固めつつ、世界中のあらゆる「もの」はもちろん、「価値観」も共有できる場所を作りたいです。そのために精力的に海外に出向いてその土地の文化や人に触れて、肌で感じたものをたくさんの方に届けていきたいと考えています。私個人はまだまだ挑戦したいことがたくさんあるので、ぜひ今後の〈nude vintage〉の活動を見守っていただけたら嬉しいです。