スナップする度、恋に落ちる。シトウレイが好きなストリートスタイルとは。
STYLE ON THE STREET.
スナップする度、恋に落ちる。シトウレイが好きなストリートスタイルとは。
2020.10.21
原宿のストリートスナップ全盛期を作った立役者のひとりでもあり、
東京から世界へ“原宿ファッション”を発信した写真家のシトウレイさんが
「リッゾーリ(Rizzoli)」からスタイルブックを発売します。
約10年分の撮りためたスナップショットから編纂されたこの一冊からは、
自分事としてファッションを楽しむノウハウが詰まっています。
発売前にシトウさんにお会いし、そんな思わず“スナップを撮りたくなる人たち”とは
一体どんな魅力を持つ人なのかお話を伺ってきました。
シャッターを切る度に被写体に恋に落ちるというシトウさんの愛あるスナップ写真と合わせてご覧あれ!
Photo_Miyu Terasawa
- ー本の発売おめでとうございます! 今回はニューヨークの名門出版社である「リッゾーリ」から出版されていましたが、そこには何か意図や狙いがあったのでしょうか?
- ありがとうございます。本を出す前に、2018年が私が独立して10周年のタイミングだったんですね、そこで何か形になるものを残したいなと思っていたんですけど、ぼんやり写真集を作りたいなと思いながらブラブラしていたら2019年になっちゃって(笑)。で、「リッゾーリ」って年に3冊だけ日本関連の本を出してるんですよ、例えば「ソニー」とか藤原ヒロシさんとか。だけど2020年は本来ならばオリンピックイヤーだったから記念に6冊出しましょうってことになったらしく、ちょうどそこで「東京のストリートスナップの本をやりたいよね」って話をしていたんですって。それを知った私の知り合いが繋いでくれて本を作ることができました。だからやりたい事を口に出すと叶うなって思いました(笑)。
- ー東京のストリートスナップと世界のストリートスナップから編纂されていますが、内容にしてちょうど10周年分の2008年から2019年のスナップが掲載されていますよね。最初に東京のスナップを持ってきた構成だったんですが、それはなぜですか?
- 「リッゾーリ」側の意向もあったんです、ジャパンの本! っていう感じがわかるようにということで。あくまで東京を中心に構成しながら、ファッションのお勉強もできますよっていう本にしたかったんです。
- 寺沢:突然すみません! フォトグラファーの寺沢です。なんかファッションスナップでこの横に撮るのって珍しくないですか?
- あ、それはすごい言われます。
- ーフォトグラファーならではの視点ですね!
- 寺沢:確かに、ならではかも(笑)。
- なんかストリートスナップだと人を中心に置くから縦の方がバランスはいいんですけど、私は街の風景とその人が調和した写真が撮りたいなって思っていたから自然と横が多くなったっていう感じですかね。何かのきっかけで横で撮り始めたら、なんかいいなって思ったんですよね。
- ー東京のスナップに対して、海外のスナップは同じように見せずに21個のスタイルティップスとしてまとめて掲載してましたよね?
- そうです。何を着ているかにフォーカスするのではなく、どう着ているかを大切にしてくて、着こなし指南みたいなことを21項目やっている感じです。
- ーその項目はシトウさんが全部立てたんですか?
- 相談したんですよ、実は『GINZA』の元編集長の中島敏子さんが監修で入ってくれたんです。中島さんは私のストリートスナップをずっとみてくれた人だから、たぶん私のスナップを編集者のなかではいちばん理解してくれていると思っていて。一緒に話しながら決めました。
- ー印象的だったのが、“MITATE”と“HAZUSHI”という日本ならではの作法が項目としてあって、でも実際にそこに出てくる人は東京じゃなくて世界中で撮影したスナップだったりして。その日本ならではの作法が海外にも浸透しているのかなって思ったんですけどどうですか?
- そもそも、これらの単語に関してはどうしようかなって考えていたんですけど、この本を英訳をしてくれた人が、こんまりさんのNetflixの番組を翻訳している人だったんです。あの“ときめく”を“スパークルジョイ”ってフレーズに置き換えて海外でもウケてたりしてて、日本語を英語に意訳することがすごく上手な方だったのでその伝えたいニュアンスを相談しながらあえて日本語を取り入れた項目にしてみました。そっちの方が響き的にも海外の人にウケるんですって。
- ー語感的なことでですか?
- そうそう。その方が気になってくれてなかまで読んでくれるんじゃないかと思ったんです。でも実はなかで説明してるテキストも『レイヤードは平安時代から続く十二単を着る文化があるから日本人は昔から得意なんです』みたいな、もう訳のわからないことを無理矢理に書いちゃったりしました(笑)。私のなかで割とふざけているんですけど、たぶんみんな真面目に受け止めちゃうだろうから…そこはどうしようと思いつつ(笑)。
- ー(笑)。ちなみに、東京と海外で数多くのスナップを撮影したなかで、すごくたくさんの人を撮影してきたかと思います。例えば本のなかにもあるようなパリのファッションウィークの現場とかはたまた原宿の街中とか。無数に人がいるなかでシトウさん的に目を惹かれる人がいて撮影されていて、その人を見つけたときの感覚ってどんなものですか?
- なんか、少女漫画とかで恋に落ちる瞬間ってあるじゃないですか? スローモーションになるみたいな。「あ、きた〜! 」って。あんな感じがします!(笑)わかります⁉︎
- ーなるほど、わかります、わかります!
- スローになってその人が浮き上がって、周りはぼやける、みたいな。それで私の目もハートになってるんですよ。
- ーそれがこれだけの機会もあったと思うと…!
- 全ページで合計410枚あるんですけど、410回恋に落ちてるってことですもんね。
- ーどういう人だったら恋に落ちるんでしょう?
- いろいろいますが、おしゃれを自分事として楽しんでいる人が多いのかな。そういう人を自然と撮っている気がします。おしゃれをしていても自信がないこともあるじゃないですか、これがイケてるのかイケてないのかわからないみたいな。そうじゃなくて自己責任でこれがいいって着ている人たちにやっぱり目を惹かれてしまうんです。
- ーこれら21項目のティップスは、スナップを撮影するなかでトレンドを感じ取れたり、そういう傾向を見出せるものなんですか?
- シーズンごとにはありますね。撮っているうちに「ああ、今シーズンはこういう感じかあ〜」って見えてくることはあります。いま大学のセミナー講師をやっているんですが、そこでは私が撮ってきたものを自分で分析して社会情勢と紐づけてお話しています。
- ーストリートスナップと社会情勢と紐付けるとは?
- ファッションと社会情勢って、割とシンクロする部分があるんですよ。例えば、エコファーが先々シーズンくらいから流行ったけど、あれがなぜ広がったのかというと、動物愛護とサスティナブルな考え方が広がるにつれてファーがよくないからエコファーにしようって流れにまずなりましたよね。そうなることで一気にエコファーを作る会社がレベルアップしたんですよ。いままでの「エコファーか…」みたいな、チープでカッコ悪いものじゃなく、リアルファーと負けないクオリティのエコファーができたからこそ流行ったっていう背景があったり…。
- ーそういう社会的な流れと、ファッションのトレンドも密接しているみたいなところがストリートファッションとかスナップで見出すことができるということでしょうか?
- そうですね。セミナーを始める前は、単純にかわいいかどうかしか考えずに撮っていたけど、セミナーの講師をするようになってからはただトレンドを伝えてもおもしろくない思って。じゃあトレンドってどうやって生まれているんだろうって考えたときにまず私自身がそういう視点を持って撮影することも大切だなと。
- ー東京と他の国のストリート、何か違いがあったりしますか?
- 東京は若い人がすごくおしゃれ。10代くらいからめちゃくちゃおしゃれするじゃないですか。海外の人はそんなに若い頃からおしゃれしてなかったり、したとしても本当に一部のファッション好きだけだからマスではないんですよ。なので東京のファッションの方が幅広く感じます。全体的におしゃれじゃない人が少ないんですよ。
- ーなぜ東京はおしゃれの幅が広いのか考えたことあります?
- 歴史的に階級社会とかじゃなかったからだと思う。海外って良くも悪くも階級社会だからブルーカラー、ホワイトカラーみたいなのもあるし、貴族もいたから。でも日本はそういうのがフラットだったし、戦後になって価値観が変わっちゃったから、よりフラットになったんだと思います。
- ーなるほど。しがらみなく自由に楽しめている人が多いということですね。
- そう、スーパーフラット。だからこそミクスチャーとかレイヤードが上手なんだと思うんです。ミクスチャーこそ垣根なく自由に組み合わせることだから混ぜることに対する不安が無いって感じがして。それが東京のファッションをおもしろくしているひとつの理由かなと。
- ー撮影し始めた2008年といま、原宿の雰囲気が変わってきた印象はありますか?
- 私が撮影し始めた当初に原宿にたくさんいたいわゆる“FRUiTS系”の人たちは、いまも一応いるっちゃいるけどマイノリティになってますね。ゴスロリと同じくらい少ないんですが、でもいることはいるんです。そういう原宿ファッションを盛り上げようっていう小さな団体があって、あねぽよちゃんって子と妹さんの2人でやっているんだけど。本当にそういう服を着て、啓蒙活動をしている子がいるんですよ。15歳とかで!
- ーじゃあリアル世代じゃないってことですよね⁉︎
- そう、でもその頃のことをちゃんと知ってるんです。
- ーさっきのお話に戻ると、海外と東京では東京の方がファッションのミクスチャーを楽しんでいるってことですか?
- 本当にそう。海外の場合はミクスチャーを楽しんでいる人は上級者って感じで、ブランドの服をバッと着るみたいな人が多いんです。今シーズンはコレですって言われたらそれを着るイメージ。ひねりはあまり加えないっていう感じで、なんでだろうって考えたんですがやっぱり海外の人って洋服がなんでも似合うじゃないですか。そのベースがあるから、ひねる必要がないんですよ。でも日本人は、どうしても背が低かったり太かったり、体型上洋服があまり似合わないから、それを工夫して似合わせたいんです。
- ーなるほど。
- だからカスタマイズするっていうのは、持って生まれた資質の違いもあるのかな。でも、海外は海外で日本のノウハウを知りたがっていたんですよ。なんか日本人におしゃれなイメージがあるらしくて、その方法ってセンスなのかな? みたいに思われているんです。で、「テクニックなんですそれ、全部で21個ありますよ」って言ったら「おー!」ってリアクションで。
- ーそれを中島さんとご相談されて、レイヤード術とかHow toにフォーカスした内容になっているところが日本の雑誌っぽくて、それも海外の人にウケそうな感じがしました。
- そうそう、日本人は勤勉でファッションオタクが多いから勉強したいんですよねノウハウを。
- ー理詰めだとバランス感覚はどうしたって感覚的なことだから勉強することが難しいですよね…?
- そこは守破離って考え方で、最初は型を守って次に破って、最後に離れるという能の考え方がだったかな? 一回ノウハウを身につけてそこから自分流にするということなのかと思っています。
- ー逆にノウハウばっかり勉強しちゃって頭でっかちになってる人に一言言ってあげるとしたらなんでしょうか?
- うーん、自分なりのアレンジを加えてみればいいんじゃないかなって思うんですけどね。ノウハウやルールを守ることはすごくいいことだけど、自分なりのアレンジを加えた方がより自分らしくなるし、偏差値が上がるかもしれないじゃないですか。ただ諸刃の剣で、下がる可能性もあるよっていう(笑)。チャレンジしていたらいいかもねって思います。そういうトライアンドエラーを繰り返していると、確実にファッション偏差値は上がっていくし、エラーが怖くなくなるんです。間違ってもいいやっていう気持ちにさえなれば、グズグズせずに挑戦できるマインドに変わってくると思います。そうなると人生を豊かにしてくれますよ!
- ー本のなかでもファッションが生きる力になったと書かれていましたが、まさにそれを実感した瞬間について教えてください。
- 自分がタフになった瞬間かもしれないです。最初はゼロベースでパリに向かって「どうすんの?」ってところから。どこでショーやっているかもわからない状態だったから、自信なかったし引っ込み思案でした。人前に立つことも苦手だったくらいでしたがスナップを撮っていくうちに「面の皮が厚くなったのでは?」って思えて。何も恥ずかしくなくなったし、チャレンジすることが怖くなくなったときに、ファッションって人を変えるなって感じました。スナップやってなかったらYouTubeもやってなかったと思います!
- ー自信を得たってことですよね? 自信につながるには誰かからいい評価をされたりがあったんですか?
- いや、経験かな。いまスナップを撮ってと言われたら絶対にいい写真を撮る自信があるんです。妥協は絶対にしないようにしているしそれでクライアントさんと超喧嘩したりもあるけど(笑)、いま流行っているからとか、ホットだからという理由で写真を撮らないということはポリシーとして決めていて、その人に自分の心が動かされたとか、そういう軸はブラさないようにしています。
- ーコロナでだいぶ街の様子が変わっちゃいましたが、これからのストリートとファッションってどうなっていくと思いますか?
- とりあえずwithコロナですしね。withマスクになっちゃうんじゃないですか? でもマスクがいちばんファッションを変えた気がします。“マスクなんて”という世代があって、俺はおしゃれマスクしないぞ医療用の白いマスクだみたいな人たちがいましたが、そこからwithコロナの時代になったから、洋服にマスクを合わせる時代が到来していて。マスクもファッション的にはいろんな派閥がいるようで進化していますよね(笑)。もうすぐマスクのスナップになってくるのかも!
INFORMATION
シトウレイ写真集『Style on the Street : From Tokyo and Beyond』
2020年10月20日(火)発売© Style on the Street: From Tokyo and Beyond by Rei Shito, Rizzoli New York, 220. Photographs © Rei Shito
蔦屋書店オンライントークショー
〈第一回〉発売記念トークイベント with 奈良裕也
日程:2020年10月30日(金)
時間:20:00〜21:30
場所:オンライン上での開催
価格:¥1,320(TAX IN)*参加券のみ、¥5,500(TAX IN)*書籍『Style on the Street: From Tokyo and Beyond』(¥5,027)付き参加券
http://ptix.at/QnhqwE
〈第二回〉
発売記念トークイベント with 中島敏子
日程:2020年10月31日(土)
時間:20:00〜21:30
場所:オンライン上での開催
価格:¥1,320(TAX IN)*参加券のみ、¥5,500(TAX IN)*書籍『Style on the Street: From Tokyo and Beyond』(¥5,027)付き参加券
http://ptix.at/JnguxD