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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#28『メランコリック』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#28『メランコリック』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#28『メランコリック』

2019.07.19

実際に見て「イイ!」と思った映画しか紹介しないコラム。
今回は邦画の傑作。インディーズで、主演俳優がプロデュース、配給までやるDIY。
仕事を待ってないで作品をつくろう、つくるならしっかりおもしろいものをつくろうという心意気も素晴らしいけど、
なんといってもストーリーがおもしろい! 今夏の必見作です。
しかしこんなに才能がある人たちが自主製作で、なんで大手のアレやアレがあんな…(以下各方面に忖度して略)

Text_Kyoko Endo

今年の邦画マストシーはインディーズ。

映画宣伝会社に勤めるアラフォー女性が主人公のコミック『あした死ぬには、』に、余命宣告されて「かねがね映画をずっと作りたいと思ってて」などと言い出す映画会社社員が登場しますが、映画業界の内側でも外側でも、そのうち映画をつくりたいと言っている人はよく見かけますし、口に出さずにつくってみたいと思っている人はもっと多いかもしれません。でもその夢を実現できる人は、まれ。多くの人は、具体的に考えはじめた途端、出来上がるまでの手間暇、スタッフはどうするか、そもそも製作費は…? と押し寄せる現実的な課題に圧倒され、夢がそのままになってしまう。

この映画をつくった3人はそのまれな人たちですが、きっかけが、主演の皆川暢二さんが俳優仲間と居酒屋で話していたときに自分で仕事をつくろうと思い至ったことだったそうです。「「事務所が仕事持ってきてくれない。もっと大きい事務所だったらな〜。〇〇さんと繋がれればな〜」こういう話を聞いてる時に、“あれっ?”と感じてしまっていた。あっ、俺って自然と受身になっていたんだって。」(プレスより)そこから映画を製作しようと監督ができる同級生の田中征爾さんに声をかけ、さらに俳優の磯崎義知さんに声をかけ、クラウドファンディングを募って…で、できた作品が東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で監督賞、ウディネファーイースト映画祭で新人監督作品賞を受賞したという快挙。

しかしこの映画を紹介したいのはサクセスストーリーがあるからではなく、作品そのもののストーリーがしっかりしていておもしろいから。邦画は人気マンガの映画化、ハリウッドだってヒーローもの以外は「based on a true story」が圧倒的に多くて、オリジナルでおもしろいフィクションに出会える機会がどんどん少なくなっている昨今、これは貴重(実話を元にしていたってその映画のおもしろさが減るわけではありませんが)。この作品、もったいないことにフライヤーなどで前半しっかりネタバレているのですが、さらなる展開があり、えっ、ここに着地するの? という結末。伏線だと思わなかった伏線もさらりと回収する巧みさに、ネタバレている前半をおもしろく見せる軽快な台詞の数々。とにかく脚本がよく練られているのです。

その前半までですが、東大を卒業していながら何もせずぶらぶら暮らしていた和彦は、ある日母親がうっかり風呂の湯を抜いてしまって仕方なく銭湯へ。そこで高校の同級生女子と偶然再会し、かわいい彼女にぐいぐいプッシュされて同窓会へ。そこで無職だと話したことから銭湯でのバイトを勧められ、のこのこやってきてなんとなく働いていたら、そこが閉店後ヤクザの人間処理場として使われていたと知ってしまい…という話で、こんな設定ですが、コメディです。殺人シーンもありますが流血は少なめ。演出がかなり洗練されているのでデートで見ても安心。

また、人物造形もこういう人いそうだよねってリアルさがありつつパターンにはまっていません。ヤンキーのバイト仲間、借金漬けでヤクザの言いなりになっている銭湯の主人、料理が趣味で家ではアンダーアーマー着てるヤクザ、心優しいフィリピン人情婦、起業して成功した高校の同級生、男メシばかりつくる大雑把なお母さん、そのご飯を褒めるだけののんきなお父さんなどなど、どのキャラも立っている。銭湯で働く殺し屋を演じた浜谷康幸さんなど、こんなに雰囲気のある俳優がどこに埋もれていたんだろうと驚きました。アクションのテクニックも素晴らしく、爽快感があります。アクション担当はヤンキーの同僚で凄腕の殺し屋を演じる前出の磯崎さん。無限神刀流居合術師範の父のもと、物心つく前から合気柔術を習っていたという経歴の持ち主。彼の役がまたすごくクールなんです。

とにかく114分間まったく退屈しませんでした。すでにすれっからしの映画評論家たちを唸らせていて試写会も満席が続き、追加試写が行われるほどなのです。普段から妄想気味な私など、この映画を見てからというもの銭湯を見かけると「まさか、ここでも…?」などと思ってしまう始末。銭湯経営者の皆様、すみません。昨年の夏は『カメラを止めるな!』の大ヒットが話題となりましたが、本作も同じように上映劇場がどんどん増えて世間を驚かせることでしょう。

『メランコリック』

(2018/日本/114分)

監督:脚本・編集:田中征爾
出演:皆川暢二、磯崎義知、吉田芽吹
配給:アップリンク、神宮前プロデュース、One Goose
8月3日(土)より全国ロードショー
公式サイト

『メランコリック』を観た人は、こっちも観て!

まだまだ邦画に可能性があることを教えてくれる、インディーズから生まれた作品。ここでは3本しか紹介できないのが無念です。インディーズ出身の監督の名作はまだまだあるのでぜひ探してみてください!

『イソップの思うツボ』

“カメ止め”のスタッフが集結したというよりそのヒット前から3人の監督作として温められていた企画。こちらも前作のヒットがフロックではないと証明したストーリーテリング。出演者それぞれいい演技で、なかでも紅甘ちゃんの存在感が光ります。
公式サイト

『岬の兄妹』

自閉症の妹の面倒を見ていた兄が、仕事をクビになり…。業界騒然。行政の支援を受ける権利すら知らないらしき主人公、障がい者の性、世間が覆い隠そうとしているものをあらわにした凄い映画。主演の和田光沙さんの北島マヤのような演技も必見。
公式サイト

『ウィーアーリトルゾンビーズ』

電通様製作のこの作品をインディーズとして紹介していいか迷いましたが、監督が自主製作した短編でサンダンスに実力を認めさせたことを思えば、切り捨てるのはあまりにも惜しい。ゲーム世代には懐かしい電子音楽とともに心に残る作品。
公式サイト

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、フリーのライター、編集者に。『EYESCREAM』『RiCE』に寄稿。