エッチな刺繍で日常に性を。カルネボレンテの考えるセックスエデュケーション。
SEX POSITIVITY.
エッチな刺繍で日常に性を。
カルネボレンテの考えるセックスエデュケーション。
2019.02.06
駅弁、時雨茶臼、松葉崩し…。こんな激しいセックスの体位をゆる~いイラストにして
Tシャツに刺繍してしまう、トンデモなくクレバーでポップなアイデアを持った
パリのセックスブランドが〈カルネボレンテ(Carne Bollente)〉です。
このファウンダーのひとりに、日本人がいることをご存知でしょうか?
ブランドのディレクションとマーケティングを手がけている、遠藤 聖さん。
まだあまり知られていないブランドの正体、そして、明日が今日よりもっと明るいエロの世界になるために
私たちがいま向き合わないといけないことについて、聖さんとじっくり話してきました!
写真家の草野庸子さんがガールフイナムのために撮りおろしたヴィジュアルと合わせてご覧あれ。
Photo_Yoko Kusano
Interview with Hijiri Endo.
伝説的ポルノ映画『女帝チチョリーナ』と同じ名前を冠する、ブランドの正体。
- ー今回撮影したヴィジュアルがあたたかくて泣けてきます…。ご家族が〈カルネボレンテ〉のアイテムをご覧になったとき、どんな感想でしたか?
- 遠藤 聖(以下遠藤):最初は驚かれましたが、ブランドに関しては私がどんなクリエーションをしているのか知ってる上で家族全員が応援してくれています。でも93歳のおばあちゃんは、流石にあれが何のモチーフなのかまではわかってなかったと思う(笑)。
- ーすごくお似合いでした!
- 遠藤:ありがとうございます。
- ーブランドの成り立ちについても聞かせてください。現在〈カルネボレンテ〉のメンバーは、Agoston、Fliex、Théodore、聖さんの4人ですか?
- 遠藤:いいえ。もともとその4人で活動していましたが、現在はAgoston、Théo、そして私の3人です。
- ーどういう流れで集まったメンバーなんですか?
- 遠藤:まず5、6年前にAgostonが東京の美大に交換留学で通っていた時期があって、彼と東京で出会いました。すぐに意気投合して当時は毎週末のように遊んでいたのを覚えています! それでThéoとAgostonはパリで同じ美大に通っていてシェアハウスもしていたので、Agostonが帰国したのちパリに遊びに行ったらThéoとも自然と仲良くなったという感じです。
- ーそこからどうやってブランドを立ち上げることに?
- 遠藤:実はブランドを立ち上げようとしたわけではなく、遊び半分でいままで誰も見たことのないようなおもしろいものを作ってみたくてスタートさせたもので、プロジェクトなんです。
- ーなるほど、そうして誕生したのがあのエッチな刺繍Tシャツなんですね!
- 遠藤:はい。普通に考えたらおかしいですよね、誰しもが着るものにあえてタブーとされる“セックス”を掛け合わせるの。でも、絶対におもしろいと思いました。まさに人間の三大欲求のひとつと衣食住のコラボレーション! で、どうせ作るなら、ただプリントするだけだとありきたりだから、Agostonのイラストを刺繍で入れることにして。最初はパリにある小さな刺繍屋で在り型のTシャツに刺繍をして配ってたんですけど、当時セルフィーが流行し始めていたのもあって、多くの友人がそれを着たセルフィーをインスタグラムにアップしてくれたんです。それで少しずつ認知されていくようになりました。
- ーSNSのもつ影響力を直に体感されたんですね。
- 遠藤:ですね。あと、私は立ち上げ時にパリのビジネススクールでMarketing & Creativityという修士学のコースを専攻していて、授業の一貫で“起業する”ことにフォーカスしたクラスがあったんです。そのときの教授やクラスメートから知恵を得たりして、なんとなくビジネスっぽい方向にもっていくこともできました。まあでも…スタート当初は本当にギャグ狙いでしたよ!
- ーさっきAgostonがイラストを描いていると言ってましたが、みなさんそれぞれで役割分担があれば教えてください。
- 遠藤:基本的に3人でよく話ながら進めていますがそのなかでも、Théoが全体のアートディレクションとPRを、私が服のディレクションとビジネス周りを担当しています。でも3人しかいないから面倒な仕事もしなくちゃで、ThéoがE-shopの管理、私が出荷の手配、そしてAgostonはイラストを描きながらE-shopのカスタマーサービスのメールと電話対応に追われているような忙しない日々を過ごしています!
- ー最近は日本でも〈カルネボレンテ〉のアイテムを着ている人を多く見かけるんですが、どこの国で人気がありますか?
- 遠藤:ヨーロッパと北米です。特に、拠点を置いているパリではけっこう認知されるようになってきました。あとはベルリンでも人気みたいです。アジア方面は、最近になってようやく日本以外でも売れ始めてきたんですが、土地柄もあってデザインが過激すぎるとバイヤーに渋られてしまいます。別にいいじゃん! って思うんですけど、そうもいかないようで(笑)。人気が出てきたとはいえ、日本もなかなか厳しいときがあります。数年前に日本の大手百貨店のバイヤーからお声がけいただいたことがあるんですが、社内検討した結果、コンプライアンス上難しいと言われてしまったこともあります…。やっぱり、ヨーロッパや北米の方が性に対してオープンだから私たちのブランドも受け入れやすいんでしょうか?
- ー確かに日本含めアジアはまだまだハードルが高そうですよね…。でも、〈カルネボレンテ〉のアイテムって描かれているものが何かを忘れてしまうくらいポップなところが魅力的だと思いました。例えばそこにDickが描かれていても、一見なにかの記号かと思うくらいグラフィカルで、シンプルにかわいい。でも、よく見るとやっぱりDickで。この誰もが受け入れやすいポップな部分が性に対してオープンになるきっかけとなってる気がします。
- 遠藤:ありがとうございます。性やセックスがもっと身近なテーマになれればと思っていて、卑猥でいやらしいイメージを一新したい気持ちが常にあります。なので、私たちの洋服を身につけてくれることで、性について話すきっかけになってくれたら嬉しいですね。「やだ〜なにこれエロっ」って会話からもっと深い話へ発展してくれたら! これについてひとつ、すごく嬉しかったエピソードがあります。去年、ベルリン在住の男の子から突然メールが届いて。どうやらゲイカップルがモチーフとなったTシャツを買ってくれていたそうで、それを両親の前で着たことをきっかけに、自分のこともカミングアウトできたんだと書いてありました。彼はこれまでずっと打ち明けるタイミングがわからず悩んでいたので、私たちに一言お礼を伝えたかったと。モノづくりをして、こんな嬉しいことないです!
- ーなんてハートフルなエピソード! ただポップなモチーフとして受け取るのでなく、彼の両親のように描かれているそのものに関心を持ってもらえることがもっと増えるといいですね。
- 遠藤:さすがに描かれているものが何かわからずに買う人はいないと思いますが、セックスを描いたデザインだからかわいい、だから買う! みたいな流れが増えるといいな!
- ー刺繍Tシャツ一本でスタートしたところから、いまは〈アンダーカバー(UNDERCOVER)〉とコラボレートしたり、アイテム数も豊富に揃うブランドへと成長を遂げました。これは最初からイメージできていたことだったのでしょうか?
- 遠藤:正直ここまで大きくなるとは思っていませんでしたね。最初は私たちの取り組みを小馬鹿にする人もけっこういたので(笑)。でも、私たちは初めてできあがったサンプルを目にしたとき、イケる! と確かに強く感じたのは覚えています。立ち上げから3年ほどはまともにお給料も貰えないくらいでしたが、それでも可能性を信じ続けてこれたのは、自分たちのアイデアとクリエーションに絶対的な自信があったからだと思います。石の上にも三年じゃないけど、諦めずに継続しないと結果はついてきませんもんね!
- ーこれからどんなことにチャレンジしてみたいですか?
- 遠藤:アパレル以外のこと! ラブホのプロデュース、親しみやすいセックストイのデザイン、性のつく料理のレシピ本や、セックスエデュケーションに関する資料などなど。考えだすとなんだか切ない。セックスって本当に大切なテーマだから。
Let’s Make Love.
セックスをもっと身近に、オープンにするために私たちが知るべきこと。
- ーせっかくだし、もっと性に関しても一緒にお話しできればと思います。そもそもの話になってしまいますが、ブランド名をイタリアのポルノ映画『女帝チチョリーナ』から名付けたと聞きました。これはみなさんにとってどんな作品なのでしょうか?
- 遠藤:もともとチチョリーナは私たちのミューズなんですけど、特にこの作品はかっこよくて! 音楽も、アートディレクションも、スタイリングもすべて最高です!
- ーアートやファッションの観点でポルノ作品に注目することも?
- 遠藤:もちろん多々あります! 新しいシーズンのデザインに取り組む際はよくポルノ作品を参考にします。特に60、70年代のポルノの広告が最高にかっこいい。デザインだけでなく、キャッチフレーズやタイトルからもインスピレーションを得ます。あと、日本の春画からも。12月に一時帰国して東京にいたんですが、神保町の古本屋で昭和のエロ本を何冊か買いました。
- ー日本にも美的感覚に優れた素敵なピンク映画がたくさんあるのに、そういうものをアートとして捉えている人があまりにも少ない気がしてます。
- 遠藤:そうなんですよね! 数年前にイギリスの大英博物館で大規模な春画の展覧会が行われていたんですが、それがなかったらいままで、春画はストレートにアートとして捉えられることはなかったくらいですし。リサーチでピンク映画の広告とかを調べるんですけど、それもなかなかヒットしなかったりで…。
- ー日本だとむしろ、そういうアートとして素晴らしい作品は無視されるし、童顔でおっぱいが大きい女の子が出ているようなもっとわかりやすい作品の方が爆発的に人気ですよね。日本の有名AV女優を見ればはっきりとわかりますが。ある種、特殊とも言えるこの日本のエロ状況についてはどう思いますか?
- 遠藤:実は日本のポルノにあんまり好感を持てなくて。女子高校生、レイプ、痴漢とか道徳的じゃない作品が当たり前の様に流通していますよね。こういう作品ってすごく性教育に悪影響を及ぼしていると思うんです。だから日本は痴漢、児童ポルノ大国だとか言われるんだ! こんなの観たら、実際にやってもいいことだと勘違いする人も出てくるでしょうし。ポルノにファンタジーは欠かせませんが、それでも倫理的でなければいけないと思います。
- ー海外でいうエロと、日本でいうエロってなんか別の雰囲気がありますよね?
- 遠藤:たしかにそうですね! 考えてみませんでした。日本語の“エロ”って幅広く使われますし、ちょっとソフトな感じ?
- ーかもしれないですね。あと日本のフェミニズムの活動ないしMe too運動についてどう思っているのか気になります。どうやったらもっとオープンに、もっとポジティブに転化できると思いますか?
- 遠藤:日本における性差別ですが、問題視されてもすぐになんとなく許されてしまいますよね。でも同時に、少しずつだけど前進していると感じています。いまだと、セクハラやパワハラに対して敏感になってきてますし、それはいい流れになったんじゃないかな。
- ーたしかに、言われないように気をつけているムードはありますね。
- 遠藤:もともと日本って、自己主張は控えようとするし、表立って意見を述べるべきじゃないと思ってしまうのが一般的ですよね。だって、家や学校、職場で政治の話をすることなんてほとんどないわけでしょう? だから当然、デモに参加する人も少ないですし、社会に対する不満を堂々と主張できる人も少ない。数年前に、特定秘密保護法反対のデモに参加して、その様子をフェイスブックでシェアしたんですが、家族に注意されましたもん(笑)。 一方で、デジタル化が進みSNSが普及したことは、マイノリティがもっと気軽に意見を発信できる場を与えられたようでいいことだと思います。
- ーパリではどんな状況ですか?
- 遠藤:フランスはすごいですよ、さすがは革命国! いま話題の黄色いベスト運動もそうですが、フランス人って自分の意見を伝え、団結し、解決するまで辛抱強く継続する力があるなとしみじみ。だってたったの2ヶ月で可決されるはずだった法案を取り下げ、さらには最低賃金を年間で約15万円もあげさせるんですよ? 日本じゃ考えられないですよね。政府と国民の距離が近い感じがします。
- ー日本もそう考えるとあとちょっとですね! メディアとしても、取り上げることをもっと考えなくてはですね。
- 遠藤:そう、もちろん頑張って発信しているメディアもあるんですけど、相撲界、芸能界の誰かが不倫したこととかばかり一斉に取り上げるくらいなら、フェミニズム活動ないしMe too運動など、もっと大切なことに目を向けて世間に発信して欲しいですね。
- ーガールフイナムとしては、今回〈カルネボレンテ〉を通じてこういう話題に触れることができてよかったと思います。最後に、ブランドの活動を通じて、これからどんな未来に変わっていってほしいと思っていますか?
- 遠藤:うーん。楽しくて性に満ちた、明るくてエロい世界!
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