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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#66『プロミシング・ヤング・ウーマン』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#66『プロミシング・ヤング・ウーマン』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#66『プロミシング・ヤング・ウーマン』

2021.06.30

実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
好きな映画に感動するあまり、ついつい5月ごろから「今年イチ」とツイートしちゃう人の気持ち、わからなくもない。
しかし、7月以降も名作がやたら公開される今年は「今年イチ」が一体あと何本出てくるのだろうか、とは思います。
量産型「今年イチ」。しかし、本当に今年1、2を争うと言っても過言ではない作品ももちろんあって、その1本がこれです。
少なくとも2021年日本公開作のベスト10には確実に入るであろう傑作。
あなたが映画ファンなら、これを見ずして「今年イチ」を語ってはなりませぬ。

Text_Kyoko Endo

この映画は爽快? 恐怖? あなたはどっち?

タイトルの“プロミシング”とは「将来が約束された」ってことで、頭もよく美しい前途有望な若い女性が直面させられる過酷な世界をエンターテインメントに昇華させて描いています。アカデミー賞では作品賞、監督賞、オリジナル脚本賞、主演女優賞、編集賞にノミネートされ、脚本賞を受賞しました。

テーマは復讐。チャーリーXCXの「ボーイズ」ドルールリミックスがかかるクラブで、ちょい腹の出てきたおっさんたちがはしゃいでいるシーンから映画は始まります。いままでホステスがわりに使っていた女性社員にコンプラでそんなことさせられなくなったとぼやき、陰口をつまみに酒を飲んでいるビジネスマンたち。見た目はそこそこですが、付き合いたくない感じ。

その男たちの視線の先に、主人公キャシーがいます。キャリアウーマン風のスーツ姿で、酔ってソファで眠りこけている。ビジネスマンの一人がキャシーに近づき「送ってあげるよ」と言って結局家に連れ帰ります。キャシーには金柑のリキュールをドボドボ注ぎ、自分のグラスにはその3分の1くらいしか入れません。親切そうに近づいてきたけど、やっぱりか。しかしキャシーが豹変。完全に素面で氷の女王みたいになる。ここでタイトル。親友がレイプされ自殺してしまってから医大をドロップアウトしたキャシーは、夜な夜なお持ち帰りデートレイプ男に鉄槌を下していたのでした。

この主人公を演じるのがキャリー・マリガンで、いままではベビーフェイスのせいか、DVや女性差別の犠牲になる役が多かった。『ドライブ』の夫の借金のために殺されそうになる主婦役や、『マッドバウンド』の家計を管理させてもらえない妻、女性参政権活動をする工場労働者を演じた『未来を花束にして』などなど。それが今回は差別する側を狩る役でハジけまくってます。さらに復讐シーンではお水系ゴージャスからロリ系カルチャー女子まであらゆる男子の好みに対応したモテファッションとモテメイク、彼の前でのカジュアルファッションも含め、その変幻自在さもかっこいいのです。

バイト先のカフェで偶然再会してキャシーと付き合うことになる医大の元同級生を『エイス・グレード』のボー・バーナムが演じています。この人もいかにもリアルにいそうな役。キャスティングがうますぎ。この彼から過去のレイプ犯、しかししらばっくれてなんの罰も受けなかった男の近況を聞いてしまったために、キャシーは新たな復讐を始めざるを得なくなります。親友の母にも先に進みなさいと言われ、復讐を忘れて幸せになれそうだったキャシー。しかし…という物語で、本当に脚本がよくできているのです。ちなみにチャーリーXCXにしても、脚本にどんな音楽がかかっているかすべてト書きで指示してあるのです。衣装や美術もめっちゃセンスいいですよ。

キャシーの本名はカサンドラ。カサンドラってギリシャ神話の登場人物で、太陽神アポロンから好意を寄せられ未来を予知する力をプレゼントされたのに、アポロンを振ったら、未来を予知できるが予言は人々に信じてもらえないという呪いをかけられたかわいそうな女性。レイプを訴えても保護を得られなかった親友と、親友の死に傷つき、レイプなど無視して自分の成功だけを追い求めていくエゴイスト女子の言葉にまた傷つくキャシーはまさにカサンドラと言えます。

21世紀をとっくに過ぎた今日まで女性差別がなおざりにされてきたのには、優越感に浸っていたいとかライバルを増やしたくないなどの動機がある既得権益層としての男性側に問題があることはもちろんですが、そんな男性社会でうまくやってきた女性にも問題があったことが、いまいろいろな場で議論されていますね。

LGBTQの生存権を否定した杉田水脈議員や女性の社会進出にプラスになる夫婦別姓制度を認めない(のになぜか男女共同参画大臣をやらされている)丸川珠代議員のような人たちがA級戦犯だとすれば、社会を変えることを諦めきっていて反抗する女性を陰で笑うようなBC級戦犯もいます。男社会で苦労したBC級戦犯にしたら「私たちは我慢してここまできたのに…」という気持ちもあるのだろうけれど、その我慢とストレスと非効率を次世代にまで背負わせることになるのに。

キャシーの刃は、上記のBC戦犯的な女性たちにも向かいます。親友の苦境を無視してうまく世間を渡ってきた元同級生のエゴイスト女子や、男子生徒の将来に傷がつくとして親友を守らなかった女性学部長への復讐は、ハイスペック女子らしく計算されつくしたとってもスマートなもの。観客にとっては溜飲が下がりますが、キャシー自身は復讐を楽しんでいるわけじゃないのです。彼女は絶えず「本当にそう思っているのね?」と確認している。必ず念を押してから行動しているのは、やりたくてやってるわけじゃないからです。親友が死んだとき彼女の一部もまた死んでいるのです。だから特攻みたいになってしまう。

デスパレードなキャシーは、さて、アメリカ以上にジェンダーギャップ度の高い(先進国最下位といえばずいぶん聞こえがいいのですが、2002年まで内戦していたアフリカのアンゴラが119位、平均寿命51.3歳のアフリカのシエラレオネが121位で、日本はその間の120位)日本でどのように迎えられるでしょうか。差別男子やエゴイスト女子が周囲にいる方はすごくスッキリすること請け合いですが、自分もエゴイスト女子かも…と心当たりがある方にも見てほしい映画でもあります。人生の罠ってあらゆるところに仕掛けられているものなんですから。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』

(2020/アメリカ/113分)

脚本・監督・製作:エメラルド・フェネル
出演:キャリー・マリガン、ボー・バーナム
配給:パルコ
©2020 Focus Features, © Universal Pictures
7月16日(金)より全国ロードショー
https://pyw-movie.com/

『プロミシング・ヤング・ウーマン』だけじゃない! 6月のおすすめ映画。

理不尽な社会や支配者には反抗してナンボ。パンク大好きな私ですが、6月はなぜかそんなパンク魂に火をつけるような作品が多く公開されているようです。これも世相なんでしょうか。だとしたらいい傾向だと思います。

『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』

ミック・ジャガーやヒース・レジャーが憧れた伝説の列車強盗を描いたこれぞパンク歴史映画。ブッカー賞の原作をジョージ・マッケイ、ニコラス・ホルト、ラッセル・クロウと意外な豪華キャストが演じる文学性の高さも注目。公開中。

『グリード ファストファッション帝国の真実』

マイケル・ウィンターボトムが、虚飾に満ちた業界を舞台に労働者からも生産者からも搾取する人格崩壊した富裕層を描くブラックコメディ。コールドプレイのクリス・マーティンやキーラ・ナイトレイたちセレブが実名で本人役をやっているのも注目。公開中。

『ももいろそらを[カラー版]』

2011年にオリジナルモノクロ版が東京映画祭で公開され、映画ファンの間で心の一本になっていた珠玉作のカラー版が公開。みんながスマホもってないころの物語だけど、いま見ても新鮮で清々しい作品です。口が悪いいづみちゃんが最高にチャーミング。公開中。

『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』

ガールフイナムのインスタライブでコロナのいまと重なる作品として前作をご紹介しました。あの前日譚と、その後人類生き残りを賭けた戦いが描かれるのが本作。ミリセント・シモンズちゃんが今回も大活躍。世界を救うのはいつも少女。公開中。

『RUN / ラン』

『SEARCH / サーチ』のアニーシュ・チャガンティ監督の最新作。車椅子の少女が絶対的支配者である親から逃げるサイコスリラー。この人の映画、いっつも母親が悪者になるのだけど、毒母の企みが次々明らかになっていく盛り上げ方はやっぱりうまい。公開中。

『息子のままで女子になる』

自己実現したら結果反抗することになってしまうのもままあること。トランスジェンダー女子が、息子が娘になったのを認めたくない親と向き合うドキュメンタリー。しかし撮影から逃げないお父さんからもやはり愛と覚悟を感じます。公開中。

『海辺の金魚』

俳優小川紗良さんの長編デビュー作。和歌山毒入りカレー事件に着想を得た架空の事件が原因で児童養護施設で暮らしてきて18歳での退所を迎えようとしている花と、被虐待児童として施設に来たばかりの晴海の小さな反抗を描く。公開中。

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』に寄稿。

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