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ポスト・セリーヌと評されるRokh。そのデザイナーの素顔。
ポスト・セリーヌと評されるRokh。そのデザイナーの素顔。

Pure, Sincere, Earnest.

ポスト・セリーヌと評されるRokh。そのデザイナーの素顔。

2019.06.26

2年くらい前にインスタグラムでみかけた1枚の画像
ブランド名は〈ロック(Rokh)〉。
調べると、デザイナーのロック・ファンは
フィービー・ファイロ時代の〈セリーヌ(CELINE)〉で経験を積んでいて、
その後すぐにLVMHプライズで特別賞を受賞。
瞬く間にスターダムを駆け上がった彼が「リステア」で開催される展覧会のために来日するということで、
もちろんお話を伺ってきました。
どんな方なのか緊張しながら会場にいくと、それはそれは物腰やわらかい素敵な方でして…。

Photo_Mitsugu Uehara (exhibition)

常に求めているのは、“働いている女性”や“自分を持っている女性”。

ー今日もNBAのキャップに〈ヴァンズ(VANS)〉のスニーカー。他の記事での写真を見てもそうですが、ロックさんご自身の恰好はカジュアルですよね。
自分が着ている服とつくっている服が合っていないから、ときどき心配になります(笑)
ーヴィンテージがお好きなんですか?
着るのはもちろん、集めるのも大好きです。
ーでは、〈ロック〉の服もヴィンテージとミックスして着てもらえるとうれしかったり?
もちろんです! というより、最初からそれを考慮してつくっている部分もありますし。自分がずっと着ていたかのような感覚を味わえるところが、ヴィンテージのいいところ。新品ではあるけど、〈ロック〉の服に対してもそういう感覚を持ってもらえたらうれしいですね。
ー〈ロック〉の服づくりにおいても、ヴィンテージがデザインソースになることはあるんですか?
〈ロック〉というブランドでは自分が追い求めている女性像があるから、直接的に取り入れているわけではないんですが、普段から好きで古着をたくさん見ている分、影響がないわけではないですね。
ーいまおっしゃっていた“女性像”というのは?
どんな人に着ていただいてもうれしくはありますが、常に求めているのは“働いている女性”や“自分を持っている女性”。だから動きやすさはとても重要視していて、例えば服がズレ落ちたり、動いたときにブレーキがかかるようなことは絶対にないようにしています。
ー少し前の話になりますが、LVMHプライズで特別賞を受賞されましたよね。その際にグランプリに輝いた〈ダブレット(doublet)〉の井野さんにインタビューした際、彼は受賞した瞬間「俺がもらって大丈夫…?」と思ったそうです。当時のロックさんのお気持ちを聞かせてください。
全く同じ気持ちでした(笑) しかもそのときはまだデビューシーズンで、コレクションとしてもまとまっていなかったから「本当にいいの…?」みたいな。そんなこともあって、井野さんとはいまはすごく気の合う友達なんです! ときどき連絡も取り合っていますし。
ー学生時代は「セントラル・セント・マーチンズ」に通い、先にメンズウェアの学士を取得されたとのことですが、ウィメンズに転向したのはなぜですか?
メンズウェアに自由がなかったことがいちばんの要因です。デザインに対して頭が固いというか。だから自然とウィメンズに興味が湧きました。そして大学院でウィメンズを専攻しているときに、〈セリーヌ(CELINE)〉のデザインチームから連絡が来て、一緒に仕事をするようになったのがキャリアの始まりです。
ー学生時代にフィービー・ファイロの下で働くというのは、当然誰もができる経験ではありません。デザインにおいて彼女から学んだことは?
服を最後の瞬間まで完璧に仕上げること、かな。彼女がいちばん大切にしていたのは、着たときに楽で、かつその女性が美しく見えることでした。だから〈ロック〉の服も楽であり、着ている瞬間も美しく在ることを求めています。
ーロックさんから見て、フィービーはどんな人ですか?
上司!(笑)。本当に先生というべき存在。大好きです。
ーあなたと〈ロック〉が紹介される際、“ポスト・セリーヌ”、“ポスト・フィービー”という形容も目にします。そう言われることについてはどう感じていますか?
ぼくにとっては最大級の褒め言葉だと感じつつ、自分が提案したい服やストーリーテリングといった面は異なるから、そういった部分は変化していきたいですね。でも、フィービーが大切にしていた礼儀はずっと忘れずにいたいです。

たくさんあるオプションの使い方とアレンジは、着る人に任せています。

ー〈セリーヌ〉の後は〈ルイ ヴィトン(LOUIS VUITTON)〉や〈クロエ(Chloe)〉でも経験を積まれますが、ご自身のブランドを立ち上げたきっかけを教えてください。
良いキャリアを歩んでいたと思うんですけど、年齢を重ねる前にチャレンジしてみたくて。30代を迎えたときに「いまやらなくていつやるの?」と感じ、自分のブランドを立ち上げました。年齢的にも一度くらい失敗しても大丈夫だし、いま振り返っても良いタイミングだったと思います。
ー〈ロック〉には、デザインに遊びが効いたアイテムが多いものの、トレンチコートやジャケット、シャツ、デニムのようなスタンダードなワードローブがベースになっています。なかにはメンズのパターンが採用されていたり。これはロックさんがメンズウェアを学んでいたことも影響しているのでしょうか?
たしかにスタンダードなものが多いんですけど、それはアプローチとしてカテゴリーごとにアイテムをつくり始めるのが好きだから。例えばシャツをメンズのパターンでつくっているのは、男性服を女性にフィッティングしたときに服本来の形が変わったり、メンズのパターンでも女性が着たときに純粋に美しいものもあるのがおもしろくて。
ー一見どのように扱っていいのかわからないようなディテールも特徴のひとつです。
オプションがいっぱい付いているのが〈ロック〉の服。着る人次第でどんな着方でもできるよう、そこを最初から考えてつくっています。そして、オプションそれぞれが美しく見えるようにデザインしているから、どれを選んでもいい。あとのアレンジは、着る人に任せているんです。
ー着る人が快適に過ごせて、かつ美しく見えるように自由に着てほしいということなんですね。それを追求する上で、ご自身が男性であることに難しさを感じることはないんですか?
壁を感じることは常にありますよ。腰のラインをどこに置くときれいなのか、スリットはどこまで入れるのがいいのか…。楽さを感じられる服という前提がある以上、男性である自分にはわからないことはやっぱりあるんです。ただ、いまの〈ロック〉のチームはぼく以外のほぼ全員が女性だから、彼女たちがひとつのサンプルを何十回も試着したり、例えばカバンも1ヵ月くらい実際に使ってもらって、その意見を全部受け入れて修正していくんです。何度も何度も。やっぱり、快適に着ることができない服は魅力的ではありませんから。
ーまた、〈ロック〉の存在を知ったときからベージュやキャメルの色使いが特に美しいなと感じていました。ロックさん自身、そういう色合いがお好きなのかなと。
正解です(笑)。韓国では色の名前としてベージュとは別に、“肌色”があるんです。メイクでスキントーンってあるじゃないですか? ああいう色。身体にいちばん身近な色で、それで頭から足の先までワントーンでまとめるととても美しいんです。どんな色とも混ざることができますしね。
ーそして2019年秋冬コレクションは、ついにパリ・ファッション・ウィークでお披露目されました。ランウェイ形式での発表は前々から考えていたのですか?
はい。ランウェイはデザイナーにとって最もクラシックなフォーマットで、自分が表現したいことをいろいろな方法で見せられるのがいいですよね。来場者とたくさんコミュニケーションがとれることもわかりましたし。だから、今後もランウェイは続けていきたいと思っています。あとは服をつくること以外に、写真や映像の展覧会を開催することでもいろいろな人と接点を持てたらうれしいですね。
ーその想いが形になったのが、今回の「リステア」での展覧会(※会期はすでに終了)だったというわけですね。
今回の展覧会では、ぼく個人の作業による、個人的な作品だけを並べました。普段自分が身を置いてるファッションの世界ではなく、本当に普段の生活の延長。見ていただく方にも同じ目線でいてもらいたいから、場所にもカフェを選んだんです。
ーファッションフォトではなく、自分の目線で見た日常を伝えたいというところにも、なんだかロックさんの人柄が出ているような気がします。
もちろん〈ロック〉のデザイナーとしてではあるんですけど、単純にぼくが求めていること、好きなこと。仕事や生活を通して女性のアティチュードを観察することが好きで、それをダイアリーのように並べた感じですね。

好きな人だけが着てくれるのが〈ロック〉としての理想。

ー改めて考えると、有名人が着てSNSにアップすることで一気に知名度を上げるブランドが多いなかで、〈ロック〉は本当にすばらしい服をつくっていて、それに気づいたショップが取り扱って、そこで〈ロック〉の存在を知った服好きの人たちのなかでジワジワと人気が拡がっている印象を受けます。
〈ロック〉というブランドは、最初からプロモーションは一切なし。SNSマーケティングもしないって決めていたんです。もちろん運良く「リステア」が見つけてくれたり、〈ルイ・ヴィトン〉からも連絡があったりと、自然とプロモーションができた面もありますが、知ってる人だけが知っていて、好きな人だけが着てくれる。スターマーケティングも決して悪いことではないけれど、ぼくはこのやり方がいちばんいいと考えているんです。
ーきっと、いま〈ロック〉を着ている人たちもあまり流行りすぎないでほしいと思っている気がします。
ぼく自身もそう思っています(笑)。
ーここまでお話を伺って大変恐縮なんですが…、正直『ガールフイナム』の読者で〈ロック〉の服を持っている人はまだそんなにいないんじゃないかなと思っています。最後に、ブランドの魅力を知ることができる最初の一着として、ロックさんがおすすめしたいアイテムを教えてください。
ヴィンテージ調のTシャツです! もちろんプライス的に手に取りやすいということもあるんですけど、最初にお話した通りぼく自身ヴィンテージが大好きで、そのスタイルを表現するためにつくったアイテムだからプリンティングにもすごいこだわっていまして。プリントを変えながら毎シーズン継続して出している、〈ロック〉のスタイルに欠かせないアイテムなんです。これをきっかけに、ブランドに興味を持ってもらえたらうれしいですね。

INFORMATION

Rokh

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