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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#36『ラフィキ:ふたりの夢』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#36『ラフィキ:ふたりの夢』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#36『ラフィキ:ふたりの夢』

2019.11.08

実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
プレスリリース引き写しのサイトでは読めない情報を深掘り気味にお届けします。多少のネタバレはご容赦ください。
いままで私たちがまったく知らなかったアフリカを描いたラヴリーな映画が登場しました。
アフリカを舞台にした映画ならディズニーにもありますが、そうじゃなくて、
アフリカの人女性監督がつくった女の子のための映画なんです。

Text_Kyoko Endo

ポップでキュートなアフリカン・ガール・ムービー。

この映画はティーンエイジャー女子の恋愛ものなんですが、どこを見てもやたらかわいいんです。まず主演の女子2人がかわいい。ボーイッシュでほっそりしたケナと、ピンクのドレッドロックでフェミニンなジキ。彼女らが着ているトライバルなアフリカンテキスタイルを使ったワンピースやポロシャツもめっちゃかわいく、そんなファッションで濃い青空の下、ピンクや黄色に塗られたカラフルなナイロビの街を遊び回る。生き生きしています。クラブに遊びにも行ったりして、ブラックライトの下で、白い服が美しく浮かび上がったり、クラブにはヨシダナギさんの写真にあるようなメイクを蛍光色でしているダンサーなんかもいたり、もうなんかキラッキラしています。

アフリカといえば貧困、戦争、飢餓、エイズで大変なんじゃないの? と思う人も多いかも。実際にそういう地域もまだあるし、海外からのチャリティや資金を集めるためにアートが使われてきた背景もありました。しかしワヌリ・カヒウ監督は、ジャンルの偏りはアフリカへの真の理解の妨げになるし、アフリカ人だって幸せなものを追いかけていいんじゃないかという考えでエンターテインメント制作集団AFROBUBBLEGUMを立ち上げ、TEDに出たり世界経済フォーラムでプレゼンしたりしています。で、この『ラフィキ:ふたりの夢』はケニア映画として初めてカンヌ映画祭で上映されたという快挙を成し遂げたわけです。

しかしこの映画、本国ではたった1館の映画館で1週間しか上映されませんでした。同性愛は違法、男性間の性行為は14年の懲役、ホンバンじゃなくても5年の懲役というケニア。この映画は女子同士の恋愛で主人公が不幸に描かれないので政府から脚本の修正を求められたのを監督がつっぱねて上映禁止に。そこを裁判所に訴えて、アカデミー賞外国語賞のエントリー資格を満たすための上映が認められ、その映画館では行列ができ、SNSを中心に大評判に。結局ケニアからオスカーにエントリーしたのは超能力少女ものの“Supa Modo”でしたが(これも見たい! )この映画もジャンル的にAFROBUBBLEGUMに近い作品と言われているそうです。

「ラフィキ」とはスワヒリ語で友だちという意味。本当は恋人やパートナーである人々を「友だちです」と紹介することが多いことからつけられたタイトルだそう。主人公のケナとジキの父親は政治家。でもケナの父親は商店主。だから現地では中産階級のケニア人のレズビアンということでも注目されたそうです。というのも、欧米の影響が強い上流階級では、同性愛の人々もそれなりにいるから。でもアフリカのごく普通の少女として二人は登場して、将来はいいお嫁さんになれるよ、なんて言われているのです。

父親たちは選挙活動中で、ライバル同士。だからロミジュリ的な関係性にもなってくる。ケナの父親の選挙ポスターをジキの取り巻きが破ったりします。何してくれんだとその子たちを追いかけたケナは、父親陣営のテーマカラーで装ったジキに見とれてしまいます。アフリカの選挙って、候補者のテーマカラーが決まっていて、陣営がはっきりわかるようになっているのですが、娘たちもそれに近いトーンの服を着ているんです。ジキが友だちの行動をケナに謝りに来たところから、2人は仲良くなり、いつも一緒に行動するようになります。

看護婦になろうとしている優等生のケナに対して、わがままに育てられているジキは「医者にだってなれるのに! 」「誰もアフリカ人なんか見たことない国に行って、ケニア人よ、と自己紹介するのが夢」とはっきり自己主張する。女の子が大人しく嫁に行くことが期待されている男性中心社会で「私たち2人はみんなみたいにならないって約束しよう」と価値観を共有します。ケナは空き地の廃車を隠れ家にしています。ジキのために車内をかわいらしく飾ってキャンドルを立てたカップケーキを用意したケナ。しかし、2人で過ごしていたところを近所の噂好きなおばちゃんに見られ、2人はリンチを受けてしまいます。

女の子が大勢の人間から暴力を受けるなんて本当? と思われることでしょうが、実際にケニアでは多くの同性愛者が暴行されたり殺されたりしています。この作品の中にもいじめられて怪我をしているゲイの少年も登場します。2人は警察でも馬鹿にされ、ジキは父親から殴られる。ケナの父はケナをかばうのですが、母親が毒親化します。でもそれにも理由があって、ケナの父は恋人ができてケナの母親を捨てたのですが、男性社会のケニアでは、そんなことも女性側の理由にされてしまうから。「あなたは店主で議員だからいいけど、私はシングルマザーでみんなに責められる」と感情的になる母。そうして二人は引き離されてしまうのですが、数年後にケナは医者になり…。

国の状況からして2人の未来がどうなるかは本当にわからないのですが、爽やかな結末で、本当にいい映画見た! という気持ちになれます。監督はアメリカの公共ラジオ局のインタビューで「喜び、愛、強さと明るさについての映画」と語っています。辛い場面もあるけれど、本当に監督が言う通りの作品なので、何かかわいくて元気になれる映画を見たいという方には自信を持ってお勧め。カヒウ監督はNetflixなどで新作を準備中で、今後さらなるブレイクの期待も。チェックするならいまのうちです。

『ラフィキ:ふたりの夢』

(2018/ケニア、南アフリカ、フランス、レバノン、ノルウェー、オランダ、ドイツ/82分)

監督:ワヌリ・カヒウ
出演:サマンサ・ムガシア、シェイラ・ムニヴァ
配給:サンリス
©Big World Cinema.
11月9日よりシアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー
公式サイト

『ラフィキ:ふたりの夢』を観た人は、こっちも観て!

ゲイ映画はよく見かけるのにレズビアン映画はあんまり製作されない…。ジェンダーギャップはマイノリティの世界にもと言わざるを得ませんが、なかでもおもしろい作品、価値観をひっくり返される作品を選んでみました。

『キャロル』

デパートで働く女の子が女性客に惹かれていく。女の子にも客の方にもヘテロの相手がいて…。これが不倫メロドラマにならないのは、母親幻想や性差別の犠牲になるなど女性だからこその困難と緊迫感がついて回るから。原作はハイスミスが別名で発表した小説。

『お嬢さん』

春画の名作は惜しいですが、主人公の2人が膨大なポルノコレクションを破り捨てて手を取って走っていくシーンを見て、私もこうしたかったんだと気づかされました。自分たちを商品化する視線へのNOを、それもすごく魅力的な女子が言うのが最高です。

『恋とボルバキア』

あらゆるパターンの恋愛を撮ったドキュメンタリー。レズビアンの女の子が好きになった相手が女装した男の子で、友だちから逆差別されたりする例も。人を好きになる気持ちに正常や異常って分けることに意味があるのか問いかける画期的な映画です。

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、フリーのライター、編集者に。『EYESCREAM』『RiCE』に寄稿。