20211020 MASHIRO
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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#25『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#25『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#25『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』

2019.05.31

実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
プレスリリース引き写しのサイトでは読めない情報を深掘り気味にお届けします。多少のネタバレはご容赦ください。
今回ご紹介するのはオルタナティブロックバンドGEZANを追ったドキュメンタリー。
ほぼ徒手空拳で渡ったアメリカでのツアーと彼らが主催したDIYフェス“全感覚祭”が作品のコアとなっていますが、
映画監督志望の青年が監督デビューした裏ストーリーもあり、熱量がすごい作品です。

Text_Kyoko Endo

GEZAN(と監督)の現実との格闘を見よ。

結成10年を迎えるオルタナティブロックバンド、GEZANはスティーヴ・アルビニに4枚目のアルバムをプロデュースしてもらうことに。英語もほとんど話せないのにアメリカツアーも敢行。ちなみにアルビニっつったらニルヴァーナやピクシーズなどの錚々たるバンドも手がけたレコードエンジニアです。なんて書くと、90年代のレコード業界にお金がありあまっていたころデビューしたインディーズバンドの話みたい…でもこのご時世にそんなわけは全然なくて。

そもそもGEZANはすべてDIYでやってきた正しいパンクスで音源の流通もライブのマネジメントも自前。このアメリカツアーもがんばってグッズを作ったり、27時間耐久でドラムを叩いたり、カレンダーを書きまくったりしてクラウドファンディングで資金を稼ぎ出したのです。大阪時代からGEZANを追いかけ続けてきた映画監督志望のパンチでるおこと神谷亮佑がアメリカツアーにくっついて行き、アメリカツアーと全感覚祭からなる濃厚なドキュメンタリーが誕生したわけです。

彼らがアメリカツアーに出発したのは2018年の3月。前日は東京は雪でした。最初のライブ会場は西海岸のサン・ペドロのリックの家。民家です。本当のガレージでのアメリカデビュー。轟音鳴らしたら警察が来ちゃってトリのバンドが出る前にギグが中止。しょっぱなからおもしろすぎます。次に行ったのはLGBTのための書店。家庭的でありつつ趣味のいい場所で、日本の書店のトークショー会場と同じくらいのスペースですが、全力でライブ。ここではオーナーのほか8人が暮らす家に泊まります。

そう、この人たちその日出会った人の家に泊めてもらっているのです。優しそうな書店オーナーや日本語を流暢に話すレコ屋のパンクスのお兄ちゃん、ドラッグでボロボロになった52歳の元スケーターなど、出会う人もさまざま。彼らを乗せた車は中西部に向かい、ネイティヴ・アメリカンの家にも泊まります。大きく映し出されるグラフィティは「Silence will speak」。ここで彼らの意識が根底から覆されるようなことが起こります。

泊めてくれたお姉さんについて行った場所にはFascism is Not an Idea to Be Debated, It’s a Set ofActions to Fight(ファシズムは議論されるものじゃない。闘うものだ)とか、Make White SupremistAfraid Again!(また白人至上主義者どもを怖がらせてやるぜ! トランプの大統領選スローガンMakeAmerica Great Againのもじり)などいい感じの言葉ががんがん貼られていて、ネイティヴの人たちが会食の準備をしている。GEZANの曲などを聞いてもらったりして楽しんでいたところが、スピーチが始まると、地域の若い女性が白人の男に殺されて今日がその追悼集会だったということがわかります。

日本ではそういった情報にほとんど触れたことがなく、数々の人種差別を目の当たりにしてショックを受けるマヒトゥ・ザ・ピーポー。原爆が祖先の時代から言い伝えられていた“ホピの予言”の話なども初めて聞きます。「白人は敵だ」というネイティヴのおじいさん。しかし、マヒトゥがこの旅で仲良くなった人々の多くは白人で、それが大きな葛藤になります。「俺は正義の反対はもう1個の正義だと思っているから主義を持たないようにしていたけど、それがボンボンの発想っていうかさ…」その晩彼らが鳴らした音を聞いてほしいです。

そんな価値観がひっくり返るような大きな体験をして日本に帰国したら、今度は神谷青年が逃げます。孤独死した人の部屋みたいなゴミだらけの自室で編集に行き詰まったのでした。語り合って、知ってしまったことにはやはり意味があると再確認するGEZAN+神谷。マヒトゥの幻冬舎Plusのエッセイによれば、神谷はアメリカツアー中盤の時点で、一度映画監督になる夢を諦めかけたようです。しかしここで踏ん張り、映像=現実と格闘することを選択。私たちもこの作品を見られてよかったです。

アルビニとのアルバムも出来上がり、いよいよ、スポンサーなし投げ銭制でのDIYのロックフェス「全感覚祭」が始まります。この先はもう感動しかない。はっきり言ってこの作品、映像はホームムービーみたい。露光も調節できてなくて、暗い室内から外に出ると画面が真っ白になってしまったりする。でも、それも綺 麗に見えてくるし「俺はこれが撮りたいんだ。これがおもしろいと思ってるんだ」ってことさえしっかりしてれば、映画って人を感動させることができるんです。何より大人からは青臭いと言われるようなことを言ったりやったりして自分をさらけ出しているGEZANは、だからこそ強い。

間違えるのは禁止という教育を受けてきて、間違いを極端に怖がる私たちに、自分たちが間違えているかもしれない姿をどんどん見せてくれて、でも根本的なところでは絶対間違えないGEZAN。彼らは日和らないのです。いい大人が利口ヅラして権力者にすり寄っていく時代に、誰かに影響されている姿を見せながら、大切なところでは決してブレない。真のパンクス、真のアーティストの姿をそのまま捉えているから、この映画は心に触れるのです。そんな彼らに食らいついた監督もまた真のクリエイターだと私は思います。

『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』

(2019/日本/88分)

監督・撮影・編集:神谷亮佑
出演:GEZAN(マヒトゥ・ザ・ピーポー、イーグル・タカ、カルロス尾崎、石原ロスカル)
配給:SPACE SHOWER FILMS
6月21日(金)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー
© 2019十三月/ SPACE SHOWER FILMS
公式サイト

『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』を観た人は、
こっちも観て!

ドキュメンタリー映画のおもしろさは、長い撮影期間の間に監督も撮影対象の影響を受けて変わっていくところにもあります。ここでは監督自身が変容する姿をもとらえた邦画ドキュメンタリーを集めてみました。

『監督失格』

平野勝之監督が若くして突然亡くなってしまった林由美香との15年間の恋愛関係と彼女の死で苦しむ自分の姿を撮ったセルフドキュメンタリー。監督と女優なのか恋人同士なのか区別することなどに意味はないのです、ラストの矢野顕子の歌を聞いたら…。
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『エンディングノート』

父の死の準備を娘が撮った映画。次女の父へのまなざしはカメラを通すことで監督と被写体となり、父の死に際してまた近しい関係に戻って行きます。この映画のおかげでエンディングという言葉も一般化したエポックメイキングな作品。
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『加藤くんからのメッセージ』

「夢は必ず叶うのです!」街頭演説をしながら、親の前ではそんな自分を出せない加藤くんを監督の綿毛さんが萌え声で追い込んでいく。加藤くんは映画を通して自己実現していき、追い込みつつOLだった彼女もまた監督になっていくのです。
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PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、フリーのライター、編集者に。『EYESCREAM』『RiCE』に寄稿。