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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#37『ゾンビランド:ダブルタップ』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#37『ゾンビランド:ダブルタップ』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#37『ゾンビランド:ダブルタップ』

2019.11.22

実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
プレスリリース引き写しのサイトでは読めない情報を深掘り気味にお届けします。
多少のネタバレはご容赦ください。今回ご紹介するのはホラー・コメディの金字塔の第二弾。
ダブルタップという言葉に前作ファンは微笑みを抑えきれないのではないでしょうか。
このタイトルどおり、ゾンビって必ず2発撃って確実に仕留めないといけないのですが、さて今回は2発で済むかどうか…。

Text_Kyoko Endo

キャスト全員ブレイクの化け物映画ふたたび。

このところ傑作ホラーのリメイク版や何十年ぶりかの続編が続々登場してますが、大ヒットホラーの続編やリメイクをつくるのって、さぞ大変なんでしょうね。観客は前作の怖さを期待してわざわざ劇場にやってくるのだし、前作の監督とガチで戦うようなもんじゃないですか。しかし、若い監督の風潮か、戦うよりはリスペクトなのか、元歌をアレンジしたら別物に…ってなことになってる第二弾は多いです。愛の物語がアダムスファミリーみたいになっちゃったりして、全然怖くないじゃん!って作品が氾濫するのはやや残念なところ。リメイクや続編じゃなくても同じモンスターが使い古されれば観客も慣れてきてしまうという制作側のご苦労もわからないではないですが。

だったらいっそ最初から笑えるようにつくっちゃえよ、ということでもないのだろうけど、傑作ホラー・コメディとして登場したのが今回ご紹介する作品の第1作『ゾンビランド』でした。コメディとゾンビものの融合は2004年のイギリスの『ショーン・オブ・ザ・デッド』がありましたが、主人公が胃弱のオタク青年で真面目に生活のルールを守って生き残るというのは意外と新しく、演出や脚本もうまくて大ヒット。フォーブスによれば、なんと製作費2400万ドルでアメリカ国内で7500万ドル、世界で1億200万ドル売り上げているんですよ。監督のルーベン・フライシャーはその後『ヴェノム』を撮ったり『運び屋』のプロデュースをするなど順調にキャリアを重ね、脚本家のレット・リースとポール・ワーニックのチームも『デッドプール』シリーズをヒットさせました。

キャストでは、コロンバス役のジェシー・アイゼンバーグがこの映画でブレイクしたあとFacebookのマーク・ザッカーバーグを演じてアカデミー主演男優賞にノミネートされていますし、タラハシー役のウディ・ハレルソンも『スリー・ビルボード』でアカデミー助演男優賞にノミネート、ウィチタ役のエマ・ストーンは『ラ・ラ・ランド』でアカデミー主演女優賞取っちゃいましたね。そんな全員出世してるアゲアゲな前作から、まったく同じ監督と脚本とキャストで続編が発表されたのです。続編はこうでなくては。前作では12歳だったリトルロック役のアビゲイル・ブレスリンもちゃんと出演しています。

にしても、なんで10年もかかったのでしょうか。バラエティのインタビューに対して、出演者たちは、いつ声がかかってもよかったんだけど脚本家たちがさあ…と。で、Den of Geek!のインタビューに対して、脚本家たちは、監督も忙しかったし書こうとするたびにアビゲイルがどんどん大きくなっていくので、彼女の設定をティーンにしたりハイティーンにしたりしているうちについに大人になっちゃったと説明しています。コメディみたいですね。ちなみにこの脚本家たち、高校時代からのコンビだそう。出世した俳優たちを呼び戻すのも「バンドのメンバーを呼び戻すみたいだった」そうです。

10年は長い。現実世界では大麻合法化を唱えていたウディ・ハレルソンが一回大麻をやめてまたウィリー・ネルソンにパイプを渡されて思わず復帰しちゃったくらい長いので、映画の中でもいろんな変化が起こっております。みんなホワイトハウスに住んでおります。ルールは32から73に増えました。でも、ルール32小さいことを楽しめの通り、ゴッホの『黄色い部屋』を適当に飾ったり、クリスマス(のつもりの日)にはプレゼントを送りあったりして楽しく暮らしております。

しかし、楽しく暮らしていると思ってたのは男どもだけで、子ども扱いしかされなくて年ごろの女子なりに恋愛したかったリトルロックと、コロンバスにプロポーズされて動揺したウィチタが二人してホワイトハウスを出て行ってしまいます。ここから話がどんどん展開して、新キャラも登場。フェイクファーを着てヴィトンのバッグを下げて催涙スプレーで武装したかわいこちゃんとか、タラハシーとコロンバスにそっくりなんだけど行動パターンがより過剰な二人組とか、プレスリー博物館仕様の家に住む南部美人とか、バークレー出身だという見目よいギタリストも。

家出したリトルロックが目指すのは、タラハシーに聞かされたキング・エルヴィスの聖地、グレイスランド。そしてさらには環境に敏感なZ世代が立ち上げたコミューン、バビロンへ。ここがなんかレイヴ会場と『ザ・サークル』のサークル本社がくっついたような場所で、舞台も美術も小ネタもいちいち秀逸。笑えます。でも笑えるばかりじゃなく、ゾンビもいろいろ進化して思考能力を持つものや忍者のように素早いのも出てきたし、ダブルタップ程度じゃ死なないのも出てきちゃって、さあどうする?というのが一応本筋。アクション満載です。

オープニングからコロンビア・レディがゾンビを殴り倒し、クレジットが終わるころビル・マーレイ御大が昔のプロレスラーみたいにパイプ椅子でゾンビを殴り倒す…文字通り最初から最後まで(小ネタ好きなら)目を離せない作品なので、絶対最後の最後まで席を立っちゃダメですよ。

『ゾンビランド:ダブルタップ』

(2019/アメリカ/99分)

監督:ルーベン・フライシャー
出演:ウディ・ハレルソン、ジェシー・アイゼンバーグ、エマ・ストーン、ビル・マーレイ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
11月22日より全国ロードショー
公式サイト

『ゾンビランド:ダブルタップ』を観た人は、こっちも観て!

元祖ゾンビはもちろん外せません。邦画界からも力作ホラー・コメディが登場します。第一弾は当然見たくなるとして、そのヒットを後押ししたハリウッド最重要俳優の代表作もチェックしたら、あなたも立派なギークですね!

『ゾンビ』日本初公開復元版

映画界に「ゾンビ」というジャンルを打ち立ててしまったロメロ大先生の傑作。ディレクターズカットとも違う日本独自に編集された初公開版がファンの熱意で復元。11月29日より劇場公開です。メイクが甘くてもしっかり怖い、オリジナルの迫力を見逃さないで!

『ゴーストマスター』

「原作言い訳にして、予算言い訳にして、観客バカにして、それが監督の映画ですか?」どっかで見たような低予算壁ドン映画の撮影現場から始まるホラー・コメディはひたすらB級ホラー映画愛に溢れて…。12月6日より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー。

『恋はデジャ・ブ』

ビル・マーレイって誰〜?とか言ってんの誰ですか! とりあえず一般教養としてアメリカ国立フィルム登録簿に永久保存登録されているこのタイムリープものの名作を見よ! あと、ウェス・アンダーソンの作品全部と『ロスト・イン・トランスレーション』も見てね。

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、フリーのライター、編集者に。『EYESCREAM』『RiCE』に寄稿。