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New dawn.

次なるフェーズに進むビートメイカーLISACHRIS。
Photo_Yusuke Oishi 
Interview & Text_Shiho Watanabe

YENTOWNやPiscesとしての音楽活動、もちろんDJも。
ガールズカルチャーに触れる環境にいる人なら、
誰もがその名を一度(いやきっと一度どころじゃない)は耳にしたことがあるLISACHRIS。
でも実は、個人の名義で音源を制作するのは、
4月20日にリリースされた『ARIAKE』がはじめてだってご存知でしたか?
自分と向き合う時間を経て、ビートメイカーとしての彼女はさらに進化したようです。

変なビートの世界を知ったきっかけは、高校生のときに聴いたTERRY THE AKI-06。

まずは、“LISACHRIS”となる前のお話から聞かせてください。幼少の頃から海外生活が長かったんですよね?
もともとはニューヨークのクイーンズで生まれました。2歳のときに東京に引っ越して、5歳で次はイギリスに行き、9歳になる前にまた日本に戻ってきて。その後中学1年生のときにアメリカのコネチカット州に行って、中2の頃にまた帰国。そのあとはずっと日本です。
日本国内でも、転校とか引っ越しってドキドキするじゃないですか。ましてや全く環境の異なる海外だと、さらにドキドキというか。新たな環境にビビってしまう事はありませんでしたか?
ありました! 特に、コネチカット州のグリニッジに行ったときはそう思いましたね。グリニッチはすごく素敵なところだったんですけど、そのときは結構日本が恋しくなってしまい。いまはまたあっちに戻りたいなって思いますけど。
子どもの頃から音楽は好きだった?
そうですね。ずっとエンヤとかザ・コアーズが好きで聴いていました。アメリカにいたときはエミネムなども。でも、いまの音楽の好みに行き着いたきっかけは、高校のときに聴いたTERRY THE AKI-06。友達に教えてもらって超ハマったんですけど、変なビートの世界観はそれがきっかけで知ったと思います。
実際に音楽活動を始めたきっかけは?
大学のときにDJを始めたんです。友達からターンテーブルとミキサー、パソコンでDJをやるためのSeratoのインターフェイスを売ってもらって。当時は、大学があった吉祥寺が主な活動範囲で、周りにもDJは結構いましたね。
では、いまのLISACHRISが形成されていったのは主にそのとき?
そうですね、大学時代だと思います。
大学時代は活動範囲も広がって、かなり忙しくしていたんじゃないですか?
ちょうどDJとしてクラブなどで活動し始めた後に、アパレル・ブランドの〈ステューシー(Stussy)〉に入って、そういう(クリエイティヴな)モードになっていきましたね。あと、雑誌『NYLON』のブログを書かせてもらったり。

クルーから離れたからこそ、ひとりのビートメイカーとして作品をつくることができた。

DJを始めたあと、自然にビートメイキングもスタートしていった?
ビートを作り始めたのは22歳の頃かな。PROPERPEDIGREEというクルーを、NOXINはじめ周りにいたみんなと始めて、そのみんながビートを作っていたから、まずはそれに憧れて教えてもらったのがきっかけです。最初はMac BookにAbleton Live(※ビートメイキング用のソフトウェア)を入れてスタートしました。いまはキーボードとかも使っていて、制作環境も進化しています。
その頃はHIPHOPクルーのYENTOWNにもビートメイカーとして所属していたと思うのですが、その経緯を教えてください。
もともとChakiさん(※音楽グループTHE LOWBROWSのメンバーとしても活動していた、プロデューサーのChaki Zulu。YENTOWNにも籍を置く)のことは知っていて、ラッパーのkZmたちともクラブで会ううちに「ビートください」ってやり取りするようになって。それがきっかけでkiLLaクルーに2曲くらい作って、そのあともJUNKMANくんにビートを渡すようになって…そういったことが積み重なって、YENTOWNに加入することになりました。
ビートメイカーとしてキャリアをスタートするにあたって、影響を受けた人はいますか?
CHAKIさんと、WATAPACHIですかね。細かい技術面を教えてもらったり、あとはメンタル面も(笑)
メンタル面はかなり大事な気がします(笑)! そのあとYENTOWNを離れたのも、LISAさんにとっては前向きな方向転換という感じ?
はい。クルーという存在から離れたから自分だけの世界観をより広げて、ひとりのビートメイカーとして作品をつくることができたと思います。

いまの自分のヴァイブスを伝えたかった。

満を持して発表されたEP『ARIAKE』は、結構エッジーでインパクトの強いビートが並んでますよね。収録曲『ru a samurai?』のミュージックビデオも凝っていますし。
MVは監督の神保拓人さんとがんばりました。YENTOWN在籍時に、MONYPETZJNKMN『Spacy』のMVで新保さんのコラージュのような作風を見て「こりゃあいい!」と思っていたことがあるので、今回お願いしたんです。例えば原付に乗っているシーンでは、写真も動画も撮って、素材をいろいろくっつけてもらって。
このMV、バイクのマフラーから煙の代わりにお花が出てくるところなど、とにかくディテールにLISAさんらしさが表れてるなと思ったんです。
そういうところはシンポイズムなんです(笑)。ちゃんと私のキャラを汲み取ってくれて。最後は八咫烏っていう三本足のカラスが出てくるんですけど、これはいろんな国の神話に出てくるカラスなんです。ずっと好きで、シンポさんに「絶対出してね!」ってお願いしました。
ちなみに、EP全体のコンセプトはありますか?
自分が本当に作りたいものを精一杯やろうと思って作った内容になってはいます。コンセプトは、打ち込み手法と電子音でしか出せない楽しさや冷たいクレイジーさ、スペイシーな音を表現すること。完全に新感覚な作品を出したかったんですよね。
これまでLISAさんがラッパーに提供してきたビートや、Soundcludなどにアップしていたビートとは少し趣が異なりますよね。以前までは、神秘的で酩酊感を感じるような印象だったのですが、今回はよりコンストラクティヴいうか、トラックの構成もとても組入っていて、進化していると感じました。
そこはがんばりましたね。いままでに出してきたビートとはちょっとズラした観点で聴いてほしいという想いで作っていきました。あと、ビートだけで聴かせるにはどうすればいいんだろうとも考えていたので、時間もかかっています。当初、このEPは2月に出そうと思っていたんですけど、すごくギリギリまで作業してしまって、結果的に4月のリリースになりました。
ラッパーなどの客演が誰もおらず、LISAさんのビートだけ、という構成もおもしろかったです。
そうですね。一度そのスタイルでやってみたくて。いまの自分のヴァイブスを伝えたかったので、まず、第一段階は(内側にあるものを)出し切りました。

「聴いたよ」って言ってくれるときの表情を見ると、うれしい。

デビューEPが発表されたばかりですが、次の予定はすでにある?
次作はこれから取りかかるんですけど、またインストのビート集を出したいですね。あと、『ARIAKE』の制作を経てビートの作り方がさらに分かってきたので、今後はラッパーに提供する作品にしても、いままでとは変わったものが作れるんじゃないかなと私自身感じています。
音楽のほか、ファッション面などにも通じる部分だと思うのですが、LISAさんの作品はエッジーな感覚がありながらも、どこかレイドバックしていたり、レトロな趣があったりすると感じています。自分のセンスの源は一体どこから来ていると思いますか?
自分の日々のこととか、景色とか緑とかですかね…。あとは友達です。
LISAさんといえば、宮本彩菜さんとの音楽ユニットPiscesとしても活動されています。個性的なMVも多くて、こちらも目が離せないのですが。
彩菜とはいま近くに住んでるんですけど、大体は宅飲みして二人で色んなことを話したり、犬や猫と遊んだりしながら、ノリで作品をつくっています。Piscesでは、2人で曲を出しつつ動画も出していて、良きタイミングでライブもしたいなと考え中。いつかまとまった音源も出したいなと思ってるんですけど、すごくスローペースで進んでいるんですよね。
こうしてアーティスト活動が多岐にわたっていくなかで、心境の変化などはありますか?
私のリスナーは、主に中高生から自分の年齢辺りの子がメインなんですけど、みんなに(自分の作品が)届いてるんだなって実感しています。「だから他のアーティストの人って、あんなにがんばってリリースを繰り返すんだ」って理由が分かったというか。
いまはソーシャル・メディアも発達しているし、その年代のファンの方からダイレクトに感想をもらうことも多そうですね。
そうですね。iTunesで私の曲を聴いている画面をスクショしてDMを送ってくれる子もいて。あと、「聴いたよ」って言ってくれるときの表情とかを見ると、うれしいですね。「私がちょっとはヴァイブスを注入できたかな」と感じられるんです。

Tychoみたいな、いろんなことをやれるアーティストになりたい。

今後のヴィジョンなどはありますか?
若いうちは、このままクラブでかかるような曲を作っていきたいですね。でも、ゆくゆくは映画の曲も作っていきたい。音楽活動を主軸にしていきたいです。
最近、よく聴いているアーティストなどがいたら教えてください。
私、最終的にはTychoみたいにいろんなことをやれるアーティストになりたいんです。なので、最近はTychoと、あとはラッパーのXXX Tentacionとか、great daneというビートメイカーの作品を聴いていますね。
LISAさんのように、夢を追いかけている『ガールフイナム』の読者に一言メッセージをいただけますか。
長く続けることです。とりあえず、自分を信じて。