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井野将之とデミデム。ダブレットに欠かせない相互関係。
井野将之とデミデム。ダブレットに欠かせない相互関係。

Two persons elevate each other.

井野将之とデミデム。ダブレットに欠かせない相互関係。

2018.07.25

ここ数年の〈ダブレット(doublet)〉の活躍は『ガールフイナム』でも度々お伝えしてきましたが、
デザイナーの井野将之が日本人として初めて、
若手デザイナーの育成と支援を目的としたLVMHプライズの
2018年度グランプリ受賞という快挙を果たすまでに到りました。
そんな〈ダブレット〉の世界観を伝えるために必要なヴィジュアル面において、
もうひとりのキーパーソンがいることをご存知でしょうか?
デザイナーの井野将之と、スタイリストのデミデム。
この2人の対談から、〈ダブレット〉の飛躍の理由を探ろうと思います。

Photo_Ryosuke Yuasa

ーデミデムさんが〈ダブレット〉のルックのスタイリングを手がけるようになったのは、いつからですか?
井野将之(以下井野):2016AWシーズンからですね。当時フイナムにも掲載していただいた、いまのダブレット像が形になったシーズン。
ー〈ダブレット〉のターニングポイントとして井野さんご自身が常々語っている、2016SSシーズンからなのかと思っていました。
井野:でも、知り合ったのはそれよりも全然前で。おそらく、ブランドを始めて2、3シーズン目ころだった気がします。
デミデム:2人の共通の友人が出展していた合同展示会に、井野さんも出展していたのが最初の出会いですね。たしか2014AWシーズン。真っ先に目がいったのは実は服ではなくシュールな絵が書かれたムードボードで、そこから感じた井野さんの哲学的な考え方と〈ダブレット〉の服を合わせれば、いま以上のものを作り出せるポテンシャルがあると確信したんです。それで私から「一緒に仕事をさせてもらえませんか?」とアプローチしました。私自身にとってもムードボードは、それがないとスタイリングができないというくらい大切なものなので。
井野:アトリエを再現するインスタレーション形式で発表していて、実際にアトリエで描いていたスケッチをベタベタ貼っていたんですよ。
ーそのスケッチはまだお持ちですか?
井野:ありますよ。
デミデム:WOW!! 懐かしい
井野:虫取り網を服に落とし込んだり、下駄の鼻緒を床一面に取り付けたり(笑)
デミデム:売り物になるようなものでは絶対にないんですけど、これを見て井野さんのアイデンティティを知ることができたんですよね。
井野:鼻緒が付いた床なんて、いま見てもありなんですけどね(笑)。でも、すぐにご一緒することにはならず、改めて2016SSシーズンの展示会に来ていただいたときにデミさんから「私にスタイリングさせて!」と声をかけていただいたんです。多分そのときのルックを見て、自分だったらもっとできるのにと思ったんじゃないですか(笑)
デミデム:YES!!
ーデミデムさんとご一緒されるようになって、井野さんのなかで何か変わったことはありましたか?
井野:ストーリーをより考えるようになりましたね。ただモデルに着せて撮影するのではなく、このモデルはこういうパーソナリティを持っているからこういう世界観でいこう、みたいな。それまでももちろんアートディレクターやフォトグラファーとストーリーをつくってはいたんですけど、キャスティングが追いついていなかった。イメージは出来上がっているのに、モデルのパーソナリティが合っていないから匂いがしないというか。そのアンリアリティーが、デミさんがキャスティングにも入ってくれたおかげでリアリティーに落とし込めるようになりました。デミさんのいいところは、ただ服をスタイリングするのではなく、人をスタイリングすること。変な話、モデルが決まらないとデミさんは何もできないんです。だから、特にキャスティングにおいてはデミさんの意見をすごく尊重していますね。いろんな人を見つけてきてくれる。
デミデム:幸運にも、人と出会える運があるみたいで。最近のキャスティングでも、友達の友達の友達の友達までつながりが拡がっていったり。実はいま通訳をしてくれているLenaちゃんにも本気で今度モデルをお願いしたいと思っています(笑)。私にとってはスタイリングもキャスティングもほぼ同じ感覚で、モデルとなる人から受けたインスピレーションがスタイリングにつながるんです。〈ダブレット〉は少しツイストが効いているけどあくまでも日常着で、性別や国籍、年齢に関係なくいろんな人が着ることができる。だからいろんな人をキャスティングしたいんです。
ー井野さんもキャスティングのアイデア出しはされるんですか?
井野:するんですけど…、だいたい却下されるんですよ。Facebookのメッセンジャーでやりとりしていると100%“Not sure”と返信が来ます(笑)。ノーとは言わず、“Mmmmmmm…”って(笑)
デミデム:ごめんなさい…。
ーいまのところ唯一のランウェイとなっている2017AWシーズンの東京コレクションのキャスティングもデミデムさんが?
井野:そうですね。あのショーはルックブックとはまた違うモノを見せたかったから、「エンターテイメントにしよう」ということでデミさんもぶっちぎってましたね。26、7人キャスティングして。
ーその人数のキャスティングはかなり大変でしょうね。
井野:はじめはもっと少ないはずだったんですよ。でも、「あの人もいいこの人もいい」ってことでどんどん増えちゃって。そうなると今度は服が足りなくなるから、「前のシーズンのサンプルをリメイクして使っちゃおう」と。
デミデム:〈ダブレット〉の服は、本当にいろんな着方ができるじゃないですか? そのため、モデルがたくさんいる分には困らないんです。でも、ストリートキャスティングだけで集めてしまうとクオリティーを担保できないから、プロモデルとストリートキャスティングでちょうどいいバランスを探ることは意識しました。あと、最近のファッションシーンではストリートキャスティングだけでランウェイをやるという大きな流れがあるんですけど、それを避けたかったというのもありますね。
デミデム:例えば、この子。私のアシスタントで身長が152cmしかないんですが、背が低いからこそ彼女と同じくらい大きいパンツを穿かせたらおもしろいんじゃないかと思って。いろんな人にいろんな着方をさせることが重要だったんです。
井野:ちなみにこのルックは、トップスを彼女の体型に合わせておっぱいが見えないギリギリのところで切っています。ロゴさえ見えればOKだから、モデルありきでオーダーメイドのような感覚でつくっていきましたね。
ーキャスティングにしてもスタイリングにしても、いまの〈ダブレット〉には「やはりデミデムさんが欠かせないんですね。
井野:絶対に欠かせませんね。過去と同じことをやってしまったら退屈になってしまうんで、毎回新しいアイデアを混ぜながら一緒にアップデートしていける存在がいるのはとても心強い。だから、常に最新のコレクションがいちばんいいんじゃないかと思っています。
デミデム:もちろん小さな失敗はあるけど、それをお互いが成長できるために必要なことだと認識できる関係性が築けているのはうれしいことですね。
井野:長いこと一緒にやっていると、大体ツーカーでわかりますし。自分もうまく英語がしゃべれないから、表情で(笑)
デミデム:顔コミュニケーション(笑)
井野:他のインタビューでデミさんが「井野さんは英語が上手じゃないけど」って話していて、「えっ!?」って。自分では意外と英語がしゃべれるつもりでいたから、結構ショックでしたね…。
ーたまに意思疎通できていなかったりも?
井野:ありますね。メールとかメッセンジャーでやりとりしているときは特に。でも、そういう方が人間味があっていいんですよ。さっきのムードボードを見てもらえればわかると思うのですが、デミさんは完璧主義者なんです。ぼくはもっと雑なタイプ。だからちょうどいいバランスで成り立っている。
デミデム:井野さんも完璧主義ですよ(笑)
井野:きっと完璧を求める部分が違うのかな。ぼくがデミさんに提案したことをもっとデミさんが詰めてくれたり、その逆も然り。お互いにプッシュして高め合っていける存在というのが正しいのかも。
ー先ほど「最新のコレクションがいちばんいい」とおっしゃっていましたが、2018AWシーズンのヴィジュアルについても教えていただけますか?
井野:これも結構おもしろかったんですよ。今季は裏テーマに“ugly”というのがあって、ちょっとクセがあるというか、完璧な美を持っていなくとも魅力があることを表現したいと話したら、そのイメージにぴったりな台湾人の女の子をデミさんが見つけてきてくれました。実際に会ってみたらすごくかわいくて、みんなテンション上がったんですけど(笑)。そこからなのか、最近はいろんなマガジンで見かけますよね。
デミデム:そうそう。事務所に入っているわけでもない普通の子だったので、すぐにダイレクトメッセージを送って日本に来てもらったんです。
井野:「わざわざ撮影のために日本に来てもらうのってなんかソフィア・コッポラの『ロスト・イン・トランスレーション』みたいだね」という話になり。
デミデム:台湾の女の子が初めて観光で日本に来て、中野ブロードウェイにいってオタクっぽいことをしたり、普通だったら敬遠しがちなクレイジーな服も、観光客だからこそ着られることがあるじゃないですか? 男の子は逆に、彼女とは真逆のキャラクターで、友達なのか彼氏なのかよくわからない“ゴースト”のような存在をイメージしました。
ー今回もモデルとなった女の子ありきで進んでいるんですね。
デミデム:2人でアイススケートをしているシーンがあって、女の子が滑り方があまりわからず、転びそうになった彼女の手をメンズモデルが掴んだことがあったんです。何気ないことなんだけど、そういうリアルな瞬間をキャスティングを通して作り出せることがうれしくて。
ーそもそもで、〈ダブレット〉はメンズブランドですよね? 女の子のキャスティングから決まるというのが意外でした。
井野:はい、もともとは(笑)。でも女性の方が買ってくださることもありますし、似合う人に着てもらえればいいやという意識です。前のシーズンなんてモデルは全員女の子ですし。あのときはグラビアっぽいヴィジュアルを目指しました。
ー言われてみればたしかに。メンズブランドだからメンズモデルを使わなきゃという固定概念もないんですね。
井野:わかりやすく言えば、〈リーバイス〉のデニムにメンズレディースという意識はそんなにないと思うんですよ。〈コンバース〉のオールスターに関しても同じ。そういうものに〈ダブレット〉的な解釈を入れて作っている感覚。
ー一見派手に見えて、ベースとなるデザインはスタンダードなものが多いですもんね。
井野:そう、それにアイデアで味付けするイメージです。アイデアをわかりやすく出すためには、ひとさじのユーモアを添えるといいバランスになる。
ーそういえば、井野さんとときを同じくして活躍しているヴァージル・アブローがインタビューで「オリジナルの3%以上はいじらないようにしている」と語っていたのを見かけたことがあります。井野さんにもそういったルールはありますか?
井野:いろいろありますよ。偽物っぽくは作らないとか。例えばさっきの〈リーバイス〉にしても、デニムパンツだったら、ここのポケットのステッチの本数は必ず2本というフォーマットがあるんですよね。そういうところは絶対に破らないようにしています。じゃないと嘘っぽくなっちゃうし、そこをデザインしているとも思われたくないから、ぼくはデザインは極力しない。代わりにアイデアを込める。つまり、“先にデザインをしないこと”が自分のルールなのかもしれません。アイデアを表現するためにデザインすることはいいことですけど。
ー服作りにおいて、デミデムさんに意見を仰ぐことはあるんですか?
井野:ありますよ。ぼくはデミさんだったりPRの方だったり、身の周りにいる人全員にデザインの相談をしています。「これどう思う? 好き? 嫌い?」みたいな(笑)。しかもデミさんはバックボーンが日本じゃないから、海外で育った視点での意見もくれますし。1人より10人、10人より100人。最終的な善し悪しは自分でジャッジしますけど、選択肢は多い方がいいじゃないですか? あとはみんなのことは信頼しているんで。そういう意味では、いまの〈ダブレット〉はチームで作られているとも言えますね。
ー6月にLVMHプライズを受賞できたことは、これまでの積み重ねがあってこそですね。いまインタビューをする以上、そのお話も伺えるとうれしく。受賞した瞬間の率直な感想を教えてください。
井野:なんかすごいことをしてしまったな…と。「俺がもらって大丈夫?」という感じでした。
ー事前に知らされているものではないんですね。
井野:知ったのは、発表の10秒前くらいですね。ちょいちょいと手招きされ、みんなが「誰だ誰だ」とザワつくなかで耳打ちされました(笑)
ー今年のファイナリストには〈エコーズラッタ(ECKHAUS LATTA)〉や〈マシュー・アダムス・ドーラン(MATTHEW ADAMS DOLAN)〉、〈ア コールド ウォール(A-COLD-WALL)〉など、世界的にも注目されているブランドが多かったと思います。そのなかで日本のブランドが受賞したことは、本当に快挙ですよね。
井野:でも、タイミングがよかったんですよ。ヴァージル・アブローが〈ルイ・ヴィトン〉のディレクターに就任したように、いままでやらなかったことにチャレンジしようとするポジティブな空気が流れているじゃないですか? そうでなければ、英語もちゃんとしゃべれない、しかも作っている服もなんかごちゃごちゃしている日本人が選ばれるわけないですから(笑)。
ーそんなご謙遜を…。
井野:だって、自分としても腑に落ちない。「俺のデザインが最高だろ! いちばんいいだろ!」とは…もちろん思ってはいるんですけど、それは他の誰かと比べてではなく、あくまでも自分の作っているものに対してなので。例えるならぼくは蕎麦職人で、他のみなさんはフランス料理のシェフ。そのなかで、たまたま審査員の方々が蕎麦を食べたかったという…。
デミデム:ファッションのサイクルはコントラストで動いていると感じていて、いまはストリートファッションが流行っていますが、遅かれ早かれテーラリングは戻ってくるでしょうし、大小の差はあれどコントラストの繰り返しなんです。だから、トレンドを盲目的に受け入れるのではなくて、このトレンドは自分も受け入れるべきかというポジティブな目線でファッションを見ることが大切なのかなと。ハンバーガーの気分じゃなくなったとしても、なかの肉だけを取って食べる行為はしないじゃないですか? 完全に違うものに目が向く流れは自然なんだと思います。
井野:もちろんタイミングだけではないんですけど、間違いなくそれも大きい。みんな蕎麦嫌いになったらどうしよう…。
ーどうします?
井野:うどん屋になります(笑)
ー(笑)。LVMHの選考って、具体的にはどう進んでいくんですか?
井野:最初は応募するんです。過去3シーズンくらいのルックブックを。その次が合同展示会のようなブース形式になっていて、30名くらいの審査員に対して自分で説明していきます。
ー審査員にも錚々たる方々が名を連ねていますが、印象に残ったやりとりはありましたか?
井野:もう1ヶ月半くらい前の話なので記憶が…。でも、ニコラ(・ジェスキエール)さんとかマーク(・ジェイコブス)さんがいろいろと質問してくださったのはうれしかったです。
ーファイナルは?
井野:最後は、モデル3体分のルックとワンラックに服をかけて見せるプレゼンテーションです。これはデミさんに「スタイリング組んでよ。ラックもなんかいい感じにディスプレイしてみてよ」ってお願いしました。
デミ:個人的に好きなピースを選ぶというよりは歌のメロディーを作る感覚に近くて、左から見ても右から見ても、どこから見てもいい構成を考えました。このシャツの後にこのバックプリントが来たらおもしろいんじゃないかとか。
ー受賞後には、LVMHグループのプログラムも受講するんですよね?
井野:それがまだいまいちわからないんです…。「どうしていきたいの?」とヒアリングされた程度で。向こうを拠点にしているブランドだとサポートしやすいのもあると思うんですけど、ぼくは日本にいますからね。
ーでは具体的なお話はこれからという感じですね。
井野:はい、本当にぼくも把握していないので(笑)
ーLVMHプライズを受賞したいま、それによって井野さんが期待する変化と変わりたくないことを教えてください。
井野:ブランドを知ってもらう起爆剤としてはとてもありがたいことですよね。いまの時代ではセレブが着てくれることで知名度が上がることがよくありますけど、それだとブランドの服そのものではなく、セレブが着ているものが欲しくなっちゃうケースが多いので。
デミデム:たしかに、ギフトとしてセレブに服を送るのは多くのブランドがやっているテクニックではあるけれど、それで〈ダブレット〉が一瞬だけ有名になることは危ない気がします。いまの〈ダブレット〉のまま前に進んでいきたいですよね。
井野:ぼくはギフティングは一回もやったことないんですよ。絶対にお店で買ってほしい。それと比べると、今回の受賞は格段に効果があることだとは感じています。その反面、余計に気をつけないといけないとも思います。この流れに乗って派手なことばかりやっていたらそれをやり続けないとみんなが満足してくれなくなってしまうし、少しでも勢いを落としたら、すぐに「あのブランド調子悪いのかな?」ととられかねない。仮にこれを機にパリでショーを発表するようになったとして、日本で買ってくれる人が何人増えるのかと考えるんです。新しいお客さんが1000人増えて、その人たちが継続的にファンになってくれるのであれば考えますが、そうでもないんじゃないかと。身の丈に合った範囲で、少しずつステップアップしていきたいですね。
 

PROFILE

Demi Demu(左)

スタイリスト。大学でドローイングメディア修士号を取得したのち、ワルシャワにてフリーランスのスタイリスト、プロップスタイリストとして活動。2013年に東京に拠点を移す。
www.demidemu.com

井野将之(右)

「違和感のある日常着」をコンセプトに、2012年にパタンナーの村上高士とともに〈ダブレット〉を設立。2013年のTokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門にて最優秀として選出。その後Tokyo Fashion Award2017にも選出され、パリでの展示会開催及び2017秋冬東京ファッションウィークで初のランウェイショーを開催。2018年にはLVMHプライズでグランプリを受賞した。
doublet-jp.com