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TOKYO MAP for GIRL

Vol.2 ヴィンテージショップKALMAの誠実さについて。
Photo_Yuka Uesawa
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次から次へと新しいスポットが誕生し話題になる。
少し目を離しただけであっという間に置いてけぼりになりそうな東京で、
一体どこへ行けばおもしろいことに出会えるのか?
毎月ジャンルに関わらず、ガールフイナム編集部が気になる場所を訪ねます。
今月は下北沢にオープンしたKALMA(カルマ)へ。
知る人ぞ知るヴィンテージショップの魅力に迫ります。

届くべき人のもとに届いてほしい。

東京の街を歩けばヴィンテージショップに当たる。とまではいかないにしても、本当に数え切れないくらい溢れていて、正直もう飽和状態。話題にすらならないうちに数多あるお店の中に埋もれてしまうのではとこちらが心配になるほど。そんな状況にも関わらず、KALMAは人通りが少なく、お世辞にも商売向きとは言えない下北沢の住宅街にひっそりとオープンしました。
なぜこんな場所に? と失礼を承知で聞いてみると、ディレクターである溝口 翼さんが笑いながら答えてくれました。「確かにそう思いますよね。実は場所に対してこだわりは全然なかったんです。でも、“人通りが少ないところ”というのはあえて選んでいます」とのこと。「服ってやっぱりお客様に見てもらえば見てもらうほど消耗するんですよね。うちは結構古いものを多くそろえていて、一番古くて100年前のものも置いています。そうなるとかなり繊細で…。もちろんいろんな人に見てもらえるのは嬉しいけど、闇雲に触られて、生地がダメになってしまうっていうケースもなくはないんです。本来渡るべき人のところに渡らないのはすごく残念なことなので」。商売どうこうという前にまず服に対してとても真摯的な姿勢で、ここにお店を構えているのにはそれなりの理由があるのだなと納得でした。

イメージしたのはロシアの図書館。

もともとメンズとレディス半々くらいのラインナップで営業していたヴィンテージショップHAg-Leが今年10周年を迎えたこともあり、レディス専門の姉妹店としてKALMAのオープンが決まりました。溝口さんが全てディレクションも行ったという内装は、これといった装飾もなくグレーで統一されていてかなりシンプル。一見すると特に凝っている印象もありません。がしかし、そのシンプルで静寂な空間作りにこそ溝口さんのこだわりがあるのです。「例えばギャラリーって作品がメインなわけだから、その空間自体は作品に影響を与えちゃいけないと思うんですよ。作品にとっていい意味でプラスにもマイナスにもならないというか。それと同じで、内装が服に影響を与えてほしくないと思っていて。服を純粋に、フラットに見れる空間にしたかったんです。服本来の見え方というのを一番大事にしています」。

レディスならではの魅力。

KALMAのラインナップは全て溝口さん一人が買い付けをしています。一度の買い付けで何万着という服を見て、そこからKALMAに並べるものを選び抜くわけですが、そのときのポイントや基準について尋ねてみました。「モード好きのお客さんが多いので、それは念頭に置いています。あと、女性の買い付けの場合はトレンドも意識していますね。逆にそれをしっかり汲み取っていかないと、ヴィンテージが本当に古いだけのものに見えてしまうので」。

溝口さんがレディスの買い付けを始めたのは7年前のこと。きっかけは「HAg-Le時代にどうしてもやらざるを得なくて始めただけ」と案外さっぱりしたもので、自ら進んで選択したわけではなかったようです。当時はメンズの方が興味はあったけど、始めてみるとすぐに気持ちが逆転し、いまではレディスのほうが断然おもしろいと言います。「古着ってメンズの場合だと、古くなればなるほどファッションじゃなくなっていくんですよ。ワークウェアとかミリタリーウェアとか、いわゆるアンファッションになっていって。でも、レディスの場合はたとえ100年前の服でもファッションなんです。女性はずっと昔から自分を煌びやかに見せようとしてきましたからね。そういうファッションの歴史が長いぶん、おもしろい服がたくさんあって、きっとあと30年続けても見たことのない服に出会える気がします」。

ここにしかないもの。

世はヴィンテージブームで、なんとなくどこへ行ってもお目当てのものは見つかりそう。それでも溝口さんの買い付ける古着には定評があり、HAg-Leの中に2〜3ラックしかなかった頃からのファンも多い様子。それは独特のセンスはもちろんなのですが、溝口さん自身のヴィンテージに対する解釈も大いに関係ありそう。「ヴィンテージといっても昔の服なわけで、それをいまの時代に着てもすぐにしっくりきたり、すんなりスタイリングができるとは限らないんですよね。むしろ、それが本来のヴィンテージの姿というか。個人的にはパッと見た感じ着にくい、難しそうな服を自分なりに工夫して着た時が他にはない見え方になって、ヴィンテージが一番かっこよく見える瞬間だと思います」。誰でも簡単に着られる服ばかりを集めるのではなく、しっかり当時の空気感をのこした服を優先して買い付ける。そういった考えが反映されたラインナップだから、多くのヴィンテージ好きやファッション好きに支持されているのだと感じました。

変わらず、誠実に。

服について話し出したら止まらない溝口さんですが、実は接客が苦手なんだとか。だた、購入を決めてくれた人には必ずその服の素材や年代、国などを丁寧に説明するようにしているそうです。「古着って価値も不安定だし、保証されているものもないから、最低限自分がどんなものを着ているのかぐらいは知って頂きたいなと思って」。やっぱりどこまでも真摯。ここにしかないセレクト、ここに来ないと出会えないような服があるのはそんな姿勢があるからこそ。服が好きな人のための、服に誠実なヴィンテージショップKALMAはきっと何年経っても変わらずここにあって、ただただまっすぐに古着と向き合っているのだと思います。