GIRLS’CINEMA CLUB番外編! 年末年始に見たい映画。
GIRLS’CINEMA CLUB番外編!
年末年始に見たい映画。
2022.12.28
実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
今回はいつもの連載とは趣向を変えて、2022年末から2023年始にかけて見られる
(アバターとすずめで見落とされるのは惜しい)素敵映画をご紹介します。
お正月休みは3日までという方も多いかと思いますが、成人の日の三連休までの公開作から選びました。
もちろん『MEN 同じ顔の男たち』や『あのこと』など12月のGCCでご紹介した作品も引き続きお勧めです。
名画座めぐりもよいですね。
年末年始に見たい映画。
『Never Goin’Back ネバー・ゴーイン・バック』
A24のはっちゃけ女子青春ムービーアンジェラとジェシーは大親友。ジェシーの兄やルームメイトと一緒に住んでウェイトレスのバイトで頑張って家賃を払っています。ジェシーの17歳の誕生日にアンジェラはビーチへの旅行をプレゼントするのですが、家賃を使ってしまい、バイトのシフトを増やせば…と考えていたけど大変なことに。まだ16歳で家賃の心配? そう、これド貧困&周囲の大人をまったく頼れないJKふたりがジャングルの中の仔猫のようにアメリカ地方都市をサバイブする物語なんでした。なにしろジェシーの母は娼婦で兄はプッシャー志願のプー、まともな大人はバイト先の店長だけなんです…。でも全然暗くならず、どうしても出てくる笑いの数々…兄とルームメイトのアホさもすごいが(SNLのカイル・ムーニーたちが熱演)彼女たちの底抜けの明るさと不適な強さに救われるすごい映画。なんと監督が自分の過去を振り返って書いた実話が元になってる話で、アメリカではサンダンスで公開されたあとA24が配給権を獲得した話題作。主演はマイア・ミッチェルとカミラ・モローネで、ふたりのファッションもやたらかわいい。シモとドラッグネタOKな方限定でお勧めですが、見たら元気になります。この監督は今後大注目ですよ。
監督・脚本:オーガスティン・フリッゼル
出演:マイア・ミッチェル、カミラ・モローネ(2018/アメリカ/86分)
配給:REGENTS
公開中
『そばかす』
わかってもらわなくても大丈夫恋愛感情というものを持てず性欲も感じないソバタさん。しかし周囲は妙齢の彼女を放っておかない。合コン、お見合いに引っ張り出され、超然としているからかえってモテてしまい、正直に断ってもわかってもらえない…。アセクシャルな人々の違和感を描いたら、日本社会の“みんな同じがいい”幻想の中での生きづらさが浮かび上がってしまったシリアスだけど軽妙な良作。アサダアツシさん脚本、玉田企画の玉田真也さん監督作で、舞台俳優さん多数なキャスティングも良いです。私は正直、玉の輿恋愛モノって女子が一人で生きていくのに大変な社会でこそもてはやされるんじゃねえの?と思っております。社会階層をのしあがるには結婚で一発逆転するしかないなんて知的で健全な女子にとっては不健全な考え方だと思うけど、それしか手がないとかそればかりがまかり通っているような保守的な地域に住んでいる人はじゃあどうしたらいいのか。静かだけど自分を曲げられないソバタさんの生き方がヒントになるかもしれません。羊文学の塩塚モエカさん作詞作曲の主題歌も良いです。メ〜テレ作品は要チェックですね。
監督:玉田真也
出演:三浦透子、前田敦子、伊藤万理華(2022/日本/104分)
配給:ラビットハウス
公開中
『ホイットニー・ヒューストン
I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
私はホイットニー・ヒューストンの全盛期には彼女にあまり興味が持てなかったのです。私が好きだったのはパンクやグランジだったので彼女はジャンルが違う人だったのでありました。しかし『ボヘミアン・ラプソディ』の脚本家が書いたこの作品はものすごくよくできている。『ボヘミアン〜』の成功でミュージシャン伝記映画がやたら増えましたが、最初のヒットメーカーが関わっている作品はやっぱり高品質。そしてこれも『エルヴィス』と同じように、才能ある子どもが家父長制で調子に乗った父親に滅ぼされていく話なんでした。音楽もドラマも楽しめるのですが、家父長制・お金を稼ぐこと・夫婦関係などについても考えさせられます。アメリカ音楽界のステージパパ本当にやばいんだが、母や大親友(元恋人)とのつながりが救いかも。
監督:ケイシー・レモンズ
出演:ナオミ・アッキー、スタンリー・トゥッチ、アシュトン・サンダース(2022/アメリカ/146分)
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公開中
『ベイウォーク』
楽しい裏社会科見学海外、とくにフィリピンなど歓楽街が有名な土地でさまざまな事情から貧困に陥り帰国できずにそのまま現地の人の情けに頼って生きる困窮邦人…『ザ・ノンフィクション』の企画からそんな人々を追いかけ話題となったのが去年公開された『なれのはて』でした。本作は『なれのはて』に入りきらなかった“それでもまだ足掻く人”のドキュメンタリー。うら寂れた昭和のおっさんたちのしょーもないしょっぱい話のどこが面白いのかと思う人もいるかもしれないけど、裏社会科見学というか、知らない世界を知るおもしろさに溢れている映画です。M資金詐欺師(昭和に流行った旧日本軍の隠し金をネタにした詐欺)までもが登場し、人が嘘つくときの顔っていうものをリアルに見れるので、鉄板でお勧めです。監督は「だいたい男はみんなこうなるかもしれないんですよ」とおっしゃっていましたが、くだらねえプライドで身を滅ぼしていく男子の本質を描いているところとか本当に勉強になりますよ。他媒体の女子向け映画リストには載ってないかもしれませんが、立石に飲みに行くような女子なら絶対楽しめるはず。
監督・撮影・編集:粂田剛 音楽:高岡大佑 調音:宮崎花菜(2022/日本/90分)
配給:ブライトホース・フィルム
公開中
『ヨーヨー』
デザイン関係者必見のセンスの塊映画ヨーヨーは小さな道化師。軽業師のママとサーカスで暮らしているけど、パパはお城を持っている大富豪だったんです…オープニングのアニメからもうかわいい。仕掛け絵本のような美術も、チャップリン的なドタバタやマルクス兄弟的おふざけも、やかましいフォーリー入れといて無声映画のように台詞に字幕入れるのも子役も犬も、すべてがかわいい、これぞセンスの塊なフレンチ・コメディ。映画のみならずデザイン関係者必見です。撮ったのはピエール・エテックス。俳優として、また助監督としてタチ、ブレッソン、イオセリーニや大島渚と仕事をしていて『ぼくの伯父さん』のポスターのイラストも描いた才人だったのですが、肝心の監督作品が権利問題で長年見られなかったのです。今回この『ヨーヨー』をはじめ、6本の日本劇場初公開作を含む7本がピエール・エテックス レトロスペクティブとして特集上映されます。フィルムが修復されデジタル化もされてエテックス本人が監修。こういうことこそデジタル化の恩恵ではないですか。
監督:ピエール・エテックス
出演:ピエール・エテックス、クロディーヌ・オジェ(1965/フランス/98分)
配給:ザジフィルムズ
公開中
『チョコレートな人々』
気合いが入るお仕事ドキュメンタリーSDGsとか女性管理職を増やそうとかジェンダーギャップをどうにかせいとか経済界主導でD&Iが話題ですが、どこの会社もまずおっさんの強固なコミュニティがあったのが、おっさんだけだと停滞したり破綻したりしてきたから女性や障害者を入れて活性化しましょうという流れ。私たちラーメン味変する具材じゃないんですけど。最初から入れてくれてたらよかったじゃん…。ところが、この映画で紹介されているチョコレート会社、久遠は違っていて、まず障害者雇用のために会社を立ち上げたという成り立ちなんです。しかも、結果、老舗デパートのバレンタインフェアに必ず呼ばれ、年間16億を売り上げる優良企業に成長して、女性にとっても子育てや介護と両立できる働きやすい職場に。そんな会社で働く人々の数々のドラマに溢れた必見作です。これまでにもおもしろいドキュメンタリーを数多く生み出している東海テレビ制作で、久遠が成功する前から何年もかけて丁寧に取材されているので、テレビでよく見かける単なる“成功した人のかっこいい話”ではなく、苦闘や失敗がしっかり描かれているのも◎。世間で常識だと諦められていた問題に果敢に挑戦して見事成功した人の話なので、仕事や生活にマンネリ感を感じている人はいい感じで気合いが入るはず。
監督:鈴木祐司
ナレーション:宮本信子
プロデューサー:阿武野勝彦(2022/日本/102分)
配給:東海テレビ
1月2日(月)より[東京]ポレポレ東中野、[愛知]名古屋シネマテーク、ユナイテッド・シネマ豊橋18、[大阪]第七藝術劇場 ほか全国順次公開
『とべない風船』
静かに癒されたい人にお勧め豪雨で激甚的被害を受けた広島を舞台にした人間ドラマ。豪雨災害で家族を亡くした男性と、仕事でつまずいた女性の物語。東出くんにばっかり苦悩する役柄を振りすぎなんじゃないか、風船はプラごみになるんだけど…などツッコミどころもあることはあるのですが、心が回復していく過程を静かに描いた良心的な作品です。主要登場人物を無理やり恋愛させたりしないところもよき。七草粥のような優しい映画で爽やかな感動があります。
監督:宮川博至
出演:東出昌大、三浦透子、小林薫、浅田美代子(2022/日本/104分)
配給:マジックアワー
1月6日(金)新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー 広島では先行公開中
『非常宣言』
やっぱり見たい!王道韓流エンタメ猟奇殺人の遺体が発見され、そこから飛行機を狙ったバイオテロが判明する。テロリストがターゲットにしたハワイ行きの飛行機には子どもを転地療養に連れていくシングル・ファーザーや、仕事が忙しすぎる夫を置いて旅行に出かけた刑事の妻も乗っていた――なにしろソン・ガンホとイ・ビョンホンがダブル主演、テロリスト役がZE:Aのシワンとスターが多すぎる群像劇なので、最初こそ視点の多さでごちゃつくものの、団地での殺人発覚あたりからどんどん盛り上がってきて140分があっちゅう間です。飛行機という密室で殺人ウイルスを使うバイオテロの話なのでコロナ後の私たちにはとてもリアル。さらに笑いあり、カーアクションあり(飛行機映画なのに)、政治的メッセージ性あり、感動もあり…という全部乗せ王道韓流エンタメ。一人で見てもみんなで見ても楽しい、これこそ休日に見たい映画でしょう。
監督:ハン・ジェリム
出演:ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、イム・シワン(2022/韓国/141分)
配給:クロックワークス
1月6日(金)全国公開
PROFILE
遠藤 京子
東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』、『BANGER!!!』に寄稿。
Instagram @ cinema_with_kyoko
Twitter @ cinemawithkyoko