コロナとSNSと買い付けと。OZ VINATGE鈴木さんの古着論壇。
THE GENUINE ARTICLE.
コロナとSNSと買い付けと。OZ VINATGE鈴木さんの古着論壇。
2021.03.09
我々を悩ます「コロナ」の言葉を耳にするようになって1年。
海外に行けない、という事実を突きつけられたとき
頭に浮かんだのは自分の旅行うんぬんより
「古着屋さん買い付けはどうなるんだろう」でした。
一方、SNSやECで古着を販売するお店が増えたことで
業界の常識や消費者側の認識が目まぐるしいスピードで変化。
個人的に絶大な信用を寄せているOZ VINTAGEの鈴木里美さんに、
いまの古着業界についてと、読者からの古着への質問を投げかけてみました。
Photo_Atsuko Kitaura
店頭でひさしぶりに服を触るお客様の表情が本当に輝いていて、 こちらも元気をもらいました。
- ー3年前のオープンのときと比べると世の中もガラッと変わりましたね。昨年、OZは緊急事態宣言を受けて初めてインスタグラム上で商品を販売するという試みを行っていましたが、その判断に葛藤があっただろうなと感じていました。
- 対面で販売できない厳しさは痛感しまたね。私はこれまでインスタグラムには何百着あるうちの1枚をアーカイブとして記録したり、「OZはいまこんな感じだよ」とお伝えするために発信していて、それを踏まえたうえで店頭ではさまざまな世界観の服を見ていただきたいと思ってきました。お客様と分断され、それができなくなったとき無力感に襲われて正直いやな気持ちになりました。店頭販売のみというスタンスを崩すことに一瞬悩みましたが、これまでとはまったく違う世界になってしまったなら前よりもっと楽しんでもらえるような発信をしようと思い、撮影をスタートしました。ただ古着が通販に向いているかと言えば、コンディションやサイズがすべて異なることや許容範囲に個人差があったりするので、大きな会社でないかぎりはシステマティックにするにはすごく難しい商材だと思います。実際最初の緊急事態宣言では、古着屋を含む多くの小売店は本当に対応に苦戦していていたので…。やっと6月にお店を再開できたときにはやる気がみなぎってました。
- ーひさしぶりの接客はいかがでしたか?
- 店頭で手にとって服を見られることの喜びをお客様から感じて、すごくうれしかったです。服を選ぶ行為って女性が輝く瞬間のひとつでもあるので、みなさんの表情が心の底から楽しそうで美しく、かわいらしかった。そこに携わることが自分にとって喜びであること、続けていきたいことだと強く思いましたね。
- ー11月には買い付けに行かれていましたね。
- 毎回、お店のキャパシティにはありえない量を買い付けてきていたので、2シーズンは楽しんでいただけるストックが十分にありました。また私の買い付けの基準はトレンドとは別に、ずっと好きでいてもらえるかどうか、繋げる価値のあるものかということを大事にしているところも重要だったと思います。それでも次にいつ買い付けに行けるかわからない焦りはあり、メンズバイヤーたちが渡米し始め、だんだんとアメリカの様子が耳に入ってくるようになり、なかには動揺を誘うだけのガセも出回ったりしました。海外渡航に関しては当然賛否ある状態ですし、リスクもかなり大きい。毎日悩み、徹底して決まりを守るのを大前提に出発しましたが、いつもよりずっと不安と葛藤を感じていました。
- ー実際行ってみていかがでしたか?
- ちょうど大統領選の直前だったこともあり、降り立ってすぐ普段とは違う物々しさを感じました。小心者なのでいつも最大限に気をつけて行きますが、今回は治安が悪化しているとの前情報がありいつも以上に気を引きしめて行動しましたね。空港の職員に長時間尋問され、半泣きにされてからのスタートでしたが、こうして無事帰って来れてます(笑)。過酷さはいつも通りでしたが、久しぶりに広い大地をひとりで車で走った時間や、少しだけビーチを歩いた時間は逃避のようで、いろいろなことから離れられた貴重な時間でした。
- ーこれまでの買い付けとの違いはありました?
- アメリカは州によって考え方や経済活動が本当に異なるので一概には言えませんが、あらゆることが変わっていましたし、世界的にSNSやECの発達によってさらに古いものの価値が高騰したと感じました。古着は数に限りがありますし、価値があがるのは当然ですがネット上ですぐ答え合わせができるようになったので…。玄人しか知りえなかったものが拡散され、そういう貴重なものは値段がすぐ倍々になるようになってしまいました。またコロナによる経済悪化で治安が悪くなり、ヒヤリとする場面も多く眠れない日もありました。私の場合は女1人なのでホテルや車のセキュリティをアップしないといけなくて…。たくさんの要因により物の価値が変化していくことは間違いないと感じています。
- ーお客様の反応はいかがでした?
- いつも帰国後はワクワクとドキドキで破裂しそうなんですが、今回は荷物の到着も遅れ、誰も来てくれなかったらどうしよう。。とかなり弱気になってたんです。でもたくさんの方に見ていただけて、無事にものが集まった安堵感もありましたが、楽しみにしてもらえてたことが何よりでした。こんな時代なのでいつもより励ましや心配をいただきましたし、店頭販売以外の道も開拓したことで遠方の方からもお声をいただいたり、家族のようにおかえりを言ってもらったことが、本当に力になりました。この1年得られたものがたくさんあることを再認識しました。
- ー話は変わりますが、OZのお客様は自分の服を探すのはもちろん、他の方が試着したりお買い物をするのを一緒に楽しんでいるように感じます。
- そうですね。本当に服が好きで丁寧に見てくださる方が多くて、うれしいことにお客様同士でコミュケーションを楽しんでくださったり、知り合ったりすることも珍しくありません。インスタの印象なのか取っ付きずらいと思われがちなんですが、私がそんなにきちんとした性格ではないし気まずいのや堅苦しいのが嫌いなので、全然そういうお店じゃないんです(笑)。よく初めて来ていただいた方に驚かれるくらいです、こんなにしゃべる人なんですねって。純粋にモノを見たいだけという方もたくさんいらっしゃいますし、基本的には相手を尊重して気軽に見てもらって、機会が生まれれば会話も弾めばいいなと思ってます。
- ー大人の古着屋って距離感が近すぎるのも違和感ありますが、かしこまりすぎていても気疲れしますしね。そういう意味でも心地よく、センスと知識に絶大な信頼がおける鈴木さんから購入できるのはありがたいと思っています。
- 自分の年齢や、お客様と接するなかでOZには「ちゃんとした服」を求められてると感じます。お買い物でワクワクはしたいけど、一過性のものはもういらないと思うのは私も同じです。トップブランドのコピーが時差なく作れる時代になって、手のひらの上で最新のトレンドがチェックできるから、おしゃれをするにはとても便利な時代になりましたよね。それでも古着は足を運ばないと見つけられないものばかりです。だから実店舗は、SNSをサーフィンするよりずっと有益なアプローチがあるのが理想だと考えています。
- ー確かに若いときに買った古着を合わせると「おや?」と思うことはよくあります(笑)。
- その経験をしたうえで、“それなりに見える服”ってときめかないし、どこに行っても同じような服しかないなと感じた大人が「テンションあげたい」「挑戦したい」と古着屋に相談してくださるのは嬉しいですね。古着は万人にハマる服ではないですが、似合う1枚が見つかればその人をすごく特別に見せてくれるので。実際に買い付けのときに想像していなかったかわいさに、お客様がフィッティングをすることで気づけたりもしますし。
- ー見つかったときのシンデレラ感は何ものにも代えがたいですよね。
- そう思ってもらえたら古着屋冥利につきます。最近はやりたいことがはっきりしていて、自分自身でセレクトのハードルを上げています。時代背景、縫製、使われてるパーツのセレクト、シルエットや素材など総合的なクオリティに感動できるものがベースにあり、そこに毎回、自分にとっての遊びや挑戦となる意識を強く組み込んでます。
- ー一方で、古着屋が憧れの職業になり起業する人も増えました。
- ひと昔前は古着屋よりデザイナーやブランドの方に断然価値がありましたが、その隔たりはここ数年で薄まってきたと感じます。服を作っている人は古着が好きな人も多いし、リスペクトされるようなお店が多く存在し、たくさんの人に認知されてきたからだと思います。日本の古着屋さんは本当にすばらしいお店ばかりだと思います。
- ーいまは古着屋=イケてるという認識が多くの人にあると思います。
- おっしゃるようにSNS運営の古着屋が増えましたよね。インスタグラムに毎日たくさん古着屋の広告が入ってくるのですごい時代になったなと思います。私も「昔から古着が好きで、まずはリスクのないECのお店をやりたい」と相談されることも有ります。これに関してはどれくらいの真剣度でやりたいかによるので正解はないかと思います。小売業に関わらず新しい流れが随所に出てきてますし、若いパワーも凄く感じます。ただ始めやすく見えますがほかの仕事と同じように続けるのは本当に大変な仕事です。もし実際いろいろ見たり聞いたりしてではなく、SNSで判断しているとしたら危険だと思います。何事もブームが広がると同時に淘汰も始まっているものですし。好きという気持ちは大事な原動力になりますが、仕事とした場合それのみで闘えるわけではないからです。
- ーあと買い付け先を気軽に聞いてくる人も増えましたね。
- それは本当に増えましたね。でもこの職業の大事さを思えばこそ、答えない人が多いんじゃないでしょうか。買い付け先や仕方はその人が自分で切り拓いた貴重な財産なので、友達にも話さないし同業同士でも聞かないのが暗黙のルールと認識しています。あくまで個人的な意見ですが買い付け先に限らず、情報を開示しすぎることにはあまり賛成ではありません。どこに行っても出たとこ勝負で判断力が試されますし、走り回っても結果が出ないことがほとんどどですが、プレッシャーと戦いつつ1着でも多くのいいもの、おもしろいものを見つけるのがバイヤーの醍醐味だと思います。情報を公開したとして同じ仕事ができるわけはありませんが、市場を大事にするならいちばんの企業秘密であるべきところかなと思ってます。
- ーいいものをピックする確かな目が必要ですしね。
- 私自身まだ模索中ですが、個人でひとつのお店を長く続けるためには自分の武器を持つことが必要な職業だと思います。知識と柔軟な発想がないとできない買い付けというものが絶対にあって、知らないと見逃してしまうものや感動できないことがたくさんあるんです。人にとっては無価値なものが自分にとっては最高だったりする。自分のなかのその感覚を大切に愛でるようにしています。
- ー経験がものを言う買い付けということでしょうか。
- そうですね。自分がこれまでなにを見てきて、なにに感激してきたかに直結します。逆に経験があるからこそ拾えないものもあります。古着の概念は曖昧なので、何をどこまでをアリにするかはバイヤーの自由で、そのバランスがお店の個性になると思うんですね。例えば20代には90年代は言わずもがな、2000年代、さらには2010年代も新しいと感じる人もいます。でも数年前まで90年代のものはちょっと難しい…というのが古着屋の共通認識でした。価値の変化と加速がどんどん進んでいます。排除することでそれも個性となるけれど、生活のいろんなきっかけでファッションの感覚は日々更新されていくので、思い込みをしないよう注意しなくてはいけないと自分に言い聞かせたりします。昨日まではナシだったものが、今日はアリになることもザラですから。その人の生きてきた背景でしか集められないジャンルがあるので、それを武器にできたら最高ですよね。
ここからはガールフイナムに届いた古着への一問一答をぶつけます。
- Q.古着屋になるには修行をしなくちゃいけないものでしょうか。
- いまの時代そんなことは全然ないと思います。本当にいろいろなやり方ができるようになったし、私も決してセオリー通りにやってきたわけじゃないし、これからもそのつもりです。これが正しい、近道だってことも絶対ないかと。そして古着屋のゴールが必ずしも独立というわけではなく、独立する人だけが古着屋なわけでは絶対ありません。好きなものとの距離感は人それぞれ、幸せだと思える関わり方はいろいろあります。自分でやるべきなのか、組織で力を発揮するのかを見極めるために働くことも大事だと思いますし、人数がいればおもしろいこともいろいろできます。自分になにができるかを考えること・知ることで養われることも多いし、尊敬できる目上の人がいることは大きな財産になります。ただ働いたからといってなにもかも教えてもらえるわけではなく、いずれにしろ自分でお店をやるときはイチからのスタートです。働いていたお店の買い付け先に行くのはご法度だったり、出店場所も異なるエリアにするのが礼儀です。こういったことはお店の方針にもよりますし、本人の美意識によるところでもあるので正解はないんですけどね。
- Q.古着屋さんの接客が苦手なんですが、上手に回避する方法はありますか?
- 接客、苦手な方多いですよね〜。私も必要以上には声かけないように注意しています、相性もあるし。まずは「ちょっと見てみます」と伝えてもがんがん話しかけてくる人はその店のスタイルか、立地で差があるかと思います。諦めましょう(笑)。せっかくお店に行ったならほしいモノがあるかだけでなく、スタッフさんのファッションやキャラクター、内装やディスプレイなどトータルで興味をもつとおもしろいですよ。感じの悪い人は論外ですが、勉強になることも多いし個人的には接客を受けるのは好きですね。
- Q.ずばり、古着の好きなところは?
- 好きすぎて言語化するのが非常に難しいのですが…。まず前提として、物心ついたときからファッションが好きなんです。その結果、古着に行きついたのはとても自然なことでした。自由度が高くてなににも縛られない、自分の感覚で選び着られること。知れば知るほど魅力が増すこと。現代のパターンでないことなどがどれだけイマジネーションを刺激してくれたかわかりません。
- Q.古着以外で惹かれる服は?
- 作った人に「こんな素敵なものを世に出してくれてありがとう!」という気持ちを抱ける服に惹かれます。時代や作られた過程も大事ですが、古着・新品にかかわらず単純にかっこいいとか興奮するとか、「今日の私いいんじゃない?」と思わせてくれることも大事。あと古着ってずっと生まれるものなので、いまの服を体感して行くことは自分の仕事の未来へ繋がっている気がします。
- Q.古着の知識はどのように身につけるものなのでしょうか。
- 特徴によって、その時代に起きたことがダイレクトに服に反映されるものなので、歴史を知ることが大事ですね。古着の年代で区切るなら1900年以降の話になると思いますが、現代の豊かになる前は戦争があったり(いまもありますが)女性解放運動があったり。人の意識や希望が大きく変わった様子が服に現れています。70年代はヒッピームーブメント、ドラッグの影響など解放的なテンションが奇抜な柄やエスニックアイテムに反映されてます。そこから80年代の強さを誇張したボディコンシャスなシルエット、〈コム・デ・ギャルソン〉の黒の衝撃、90年代にはストリートカルチャーが注目されあらゆる社会現象がファッションに投影されてきました。いまはコロナという世界規模の不安のもとでは、2020年前後は保守的さものづくりと更に強くチャレンジする精神がせめぎ合うかもしれません。デザイン要素意外にも素材やボタン、ファスナー、タグなどさまざまな要素から年代を判別できます。触れたらわかる人も少なくないでしょう。
- Q.セールをする古着屋さんって、値下げするのを前提に値段をつけているんでしょうか。
- すごい質問ですね(笑)。私が答えていいのか分かりませんが、古着、新品の服に限らずすべての物流に当てはまることで、どんなものづくりもあらゆる想定をして価格設定をしています。お店がセールをするのはお客様に喜んでほしいというお店の心意気もあると思うので邪推しないであげてください。価格を決める基準は、店主の経験や価値観によってさまざまで、それは知識だったりセンスだったりします。店舗のあるなしもお客様にとってはもはや関係なくなってきてますよね。古着は、ものをたくさん知ってるから価値を見出すことができれば、知らないが故に高い価格設定になることもあります。その服とお店をかっこいいと思って、信頼できればそれ以外の判断基準はいらないのではないでしょうか。
- Q.次に流行りそうな、買っておくべきアイテムはありますか?
- ネタバレになるので言えませんが(笑)、誰も目をつけていないものを狙うのがいいと思います。せっかく古着をチョイスするなら、「これが流行りそう!」という観点で見るのはナンセンスだと思います。誰かが着ているものは既にみんながほしいものですから、そこときに探してもなかったり、とんでもない値段になっていたりします! 古着屋さんに行ったらかならず1着残らずよく見るようにするだけで、人よりいいものが見つけられると思いますよ。
- Q.古着初心者におすすめのアイテムはありますか?
- レディスの古着は直感で選ぶのがいいと思います。失敗も大事。例えばミリタリーパンツやフィッシャーマンセーターなど、ファッションとしていまも作られつづけているキャッチーなアイコン的アイテムってたくさんあると思います。その本物を古着で探すのはいかがでしょう。理由があり生まれた服なのでクオリティを実感できますし、そういったアイテムは定番化して取り入れやすいので!
- Q.身長150cmでなかなかサイズが合う古着がありません。
- ファッションは心と見た目をぴったり合わせるための、とても自由なものだと思います。メンズアイテムを女性が着るとかわいかったり、小柄な人が大きな服を着ているバランスが素敵、ということってありますよね。長い袖をまくって着ると最高の服もあるし、肩が大きいのが気分のときもある。丈が長ければ詰めればいい。その頭で服を見ると、着られる服がすごく増えます。経験上「やせたら着よう」だけはやめた方がいいと思います(笑)。
いろいろ踏み込んだ話もしましたが、古着の解釈はこれからもどんどん変化していき、新しいものも生まれていくと思います。この不安定な状況下で、古着業界も様々な変化を強いられましたが、だからこそファッションにできることがたくさんあることも実感しました。いままでいろんな方々の努力によって続いてきたこの文化が、なにひとつ欠けることなくこれからも多くの人に楽しんでもらえることを願ってます。折を見て、お気に入りのお店にひさしぶりに行ってみてください!
- 古着、着てね!
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