

nico itoが描く、
“モヤモヤ”の愛し方。
個展「Soft Panic」のレポート&
インタビュー!
かわいくて、どこか不安。ポップなのに、ちょっと毒っけもある。
そんな絵を描くnico itoさんは、どんなふうに感情と向き合っているんだろう?
ギャラリー月極で開催中の個展「Soft Panic」を訪ねて、本人にお話を聞いてきました。
目黒の住宅街を抜けた先、建物の奥にひっそりと佇むギャラリー「月極」。その地下空間で、イラストレーターnico itoさんによる個展「Soft Panic」が開催中です。



nico itoさんが描くのは、どこか懐かしくてちょっと不穏なキャラクターたち。ポップな色づかいと、抜けた表情の奥に、ふわっとした違和感がひそんでいます。

展示のタイトルは「Soft Panic(ソフトパニック)」。「人に言うほどでもないけれど、心のなかにずっと残っているようなもやもやした感情」を指す、nicoさんの造語です。
たとえば、なんかそわそわする朝。誘われなかった寂しさ。勝手に敵対視されていたこと。そんなちょっとした不調たちが、ふしぎと愛らしいキャラクターに姿を変え、ひとつひとつの作品として丁寧に表現されています。

SOWA SOWA Morning

Synthetic

In Their Ring
小さな違和感がどう形になったのか。その感情とインスピレーション、nico itoさんにまつわるあれこれをお聞きしました!
- ーまず今回の展示「Soft Panic」についてですが、このタイトルにはどんな気持ちや背景が込められていますか?
- 実体験をもとに、人に話すほどでもないような小さな違和感とかモヤモヤを、「Soft Panic(ソフトパニック)」と呼んでます。それをあえて大きく描いて昇華する、楽しむ、みたいな感覚ですね。

- ーなるほど。その「ソフトパニック」という捉え方にはユーモアがあるし、感情の扱い方が柔らかくて、すごくキャッチーだなと思いました。不安や焦りといった感情って、描くことで何か変化するものなんでしょうか?
- 描くこと自体より、「あ、これは描けるやつだ」っていう脳になってる感じです。モヤモヤが起きた時に、「絵にしよう」とすぐ思える。描いてうまくいったら、ちょっと楽になったり、嬉しかったりします。

- ー昇華されていく感じなんですね。でも逆に、「これは作品にできないな」ってくらいの嫌なこともあったりしますか?
- あります、全然あります(笑)。ほんとに嫌なことは、やっぱり「めっちゃ嫌!」ってなる。
でも、ちっちゃいことが多いです。例えば、海鮮が美味しくなかったとか、「このメンバーなら私も誘ってくれたら良かったのに」とか、そんなレベルのもの。 - ーそういう「ちっちゃい違和感」が作品の種になってるんですね。
普段、日常のなかで気になる瞬間はどんな時ですか? - 私はこう思うけど、みんなもきっとそうじゃない?」みたいなことは大切にしたいし、絵にしたいなと思います。
- ーなるほど、共感できる違和感というか。
キャラクターのインスピレーションってどこからきてるんですか? - 90〜2000年代のゲームとか、昔のPCの絵描きソフトを使ってた頃の記憶がベースになってます。
ちょっと不穏な空気があるキャラクターに惹かれるんですよね。笑ってるわけでも泣いてるわけでもない、なんとも言えない表情が好きで。

- ー絵が好きになったきっかけって、当時の遊びからだったんですね。
- そうですね。幼少期キッドピクスというお絵描きソフトでずっと遊んでて、「あの感じ今やりたいことに近いな」と気づいた感じです。当時から楽しかったけど、ちょっと“具合悪いな”っていう感覚もあって。その“具合悪さ”みたいなものが、今の絵にも残ってるんじゃないかなと思います。

お絵描きソフトの「キッドピクス」
- ーたしかに、作品にはどこかその不穏なムードがある気がします。
そういったインスピレーションの根っこには、子ども時代のパソコン文化やネットもありそうですね。 - はい。家にいて、パソコンをずっといじってるような子どもでした。
海外のちょっと怪しげな安っぽいサイトを夢中でチェックしてたんですけど、あの“何かよく分からないけど気になる”って感覚が、作品の雰囲気にも出てると思います。


- ーでは最後に。ファッションブランドとのコラボやグッズ制作もされていますが、作品との違いはどう意識されていますか?
- 作品をそのままグッズにするのはあまり好きじゃなくて。
着るものは着るものとしてちょっと形を変えたりして、自然に馴染むように作ってます。
最近のY2Kブームにもたまたま合ってたのか、韓国でも見かけたりして、嬉しいですね。



- ーなるほど。グラフィックの見せ方も変化してるんですね。
Tシャツやアクセサリーもすごく素敵でした。New Jeansが着用していたのも拝見しました! - あれはもう…本当にうれしかったです(笑)。
6月29日(日)まで、東京・目黒のギャラリー月極にて開催中です。感情とビジュアルのあいだをふらふらと漂うような、ちょっと不思議な展示。ぜひたしかめてみて!
INFORMATION
nico ito Solo Exhibition “Soft Panic”
会期:2025年6月7日(土) – 6月29日(日) ※月休廊
開場時間:14:00 – 20:00(火-土) 13:00 – 19:00(日)
入場:無料
会場:月極
住所:〒152-0001 東京都目黒区中央町1丁目3-2 B1
nico ito
Instagram:@nicooos_n