ヴィンテージの神様とデニム3大ブランドを徹底比較。
Next Chapter Of Vintage Denim.
ヴィンテージの神様とデニム3大ブランドを徹底比較。
2018.07.17
全国の古着好きのみなさん、お待たせしました!
ヴィンテージデニム界の雄、ベルベルジンの藤原 裕さんによる
「古着オタクに笑われない本物の“ヴィンテージデニム”」講座の第2弾です。
前回、501&ジージャン解説の合間にお見せした701に代表される
「ハイウエスト・オンス薄め・細身シルエット」の3キーワードを兼ね備えたモデルをご紹介。
実はアメリカデニム界の3大ブランド
〈リーバイス®(Levi’s®)〉〈リー(Lee)〉〈ラングラー(Wrangler)〉は、
それぞれが30年〜60年代にかけて
この条件をクリアしたアイテムをリリースしていたんです。
今回は、もともとウィメンズとして発売されていた、
これらのモデルを徹底解剖していきます!
Photo_Kazumasa Takeuchi(STUH)
カウボーイスタイルに憧れた女性たちのために。
- ―男女ともに「ハイウエスト気味にデニムを穿く」ブームはこの夏もまだまだ勢いがあります。前回は501について教えていただきましたが、今回はウィメンズモデルにフォーカスしていきたいと思います。
- まず大前提としてウィメンズ用のジーンズを最初に打ち出したのは〈リーバイス®〉です。ご存知の通り〈リーバイス®〉が初めてジーンズを作ったのは1873年で、それ以来多くの労働者に愛用されていましたがほとんどが男性だったんですよね。ボーイズサイズの503BXXはあったけど、完全に女性向けのモデルはなかった。
- ―なぜ女性用のモデルが誕生したんでしょうか。
- 世界恐慌のあとに西部の牧場主たちが、富裕層に向けて「デュード・ランチ」という名の観光牧場を始めるんです。それによりカウボーイのライフスタイルに多くの人が魅了され始め、デニムはもはや労働着ではなくファッションアイテム化していった。その中でメンズとウィメンズを明確に分けようとしたのかな。701誕生の前にも当時のカウボーイスタイルで女性がボーイズサイズのデニムを穿いている写真が残っています。わざわざ専用のモデルができたのはおそらく女性たちの間で「ジーンズって固いわね」って不満が出たんでしょうね(笑)。そして1934年に501のルックスを持ちつつも、股上が深く、オンスが薄い女性用のジーンズが初めて発表されたんです。
- ―それが701なんですか?
- 発表時はまだそのモデル名がついていなくて、1937年ごろから701と呼ばれるようになりました。その後60年代半ばに生産が終わるまで少しずつシルエットが変わるんだけど、共通しているのは「股上の深さ」と、501の生地の厚さに対して“No.2デニム”と呼ばれる「オンスの薄さ」、そして少しテーパードした「細身のシルエット」。あとは501の通称「赤耳」が701ではなんと青赤青の星条旗パターンになっているんです。
- ―耳の色まで違うんですね!
- そう、“No.2デニム”の特徴。耳がつくのは50年代までなんだけど。
- ―にしても501に比べたらかなりのハイウエストですよね。
- そう、非常にいまっぽいシルエット。ウエストはキュッと絞られていて、おしりは少しゆったりした女性らしいラインだね。
- ―501と“No.2デニム”の色の違いはありますか?
- 501はゴリゴリのインディゴで色落ちも入りやすいけど、701の“No.2デニム”はきれいな縦落ちが入りにくくて全体的にサーッと色が落ちる感じだね。ちなみに701誕生の30年代から終焉の60年代までインディゴの色にはさほど変化はないかな。
- ―では701のモデルチェンジについて教えてください。
- 30年代からの初期モデルはバックストラップがついています。フロントはボタンフライ。デニムを知っている人は701=フロントはジッパーという認識だと思うけど、初期は501と同じくボタンフライなんです。で、おしりのシルエットは少しゆったりしているくらい。
- ―藤原さんはいままでこの初期701を何本くらい扱われました?
- 5〜6本かな。おそらく生産自体も501よりはかなり少なかっただろうから本当に見ないんですよ。まわりでも初期モデルを持っているのは「ロンハーマン」ディレクターの根岸由香里さんくらいかな。彼女はいろんな年代のモデルを持っているはず。
- ―ちなみにバックルつきだといくらくらいするんでしょう?
- ものにもよるけど15万円くらいかな。同じ年代で501だと100万は超えるけど。
- ―そんなに違うんですね! ちなみにレア中のレアモデルなんかもあるんでしょうか?
- 僕も一度しか見てないけど、701の大戦モデル(第二次世界大戦中に作られたもの)があります。後ろポケットのアーキュエイトステッチがなくて、黒いラッカーボタン、コインポケットにリベットが打っていないという大戦モデルの特徴を備えた701。ただ貴重ではあるけど、プレミア価格になるかと言われたら正直微妙かな。
- ―701も501同様レザーパッチなんですか?
- 1934年から白いリネンパッチがついています。同時期の501は当然レザーパッチなんだけどね。レザーパッチが割れやすいようにリネンパッチも取れやすいんで、残ってるものはかなり珍しい!
- ―素材だけじゃなくて、501のパッチとはどこか印象が違いますね。
- そう、501はウエストとレングスだけが表記されているのに対し、701にはウエスト・ヒップ・レングスが記されているんだよね。これはレプリカの〈リーバイスLVC〉でもきちんと再現されていたと思う。
- ―なるほど! その他の特徴はありますか?
- バックストラップがなくなり、フロントはジッパーになりました。501に正式にジッパーが採用されたのが1954年のZXXからだから、701のほうが先に取り入れているんだよね。あと後ろポケット右の赤タブは47年から53年ごろは片面だけにブランド名が入ってる。1953年以降は両面タブになります。
- ―701といえばマリリン・モンローですが、彼女が穿いて有名になったのはどの年代のモデルなんですか?
- 50年代だからこの頃のモデルだね。701は「モンローモデル」っていう名前がつくと同時に、ヒップのシルエットがどんどん大きくなっていくのが特徴。50年代の映画を見ても、女性はかなりヒップを強調するパンツの穿きこなしをしているから相当なブームだったんだろうね。
- ―701の後期モデルはどのような特徴がありますか?
- 60年代になるとリネンパッチだったのが小さな紙タグになり、耳もなくなり、シルエット的にはよりヒップのシルエットが大きくなる。701自体いつまで存在したかは言い切れないんだけど、ジッパーの形状を見る限り60年代前半か半ばまでだったのかな。60年代には〈リーバイス®〉の女性用モデルとしてホワイトやカラーパンツが台頭してくるからデニムは縮小していったんだと思う。
- ―根本的な話なんですけど、701は女性用モデルとされていますが、男性でも穿く人はいるんですか?
- います。オンスが薄いから夏にいいんだよね。「ベルベルジン」の系列店の「フェイクアルファ」の男性スタッフは初期のバックル付きを穿いているよ。男性がジャストサイズを選ぶとペインターパンツっぽいテンションになるんだよね。後期のモデルになるとヒップが大きすぎて男性は使いづらくなっちゃうんだけど。
リーは色と股上の変化が大きな特徴。
- ―では基本の〈リーバイス®〉を抑えたうえで、いよいよ他のブランドのモデルについても教えてください。〈リー〉はそもそもどのように誕生したんでしょうか。
- 〈リーバイス®〉が1873年からデニムを作り始めたのに対し、〈リー〉は1910年代にワークウェアを作り始め、デニムをスタートさせたのは1920年代から。ただ〈リーバイス®〉があくまで作業着を重視していた1920年代後半に、〈リー〉のデニムはボタンに「Lee COWBOY」って書いちゃうくらいカウボーイファッションに寄せています。
- ―〈リーバイス®〉と〈リー〉のデニムの大きな違いはなんでしょう。
- コアな話になっちゃうんだけど、〈リーバイス®〉は右綾で生地表面の織りの模様な左下がり、〈リー〉は左綾で織りが右下がりになっているんです。色の縦落ちは右綾のほうが激しく出るから、〈リーバイス®〉のゴリゴリの色落ちに対して、〈リー〉の色落ちはおだやか。話がそれちゃうけど、〈リー〉も大戦中は右綾を採用していて、〈リーバイス®〉のような激しい色落ちをしているものもあります。
- ―豆知識ですね。さて、〈リー〉のウィメンズモデルの特徴を教えてください。
- 股上が深く、薄いオンスの生地を使って細身なのは〈リーバイス®〉と同じ。おそらく40年代から生産が始まって、写真の上のような赤いステッチを使った「赤タグ」を採用しているのが50年代半ばまで。で、その後50年代後半から黒タグ(ステッチは白と黄色のみ)になるはず。ただ本当に数が少なくて、黒タグのウィメンズモデルはまだ見たことないな。
- ―タグが「Lady Lee RIDERS」となるのは何年からですか?
- 60年代に突入するとこのモデルになります。シルエットは股上が浅くなって、それまでは色もインディゴなんだけど、60年代になると素材を変えていて〈リー〉独自の印象を受けるよね。
- ―本当に股上の長さが全然違いますね! 60年代以降のモデルは見分け方はあるんですか?
- シルエットにはそんなに変化は見られないかな。お尻の右ポケットにある黒いピスネームタグに「Lee®」って書いてあるのが60年代。Leeの字が大きくなって、「Lee®MR」となっているものは70年代初頭からだね。ちなみにウエスタン主流だったからか、〈リー〉のヴィンテージはとにかくレングスが長いのが多いんだよね。なかなかサイズが合うのを見つけるのが難しいけど頑張って探してみてください。
かなりウィメンズに注力していたラングラー。
- ―いよいよ最後は〈ラングラー〉ですね。
- ブランドが始まったのは終戦後の1947年。そしてウィメンズモデルが誕生したのも60年代からと、すこし後発にはなっているんだけど。他の2ブランドに比べてウィメンズに力を入れていて、60年代にはカラーデニムもリリースしたりとファッションアイテムとして打ち出していたのが大きな違いかな。あとは〈ラングラー〉のメンズ代表モデル、11MWZと同じように、基本的にダブルステッチで耳がないのが特徴。1964年の1年間だけ耳を使ったモデルもあるんだけど。で、後ろポケットのステッチは頭文字のWで、右側にはプラスチックタグがつく。
- ―年代の見分け方はありますか?
- 50年代のモデルはフロントジップ裏のタグが刺しゅうなんだけど、ウィメンズでは見たことないかな。60年代になるとこれがプリントになって、ブルーベルのマークがついたものが60年代前半、ベルなしになるのが60年代後半。
- ―デザインやシルエットに大きな特徴はありますか?
- 〈ラングラー〉はポケットが小さいのが違いかな。それ以外は他の2ブランドと同じく、股上深めでヒップが出ていて、そのまま下にすとんと落ちる形。70年代にフレアデニムがトレンドになるまでこの形が本当に多いんだよね。3ブランドのほか、〈J.C.ペニー〉などのストアブランドもまったく同じようなシルエットで出していたみたい。
- ―〈ラングラー〉は価格もお手頃だし、ヴンテージ初心者には手を出しやすいですね。
- さらに姉妹ブランドで〈マーベリック〉というメーカーもあるんだけど。全く同じシルエットでコーデュロイパンツを出しているんです。ヴィンテージデニムはもういくつか持っているっていう人は、おもしろラインとしてこっちを選んでもいいと思う。
ベルベルジンのスタッフ山中さんに3ブランドを穿き比べてもらいました。
- ―〈ラングラー〉が他に比べて山中さんのベストサイズではないことを考えると、本当に同じようなシルエットですね。
- そうなんだよね。あとは試着して自分に合う時代・ブランドの1本を見つけてみるのがいいかと思います。色落ちは個人の好みもあるしね。
SHOP INFORMATION
BerBerJin
東京都渋谷区神宮前3-26-11 原宿SHビル平日12:00〜20:00 土、日曜、祝日11:00〜20:00
03-3401-4666
PROFILE
藤原 裕
日本を代表するヴィンテージショップ、「ベルベルジン(BerBerJin)」の名物ディレクター。ヴィンテージデニムの知識を詰め込んだディレクションブック『THE 501XX®-A COLLECTION OF VINTAGE JEANS』は一度完売し、第二版が販売中。来年には新たなもくろみも…? 海外の好事家の間でもその名がささやかれる、古着界の生き字引。最近はヴィンテージデニムを解説するYouTubeチャンネルを始めたことでも話題に。