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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#67『17歳の瞳に映る世界』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#67『17歳の瞳に映る世界』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#67『17歳の瞳に映る世界』

2021.07.28

実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
今月文芸映画の公開が多かったのは五輪には興味がない人が映画館に集まりそうだったから、だそうです。
コロナ禍での五輪には反対でしたしいまだにいろいろ言いたいことがありますが、
ある意味そのおかげで7月がジェンダーギャップに物申す女性映画月間になったのかもしれません。
前回は女子の特攻復讐譚『プロミシング・ヤング・ガール』をご紹介しましたが、
今回ご紹介する『17歳の瞳に映る世界』も女子なら誰もがリアルに共感できる作品です。

Text_Kyoko Endo

私たちは子宮のおまけじゃないから。

『17歳の瞳に映る世界』は、妊娠した女子が従姉妹に付き添われて別の州に中絶手術を受けに行く話。しかし州によって極端に保守化したアメリカで、そんな簡単に中絶できるわけもない。だからはっきり言っておきますが、この映画には『プロミシング・ヤング・ウーマン』みたいな爽快感は、ないです。 でも少女たちの冒険(といってもいいくらい大変な道ゆき)を通して女性の自由や人権について静かに問いかける素晴らしい映画です。

主人公オータムの状況は最初から波乱含みです。市販検査薬も使ってみたけどクリニックで検査すれば違う結果が出るかも…と一縷の望みでクリニックにきましたが、やっぱり妊娠していて、しかも地元ペンシルバニアのクリニックのスタッフは中絶ネガキャンビデオを見せてくるような価値観がアプデされてない保守の方…。ニューヨークに行って中絶手術を受けようと決意するオータムと、守護天使のように付き添う従姉妹のスカイラー。クレジットカード社会でカードも持っていない高校生二人は長距離バスの切符を買うのも大変です。

やっとクリニックに着き、金属探知機で荷物検査を受け身分証を提示して診察です。これも、反中絶暴徒によるクリニック銃撃事件が相次いで起こり、クリニックが自衛しなくてはならなくなったからです。なんとか堕胎できないかと自分で殴って痣だらけにしてしまったオータムのお腹が痛々しい。しかしすぐ手術できなくて、なんの当てもないニューヨークで一夜を明かすことになります。

原題“Never, Rarely, Sometimes, Always”は、手術前のカウンセリングの質問の四択の答えです。性暴力を受けたことがあるか、コンドームの装着を拒否されたことがあるか、妊娠を無理強いされたことがあるか、脅されたことがあるか、など本来すべてNeverでなければいけないような質問内容。答えながら泣いてしまうオータム。

さらに、大人として娘と接することができない不機嫌で支配的な継父や、売り上げを渡すときに手にキスしてくるバイト先のキモ店長や、深夜の地下鉄の変質者たちなど、駅員やクリニックのスタッフ以外はダメ男だらけ。自分たちの身の安全をはかるためにちょっとマシな男子に頼るしかなくてマイルドな売春的な状態を我慢するなど、まるでウーマンリブも#metooもなかったかのような世界。オータムたちはどう生きていくのでしょうか。

そもそも中絶って女子にとって大変なリスクなのに、保守政権にしばしば政治利用され、女子だけを悪者にする魔女狩りのようなことが行われてきました。ドクター・ルースが明言したように、予定外の妊娠とは単に避妊に失敗しただけです。中絶も、ほかに解決策がないからお金と時間をかけて本人がリスクを負ってやるものです。どちらも責め立てて罪悪感を負わせるようなことではないのに、単に避妊に失敗した気の毒な女子を多くの人が責めている。

だって、女子が子どもを産まなければ少子化になっちゃうでしょ? と思ったあなた。少子化は福祉政策が手厚い国では解消しているのです。少子化は女子個人の問題ではなく、政治の問題です。妊娠した女子学生がすぐ復学できるとか、女性労働者がすぐ復職できるとか、子どもに補助金が出るとか、子どもの医療費がかからないとか、出産費用が無料とか、夫も家事をするのが当然という教育を受けているかとか、あらゆる手が打たれての少子化解消です。政治家が責任逃れをして、すべての労苦といらん罪悪感を若い女性に押しつけているわけです。

映画の舞台のアメリカは、福祉は薄くても移民のおかげで国自体は少子化していません。しかし出生率は人種によるばらつきがあって、白人女性の少子化で「白人が減る! 」と恐怖を感じている保守層が、人権意識が低い人々を焚きつけて反中絶キャンペーンを張らせている構図があります。しかし乳幼児死亡率が高い地域や貧困地域では出生率が高いのです。たくさん子どもを産んでおこうとするからです。経済的に豊かになれば子どもの数は当然減ります。

日本の状況も問題だらけです。手術を受けるには相手の男性の同意書が必要という古い法制度で、別れた彼に責任逃れされて堕胎できずに子どもを遺棄したなどの悲しい事件が後を断ちません。法制度を変えようとする提案は自民党に2回も否決されました。

日本で中絶がタブーになったのも、自民党の政策のため。水子供養という中絶ネガキャンは、檀家離れが加速した昭和の寺院にとっての収入源ともなりました。水子供養専門の寺が建立されたのは1971年なので、全然伝統とか関係ないです。オカルトブームに乗って男性社会のメディアも協力した情報統制下、いつの間にかエコ系女子やスピ系女子どころかLGBTQの人々までもがタブー視する中絶観が日本では出来上がってしまったわけです。しかし妊娠や中絶が女子のスティグマになってしまうような世界では、少子化の解消などできません。

それにリプロダクティブ・ヘルスは女性の当然の権利で、国連のジェンダーギャップ指数の指標にもなっているのです。子どもを持つ喜びや意義はもちろんあるでしょう。しかしそれ以前に私たちの身体は私たちのもの。『17歳の瞳に映る世界』では妊娠するようなことをした相手が誰なのかさえ明確にされていませんが、だからこそ問題がよりクリアになっています。相手が誰であっても、妊娠が幸せな恋の結果でもそうでなくても、産むか産まないか決めるのは私たちなんです。

私たちの人権を否定する社会は子どもの人権も否定します。映画界も、2007年の『JUNO』などまで「産んだら? 」という作品ばかりでしたが、2017年の『若い女性』あたりから変わってきました。

ちなみに9月28日は国際セーフ・アボーション・デーで、女性が安全に避妊したり中絶したりできる社会にしましょうという日。だから日本でも毎月28日には、セーフ・アボーションについてのトークセッションなどいろいろなイベントが開催されています。この機会に、リプロダクティブ・ヘルスについて調べてみてはいかがでしょう。知識を得て『17歳の瞳に映る世界』を見て、身近にもオータムみたいな子がいたと知ったら、それでもあなたは彼女を責めますか?

『17歳の瞳に映る世界』

(2020/アメリカ/101分)

監督:エリザ・ヒットマン
出演:シドニー・フラニガン、タリア・ライダー
配給:ビターズ・エンド、パルコ
ⓒ2020 FOCUS FEATURES, LLC. All Rights Reserved.
TOHOシネマズ シャンテ他、全国ロードショー
https://17hitomi-movie.jp/

『17歳の瞳に映る世界』だけじゃない! 7月のおすすめ映画。

こうして並べてみると、珠玉の女性映画月間という感じの今夏。休日は映画館でじっくりいい映画を見て熱中症予防しましょう。コロナ対策も忘れずに!

『ウェンディ&ルーシー』

愛犬ルーシーを連れてアラスカに仕事を探しにいくウェンディ。女子の一人旅はさまざまな困難に見舞われ…森の中で寝ようとして変質者に遭遇するウェンディがオータムたちと重なる。8月6日までのケリー・ライカート特集のうちの一作として公開中。

『サムジンカンパニー1995』

大卒社員との差別が厳しく業績を上げても昇進できない女子社員たち。それでもそこそこ居心地がいいと思っていた会社が公害問題を揉み消そうとしていたことを知ってしまい…。『グエムル』のコ・アソンはじめ、俳優がチャーミングな勧善懲悪痛快オフィスコメディ。公開中。

『サンマデモクラシー』

米軍占領下の沖縄、日本から輸入した魚には関税がかけられていたが、法律に記載されていなかったサンマにまで関税がかかったことで、魚市場の女将が琉球政府(つまり米軍)を相手取って税金払い戻しの訴訟を起こした。その顛末を描くドキュメンタリー。公開中。

『名もなき歌』

先住民の女性たちの子どもが政府関係者によって誘拐され海外に養子に出されていたというショッキングな実話を元に製作された、アカデミー賞ペルー代表作。女性の人権を無視する社会は、母親から子どもを奪う社会でもあるのです。7月31日公開。

『モロッコ、彼女たちの朝』

日本で初めて公開されるモロッコ製作の映画。未婚の女性の妊娠で名誉殺人すら起こる国で、中絶もできず未婚のまま臨月を迎えてしまったサミアと、彼女を見過ごせず雇ったベーカリー店主のアブラの心の交流を描く。8月13日公開。

『シャイニー・シュリンプス!』

これはLGBTQ案件。差別発言の罰としてゲイの水球チームのコーチをすることになった競泳元銀メダリスト。個性あふれるメンバーと接するうちに…エゴイスティックでマッチョだった主人公の成長に感動。日本でもこういう措置やればいいのに。公開中。

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』に寄稿。

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