いまやアート展示の枠を超え、さまざまな雑誌やブランドとのコラボレーションをこなすイラストレーターancco。最近では国民的アイスクリームとも言える「ピノ」のパッケージデザインにキャラクターデザインを提供したことも記憶に新しいですし、このゆるやかなタッチで描かれる色とりどりのキャラクターたちを一眼見れば「anccoだ！ 」と気づける、そんな人が読者のみなさんのなかでも多数なのではないでしょうか？ とはいえ、そんな最大公約数的な“かわいい”が必要とされる大規模プロジェクトにも参加する側、作品を隅々まで観察するとそれだけでは形容し難い奥行きや、彼女を構築するさまざまな要素が混じり合っているのがおもしろいところ。

そんな彼女の作家としての新たな試みを垣間見られる個展が現在「CALM & PUNK GALLERY」で2月12日（日）まで開催中。展示を構成しているのは、大胆な存在感を放つ約１mの大型陶器作品の他、立体作品と平面作品で、そのほとんどは彼女にとっても初挑戦となった4ヶ月間に渡る「滋賀県立陶芸の森」での滞在制作中に生み出されたもの。これまで画面をコントールして描き出すことで作品を作り出していたanccoにとって、恐いくらいに新しいものであった陶芸。粘土を時間と愛情をかけて成形し、窯に入れて焼き上げる過程を通して、これまで扱ってきた素材のようにはいかないと気づいた彼女は、そのときの葛藤を振り返りながら以下のように語っています。

“陶芸は理想を良くも悪くも打ち消してくる。そもそも強迫観念がつよく、こうでなければならないという気持ちで常にがんじがらめになっている私にとってそれを受けいれることは最初は困難だった。受け入れることの連続。それは自分を受け入れていくことにとても似ていた”

元々の美学は変わらずとも、個人としての内面や葛藤が強くモチーフとして表わすようになった今回の作品群。会場に訪れた際はそんなバックグラウンドにも着目しながら一点一点堪能してみてください。きっと“かわいい”の奥に潜む彼女の軌跡に辿り着くかもしれません。