GCC拡大版! アレックス・ガーランド監督がMENに込めた想いとは。
Curious Same Faces.
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アレックス・ガーランド監督がMENに込めた想いとは。
2022.12.09
『エクス・マキナ』などクールなSF映画を手がけてきた鬼才、アレックス・ガーランド監督。
A24製作の新作『MEN 同じ顔の男たち』は、モラハラ夫の死を目撃してしまった主人公が、
心の傷を癒すために出かけたカントリーハウスで怪異に出遭うホラー。
男性の無神経なハラスメントなど、私たちが日常感じるモヤりが緊迫感を盛り上げる新感覚ホラーです。
日本での劇場公開を12月9日に控え、監督にオンラインインタビューしました!
Text_Kyoko Endo
- ―日本でも都会から地方に行くと女性への嫌悪感を感じることがあります。嫌悪感を受けたときに感じる不安感を膨らませると『MEN 同じ顔の男たち』につながるのではないかと感じました。監督は男性ですが、女性のそうした感覚をどのように取り入れたのですか。
- スクリプトは女性じゃなく男性の視点で書いていたんですが、僕は男だけど、こういうことはものすごく無知な男性がやりがちなことだと思うんです。たとえば、僕が夜道を歩いていて前を女性が歩いていたとする、その女性と同じ方向に歩いていくと、彼女は僕のことをちょっと警戒したり心配しているだろうとわかりますよね。それで僕は多くのほかの男たちがやるように、道を渡ったり早く歩いて彼女を追い越したりします。そうすれば彼女は尾けられてるとか思わないですむし、よくあるいろんなことを心配しないですむ。そういうことに気がつかないような男は、ちゃんと鏡を見ろよって、自覚して考えて行動しないとだめですよね。でも推測ですけど、男はほぼほぼみんな気がついているけど、なかにはわざわざ怖がらせようとしてそういうことをする奴もいるんですよ。女性が不安を感じている場で、女性側が不安を打ち消すために何をしようがあまり意味がないんです。あなたはよくご存知だと思いますけど。
- ―『エクス・マキナ』は女性アンドロイドの集団に男性が殺される物語で、男性の集団に女性が危機に陥れられる本作と対になっているように感じました。『エクス・マキナ』を撮ったとき、すでにこの作品の構想があったのでしょうか。
- じつは『MEN 同じ顔の男たち』の最初の脚本は2005年か2006年に書いたんです。かなり昔のことです。それから3、4回映画化しようとしたけど資金集めがうまくいかなかったんです。
- ―どういうことですか?
- それは…うーん、僕は映画業界で働くようになって20年以上になるけど、その20年間で業界がすごく変わったんです。僕がもっと若かったころは、普通はアメリカの映画会社――ディズニー、フォックス、ユニバーサル、ワーナー・ブラザーズ、ソニーといった巨大映画会社で資金集めしなければならなかったんです。そういう巨大映画会社が業界を牛耳っていて、僕はそういう会社で映画を撮ることができはしたけれども、たいていテーマについて説得しなくてはならなくて、撮りたい映画を撮るのは結構大変でした。撮りたい映画のアイディアを、うまく忍び込ませなければならなかったんです。だから僕が脚本を書いた初期の作品『28日後…』や『サンシャイン2057』なんかはテーマがあっても、ある意味、それは隠されてるんです。ところが過去8年くらいで映画業界は大きく変わってきました。ネットフリックス、アマゾン、アップルTV、それにいまはディズニーも…配信が出てきてすべてが大きく変わりました。映画会社は昔ほど影響力がなくなりました。かなりなくなったと思います。昔は大会社がすべてを独占していたけれど、ギャップがあちこちにあったんです。同時に小規模な映画配給会社が出てきました。A24とかMe+Youとかどんな会社でも、大会社が作りたがらない映画にとってはいいことでした。『エクス・マキナ』は大会社用に書いたんですが、お金も出してくれたのに出来上がったころになって「うちはいらない」と言われました。でもA24が「うちはほしいです」と言ってくれて、公開できたんです。こんなことがあちこちにあった後で知りました。まるで花が一斉に咲いたようでした。映画配給について(大会社とは)まったく違う考え方の会社が出てきたんです。そうしてA24が誰も想像しなかったような大成功を遂げたので、大会社が彼らのコピーみたいなものを作るようになりましたよね。大会社は以前より企画についてもちゃんと聞いてくれるようになりましたけど、ちょっと業界の変化に対応するには、配信業者とやっていく道を学ばなくなったいまとしては遅かった。業界全体が時代に遅れないよう変わらなくてはいけなくなったんです。だからよかったんです、配信業者と仕事するようになって。昔は映画会社が資金を出してくれないとなったらそれはどこも出してくれないということでした。
- ―資金集め以外にme-tooムーブメントも、こうした女性の恐怖に焦点を当てた映画の製作に影響しましたか?
- 疑問の余地はないですね。その通りです。Me-tooムーブメントは映画業界に多大な影響を及ぼしたと思います。あまりにも影響が大きかったので、巨大映画会社がいまはme-tooのルールでマーケティングをするようになって、ある意味ほとんどマーケティングツールみたいになっている。皮肉なことですけど。よく思うんですけど、映画業界がトガってたりクールだったりするのは早く動くことを求められているからなんじゃないかと。乗り遅れないようにしなきゃいけなかったり、謝罪しないといけない危機みたいなものがあったからじゃないかと思うんですよね。実際に起きたことをかなり簡略化して話しますが、ざっくりいって、me-tooはこの映画を撮るのに100%効果がありました。
- ―友人のライリーの登場に救いが暗示されます。彼女が妊娠していることにはどんな意味があるのですか。
- じつをいうと、すごくプライベートなメッセージだったんです。僕はたまにプライベートなメッセージを映画に入れこむことがあるんです。映画っていうのはパブリックなものでもあるけれど奇妙なことにとても私的なものでもあって、映画の中にあるのがすべて理解できるかと言えば、身近な人へのプライベートなメッセージがこめられていることもあるんですよね。じつはこれは友だちへのメッセージだったんです。特にハーパーがiPadを持って家を見せているところなんかもそうでした。これについて話すのは初めてです。完全にプライベートなメッセージですが、本気で子どもをもちたいと思ったら、男は必要ないよね、ただ子どもをもてばいいよねって意味でした。男なんて必要なくて、法的にもそれは可能なんです。映画の終わりがたった一人の友人へのメッセージで、それを私的に送ったようなことなんですが、それをいまインタビューで初めて話している。奇妙な感じですが、いままで誰もこのことを聞かなかったんです。
- ―出産シーンがホラー的に描かれるので、妊娠にポジティブなイメージを取り戻すためなのかと思ったんです。
- それもありました。ベストシーンはある種、悪夢がより悪くなったようなものだと思います。でも、僕には子どもが二人いますけど、どちらの出産も血まみれでとっ散らかってて痛い、でも完全に驚くべき素晴らしい体験でもあったんですよ。つまり僕は映画のラストには希望があって美しいメッセージ、愛とか微笑みとか友情のメッセージを入れたかったんです。作品の中の出産シーンは悪夢だけど、これはあなたの出産じゃないよと。それでここに、妊娠5ヶ月半か6ヶ月くらいの若い女性が出てくる。でも正直言って、おもにプライベートな友だちへの通信で(笑)僕にとっては映画を撮ること自体にそういう部分があって、そういうクレイジーなものが出ちゃったってことなんです。
- ―彫像にあたる光で見え方が変わったり、たんぽぽの綿毛への焦点が変わるなどのカメラワークは、視点を変えると見方が変わると伝えているかのように感じられます。撮影についてクルーにどのように撮ってほしいと伝えたのでしょうか。
- その通り、違う視点からは何を見ても見方が変わるってことを伝えたかったんです。ロブ(・ハーディ、撮影監督)とは多くの映画を撮ってきました。『エクス・マキナ』『アナイアレイション―全滅領域―』『Devs』『MEN 同じ顔の男たち』、それから『The Civil War』という映画をロブと撮り終わったところで、いま編集中でポストプロダクションに入ったところです。僕がよく興味を持つのは、リリカルで詩的な美しさを見出すこと、それか逆にショッキングで見入ってしまうようなもの、ときには森の中にあるような本当にただただ美しいもの。僕らはフレーミングや美的センスでも似た好みがあるので、ロブとは簡単に分かり合えるんです。劇中で登場するのはイングランドの中世の教会でよく見かけるグリーンマンとかシーラ・ナ・ギグという彫刻ですが、これは言葉が書かれるより前から存在していて(イングランドの)キリスト教会より古いんです。しかも僕らは本当にはこれが何を意味するのかは知らない。現代の意味づけは現代人がそう解釈したというだけなんです。だから1100年前にこれを彫った人がまったく違う意図だった可能性だってある。人はこれを解釈しようとしますが結局推察しかできない。誰もこれが何を意味していてなぜ彫られたか知らないからです。僕はこれを違う形で見せたくて、というのもたまにこれを見ると、ちょっと待ってて…(席を立ちレリーフを持って戻ってくる)これは本物の中世の彫刻です。これは完璧なサンプルになりますね。ほら、これは怒っているようにも悲しんでるようにも、面白がっているようにも見えますよね。実際に僕は彼がどう見えるか、どういうライティングが効果があるか試してみたんです。ほら、ライティングを変えるとこちらからはこんな感じ、違う方向からは違う感じに見えるでしょう。でも本当に、こういうものがなんなのかは、もっと根本的な――すごく古い時代のもので、神秘的で変わったものだってことなんです。古くて謎に満ちていて奇妙。僕は観客にこういう彫刻のこういういろいろな面をただ経験してほしかったんです。すごく大事なことだと思います。これが理解できないということが大事なんです。できることはこれに反応することだけ。わかることなんてあり得ない。というのも、誰が何を言おうと、なぜこれが彫られたのか、どんな意図でこれを彫ったのかは知り得ない、これが図像学に現れるよりずっと古い時代のものだからです。
- ―じゃあすみません。最後の質問です。『MEN 同じ顔の男たち』は束縛や脅迫など間違った愛し方を示した映画でもあると思います。それでうかがいたいのですが、監督にとって理想的なのはどのような愛し方ですか。
- えっ、それは…それはわかりません。僕は52歳で、生きてきたなかでずっと考えてきました。すぐに心に浮かんだのは親切でいるってことですが、でも親切だって問題になりかねない。親切っていうのは…真実は…リアルな答えは、まったく終わりがなく複雑で、できるだけのことをするしかない。でもこれがいちばん正直な答えです。でも僕はときどき、子どもたちやパートナーからなにもかも誤解されてしまうことがあります。すごくいい意図でやろうとしたことが、失敗してしまうこともある。中年になって思うのは、そういうことを何度も目の当たりにしてきたなと。善良な人々がすごく良い意志を持ってやったことなのに、気づくと抜き差しならない状態にはまりこんでいるっていうのは…僕が思うに、最終的には、たぶんいちばんいいのはお互いを理解しようとすることなんでしょう。いや、それにしてもなんてややこしい質問なんだ。日々そういうことばかりですよ。子どもたちやパートナーと、毎日。
- ―私もです。
- ははははは!
- ―ありがとうございました。
- 質問をありがとう。
『MEN 同じ顔の男たち』
(2022/イギリス/100分)監督:アレックス・ガーランド
出演:ジェシー・バックリー、ロリー・キニア
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©️2022MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
12月9日(金)より全国ロードショー
公式サイト
PROFILE
遠藤 京子
東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』、『BANGER!!!』に寄稿。Instagram @cinema_with_kyoko
Twitter @cinemawithkyoko