GCC拡大版! ジェニファー・ローレンス主演の話題作 『DIE MY LOVE /ダイ・マイ・ ラブ』リン・ラムジー監督インタビュー
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ジェニファー・ローレンス主演の話題作
『DIE MY LOVE /ダイ・マイ・ ラブ』リン・ラムジー監督インタビュー

2026.06.11

夫のジャクソン(ロバート・パティンソン)が伯父の遺産として実家近くの家を受けつぎ、
田舎に引っ越してきた作家のグレース(ジェニファー・ローレンス)。
大きな家でゆっくり子育てして原稿も書けると思っていたのにさまざまな事情から執筆は進まず、次第に夫ともうまくいかなくなります。
姑のパム(シシー・スペイセク)は好意的ですが、パムもまた舅ハリー(ニック・ノルティ)の認知症に苦しんでいました。
グレースは徐々に自分を見失って……。
プロデューサーを務めた名匠マーティン・スコセッシ監督が原作小説を読んだことから制作が始まった異色作。
リン・ラムジー監督が彼女独特の表現でつくりあげ、カンヌではスタンディングオベーションを受け、
主演のジェニファー・ローレンスはゴールデングローブ主演女優賞にノミネートされました。
環境の変化で狂気に陥る若い女性の内面はどのように描かれたのでしょうか。
ラムジー監督に聞きました。

Interview&Text_Kyoko Endo

こんなキャラクターに出会ったことがなかった。予測不可能なのに魅力があって。

―マーティン・スコセッシ監督がジェニファー・ローレンスにこれをやるべきだと原作小説を渡したところから企画がスタートしたと聞いています。スコセッシ監督とはどのようなやりとりがありましたか?
じつはジェニファーが私に原作を送ってきたので、私はマーティン・スコセッシがそれをジェニファーに送ってきたことは知らなかったんです。彼はすごい天才だし超有名監督ですよね。でも彼もジェニファーも原作は内面を描いたシュールな本だと思っていたんじゃないかと思うんですよ。それでジェニファーが私向きだと考えて送ってくれたんだと思うんですけど、脚色にはとても苦労しました。だから「やってみるけど、私なりの解釈になるかも、ラブストーリーにちょっと何か加わったみたいなものになるかも」って言ったんです。そうしてそれ以降マーティンはまったく干渉しなかったんですよ。編集したフィルムを見るのを楽しみにしてくれていたし、コメントもくれましたが、それだけです。その時点で私が適任だと思ってくれて自由にさせてくれたんじゃないかと思います。正直、それがとても助かりました。
―そうして、ジェニファー・ローレンスと撮影3ヶ月前に現場に入って対話を重ねたとのことですよね。どのような話をされたんですか。
対話っていうか、脚本を書いているあいだ彼女に音楽とか絵とか、ただ考えたこととかを送っていて、それを現場でもやっていたってことなの。登場人物について同じ考えを共有していたんです。すごいキャラクターでしょう。私はああいう狂気をむき出しにするようなキャラクターに出会ったことがなかったし、だからこそ魅かれたんですけど、単に出産後の話だけじゃなくて結婚生活が崩壊していって、彼女は働きに行くこともできなくてそこに囚われていて、捕獲された獣みたいに感じているんです。それで、現場に着いたときから、ロバート(・パティンソン)とジェニファーは本物のカップルみたいに一緒にダンスのレッスンを受けたり馬鹿なことも一緒にしてみたりして、息がぴったり合うように関係性を作り上げていきました。俳優やスタッフとの関係性構築に長いプロセスをかけることができてラッキーでした。この映画には多くの要素があるんですが、重要なのが自分は何者か、ということ。彼女の感情の中には、子どもを産んだあとのアイデンティティに問題があるんです。
―そうですね。映画には産後の苦悩だけじゃなく、結婚後に直面するジェンダーギャップも描かれていました。グレースはシティガールだったのに、突然田舎暮らしでケアギバーの役割を課せられてしまうし、ジャクソンに子どもを連れていっていいかと聞くティーンエイジャーが彼女には話しかけもしなかったりしますよね。ああいうことはいまでもアメリカでよくあることなんですか?
よくあることだと思いますよ。そういうことからも結婚生活は崩壊していきますよね。彼らは家をもらえた。ちょっとボロくても、彼らの家なんです。おそらくはニューヨークの小さなアパートで暮らしていた彼らが家をもらう。夢の家だと思うでしょう。音楽をかけてもいいし、原稿も書ける。でも現実は、彼女は囚われたように感じてしまう。大都市から違う場所に引っ越してきてアイデンティティも変わるし、結婚もしたし、しかもその結婚で性的にはフラストレーションを抱えているんです。だからこの新しい家を得た替わりに何かしらアイデンティティを喪失した状態なんです。
―東京でさえ多くの主婦が孤独を感じていますし、若いお母さんは大人と話す機会がなくなったって言っていたりします。
そう、まさに孤独や孤立という感情なんですよ。そうやって母になるものだとされちゃう。夫もそうなんですが、彼は外に働きに行けるんですよね。それで彼女はこういう状況に囚われてしまうんです。それで結婚にまつわる複雑な物事を何か新しく入れこみたいと考えたんです。
―夫婦が愛し合っていたとしても、それは別問題なんですよね。ここがすごくリアルでした。またすごくリアルだったのが、ジャクソンがグレースに原稿は書かないのかと言ってくるところなんですよ。
そうよね。
―グレースは孤独や不安と闘っていて健康な状態ではないのに。常に経済的に役に立っていないとプレッシャーを感じさせられる社会が家庭に入りこんでいますし、ジャクソンは彼女の不調を病気だと認識していません。グレースが音楽を止めてほしいと頼んでもクラシックだとか言って止めなかったりしますね。
書くことがアイデンティティと結びついていたりすると…私も赤ん坊を育てたことがありますけど、アイデンティティが変わってしまうんですよね。この映画の中でもリアルに描きたかったのは、引っ越しや家でどんなふうに関係性が変わってしまうかっていうことなんです。夢だったはずのものが悪夢になってしまう。でもフラストレーションがあっても、クリエイティブでいなければならないと強いられる。女であり、作家であり、母でもいなくてはならないということになってしまうんですよ。
―たとえ健康な状態でなくとも健康なふりをしていなくてはならない私たちの文化の不健全さも現れていると感じましたが、そういったことを表現しようという意図もありましたか。
主人公の重要な内的経験としてそういうことがあると思います。でも、健康的な外見やイメージを保とうとしているけど精神的には全然ダメってことも私たちにはよくあることですよね。ジャクソンは妻に何が起こっているのかわかっていなくて、彼女は内面に閉じこもりかけているんです。それでも彼女は強いキャラクターなんですよね。全然言い訳しないし。私は監督として彼女に共感するべきだと思っているわけではないんです。彼女は崩壊して動物みたいに野生的になります。そこに私が気に入った彼女の強さがあるんです。だから彼女に共感すべきだなんていうんじゃなくて、ただ、どうして彼女はこんなふうになったのか考えてみてほしいんです。彼女は予測不可能ですが、内面は誰にも分かりません。だから彼女の精神状態を、そして愛しあいながら壊れていく結婚生活を壊れるがままに描いたんです。彼女は彼を愛しているし、彼も彼女を愛しているけど、彼は彼女に何をしてやればいいか、どう扱うかわかってないんですよ。
―最近ではジェンダーギャップについてみんな知っているのでグレースに共感することもできると思うんですが、たとえば10年前だったらジャクソンを気の毒がっていたかもしれないです。
彼女はかなり過激なキャラクターだと思います。こんな登場人物は読んだことがなかった。でも、私が大好きな映画『こわれゆく女』(1974年、ジョン・カサベテス監督作品)が近いかもしれませんね。きっとこちらにはもっと共感を抱かれるでしょう。ロバート・パティンソンは演じたことがない人を演じるということに戸惑っていたので勧めました。きっと共感するだろうと思ったんですが、彼はなるべく影響を受けないようにしていました。複雑な関係性ですが映画の中盤では観客は両方に共感を抱くようになります。まったく古びていない、とてもモダンなキャラクターだと思います。
―いま『こわれゆく女』を見たら、きっと「ああ、あれが起こっているよね」って分かりますよね。でも当時は、女性の問題について口にされることは少なかったんじゃないでしょうか。
まったく話されてないですよ。つまり、それが私が本を読んだときに魅かれたところなんです。こんなキャラクターに出会ったことがなかった。予測不可能なのに魅力があって、性的に欲求不満で叫び出したい、世界を燃やしてやりたいと思っている。こんな人、普通見ないし、こんなにもいろんなレイヤーがある女性を作り上げたいと思ったんです。
―それで先ほど夢が悪夢に変わるっておっしゃいましたよね。キャンドルスモークフィルターとフィルムの映像はとても美しかったのですが、本当に冒頭の空き家を二人が点検しているシーンから、全体的にホラーっぽく撮られているように感じたんです。美しさと一緒に不安を現す意図もあったのでしょうか。
その通りです。家も登場人物みたいに感じられるようにと考えました。あの家は二人を閉じこめて、彼女は囚われると感じるし、彼女の気持ちの上ではそこから悪いことが起こり始めるわけです。でもそれは彼女の感情があの家に反映されているからなんです。ですからまさに、彼女が次に何をやり出すのか、何が起こるのか、ホラーの要素をちょっと入れて、あの赤ちゃんに何かが起こるんじゃないかと思わせるような演出をしたんです。それを反映して現場に仕掛けをしました。ちょっとミスリードするというか、でも主人公にとっては確かにあの家には恐怖の要素があったと思います。
―そうなんです。グレースは子どもを愛しているとわかってはいるんですけど、子どもにナイフを持って近寄っていったりしているのがすごいサスペンスフルでした。
(笑)あれは原作の冒頭からインスパイアされたシーンなんです。彼女が家の外から自分の家族を見ている。あれが家の中からだと印象が変わりますよね? そして同じシーンがあとにも出てきて、彼女はケーキを切るためにナイフを持っているんだけど、観客には何が起こるかわからない。彼女がどういう精神状態かわからないわけです。だから、子どもを愛していてさえも、次に何をやり出すかいつもわからなくて不安な要素があるんですよ。この家族はできたばかりで、私たちの感情も変わるところなんです。だからわざとミスリードしているんです。パーティーのシーンではもっと予測不可能になって、彼女がどこにいくのかわからない。それで観客は彼女はどうするんだろう、何をしでかすんだろうと引きこまれると考えました。世界は何が起こるかわからない可能性に満ちていますよね?
―その通りですね。ロバート・パティソン、シシー・スペイセク、ニック・ノルティのキャスティングはどのように決まっていったんですか?
じつはロバート・パティンソンはどうかと言ったのは私の姪なんです。彼はいつも期待以上だし、この役は彼がいままでに演じたことがないものなので、彼にとっても違う経験になるでしょうし、きっと受けてくれると思いました。それで一緒にやりましょうとなったんです。そして、ジェニファー・ローレンスとロバート・パティンソンの間にケミストリーがあったのは、本当にラッキーでした。二人に早めに現場に入ってもらうこともできました。驚きです。もうとっくに結婚していたみたいに自然で、それが大事なことだったんです。
シシー・スペイセクは、私にとってはアイドルです。ずっと彼女が好きで、世界でも最も才能がある俳優の一人だと思います。それでシシーは、もっともっともっと知りたいことがあるという感じでした。「私は母親役で、グレースを理解していて、ジャクソンと血のつながりがあるのね」そこにシシーはシシー・スペイセク要素を付け加えたんです。彼女のおかげで息子の役がよりクリアになる感じでした。 彼女とニック・ノルティとの仕事はとても楽しかったです。ニックも素晴らしい俳優で、記憶を失いかけている人を演じました。でもグレースは彼のことをほかの人よりよく理解しているわけです。彼女自身も自分を見失いかけているから。だからすべての登場人物が喪失の感覚でつながっているんですね。そしてまた義理の母(シシー・スペイセクが演じるパム)もやっぱり彼女なりに自分を失いかけて悲しんでいるんです。撮影前にこういうことを俳優たちと話すのはすごくおもしろかったです。」
―ハリーとパムも精神的に病んでいるわけですよね。
「ええ。」
―パムが夢遊病になって銃を持ってうろうろしているシーンもとても怖かったんです。あれも原作通りなんですか? 日本語版が出ていなくて原作を読んでいないものですから(『死んでよ、アモール』というタイトルで6月4日発売)。
なるほど。あのパムのキャラクターは原作からはだいぶ変えました。原作では、彼女は夫を喪って狂ったようになる人でした。でも、あの役に何らかを共感させるためにシシー・スペイセクが何か吹きこんでくれると思いました。あの役は、夫がいながら(夫が認知症で)深く悲しんでいて、夢遊病になっているんです。それで銃を持ってもらうことにしました。原作では彼がベッドに銃を置きっぱなしにしていたとちょっと書いてあっただけでした。パムの夢遊病とそのときに銃を持つのは私のアイデアです。あの二人の女性(グレースとパム)がどちらも夢の中にいる、現実ではつながっていないのに共通点があるんです。
―とてもおもしろいです。では最後の質問は最後の曲についてなんですが。エンディングでジョイ・ディヴィジョンの『ラヴ・ウィル・ティア・アス・アパート』がかかりますよね。監督のお名前がクレジットされていましたけど監督が歌っていらっしゃったんですよね?
そうなの(笑)。何か新しい曲にしてやろうとか思ったわけじゃなくて、最後の曲をどうするかはっきりしていなかったときにミュージシャンと話していて電話であれを歌ったら気に入られて、私は変えたいと言ったんだけど、みんながいいと言うものだから。だから意図的にそうしたわけではなかったんだけど、結果あの曲で締めることになりました。それにあの曲はとくにとても痛々しい関係性を歌ったものだから映画と合ったんですよ。それでとりあえずそのままにしよう、もしかしたら使わないかもしれないと言っていたんですけど。
―でもオリジナルよりフェミニンな感じで映画にはより合っていたと思いますよ。
でも最初にあなたに曲のことを言われたとき、私は正直すごく恥ずかしかったですよ。でもオリジナルから変えてよかったんだなと思いました。ジェニファーが同じことを言ってたんですよ。『ラヴ・ウィル・ティア・アス・アパート』はとても親しまれている曲ですけど、違うヴァイブス、違うフィーリングを入れられたのかなっていうか。でも私はいい武器がほしいとも思っていて。いい曲は何曲もあったけれど、その中から選んだんです。でも何かを使うとき、絶対使わないだろうなと思っていたものを使うことになるってたまにあることです。映画の一部ってそうやってできていったりするんですよ。
―とても印象的でよかったです。ありがとうございました。
You are welcome、アリガト(日本語で)。

『DIE MY LOVE /ダイ・マイ・ ラブ』

『DIE MY LOVE /ダイ・マイ・ ラブ』は6月12日(金)全国公開

監督・脚本:リン・ラムジー
出演:ジェニファー・ローレンス、ロバート・パティンソン
原作:アリアナ・ハルウィッツ『死んでよ、アモール』(宮﨑真紀訳)早川書房刊
(2025/アメリカ、イギリス/118分)
配給:クロックワークス
© 2025 DIE MY LOVE, LLC.

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』、『BANGER!!!』に寄稿。

Instagram @cinema_with_kyoko
Twitter @cinemawithkyoko
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