私たちは待っていた。OZ VINTAGEから伝わるブームではない「古着」。
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私たちは待っていた。OZ VINTAGEから伝わるブームではない「古着」。
2018.10.10
ヴィンテージイベントやWEBショップも増え、
ノマドな動きを見せる“出店型”の古着店があまた連ねる中、
このブームを起こした第一人者ともいえる女性が渋谷にお店を開きました。
その名は「OZ VINTAGE(オズ ヴィンテージ)」。
RAW TOKYOなどのヴィンテージイベントにおいて、
オープン前から行列ができるという驚異的な人気を誇ったショップです。
加熱する「出店型のヴィンテージ」という市場をあくまで通過点とし、
実店舗を「いよいよここからがスタート」と定めるオーナーの鈴木里美さんに
その思いを伺いました。
Photo_Mitsugu Uehara
台風にも関わらず人でごった返した伝説のオープン。
- ―渋谷駅の山手線沿いにお店をオープンされて数ヶ月が経ちましたね。当日は台風という非常にインパクトのある開店でした。
- 無理しないでくださいね、とたくさんメールしたのですが、蓋を開けてみたら本当にたくさんの方に来ていただいて。衝撃的に感動しました。お誕生日などのお祝いごとが一生分きたような日でしたね。
- ―私も当日お邪魔しましたが、お客さんたちがまるで全員親族かのような喜び具合でした(笑)。
- みなさん自分のことのように喜んでくださって。14、15年ほど古着の世界にいますけど、こんなに気にかけてくれる人がいるって本当に幸せだな、と思います。
- ―そもそも鈴木さんはRAW TOKYOなどのイベントへの“出店型”のヴィンテージショップ「FUROL」のオーナーだった訳ですが、なぜ人気絶頂期に“ショップ”を作ることを決意されたのでしょうか。
- 理由はいろいろあるんですけど、いちばんは出店型という形態に区切りをつけたかったことでしょうか。ここ1年くらいは同じようなスタイルのお店が急増したことによりモチベーションを次のステージに向けていて、実店舗を持つつもりでいました。私が本気で古着と関わっていくならそれが最低条件だと思っていたからです。本当はもっと早く切り替えたかったのですが、このタイミングになったのは単純に準備を整えるのに時間がかかっちゃったんです(笑)。
- ―なるほどー! 同時にお店の名前も変えられたんですよね。
- いまって色々なライフスタイルに合わせてビジネスをすることが可能で、私もSNSがきっかけで「FUROL」を始められました。でも「いままでとは違う」って自分にはっぱをかけるつもりで屋号ごと変えました。いちばんの理由は名前がしっくりきてなかったからですけど(笑)。
- ―あんな人気店だったのに(笑)!
- いちばん最初にイベントに出る数日前に店名を決めなければいけなくなって、好きなSFマンガ『11人いる!』のキャラクターからつけたんです(笑)。そのキャラクターの性質に性別がないことや、ヴィンテージを扱うのにSFマンガは結びつきがなくていいと思ったりしたのですが、花の意味を持つ“フローラ”から着ていると連想されることが何度かあって「かわいいお店」と位置づけられることが多く、ちょっと意図と違うなと。認知していただいてから結構経ってしまっていましたが、執着はありませんでした。
- ―新しい屋号「OZ」にはどんな意味が込められているのでしょう。
- 父がやっていたデザイン会社の名前をもらいました。子供のころからデザインの勉強をして跡をつごうと思っていたんですけど、服が好きになってしまったので名前だけでも残せたらと思って。店名は考えても作為的に感じるものしか浮かばなくて、ある日「あ、OZでいいか」と思って父に聞いたら「いいんじゃない?」って。思いつきでしたが物心ついたときから馴染みがあったこの名前には憧れもあったんだと気づき、とても気に入っています。
- ―実際にショップを持って、いままでとのいちばんの違いはなんですか?
- お客様とゆっくり話せたり、お店を日々、よくしていけることですね。あとは私自身が店頭に落ち着いて立つことができるのと、責任を持てるのがメンタル的にも大きな変化だと感じます。実際動いてみて、自分でやらないと知らなかったこと、見ることができない景色がたくさんありました。
「わざわざ」じゃなくて「ついで」に寄ってくれればいい。
- ―場所は渋谷と原宿の間、旧宮下公園の先というこの場所を選んだのは?
- 絶対この駅がいい、という明確な希望はありませんでしたが、お客様が「わざわざ足を運ぶ場所」は避けたいとはずっと思っていて。私も友人たちも30代になってからはお買い物だけのために1日さいたり予定を立てたりできなくなりましたし、同じような方々にとって「ついでに寄ってもらえる店」でありたいと思っていて。もし気に入ってもらえたら気軽に寄れて、何度かに一度「いいな」と思うものを見つけてもらえることができたら。そんな生活に自然に溶け込める店が理想です。
- ―光がふりそそいですごく気持ちのいい空間ですよね。
- 内見2軒目で決めました。無機質な事務所物件で味も趣もない部屋だったんですけど、入った瞬間にこの日差しで「ああ、もうここでいいです」って(笑)。1人でやるので、路面店という選択肢はなかったし、ゆっくり見ていただくにはぴったりでした。私自身緑が好きなのと、家を選ぶときの必要条件でもあるんですけど、日中の光を感じられるのってすごく大事で。気持ちの余裕ができる気がします。実際「気持ちいい場所ですね」と言ってもらえることが度々あって、「そうなんです!」と、つい会話を始めてしまいます。
- ―内装もいままでにない感じで素敵です。
- 内装や家具集めは一番大変でした(笑)。いますごくデザイナーチェアがブームだったり、小さなお店もこだわりを内装から打ち出していますよね。インテリアにはもともと興味はありましたが、店づくりのなかで自分の家具や空間に対する考え方を見つめ直すことになりました。いま30歳前後の方のお店はミニマルでスタイリッシュが主流、上の世代になるとクリーンな空間に植物やインダストリアルというムーブメントがあるなかで、私には何が必要なんだろう、と。物件が決まった時点である程度は決まっていたのですが、什器ひとつひとつのチョイスとバランスで自分らしい空間になったと思います。
- ―椅子についても教えてください。
- 什器はヴィンテージとの出会いの中からバランスを見て時間をかけて選んでいきました。ロッキンチェアは1930年代のもので、ブラジルのデザイナーCHIMOのものです。これを初めて見つけたとき、無駄なものは置かず、ひとつひとつが響いてくる配置にしたくて全体を決めていきました。カウンターだけがどうしてもコレというものが見つからず、悩んだ末に内装デザイナーの宮本 匠さんに作っていただきました。彼とは短い時間のなかで毎日ものすごく密に打ち合わせを重ね、内装も含め丁寧に私のイメージに肉付けして、とてもいいものを作ってもらえて。いちばん気に入っていますし、カウンターにいると不思議と落ち着いてきます。まだ足りないものも多いですが、徐々に完成させていきたいと思っています。
- ―そこに鈴木さんの選んだ商品が彩るわけですが。
- お店の陳列に関しては日々変化していきます。ときにはコーディネートが浮かぶように提案を込めて。また単純に商品が見やすいようにだったり、一般的なスペシャルなアイテムあってもなくても自由に楽しんで見てもらえたら、と思っています。
- ―ヴィンテージとレギュラーのバランスも絶妙ですよね。
- スペシャルヴィンテージだけを扱いたいわけじゃないんです。もちろんヴィンテージを集めれば集めるほどお店のクオリティが上がるのは当然で。数がどんどん少なくなっていき価格も高騰していくなかで、新しい引き出しが常に必要だなと思っていて。単純にお買い物が楽しいショップになることが理想なので、自分の古着に対する価値観やテイストのバランスを意識していきたいです。
- ―確かに鈴木さん自身も「こういうテイスト」って決めずに毎日違うコーディネートをされているように感じます。とくに好きな年代とかあるんですか?
- 古いものが特別好きというのは自分の根本にあります。とくに1800年代後半の、ヴィクリアン時代のものにはずっと魅了され続けていますし、もの選びのベースにある気がします。古いものを知れば知るほど、服の持つ意味や背景がわかってくるし、バイイングをしていくなかで古いものがいかに貴重かは知っているので。ただ、いまはヴィンテージの定義もすごく曖昧ですし、自分のルーツから成るそれぞれの時代の「特別」を探すことがいちばん大事なのではないでしょうか。
- ―逆にご自身が苦手な年代ってあるんですか?
- 自分が視覚的に得た情報のなかからお店を作り上げていくものだと思うので、提案する立場として苦手意識は昔から持ってないですね。50S、70S、80Sなど、わかりやすい特徴のある年代などは、どんな風にエッセンスとして取り入れるかを楽しんでいます。それがコスプレ的なダイレクトなかわいさのときもあれば、控えめなアプローチだったりする日もあります。
- ―コーディネートについても同じですか?
- 同じですね。体型やキャラクターにハマるテイスト、不向きなテイストはありますが、意識的にファッションのルールを自分に持たないようにはしています。“自分が着るものを制限しない”って買い付けにものすごく重要で。いろんなお客様に来ていただくなかで「こう着たらかわいい」「自分じゃ着られないけどあの人が着たら素敵」ってイメージを広げていく作業がすごく好きですし、大事かなと思います。人と一緒で服も、その魅力をなるべく拾い上げられるようにしたいんです。美人な子だけが魅力的なわけではないし、痩せているだけがスタイルがいいってことじゃないのと同じで。肩が大きくても色が強くても、全然難しくないんです。そうやってずっと自由に着たいと思っています。
- ―ジュエリーも素敵ですが、同じような感覚で選ばれていますか。
- 基本的には同じですが、アクセサリーにはもう少し冒険やアートの感覚を求めています。いま「OZ」で扱っているアクセサリーの一部は、私自身がコレクションしている「METAL DANCE」というヴィンテージアクセサリーのバイヤーによるもの。彼女はベルリンやフランスなどヨーロッパを中心に、ポストモダンをテーマにバイイングしています。アメリカでは買い付けられないテイストを厳選してセレクトする彼女をリスペクトしていて、オープンにあたって更に「OZ」らしいものをセレクトさせてもらい、店頭で扱うことが実現しました。
- ―鈴木さんの買い付け以外のものが並んでいるのは意外でした。
- 「お店は感覚的なものを発信するもの」というのが個人的な考えで。私のなかでお店のフィルターを通して必要だと思ったものはどんどん取り入れていきます。海外で出会ってバイイングするものも、広く見たら誰かのコレクションだったりするわけですし。ほんとはマンガも置きたいくらいなんですが、どうしてもラーメン屋みたいになってしまうので断念しました(笑)。ほかにも、コペンハーゲンのアート雑誌「プレソラマガジン」をお取り扱いしています。世界で1000部限定のこちらは、内装の相談に訪れた「objet gallery」さんで実物を初めて見たとき圧倒されて、販売を目的としている訳ではなく、色んな人に見てもらいたいと思いました。内容やスケール感、服以外を扱っているというところも、店にマストなコンテンツだと思っています。
一度手にしたヴィンテージはどうか手放さないでほしい。
- ―ちょっと意地悪な質問になるかもしれませんが、鈴木さんの目にいまのヴィンテージブームってどう写っているんですか。
- 基本的にいいことだと思っています。ウィメンズの古着がこんなブームになることなんていままでなかったですし、どちらかというと古着に苦手意識がある方が多かったので、そういう方々にお買い物の手段のひとつとして自然に取り入れてもらいたいというのは、20代のときからの願いでした。嬉しい反面、加熱しすぎたかなと思うときもあります。月並みな表現ですが、もともと古着が好きな人って、「人と違う」という天邪鬼気質だと思うんです。それも早く店舗を構えたいと思う動機となりました。気軽に古着を買えるようになりましたが、みなさんが手に入れた古着って本当にすごく貴重なもので、10年後、20年後に自分の“感覚的な”財産になると思うんです。昔買ったものでも着方は毎年変わり、10年後さらに必要なワードローブになるかもしれない。それを感じられるのが古着の魅力なんだと思います。ただそれって長く手元に置いて置かないと実感できないので、売る手段はいくらでもありますが、メルカリなどで簡単に売らず(笑)、長く付き合っていただけたらと思います。
- ―古着をアイテムで見せるのではなく、着用で見せる形態をInstagramで始めた前身の「FUROL」がヴィンテージブームの火付け役だとも思うのですが。
- 全然、私自身にはそんな影響力ないですよ(笑)。たまたまやりたい事とInstagramとの親和性が高かっただけだと思います。それに、多くのファッション通が、古着をいかに好きかが認知され広まりました。その中で、私は写真を撮るのが好きだし、「一点一点すべて異なる古着を、どうやったらリアルに感じてもらえるだろう」ということは独立する前からずっと課題にしていました。そんななか、「着用で撮ればいいんだ! Instagramなら見てもらえるかも」と思いついて、始めてみた、それだけのことでした。その代わり恥ずかしくないものを発信するよう、100枚以上撮って1枚アップするくらい効率が悪い作業なんですが(笑)。SNSでの提案も、自分が楽しいと思い、楽しんでくださる方がいる限りは続けていきたいですが、大事なのは対面して何かを感じてもらえることだと思います。緊張しながら入った敷居の高いお店、店員さんが怖かったこと、出会ってやっと感じることのできた感情、足を運んでなにも得られなかったことなどがお店や人には詰まっていると思うからです。
- ―もちろんSNSの影響もあると思いますが、鈴木さん自身に「強さのある服」や「人を引きつける服」をピックする力があるように感じます。
- 私はお店は始めたばかりですが、古着の世界でいったらもうそこそのベテランに属されちゃう年齢なので(笑)、これまでの経験や知識をバイイングに反映しなければいけないと思ってるんです。年代がしっかりしていたり、ストーリーが感じられるものは必ずピックしていますし。かじった程度ですがデザインの勉強をしたこと、服飾学校で身につけたこと、ショップマネージャー経験で得たこと。そのすべてをこの空間で柔らかく出せたらと思います。私自身コンプレックスの塊で、なんのとりえもない人間なんですけど、古着に出会えたから自分が何者かになれるのかもしれないって思えたんです。
- ―服好きにとって、鈴木さんと「OZ VINTAGE」って女性のサクセスストーリーだと思うんです。その立場から、20代でファッションをお仕事にしたい女の子たちに向けてアドバイスをお願いしたいのですが。
- おこがましいとは思いますが、やっててよかったと思うのは20代のうちにしっかりと地盤を築いたことでしょうか。むしろそれだけがひと握りの自信だったかもしれません。事業を始めやすい時代ではありますが、実際人様に時間を割いていただくこと、ましてお金を払っていただくことはそこに「責任」が発生することだと思います。リスクを負わずにお店ができるいまだからこそプロとして自力があるかないかを求められる様な気がしてます。ずっと昔からこの業界は続いていて、一筋でいる方々への礼儀を忘れないでいたいんです。人それぞれだし、古い考えかもしれませんが、私自身お店を持つことが憧れで、ようやく自分のなかでGOサインが出たのがいまだった。簡単に始められることやすぐ辞められることに価値はないと思っていたからです。そして誰かのマネにならないこと、それだけは大事にしています。
- ―お店はどのように成長していきたいですか?
- 「お店の運営」と「買付け」をしていく過程で、自分自身が変わっていくと思うので、そういう日々の変化を色濃く出していきたいです。そして何よりも多くの人にお店に来てもらえるようにしたいですね。私自身古着にハマったのは、行くたびに見たことない1着に出会えるからでした。通って見つける、それが古着屋の本来あるべき姿なんじゃないかと思っています。そして初心を忘れず、気にかけてくださる方々に何かしらの恩返しができたらとずっと思っています。まだホヤホヤなので、漠然としていますが。
- ―最後に、鈴木さんが古着以外好きなものってなんすか?
- マンガとアニメですかね(笑)。小さい頃から好きなものは変わっていませんし、昔からお客さんとマンガやジブリ作品について意見を熱く交わすのが楽しみでした。私自身、ファッションの人というよりはオタク気質で、おしゃれポジションにいけないというか…(笑)。くだけた人間なのでほんと、一生「古着屋のねーちゃん」と言われるくらいがちょうどいいんです。
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