GIRLS’ CINEMA CLUB
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#53『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
プレスリリース引き写しのサイトでは読めない情報をお届けします。
今回ご紹介する映画は『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』。
本で得た知識は多いけれどちょっと世間知らずな人のこと。頭でっかちなんですね。
本作の主人公はそんな高校生。一部の天才を除けばみんな何かしらトラウマがあるのが受験。
アメリカの高校生も受験には相当苦しい思いをしているようなのですが、それで勉強漬けになった挙句…。
Text_Kyoko Endo
しっかり笑って意外に感動。次世代ガールズバディ映画。
いい大学に入るために高校生活をまるまる勉強に捧げてきた生徒会長のモリー、首尾よくイェールへの入学が決まりましたが、どうせあいつらいい大学なんて行けないよと見下していたパリピ同級生たちがほぼほぼ全員名門大学に進学すると知り(ひとりはGoogleに就職)大ショック。いまからでも遊んでやる! とパーティデビューを企てます。尻込みする親友のエイミーを引きずり込んだのはいいが、ほかの生徒と全然交流してこなかった2人はどこで目当てのパーティが行われるかさえ知らず。しかも卒業式前日なので、みんながどこかしらでパーティしている。2人はさまざまな会場を転々とし、街をさまよう羽目に…。
女子同士の友情を描いたバディ映画で、ロマコメでもなく、親友の片方はウーマンズゲイだけど別に2人がくっつくわけでもないです。親友と恋愛対象は別なので、いつも一緒にいるからってすぐカップリングするのも乱暴だしリアルじゃないですよね。脚本は全員女性。もともと2009年にブラックリスト入りしていた“頭がよすぎる女子高生の物語”が、現代にアップデートされました。
監督はオリヴィア・ワイルド。『リチャード・ジュエル』で悪いジャーナリストを演じた俳優。両親が、ドリームワークスの『ピースメイカー』の元になった記事を書いたいいジャーナリストという家庭に育ち、政治意識も高いフェミニスト。女性映画監督が極端に少ない状況を変えたかったと語っていて、満を持して本作で監督デビュー。この映画の本国での成功でもう次回作が決まっているようです。
この映画、次世代スターをチェックするのも楽しい。モリー役は『レディ・バード』で主人公の親友を好演したビーニー・フェルドスタイン。エイミー役はケイトリン・デヴァー。『ショートターム』や『デトロイト』『ビューティフル・ボーイ』で演技力を評価されてきました。彼女ら2人のコメディというだけでも大注目で、案の定、冒頭からアドリブで繰り出される面妖なダンスや、早口の台詞に笑いっぱなしになります。
さらに同級生のメンツがすごい。モリーがひそかに恋しているニック役は、メイソン・グッディング。キューバ・グッディング・Jr.のジュニアですが、Huluの『Love,サイモン 17歳の告白』のスピンオフ『Love,Victor』などで早くも自分のポジションを確立しています。富豪の性格のいいバカ娘、ジジを演じるビリー・ロードは『スター・ウォーズ』のキャリー・フィッシャーの娘。だから親世代と一緒に見ても楽しいかもしれません。下ネタのとき多少気まずいかもしれないが、そこは映画館で暗闇なので無問題。
富豪のバカ息子で、自分の顔スウェットをクラス全員にプレゼントするジャレッドを演じるスカイラー・ギソンドも注目株。トリプルAことアナベル役のモリー・ゴードンもかわいい。ちなみにトリプルAとは“Anybody,Anytime,
Anywhere”で、いつでもどこでも誰とでも=はっきり訳せばヤリマンってことですね。ほか、演劇少年たち2人、オースティン・クルートと、すでに『ルポールのドラァグ・レース』でゲスト審査員を務めるほどのスターになってるノア・ガルヴィンもチェックしておきたい。
さらに、プロスケーター2人の初映画出演にも注目です。エイミーの想い人、ライアンを演じるのが〈ナイキSB(NIKE SB)〉のマイアミツアーにも参加していたヴィクトリア・ルエスガ。マイキー・アルフレッドから「君にオーディションの日程を組んだよ」とメールが来たのだけど知らんナンバーだったので、無視無視と思ってオーディションに行かなかったという。当日になって本物だったとわかり、変質者かと思ったとお詫びメールを出したら再度呼ばれたという無双。
もうひとりはニコ・ヒラガ。“CHAODOWN:NICO HIRAGA”が20万回再生されてるスケート界の大スター。『スケート・キッチン』にも滑っている姿は映り込んでいたらしいのですが、演技はこれが初。遊び回っていながらちゃっかりスタンフォードに入学が決まっている秀才役ですが、ノンシャランな雰囲気で和みます。
彼ら次世代スターを、SNLのジェイソン・サダイキスにウィル・フォーテ、マイク・オブライエン、『フレンズ』のリサ・クードロウら演技力のあるコメディ俳優がしっかり支えています。豪華キャスト+ブラックリスト脚本+思想のある監督が揃ったわけ。
だとしても、もっと大事なのは内容。この映画をお勧めするいちばんのポイントは、これがコミュニケーションや自信についての映画だからです。モリーとエイミーは非モテの非リア女子なわけですが、彼女たちのほうも2人だけの閉じた世界にいて、クラスメイトのことはなんにも知らずに適当な噂を信じて偏見をもってたりしました。ガリ勉してたのも「自分の力を証明しなくちゃ」という恐怖や焦りがあったためでもあった。本しか読んでない頭でっかちの女の子が、身体で存在感示してくるスケーターに会ったらそりゃコンプ刺激されるでしょう。
でも、不思議の国のアリスのようにおかしなパーティをさまよい歩いて、嫌なやつと思い込んでいた同級生が思いのほかいいやつだと知ったり、自分が嫌われていたわけでもなかったことも知った。親友のいいところを再発見したり、恋人ができたり。そうして行き着く先はさらなる成長。つまりこの映画って『スターウォーズ』やハリー・ポッターと同様、主人公が自分の殻をやぶる冒険と成長の物語でもあったんでした。と、ざっくりまとめましたが、この脚本、本当に先が読めないし各シーンで笑えます。是非是非、映画館でご覧ください。
『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
(2019/アメリカ/102分)監督:オリヴィア・ワイルド
出演:ケイトリン・デヴァー、ビーニー・フェルドスタイン
配給:ロングライド
© 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.
8月21日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかより全国ロードショー
公式サイト
『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』を観た人は、こっちも観て!
監督が影響を受けたとしている『バッド・チューニング』や『クルーレス』はたまたビーニーの存在感がいい『レディ・バード』など青春映画の名作は多いけれど、とくに、非リアの成長を描いた映画を選んでみました。
『ブレックファストクラブ』
『ブックスマート』自体が、まるでジョン・ヒューズの新作映画のようだという評価も受けました。キラキラ女子とオタク女子に友情が生まれるのは『ブックスマート』と共通するテーマ。80年代の映画なのでもっとロマンス寄りで、恋愛の比重大ではありますが。『スウィート17モンスター』
リア充兄をもつ非リア妄想少女のネイディーン。親友がリア充兄と付き合いそうになるので、私とお兄ちゃんどっちを取るのと迫って親友を困らせ、勝手にキレて絶交宣言。孤独な彼女の悪あがきがそのまんまコメディに…。心は痛いが随所で笑える感動作です。『ウォールフラワー』
内向的なチャーリー。高校に入ったものの周囲になじめなかったのが、フットボールの試合がきっかけで文学好きな上級生と仲よくなり毎日が変わっていく。若者の自殺や子どもの性的虐待など重いテーマも入りつつ、爽やかないい映画です。ボウイ好きは必見!