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Things you need to know about Tbilisi fashion.

デムナ・ヴァザリアのルーツ、東欧ファッションをスタイリスト早川すみれと徹底解剖!
Special thanks_Kiwa Kanesawa(unit&guest) 
Minako Norimatsu

ある小さな街の若きクリエイターたちが、
世界中のファッション・シーンを熱狂させているのをご存知ですか?
東欧のパラダイスと呼ばれる、ジョージアの首都トビリシです。
<VETEMENTS>をつくり、<BALENCIAGA>のデザイナーを務める
デムナ・ヴァザリアが時代の寵児となったあの瞬間から、
彼のルーツとして一気に注目を集めた奇跡の街。
年に2回開催されるファッションの祭典“Mercedes-Benz Fashion Week Tbilisi”(以下MBFWT)は、
パリ、ロンドン、ニューヨーク、ミラノに負けず劣らずの大盛況でした。
そこで、実際に足を運んだスタイリストの早川すみれさんと共に、
2019SSシーズンのMBFWTをプレイバック。
いま、知っておきたいトビリシがここに!

いま最もファッションが熱い街、トビリシってどんなところ?

ガールフイナム(以下ガール):ジョージアに行ったのは何回目ですか?

早川すみれ(以下早川):実は、ジョージアもトビリシも今回が初めてで。想像していた以上に、滞在時間というか回遊時間が足りなかったな…と悔むくらい、見所が満載でした!

ガール:へえ! トビリシって街としては大きい方なんですか?

早川:いや、そこまで大きくないです。でも割と坂が多かったから、クルマじゃないと移動が大変でした。でもご安心ください。タクシーは日本の3分の1くらいの安い金額で乗れます。メーターがない分、直接交渉しなくちゃなんですけどね。ちなみに、英語は通じません(笑)。

ガール:では早川さんが実際に訪れたところでオススメのスポットがあれば教えてください。

早川:まずは、「CHAOS CONCEPT STORE」です。セレクトショップなのですが、MBFWTのランウェイの会場にもなっていて、国内外からかなりエッジの効いたアイテムが揃っています。ファッションウィーク中に店舗のリニューアルもしていて、盛大にパーティをしていました。ストリートフォトグラファーのアダム・カッツ・シンディングが、ここで本の出版パーティをやっていたり…とにかく、この街でいちばんアツいって感じです。

ガール:「CHAOS CONCEPT STORE」は、前からInstagramでチェックしていました。<Marques’ Almeida>や以前、ガールフイナムでも取材した<<NATTOFRANCO>>などのインポートブランドもセレクトをしているかなり尖ったショップなんですよね!

早川:ここまで前衛的な感覚のショップもないから、いいですよね! このオーナーの2人も、まさにお店のカラーを体現しているかのようなスタイリングで。一応、メンズアイテムも置いてるんですけど、かなりフェミニンで、攻めてるラインナップでした。でもハイセンス。ファッションウィークの会場周辺にもそんな“CHAOS色”に染まった人たちがたくさんいましたよ!

ガール:かわいいです! アイウェアがほぼ全員バイカーシェードで!

早川:そうなんですよ! 改めて、マストアイテムなんだなって。しかも、それをサラッと足してるから、なおカッコイイんですよね。

ガール:このキラキラのアイブロウの女の子、タイプです。コーディネートの色合わせといい、メイクといい…自分を持っていてまぶしいです。

早川:ね! そう思って私も撮っちゃいました。この子がいたクラブ「BASSIANI」もオススメ。ベルリンの「Berghain」に次ぐ勢いで有名なテクノのクラブで、ゲストもかなり質が高いんです。大小2つの箱でできているんですが、大きい方はサッカー場の地下にあるから、かなり広かったです。幕張メッセか!ってくらい。そこが朝8時まで超満員だったんですよ、ものすごくないですか? 次の日には、ニーナ・クラヴィッツも来ていましたしね。ここに来る人たちはみんなスナップの子みたいに、クラブの暗い空間の中で、自分をキラキラさせて遊んでいて、そういうキュートな人たちが多くて最高でした。

ガール:俄然、トビリシに興味湧いてきました。

早川:正直、「BASSIANI」でのナイトアウトを経験するためだけにでも旅行するべき! って言いたいくらいです。

ガール:センス抜群の女の子たちがいることやオススメスポットを教えてもらったところで、ここからは、トビリシを牽引している各ブランドについても紐解いていきましょう!

LADO BOKUCHAVA

早川:ここは個人的に最も好きなブランドです。

ガール:グローブとドレスがドッキングしていて、かなり前衛的なギミックが効いてますね!

早川:フォルムが変化的でアンバランスなところがいいですよね。ミニマルでありながらカッティングで魅せるところは、どこか<JACQUEMUS>と似たものを感じました。本気で買いたかったので、結構探したんです…!

ガール:そういうディテールづくりは、パリかどこかで学び得たものなんでしょうか?

早川:いや、彼はトビリシの芸大出身みたいです。トビリシの芸大で学んだデザイナーや独学でブランドを立ち上げたデザイナーは特に斬新なデザイナーが多いように感じました! あとは、パリで経験を積んだデザイナーか、ロシアで経験を積んだデザイナーか。その違いに注目するのもおもしろいかもしれませんよ。

MATERIEL BY LADO BOKUCHAVA

早川:ここでもう一度、冒頭のスナップ写真を見返してみてください。赤いTシャツを着ている子がいますが、彼女が履いているメタリックのパンツが、実はここのアイテムだったんです。

ガール:へえ! かわいいパンツだなと思ってました。

早川:そう! 変に手を加えないシルエットがかえって魅力的で。会場でおしゃれな子に、「その服、どこで買ったの?」って聞くと、実はほとんどの子が<MATERIEL>と答えてたんですよね。元々はミリタリーアイテムを作っている由緒ある工場が始めたブランドで、中心地には路面店もあります。これがまたソリッドな空気感でトビリシらしいんです。

ガール:服やファブリックがドサドサと積まれていて、無骨な工場感…逆にロマンがあります。

早川:<MATERIEL>は1シーズンにコレクションを2回やるんですけど、この工場を会場に使っていました。ちなみに、毎年2人のデザイナーを招待してコラボレーションコレクションを披露する手法をとっていて、今年は<MATERIEL BY LADO BOKUCHAVA>と<MATERIEL BY ALEKSANDRE AKHALKATSISHVILI>がラインナップ。

ガール:<LADO BOKUCHAVA>は、早川さんがいちばん好きなブランドですよね?

早川:そうそう。でもこっちのコレクションの方が、価格帯も比較的買いやすいのに縫製がしっかりしていて、プロダクトとしても強かったな。工場がそばにあるという利点が最大限に活かされていますね。

GEORGE KEBURIA

ガール:個人的に、こういうペールトーンを組み合わせたカラーリングがもしかしたらトビリシらしいのかも、と思ったんですよね。NYの「オープニングセレモニー」にも取り扱いがあったりして、以前から気になっているブランドのひとつでした。

早川:確かに、きれいな色使いですよね。そしてラブリー。カッティングの妙だったり、ユニークなフォルムとかに目が行ってしまいますが、パターンで魅せるというのがトビリシファッションの特徴なのかもしれません。実は、ジョージアにはほとんど生地工場が存在しないらしく、でもそれを不利だと感じさせないハッピーなムードがシルエット美としてあらわれているというか。

ガール:全体的に、フューチャリスティックですね。昔のSF映画に登場しそうな…!

早川:そう、レトロとフューチャリスティックが共存していて。あと、バミューダパンツとビッグジャケットっていう組み合わせもトビリシらしいですよね。そこは、<VETEMENTS>や<BALENCIAGA>のスタイリングを手がけるロッタ・ヴォルコヴァやデムナから影響を受けているのかな。彼らはトビリシの若いデザイナーにとってヒーローのようですね。

ANOUKI

ガール:このサングラス! ラインストーンがびっしり乗っかっていて、もはや見えてなさそうじゃないですか(笑)。

早川:ははは。だいぶ、ギラついていますよね(笑)。このサングラスは展開がなかったんですが、<ANOUKI>は日本でも取り扱いがあって注目のブランドなんですよ。ジャケットやコートでマスキュリンを演出し、ウールとPVCといった異素材の組み合わせで、上品さも醸し出しています。

ガール:<ANOUKI>は、トビリシ出身ブランドの代表格っていう立ち位置で合ってますか?

早川:うーん。厳密に代表格といえるのは、この次に紹介する<SITUATIONIST>だと思うんですよね。そもそも<ANOUKI>は、デザイナーのアヌーキさんがインフルエンサーで、すでに人気のある方が手がけたブランドとして知られていました。しかも、旦那さんはトビリシの市長さんで、大統領とも仲が良いという、とんでもない方だったりもします。

ガール:大統領と仲良し…アヌーキさん、貫禄ありそうです…。

早川:いや、意外なんですが、 まだ27、8歳かで2児の母なんだそう。 <ANOUKI>はショップもあって、最近は新店舗もオープンしていましたし、どんどん脂がのってきているブランドですね。

Tamara Kopaliani

早川:私は「CHAOS CONCEPT STORE」でこのブランドのイヤーカフを購入しました。ここも、スパッツみたいにピチピチなバミューダパンツを履いていたな。ルックとしては素敵なんですけど、真似をするにはハードルが高いですよね。なかには、「ええ!」って反応してしまいそうなインパクトあるタレントさんをモデルにしていたり…。ちなみに、この方はトビリシの女優さんだそうです。

ガール:このギリギリアウトなスタイリングが、逆に気持ち良くてトライしてみたくなります。1アイテムだけどこかで挿してみるとか。

早川:結構、ギャルっぽい。コールガール風なルックというか。でも、トビリシにはそういう文化もあるから、それを自分たちのバックグラウンドとして捉えて、皮肉的に取り入れてるんじゃないかなって思いました。

ガール:よく見ると、チャイナドレスのようなアイテムもあります。こういうシノワズリな要素を取り入れるのは、地理的にヨーロッパとアジアの端境に位置しているからなんでしょうか?

早川:ジョージアの伝統衣装は割とそれらがミックスされてましたね。さすがはシルクロードの通り道ですね。細かいデコレーションが手作業で施されていて、ずっとファッションに携わっている人がいたんだなって。でも戦争があったから、その折衷感がいまのファッションにも引き継がれているのかは不明です。80〜90年代はカルチャーがなかった、なんて話も聞きますし。

ガール:デムナのインタビューで読みました。戦後に外の世界を一気に知ったというカルチャーショックがデザインに活きてるのだと。そうしていろんな世界の既製品をインスピレーションにデザインに起こすというプロセス、まさにレディメイド的な発想が、そのままトビリシの後継者にもシェアされているんですね。

SITUATIONIST

ガール:このブランドがトビリシを代表するブランドなんですね!

早川:いちばん勢いがあるんじゃないかな。ベラ・ハディドが着用して一気にスターダムを駆け上がった、という噂もあります。

ガール:ベラ効果に始まり、このブランドはパリコレでもピッティウォモでもショーをやっていて、かなり知名度が高いというかブランドの規模の大きさが伺えますね。

早川:15歳くらいから独学でパターンを引きはじめて、17歳でブランドを立ち上げたという鬼才のデザイナーだから、発想もショッキングというか斬新がすぎるんです。今回のコレクションも刑務所を会場にしようとしていて、かなり話題になってました。結局、その当日にダメになってしまい土壇場で会場を変更してましたけど。

ガール:今回の<SITUATIONIST>は強い女を表現しているんだと感じました。男性に媚びない強さとか。

早川:まさに、新しいジェンダーレス。その強い女っていうのも、アフロディーテみたいな寓話的なものではないですよね。元々ある要素をどんどん強くしていって、それを縫製で細かく表現する。そういう変化の様は<Maison Margiela>っぽいのかもしれないです。

ガール:モデルにフォーカスしてみても、ジェンダーがはっきりしない人をあえて選んでるような気がします。

早川:そうですね、メイクもほとんどしていないようですし。あと、全部のコレクションに対して言えますが、モデルは全員ジョージア出身の子を起用しているそうですよ! ここでのキャリアを皮切りに、4大都市のモデルを経験するというケースが多いみたいです。

GOLA DAMIAN

ガール:ところで、トビリシの男の子はどういう雰囲気でしたか?

早川:おしゃれをすることに気を使っている子が多かったです。あとスキンヘッドが多かった。それは、<GOSHA RUBCHINSKIY>の流れを汲んでいるんだと思います。

ガール:このブランドは、まさに80年代レイブですね。そういうゲイカルチャーからのインスピレーションが大きいんだろうな…。

早川:ですね! そして、ストリートカルチャーともかなり密接な距離感。だから、スニーカーで抜いたスタイリングで、リアリティがあるのかなって。

ガール:よくよく見たら、普段でも着られそうなアイテムが多いですね。

早川:そうなんですよ。スナップに登場していた派手な人たちは、こういうブランドをデイリーに愛用しているみたいです。

LTFR

ガール:この<LTFR>と次に紹介するブランドも、ストリートと蜜月な関係にあるブランドです。コレクションもスケボーに乗ってモデルが登場したり、サーカス会場の真ん中でただただゲームしていたり。

早川:“SEGA”ってロゴが入っちゃってますけど…!

ガール:キワどいですよね(笑)。こんなに楽しそうなショーあります? このブランドはメッセージ性に加えて、エンタメ性も抜群に高いのが魅力です。

TAMRA

早川:引き続きメンズなんですが、シリーズっぽくご紹介したいブランドです。

ガール:また際どいロゴが目白押しですね(笑)。

早川:ここもスケートカルチャーを汲み取りつつ、パロディでポップかつキャッチーにしていて、おもしろい!

ALEXANDER ARUTYUNOV

ガール:漫画から飛び出てきたかのようなベレー帽ですね!

早川:相当遊んじゃってますよね。でもじっくり見ると、バッグだったり小物の入れ方がおしゃれなんです。こういうシャーリングブーツも流行りのひとつなのかな。

ガール:襟もと、いったい何枚重ねているんでしょうか? 襟オン襟オン襟。レイヤードの勉強になります…!

早川:ははは。たしかに、これまでのトビリシのブランドは、あえてレイヤードをしないシンプルなスタイリングが多かったから、かえって新鮮に見えますね。結構ボリュームのあるショーだったんですが、まったく飽きることなく、終始目が離せませんでした。最後のハットバッグをたくさん担いだルックを見たときは、ジョージアにいまも根付いている社会主義からの脱却を暗に匂わせているんじゃないかなと思ったり思わなかったり…。

@anigavva captured by @grigordevejiev #lookbook #nicolasgrigorian #fw1718

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Nicolas Grigorian

早川:かわいかったんですが、ショーをやらなかったんですよね。

ガール:ここもまた新しいジェンダー観を出してきましたね! 下の写真にあるソックスとヒールをドッキングしたシューズは、もしかしてメンズが履くのかしら…?

'Venus' boots shop at @chaosconcept #nicolasgrigorian #fw1718

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早川:それこそ、どっちでもOKなハズ。NYの<VAQUERA>とか、ああいうDIY精神と近しいものがあると思います。スタイリングもジェンダーレスで…。

ガール:すごくサラッとしてますね!

早川:そうですね、ローファイ系。

💯% natural ECO 🐾 friendly latex sole 👌🏻 AW18 #lemocassinzippe 📸 @mariedehe style: @marionjolivet

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#lemocassinzippe AW18 with new leather sole 🥨 style: @marionjolivet 📸 @mariedehe 🇬🇪 made in Georgia

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Le moccasin zippen

ガール:最後になりますが、<Le moccasin zippe>のローファーについても教えてください。ここもジョージアブランドなんですよね? 今回インスタレーションを「CHAOS CONCEPT STORE」でやったと聞きました。

早川:そうなんです。ランニングマシーンで演出していましたよ!

ガール:このローファー、どこで手に入るんだろう…いまこの瞬間に一目惚れをしました…。もう、遊びに行きがてら、トビリシまで飛んでいっちゃいたいです。

早川:残念ながら、日本ではまだ取り扱いはないみたいです。でも、「CHAOS CONCEPT STORE」にはあるようなので、是非にです(笑)。まあ…それくらい、造形美として眺めていたいし、うっとりしてしまいますよね。デザイナーは<HERMES>や<Maison Margiela>で経験を積んだ後<LOEWE>で今もバッグデザイナーをつとめているジョージアンガール。もうそれだけでもキャッチーだし、私たちが一目惚れするのも納得できますよね!

総括! 現在進行形でファッションが生まれている街について。

ガール:初めてのトビリシファッションウィーク、直接ご覧になっていかがでしたか?

早川:華やかなパリとは違ったおもしろさがありました。まさに、新しいファッションが生まれているという感じがして。勢力図というかヒエラルキーがないとは言えないかもしれませんが、全体的にデザイナーの年齢層も若く、フレッシュな空気感でした。

ガール:MBFWTのクリエイティブ・ディレクターのソフィア・チェコニアさんが、若手ブランドをサポートしているんですよね!

早川:そう。ちなみに、MBFWT 18AWの初日に、大統領とファッションプレス陣がディナーをしたというのがニュースになっていて。それくらい国をあげてファッション界を盛り上げようとしているのが伝わりました。元々、ワインが有名な国なので、それに加えてカジノ産業とファッション産業に力を入れているんじゃないかな…と。

ガール:そうなってくると、トビリシ市長の奥様がファッションデザイナーだという影響も大きいですよね。

早川:そうですね。海外誌のエディターもこぞってMBFWTを取材していましたし…。4大都市に負けず劣らず注目されているのが伝わりました。

ガール:開拓しがいのある街ですね。次のシーズンは、ぜひ現地でお会いしましょう!

早川すみれ
スタイリスト長瀬哲朗に師事。
独立後、2014年から2015年まで文化庁新進芸術家在外研修員に選抜され、ベルギーにて活動。現在は、東京を拠点にファッション雑誌や広告など幅広く活躍している。