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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#41『プリズン・サークル』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#41『プリズン・サークル』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#41『プリズン・サークル』

2020.01.22

実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
プレスリリース引き写しのサイトでは読めない情報をお届けします。多少のネタバレはご容赦ください。
今回ご紹介する映画は『プリズン・サークル』、日本の刑務所を初めて撮影したドキュメンタリー。
アカデミー賞ノミネート作品が封切られているときになぜ?と思う方も多いでしょうが、
そのアカデミー賞最多ノミネート作品から生まれる疑問に応えている傑作なので、自信を持ってお勧めします!

Text_Kyoko Endo

ジョーカー(と世界)を幸福にする方法。

以前ガールズシネマクラブでもご紹介した『ジョーカー』の勢いが止まりません。アカデミー賞で今年最多11部門ノミネート。バットマンの仇敵を主人公としながら、苛酷な環境で育った人が犯罪に堕ちていかざるをえない物語は多くの人に衝撃を与えました。しかし、虐待されて育った人はみんな犯罪者になってしまうのでしょうか。そして、犯罪者になったら人間らしい気持ちを持ちえないのでしょうか。今回ご紹介するのはその問いに答えるドキュメンタリーです。

その映画は『プリズン・サークル』。日本の刑務所に初めてカメラが入ったドキュメンタリーです。なんでそんなハードなもんをファッショナブルなガールフイナム読者にお見せしたいのかというと、これが人の変容を捉えた稀有な作品だからです。ジョーカーのように親に虐待されたりして頼れる家族がいなくて犯罪者になってしまった人が、囚人同士で会話をしていくことで自分の罪を見直し、変わっていくのです。つまりここには、誰かをジョーカーにしてしまう社会への処方箋が示されているのです。

映画が撮られたのは島根県にある島根あさひ社会復帰促進センター(以下センター)。再犯防止を最優先に受刑者を処遇しています。本作を監督した坂上香さんの過去作『ライファーズ』を観た刑務所関係者が囚人同士が協力して学びあう回復共同体というプログラムを導入したそうです。そちらはアメリカの民間更生団体を取材した映画。ライファーズとは終身刑や無期刑の受刑者という意味で、更生不可能と言われた受刑者たちがコミュニケーションで劇的に変わる姿を捉えました。しかし監督の映画から素晴らしいヒントを得たはずなのにセンターの取材許可が出るまでに6年もかかったという…。そこから撮影に2年、編集に2年かかり、本作が完成しました。

ちなみに、犯罪に対して厳罰を叫ぶ人をネットなどでよく見かけますが、厳罰主義では犯罪の更生にはあんまり効果ないです。2018年のデータでは、日本の犯罪件数は16年連続で減少して犯罪発生率も戦後最低を更新し続けているのに、検挙された犯罪者のほぼ半数がまた犯罪に手を染めてしまっているのです。これまでの刑務所は罰を与える場所としてしか機能してこなかったけれど、結局それでは更生は難しい。いみじくも『プリズン・サークル』で受刑者が「(プログラム中は)名前で呼ばれて人間として尊重されている。それでようやく相手のことを考えられるようになっていった」と語るシーンがあります。番号で怒鳴られていたらそうはならないですよね。

しかしなぜ監督は刑務所を撮ったのか。この質問に対し坂上監督は、虐待に近いしつけや学校で受けた暴力に苦しめられたが同時に弟に対しては加害者だったと告白していて「なぜ人は残虐になれるのか。その残虐性は学び落とすことができるのか。若い頃からこれらの問いを抱えてきました」と話しています。

映画は、砂絵のアニメーションから始まります。「どんなことがあっても本当のことを言わない少年がいました。少年には嘘しか言えない理由がありました」。これは物語を作るプログラムで、ある受刑者が語りはじめた物語そのままです。そこから車窓からの風景が映されセンターの遠景が見えてきます。中に入ると刑務官は警棒を持っているし、家具はカラフルだけれど蛍光灯の灯りはやっぱりちょっと白々しい。囚人たちは台布巾使うのにも許可をもらわなくてはならず、ユニクロのリラックスウェアみたいな服を着ているけれど胸にはICコードがついている。センターという名前だけどやっぱり刑務所なんだなという感じがします。

食事もみんなで取るけれど、無言。それが更生プログラムで対話になると、急に声の表情が豊かになって人間的な感じになります。指導にファシリテーターが入りますが、基本的には囚人同士で話し合います。オレオレ詐欺の受け子で捕まった人とか、親父狩りやって相手を半殺しにした人とか、万引き常習犯で盗みの罪悪感を感じない人もいます。犯罪歴は様々ですが、共通しているのが家庭に居場所がなかったこと。みんながジョーカーみたい。

暴力や性的虐待、育児放棄…彼らが受けた虐待が砂絵のアニメーションで描かれます。そのアニメを見ているとこんなに辛い思いをして幼少期を生き延びてきた人が犯罪に走ったとして単に処罰するだけでいいのか、という気持ちになる。しかし見どころはそんな彼らが変わっていく姿にこそあります。

彼らは、感情を押し殺すことで自分を守り、過酷な現実を生き延びてきた。例えば布団叩きやガムテープや浴槽がダメという人がいました。日常的にやられていたことを覚えていないのですが、身体が虐待を覚えているのでそれらを見ると苦しくなってしまう。それほどに記憶は意味を失い、自分がふるった暴力もあまり覚えていない。加害の記憶も押さえ込んで感情を麻痺させていたのです。こうして暴力が連鎖するんだなということを私たちは目の当たりにし、当事者が記憶を取り戻したときの発見を共有します。

そこではじめて変容が起こります。ここで最初の嘘つき少年の物語も大転換していくのですが、私はこの物語に泣いてしまいました。この映画は、心が壊れた人を癒す方法について知らせ、それがごく少数にしか行われていないという問題にも触れ、私たち自身の生き方にもヒントをくれる傑作。『ジョーカー』や『パラサイト』で胸が痛くなった人に、是非観ていただきたいのです。

『プリズン・サークル』

(2019/日本/136分)

監督・製作・編集:坂上香
アニメーション監督:若見ありさ
配給:東風
©2019 Kaori Sakagami
1月25日よりシアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー
公式サイト

『プリズン・サークル』を観た人は、こっちも観て!

残念ながらいまのところ『ライファーズ』はネットやビデオ店では見られません。今回はまた別のドキュメンタリー作品をご紹介します。Netflixで見られる作品と2月公開作品から選びました。ドキュメンタリーも見出すとハマりますよ。

『アクト・オブ・キリング』

戦争などで加害者が“英雄”になると、被害者は感情を無視されるどころか迫害を受け続けてしまう。まして証言などできない。そこで監督は考えた。英雄として発言したくてたまらない加害者側に殺害の現場を演じてもらおう。ある意味すごい荒療治の囚人の対話。Netflixで見られます。

『うたのはじまり』

ろうの写真家同士のカップルに生まれてきた子どもは健聴者。筆談や手話でなく話しかけてやらなくてはならない。子どもをあやすうちに歌が生まれてきた――コミュニケーションとは何かを訴えかけてくる傑作。2月22日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

『娘は戦場で生まれた』

アラブの民主化運動で非暴力デモを行っていたワアド。しかし自由を求める街は包囲され空爆される。医師である夫と必死で生きるワアドに娘が生まれ…オスカー長編ドキュメンタリー部門ノミネートも納得。2月29日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』に寄稿。