20211126 MASHIRO
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上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#68『ショック・ドゥ・フューチャー』
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。#68『ショック・ドゥ・フューチャー』

GIRLS’ CINEMA CLUB

上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#68『ショック・ドゥ・フューチャー』

2021.08.25

実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
今回ご紹介するのは、テクノポップが世界を席巻する直前、
その新しさをいち早く予見し、夢中になった女性ミュージシャンの一日を描いた作品。
温故知新と言いますが、当時のカルチャーはいまから振り返っても新鮮。
溢れるカルチャー描写と、偏見と闘う…というより
偏見にイラッとしながらも好きなものを突きつめていく主人公に惹きこまれる映画です。

Text_Kyoko Endo

テクノポップ爆誕す。

舞台は1978年、電子音楽家のアナが最新のリズムマシンに出会った一日を描く映画ですが、その一日の情報量がすごい。見どころのひとつは音楽含めたカルチャーの情報量です。

朝起きたアナがアラームのダサい音にケチをつけながら床の上のカセットを探してかけるのがセローン。セローンといえばビースティーボーイズやアヴァランチーズがサンプリングしたフレンチ・ディスコの始祖。名曲『スーパーナチュラル』で目覚めのワークアウトをするまでの間に、彼女が住んでいる部屋に散乱するレコードが映し出されます。ジャン・ミシェル・ジャールやジョルジオ・モロダー、パティ・スミスなんかも。

向かいの壁にはシンセやシーケンサ。いまのノーパソと同程度の機能のコンピュータが一部屋くらいのデカさだった時代、シンセも巨大であります。アナが住んでいるのはインドのヨガ・アーシュラムに行った裕福な友人ミシェルの部屋。自分のものはシンセとシーケンサだけ。元の部屋の持ち主ミシェルが飾ったらしき彫刻家のニコラ・シェフェールの額装されたポスターやミッドセンチュリーモダンの家具とともに、アナが貼ったらしきゴダールやタンジェリン・ドリームの額装されていないポスターがあり、そんな部屋で日本でも昔放送されていたフランスのストップモーションアニメ『シャピーシャポー』を見たりしている。出てくるものすべてカルト的偏愛対象ばかり。

訪ねてくるレコードおたくの友人が持ってきた当時の“最先端”がまた名盤だらけ。TG、スーサイド、アクサマ・マブール。スーサイドを「好みじゃない。声がダサくない? 」と一蹴するアナ。しかし彼が持ってきた音源の中に、格別に彼女を夢中にさせるものがありました。ヒューマン・リーグの前身フューチャー。しかもロンドンの友人が録ってくれたエアチェックのテープ。昔は音源はすべてアナログでレコ発前にラジオで見本盤がかかることがあり、それでさすがのレコードおたくもレコード本体を入手できなかったのでは。彼らが聴いたのは本当に最新に近い音源だったはず。

ヒューマン・リーグはドラマ『グリー!』で大ヒット曲『Don’t You Want Me』(当時の邦題『愛の残り火』って…)が歌われて2010年代にリバイバルヒットしたので知ってる人も多いかも。いまや懐メロですが、当時はめっちゃ新しかったのです。それというのも電子音楽は最初はクラシックの現代音楽から始まっていて、日本でも武満徹や冨田勲が有名。YMOでさえ最初はフュージョンの棚に置かれていたくらいで、電子音楽とポップミュージックの融合は画期的でした。

この映画では音楽は出てくるだけでなく目の前で作り上げられさえします。粗忽なエンジニアがローランドCR-78という最先端のリズムマシンを貸してくれるのですが、それに夢中になったアナと歌手のクララとのセッションが三宅唱監督の音楽ドキュメンタリー『THE COCKPIT』のように素晴らしい。こうやって音楽って出来上がっていくんだというおもしろさに音楽好きなら魅了されると思います。

第二の見どころはこれが女子のクリエイターの物語だということ。ガール読者から見たらアナは自分の分身のように感じられるのではないでしょうか。クリエイターで女子でかわいいのはじつは三重苦だったりする。ジェンダー差別にさらされて細かくうんざりさせられますから。アナは電子音楽をやりたいのに、まずアポが取れず、会ったら会ったで「かわいいんだから歌手に転向しなよ」と求めてもいない“仕事の助言”を受けたりしています。

アナは数々の細かくイラッとするジェンダー差別を受け続けています。彼女に曲を依頼したプロデューサーは「女を使おうなんて言うからこんなことになるんだ!」と推薦者への愚痴を彼女を前にして言い「男なら機械をいじりだしたりしない」とも。シンセの不調のために修理を頼んだら、こいつもまたアナの数少ない私物の電子楽器を「女には買えない代物だ」などと失言するバカ男で、女は機械をいじれないというステレオタイプが散見されます。

こうした傾向は21世紀のいまになっても日本ではあんまり変わっていなくて「女子と機械のミスマッチ」なんて書いちゃうアイタタな記事も見かけるわけですが、機械化された現代だからこそ体力による仕事の分業が無意味になって職業を性で分ける意味もなくなったわけで、むしろ機械は女性のお友だちなんですけど。だからこそこの映画は黎明期の女性電子音楽家に捧げられているんじゃないでしょうか。

そうした偏見にいちいち「はあ?」という顔を隠さないアナを演じるのは、ランコムのアンバサダーで自分でもバンドを組んでアルバムを出しているアルマ・ホドロフスキー。映画好きな人には、アレハンドロ・ホドロフスキーの孫と紹介した方が伝わりやすいのでしょうか。クララ役はこちらもミュージシャンのクララ・ルチアーニ。監督のマーク・コリンもミュージシャンとして30年以上のキャリアがあり、これが初監督映画です。後半に登場するディスコクイーンのコリーヌとも一緒に活動してきました。

だからこれってミュージシャンが作りミュージシャンが演じて女性ミュージシャンに捧げた通好みの電子音楽映画です。テクノポップ爆誕とほぼほぼ同時期にパンクやラップも出てきていたのですが、チャートはあっちゅーまにテクノポップとニューウェーブに席巻され演歌でさえピコピコした音を入れるようになり、その後流行りすぎた電子音が飽きられてアコースティックが復権し、ビョークの「どんな音楽にも電子音が入っているのが普通でしょ?」発言があり、いまとなってはテックと民族楽器との境界さえなくなりました。いまは音楽的には極端な変化はなく、フェミ的には急激な変化のまっただ中。変化に対して頑迷だと馬鹿みたいに見えるのは共通しているかもしれないです。

『ショック・ドゥ・フューチャー』

(2019/フランス/78分)

監督:マーク・コリン
出演:アルマ・ホドロフスキー、クララ・ルチアーニ、コリーヌ
配給:アットエンタテインメント
©︎ 2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films
8月27日(金)より新宿シネマカリテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国ロードショー
https://chocfuturjp.com/

『ショック・ドゥ・フューチャー』だけじゃない! 8月のおすすめ映画。

9月10月が大豊作で今月は地味…と思いきや、書き出してみたら名作揃いとなりました。コロナ対策万全の上、映画館で暑さや雨を避け、楽しい夏をお過ごしください。

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』

これも今夏の大本命。1969年ニューヨークのハーレムで行われたブラックミュージックの無料コンサートフィルムを、クエストラヴが根性で映画化。フェスに行くのさえ考え込んでしまう状況下、ライブ音楽好きの人はむしろこれを見に行ってください。8月27日公開。

『ドライブ・マイ・カー』

濱口竜介監督がカンヌで脚本賞を受賞した傑作。村上春樹の数本の短編が原作。ストレスフルなメンヘラ美女とそれを受け入れるしかない男という物語かと思いきや、さまざまな登場人物の逸話や佇まいに自然に癒されてゆく。まったく長さを感じさせない179分です。公開中。

『子供はわかってあげない』

昨年公開されるはずだったのがコロナで延期に。新興宗教の教祖になってしまい母と離婚した父を探しに行く女子高生と、彼女を助ける書道教室の息子というちょっと変わった青春ラブコメ。原作漫画の瑞々しさがそのまま描かれているラヴリーな映画です。公開中

『恋の病 潔癖なふたりのビフォーアフター』

潔癖症で吊革にもつかまれない青年が自分と同じくらい潔癖症な女の子に出会って…。カラフルな美術、ポップな演出でミシェル・ゴンドリー的な世界観なのに、結末は意外にもウエット。潔癖症が他人事にならないコロナ禍のいま、ちょっと身につまされる台湾映画。公開中。

『リル・バック ストリートから世界へ』

メンフィスから生まれたストリートダンスに魅せられた少年は、貪欲にダンスを極めようとクラシックバレエの世界へ。スパイク・ジョーンズの動画投稿で有名になっても、心はストリートダンサーのまま。リル・バックはジャンル分けすることの空しさも教えてくれます。公開中。

『スザンヌ、16歳』

2000年生まれのスザンヌ・ランドンが、15歳で書き始めた脚本を19歳で映画化。ホワイトシャツや7分袖Tシャツのセンスの良い着こなし、グレナデンソーダの使い方の巧みさ、30歳の男を街中で誘惑するスザンヌの大人っぽさとすべてが勉強になります。公開中

『DAU. 退行』

これは裏ナンバーワン作品。衣装4万着、主要キャスト400人、エキストラ1万人、制作年数15年というスケールでソ連全体主義下の科学都市を創出した大作。反知性主義の恐ろしさをリアルに感じます。上映時間も366分と長尺ですが、人生に必要な6時間です。8月28日公開。

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』に寄稿。

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