上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。 #120『そして彼女たちは』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。   #120『そして彼女たちは』 上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。   #120『そして彼女たちは』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#120『そして彼女たちは』

2026.03.25

実際に見て面白かった映画しか紹介しないコラム。
アカデミー賞は作品賞が『ワン・バトル・アフター・アナザー』、監督賞が『罪人たち』と
すごく納得いく結果を見てこの原稿を書いているところですが、カンヌも忘れたくない。
今回ご紹介する『そして彼女たちは』は名匠の脚本賞とエキュメニカル審査員賞受賞作で、
妊娠してしまったティーンの群像劇。何より感動的かつ爽快感がある傑作だからこそご紹介したいのです。

Text: Kyoko Endo

ティーンの妊娠、喜べますか

まずこの映画を見るべきなのは、これがダルデンヌ兄弟監督作だから。ダルデンヌ兄弟といえば、カンヌで2回パルムドールを受賞している8組の監督の中の1組(というか、このご兄弟がいるから監督を人数で数えられない……)。
カンヌとかアカデミーとか権威ばかり持ち出したくないけど、やっぱり国際的に活躍する映画人が集まる場で評価されているってことは重要だと思います。

ダルデンヌ兄弟はドキュメンタリー出身で、その後フィクション映画を撮るようになったのですが、確固たるリベラルで監督だけじゃなく『しあわせな選択』原作の最初の映画化コスタ・ガヴラス監督の『斧』や日本ではいよいよ4月末に公開になるケン・ローチ監督の『オールド・オーク』のプロデュースも手がけています。

自分たちもベルギーの労働者階級の人々や移民の人々を主人公にした作品を作ってきていて、最初にカンヌでパルムドールを獲得した『ロゼッタ』の影響で本国ベルギーで青少年労働者に雇用機会を得やすくする法律が通過したと言われています。ジャン=ピエール監督は法案はもともとあったしタイミングが映画の公開と合っただけとコメントしていますが、なかなか通過しなかった法案を成立させる世論を高めたのでは。

『そして彼女たちは』は原題がJeunes Mères、英題はそのままYoung Mothersなんですが、youngって日本語ではよく若いって訳されてるけど、文脈によっては幼いってことでyoung babyとかいいますね。フランス語のjeuneも同じだからこの映画のタイトルも若い母親ではないと思う。この映画に出てくる“母親”たちは15歳から18歳なんです。

物語は中学生ぐらいの女子がバス停で中年の女性に話しかけるけれど、なんかがっかりして帰ってくる描写から始まります。彼女の名はジェシカ。帰った場所は幼くして妊娠してしまった少女を保護する施設。食事当番の話をしながら「明日は何にする? ボロネーゼ?」「食べたばっかり。トマトファルシは?」と着々と献立が決まって、みんなが助けあって上手に暮らしていることがわかります。

続いて、別の女子、ペルラが少年院から出所してきた彼氏に会うシーン。もうここで同年齢の男子の幼さ――というか、本来妊娠しなければ彼女たち自身もそうであったろう幼さ――に観客は気づかされてびっくりするわけですが、この彼氏がペルラの妊娠を自分の母親に伝えていないという。自分のことだけで頭がいっぱいで、ペルラが探してきた新しい住まいにも文句たらたら。それなのに彼女は少年の気持ちを繋ぎ止めようと必死なんです。これでは幼い彼女が母親がわりみたいになってしまいます。

最初に登場したジェシカは、自分も母に捨てられた過去があって、がっかりしていたのはその母に会えると思っていたのに約束をすっぽかされたからでした。自分は母親とは違うと子どもを産んでかわいがろうと思っていたけど、やっぱり準備ができる前に生まれてくる子どもをかわいいと思えない。ほかにも、孫が生まれることに自分の人生のやり直しをかけてしまっている毒母がいるアリアンヌとか、親から虐待されドラッグの問題を抱えているジュリーがいて、みんなが何らかの問題と闘っている様子が、ドキュメンタリーのようなリアルさで描かれています。

でもここの施設では絶望的な孤独には陥らない。彼女たち自身が助けあったり、親に仕事があったころに健全に育った姉がいたり、彼氏も全員がろくでなしでもなかったりします。本当に選んだ男次第で人生天国と地獄の差だってことも浮き彫りに。これは資力とかそういうことではなく人間性の問題ですね。施設の職員たちも、毒母から彼女たちを守ってくれたり献身的に働いてくれます。養子に出した子どもにも将来会ってもいい。

しかしこういう映画を見たとき日本ってどうなってるんだろうといつも思います。母子支援施設で必須の存在である母子支援員さんが会計年度任用。つまり非常勤扱いで、そうすると資格も必要な大切な職業なのに賃金も抑えられて待遇も悪くなってしまって成り手が減ってしまいますよね。何より、年度ごと採用では継続して面倒を見るのが大変な状況に。

そもそも未婚の妊娠ってことが社会全体であんまりちゃんと考えられていない。成人してたってシングルマザーは自己責任で放置されていて、生活保護を受けようものなら大バッシング。カタツムリじゃあるまいし女子一人で妊娠したわけじゃない。必ず男がいるんだけど、意に沿わない結婚させればDVやモラハラに向かっていくだろうし、結婚させればいいというものでもないと思います。妊娠した女性がパートナーがいなくても健康で文化的な最低限度の生活が送れるような行政でなくては、子どもの数なんか増えるわけがないのです。

妊娠が災難にしかならないなら産む人は減る。当たり前のことです。先進国のなかでは性と生殖に関する権利(リプロの権利、またはSRHR)が保証されている国でしか子どもの数は増えていません。女性の人権が軽んじられる国では子どもは増えません。この映画の舞台、ベルギーはヨーロッパの中でも先進的だと言われていてこういう施設もあるのですが、それでもまだ偏見や貧困やドラッグで大変な思いをする女子たちを私たちは目の当たりにすることになるわけで……。映画を楽しみつつリアリティチェックするのは一石二鳥かなと思いますよ。

『そして彼女たちは』

監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:バベット・ヴェルベーク、エルザ・ウーベン、ジャナイナ・アロワ・フォワカン、リュシー・ラリュエル(2025/ベルギー、フランス/104分)
配給:ビターズ・エンド
3月27日(金)より全国ロードショー
ⓒLes Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange – Proximus – RTBF (Télévision belge) / PhotoⓒChristine Plenus

『そして彼女たちは』だけじゃない! そのほかのおすすめ映画

今回、長い文章で紹介したい傑作だらけ。アカデミー賞授賞式開催月ならではの豪華さですが、当コーナーではインディーズもドキュメンタリーも知られざる過去の傑作も紹介してまいる所存。やっぱ多様性&ピースでしょ。

ハムネット

深く書くにはネタバレ必須なのでやむなくコーナーで紹介しますが、大切な人の死を人が乗り越える瞬間を描いたのがこの映画の凄みとキモ。アカデミー賞主演女優賞を受賞したジェシー・バックリーの演技はもちろん、監督・共同脚本・制作総指揮のクロエ・ジャオの手腕が見事。4月10日公開

OCHI!-オチ-

これも本編で紹介したいほどかわいい!A24のファンタジー。寒村で恐れられ討伐隊まで結成されている森の不思議な動物オチ。でもオチの子どもに出会った少女はとても恐ろしい動物とは思えなくて……本当に大切なことをシンプルにチャーミングに描いた傑作。4月3日公開

落下音

北ドイツの同じ村、違う年代に生きる少女たちを描いて、すべて女子が置かれた状況はホラーのように不条理だということを示す美しい映画。なんとこれが長編デビューの才能、マーシャ・シリンスキ監督は要チェックですよ。4月3日公開

マーティ・シュプリーム 世界をつかめ

実力は確かにあるけれど言動や人間性は最悪な卓球プレイヤーという、いままでにない最低男の役をティモシー・シャラメが熱演! ていうか、こんな役を演じてもチャーミングなのはシャラメだけ。キャスティングと演出が素晴らしいジョシュ・サフディ監督の真骨頂。公開中

長浜

滋賀県長浜市の文化遺産である子ども歌舞伎。主役に抜擢された帰国子女の伊吹と、女子だから稽古に参加させてもらえない花。伊吹は日本に馴染めていず、花は性別違和に悩んでいました。子どもの目を通して人と人とのつながりを丁寧に描いた、谷口未央監督の秀作。公開中

決断するとき

修道院直轄の女性施設マグダレン洗濯所で実際に起きた収容者虐待事件をもとにした物語『ほんのささいなこと』が原作。地域を支配している圧倒的な権力者の暴力を知ってしまったとき、犠牲者を目の前にして不正を見過ごせるのかを問う必見作です。公開中

自然は君に何を語るのか

彼女を実家に送ってきたドンファはそんなつもりもないまま彼女の父に会い、そのまま家族に紹介されることに。ミニマリスト男子は親世代に理解されるのでしょうか。新作5本を5か月連続で公開してきた「月刊ホン・サンス」掉尾を飾るユーモラスなドラマ。公開中

私たちの話し方

人工内耳手術で聞こえる人もいるが手術が合わない人もいる、手話に誇りがあり自分の言語を守りたい人もいる。聴者が考えるほど簡単ではないろうの人々の多様性を背景にした青春映画。“普通”ってそもそもなんなのかってことについても考えさせられる珠玉作です。3月27日公開

ライフテープ

希少難病の子どもがいる家族の記録と聞けば、派手に演出された物語を予想して引く人がいるかもしれませんが、そこはこのコーナーがいままで選んできた映画の精度を信頼してほしいです。人生を意味あるものにするのは自分自身だとリアルに示す、凄いドキュメンタリー。3月28日公開

火葬人 

映画大国、チェコの知られざる傑作群を劇場で見るチャンス。普通のおやっさんがどんどんナチスに傾倒していってついに…って、ブラックコメディというよりホラーな『火葬人』や、『ひなぎく 4K』美術監督の協力もあった『夜のダイヤモンド』など、チェコでも長らく上映禁止だった作品も。4月10日公開

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。
出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』、『RiCE』、『BANGER!!!』に寄稿。

Instagram @ cinema_with_kyoko
Twitter @ cinemawithkyoko
  1. HOME
  2. FEATURE
  3. Culture
  4. 上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。 #120『そして彼女たちは』