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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#23『ある少年の告白』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#23『ある少年の告白』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#23『ある少年の告白』

2019.04.26

実際に観ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
プレスリリース引き写しのサイトでは読めない情報をお届けします。
今回ご紹介するのは『ある少年の告白』。ルーカス・ヘッジズ主演、ジョエル・エドガートン監督で
アメリカにいまなおはびこるゲイ矯正治療の害悪とそのトラウマから復活した家族を描く人間ドラマ。
しかしこういう映画を見ると、あのー、いまって21世紀なんでしたよね? と確認したくなりますね…。

Text_Kyoko Endo

トロイ・シヴァンも出演を熱望した作品。

アーカンソー州。母親が運転する車に、ハイティーンの少年が乗っている。母親はなんだかナーバスで少年はiPodを使っていて…母親が少年をゲイ矯正施設に送っていくところからこの映画は始まります。ゲイ矯正? なに? と驚く人も多いでしょう。進化論を信じない人が住む国アメリカでは、科学的根拠もなくゲイは治せる病気だと思い込んでいる人がまだいて、そんな洗脳キャンプがビジネスになっているのです。この映画の原作は2000年代にそこにぶち込まれた人の実話。これは公民権運動のころとかじゃなくて、ついこのあいだのことなんだよと、冒頭から制作者はiPodや州の標識などで強調しているわけです。

この「矯正治療(コンバージョン・セラピー)」、私もこの映画を見て知りましたが、これでトラウマを受けない人はいない過酷なもの。そもそもゲイは病気ではないので医学的根拠もゼロです。映画の中の施設では、まず携帯と財布を没収され、外部との連絡はすべて断たれ、密室的な状況を作り出して洗脳しやすくして、日記をつけるのも禁止されます。やってもいない罪の告白を強要され、不要な罪悪感を植え付けられ、自分を生き返らせるためと家族まで呼んで葬式を行ったりする。組織的いじめに近い。徹底した自己否定と、精神の奴隷化が行われているのです。

アメリカ精神医学会も断固反対しているこの“治療”、自殺のリスクを高めるという研究結果も出ていて、ワシントンDCとカリフォルニアなど16州では禁止されていますが、34の州ではいまだに禁じられていず、これまで70万人がこの無意味な“治療”で傷つけられてきたと言います。驚くことに、ニューヨーク州で禁じられたのはやっと2019年に入ってから。マサチューセッツ州は2019年4月に入ってから…。シアトルやマイアミ、フィラデルフィアなど市町村レベルで禁止している地方自治体もありますが、実際にこういう体験をした人、あるいはまだしている人が21世紀のアメリカにいるってことが驚きです(日本にも体罰を肯定する政治家がいるらしいので他国のことをまったく笑えませんが)。

この“治療”を支持しているのはキリスト教原理主義者たちと言われています。聖書の「生めよ殖えよ地に満てよ」を是として、子どもができないセックスはNGという考え方の人たちですね。人間的な現実とは乖離しているんだけど、一言一句聖書に書かれている通りに行動することを重要視する人々。しかし、どれほど聖書を理解しているかはわかりません。聖書は愛も説いているのに、この“治療”にはまったく愛がなく、それどころか聖書で子どもを殴ったりしているんです。どんなに尊いことが書いてあったとしても聖書を嫌いになることは間違いないし、本をそんなふうに扱うことにも腹が立つ。

キリスト教原理主義者たちは家父長制度も大好きですが、この主人公の場合も、父親に施設に入れられてしまうんですね。その父親とは成功したフォードのカーディーラーで牧師でもあって、横暴でもなく大声も出さずちゃんと話も聞こうとしてくれる理性的な人。演じるのはラッセル・クロウ。息子がゲイだと認めないってことを除けばすごくいいお父さんなんです。それなのに、教会の長老たちのプレッシャーと個人的なゲイへの嫌悪感から息子を施設に送ることに決めてしまう。

最終的に、主人公とともにそこに立ち向かうのは母親です。“治療”のあいだ母子は施設の近くのホテルに泊まっているのですが、息子の異変に気づき、行動を起こします。息子が施設から逃げ出すのを助け、父親に立ち向かい、反論する。このあたりのニコール・キッドマン最高なので是非映画館で見てもらいたいです! ニコール演じるお母さんは「絶対に(施設には)戻さない」と断言し「男たちだけであなたのことを決め、私はいつものように黙って従った。いまわかった。こんな苦痛は間違いだと」と息子を守り抜きます。やっぱり母は強い。こんなことになっても夫のことは愛し続けて「私にはシンプルだけどお父さんにはもう少し複雑」と理解も示す聡明さ。そういうお母さんに支えられて、主人公も父親も立ち直っていくのです。

この映画、家族を演じた三人のほかのキャスティングも素晴らしく、製作陣の意欲を感じます。施設で出会う仲間がトロイ・シヴァンにグザヴィエ・ドラン。トロイは2013年にYouTubeでカミングアウトしたのも話題になりました。これはトロイが「なんとしてでも関わりたい」と熱望した作品で、ヨンシーとともに主題歌も共作しています。ドランについてはいまさらになりますが、LGBTQ映画の神様みたいな人です。そして施設の治療者が、監督でもあるジョエル・エドガートン。『スター・ウォーズ』や『ラビング』など武骨な役が多いのですが脚本も書く知性派で、前作の『ザ・ギフト』も面白かった。さらには施設の用務員兼守衛役が、レッチリのフリー。怪演。ほかにもこれから来そうな青年俳優が多数参加しているので是非チェックしてくださいね。

『ある少年の告白』

(2018/アメリカ/115分)

監督:ジョエル・エドガートン
出演:ルーカス・ヘッジズ、ニコール・キッドマン、ジョエル・エドガートン
配給:ビターズ・エンド、パルコ
全国ロードショー公開中
© 2018 UNERASED FILM, INC.
公式サイト

『ある少年の告白』を観た人は、こっちも観て!

LGBTQ映画の名作は多いけれど、今回はなかでもここ最近の公開作品から家族との関係性を描いたものを選びました。ほかにもドランの名作などさかのぼって探してみてください。きっと自分だけの1本に出会えるはず。

『サタデーナイト・チャーチ』

これはニューヨークの黒人少年の物語。舞台は土曜の夜だけLGBTQの子どもたちのシェルターになる教会。主人公が自分のコミュニティにめぐり合い、母の愛を確認し、自分らしさを認められるようになるまでを描くミュージカル。
公式サイト

『BPM ビート・パー・ミニット』

エイズにかかりながら、製薬会社などへの強硬な活動を行なったゲイ活動家たちのドラマ。主人公の恋人の母親と、血友病の息子が非加熱製剤で罹患した母親と、二人の母が登場します。エイズとの闘病と比較すれば、ゲイが病気なんてあまりに非現実的な…。

『愛と法』

ゲイも幸福に生きていけると世間に証明するためカミングアウトし同性婚を公表した大阪の弁護士たち。最初はゲイについて何も知らなかった母も彼らの事務所で働くようになり…。人権のこともよくわかる、もっと見られるべき邦画ドキュメンタリー。
公式サイト

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、フリーのライター、編集者に。『EYESCREAM』『RiCE』に寄稿。