上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。 #124『美しく、黙りなさい』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。   #124『美しく、黙りなさい』 上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。   #124『美しく、黙りなさい』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#124『美しく、黙りなさい』

2026.07.22

実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
今回ご紹介するのは『美しく、黙りなさい』。
白黒で地味なドキュメンタリーに見えるかもしれないけど、心からおすすめします。
洗脳からの解放映画でニナ・メンケスの『ブレインウォッシュ』同様、ワクチン効果があります。
あと、当時の女優さんたちが置かれた姿からいまの日本の私たちが置かれた状況も見えてくる。
ジェンダー平等がずるずる後退中の日本で、女優という言葉にモヤる人こそ必見。

Text: Kyoko Endo

ソフト化も配信もなし!『ジャンヌ・ディエルマン』主演女優デルフィーヌ・セリッグが撮った女優たちの「わきまえないわ」宣言映画

いやだって、私たち女子じゃないですか(ジェーン・スー先生にいつまでそう名乗るつもりか問いつめられそうだが一応)。やはりジェンダーギャップ問題は当事者が発言するべきだし、おっさんどもは『ブレインウォッシュ』みたいな秀作見ても攻撃されてると悩んだりするし自称フェミ男子も煮え切らないんだから、フェミ系ドキュメンタリーは女子にこそじゃんじゃん紹介したい所存です。こういう映画見てモヤりを言語化しないと女子側の武器が増えないんだよ。ただでさえ家父長制おっさんと傀儡おばはんのおかげで社会が進歩しなくて日本経済も衰退の一途なんですよ。

©Sois belle et tais-toi ! / Delphine Seyrig, 1976 / Centre audiovisuel Simone de Beauvoir

というわけで『美しく、黙りなさい』。これ、昔の芸能界で女優たちが「美しい姿でいろ、文句言うな」と圧力かけられたときの常套句を意図的にタイトルにしているのね。つまり「わきまえないわ」宣言。こんなかっこいいタイトルのかっこいいドキュメンタリーを撮ったのは、デルフィーヌ・セリッグ。なんといまから50年前の1975年に撮影を開始していたんです。

デルフィーヌの代表作は『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』。1976年の公開時よりも後年になるほど評価が高まり、2022年のサイト・アンド・サウンド誌が全時代の最も偉大な映画1位に選出。生活の手段がないから仕方なく売春しながら息子を育てているけれど息子も含めた男性にひたすら搾取され抑圧され壊れていく女性を演じて世界に衝撃を与えました。

『美しく、黙りなさい』撮影当時は女性の役割や女優業について語ることは「まだ非常に反体制的な試み」だったとデルフィーヌの息子のダンカンさんがインタビューに答えていますが、それでもゴダールの女神だったアンヌ・ヴィアゼムスキーやウォーホルの作品に出演していたヴィヴァなどのカルチャーアイコンからハリウッドスターのジェーン・フォンダまで23人の俳優の証言が記録されています(シャーリー・マクレーンのみテレビのインタビューの再録)。

©Sois belle et tais-toi ! / Delphine Seyrig, 1976 / Centre audiovisuel Simone de Beauvoir

© Archives Atalante and Roussopoulos Family Archives / Centre audiovisuel Simone de Beauvoir

質問はたったふたつ「もしあなたが男性だったとしても、この職業を選びましたか?」と「ほかの女優と友好的な場面を演じたことがありますか?」キラークエスチョンが2問あれば、こんなにおもしろい映画が撮れるんですね。インタビュー主体のドキュメンタリーのお手本のような映画でもあります。あんなにかわいかったジェーン・フォンダが整形しろと言われたなんて、びっくりするような証言も飛び出します。

さらにこの映画のおもしろいとこは、名監督と言われてきた男性監督の器の大きさもわかっちゃうところ。マリー・デュボワの「本当に女性が好きなら自分と対等の女性と向き合えるはず 自分が弱いから強い女性を怖れている」は至言。そうなんだよな、知性ってかっこいいし、かっこいい女の子とつきあってる子ってかっこいいじゃん。そういう意味で評価を下げたのは……本作を見てチェックしてみてくださいな。

© Archives Atalante and Roussopoulos Family Archives / Centre audiovisuel Simone de Beauvoir

逆に器も大きかったことがわかってさらに評価が高まりそうなのがトリュフォー先生とジャック・リヴェット。天才の孤独なクリエイションを描いた『ヌーヴェルヴァーグ』の主人公ゴダールは、じつは元妻や俳優たちからの評判が良いとは言えない(それでも『ヌーヴェルヴァーグ』はすごくおもしろい映画だし、ヌーヴェルヴァーグはデザイン系の人は履修しとくべきだと思います)けど、フランソワ・トリュフォーに関しては悪い評判が見当たらないんですよね。

トリュフォーは『グッバイ!ゴダール』などゴダール周辺の伝記映画でも温厚な常識人として描かれています。昭和の文化では温厚とかまっとうであることって揶揄されることが多かったけど、もうそういう時代じゃないですね。マリー・デュボワは「トリュフォーは『女性たちが自分で手綱を取るべきだ』と言っていた」と証言してます。またジュリエット・ベルトによればジャック・リヴェットは「女性的感性を持っていて脚本も即興ですべてやらせてくれた」そう。

おっさんの旧悪がバレたり過去の善行が改めて表に出てきたり、真実って半世紀もすると表に出てくるものなんですが、これから半世紀待つつもりもないんで、どんなのが家父長制洗脳映画か選択眼を養うためにも劇場へGO!ですよ。ちなみに本作、修復の趣旨から日本ではソフト化も配信もされないので本当に劇場でしか見るチャンスないんです。あと政治家って数十年で忘れ去られるけど映画監督って100年後にも名前が残る。邦画の監督も臆せずいいフェミ映画ガンガン撮ってほしいです。

『美しく、黙りなさい』

監督&インタビュアー:デルフィーヌ・セリッグ
出演:ジェーン・フォンダ、シャーリー・マクレーン、マリア・シュナイダーほか
(1976/フランス/112分)
配給:ムヴィオラ
7 月 24 日(金) Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下 ほかロードショー 全国順次公開

『美しく、黙りなさい』だけじゃない! そのほかのおすすめ映画

ドキュメンタリー多め+フィクションも実話からインスパイアされた作品ばかり。完全なフィクションはホラーのみとなりました。事実は小説より奇なりということ? 「こんなこと知らなかった!」と埋もれた事実を知るスリルを味わってください。

デッドマンズ ワイヤー

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叛逆のサウンドトラック

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PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。
出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』、『RiCE』、『BANGER!!!』に寄稿。

Instagram @ cinema_with_kyoko
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