GIRLS’ CINEMA CLUB
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#95『デューン 砂の惑星 PART2』
実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。今回は、GCC#70で前編を紹介してから2年…。
ついに公開される『デューン 砂の惑星PART2』!「前回まったくわかんなかったんですけど」
「PART1見てないんですけど」という方も、背景知識さえ押さえておけば絶対に楽しめます。
それでは今から2万年後の未来、帝国歴10191年にGO! 西暦じゃないのでそこ間違えないでね。
Text_Kyoko Endo
PART1を見なくてもわかる、DUNE2
前編は偉大なる導入部って感じで、デヴィッド・リンチ版(4巻の原作を2時間17分でまとめて大ブーイングくらった)で言うと1時間半くらいのところで終わっちゃってたのはすでにお伝えしました。ってことはこのPART2はリンチ版の残り47分なの?おもしろいの? なんて疑問も出るでしょうが、水戸黄門でいうと、今から悪代官がもうちょっと悪いことしてこれから印籠が出るとこなので山場だらけですよ、むしろ。ここからがおもしろくなるとこです。
宇宙飛行に欠かせないスパイスの産地だけれど、スパイス以外は砂漠しかない惑星アラキスにやってきた統治者のレト・アトレイデがハルコンネン男爵に暗殺され、アトレイデ家は断絶、アラキスのスパイス採掘権もハルコンネンに奪われ、後継者ポール(ティモシー・シャラメ)と母ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)が砂漠に逃亡、砂漠の民フレメンと出会うところまでが前編でしたね。いよいよ今作で復讐開始です。
まず砂漠に砂虫がいることを思い出しましょう。人どころかスパイス採掘車も飲みこむ巨大怪獣。砂虫がいる場所で普通に砂漠を歩くと足音で気づかれて食われるので、フレメンたちはリズムを変えて踊るように歩きます。ダンスのような美しい動きに変えたのがさすがヴィルヌーヴ監督。砂虫は最終兵器みたいな生物ですが、フレメンはサンパーというリズムを出す機械で砂虫を呼び、乗りこなしたりもしています。サンパーは侵略者を砂虫に食わせるため、砂虫をおびき出す罠としても使われています。
アラキスでは本当に水が貴重なので、フレメンたちはみんな身体の水分を逃さないスティルスーツを身につけています。鼻の呼気からも水分を回収して取り戻す仕組み。あれは鼻栓じゃないです。排泄物の水分も再利用。 フレメンの目はみんな青いのですが、それはスパイスの影響なんです。前回はスパイスだらけの空気にドン決まるポールがトリップして未来を見ていましたが、空気だけじゃなくフレメン料理にもスパイスが入っているのです。だからポールの目も青くなるんですね。
原作が発表されたのは1965年でカウンターカルチャー真っ盛りのころ。心理学者ティモシー・リアリーがマジック・マッシュルームを体験したのが1960年、LSDを実験に使ってハーバードから解雇通知を送られたのが1963年で、このころドラッグによる意識変容はすごいホットなトピックだったんです。それで、原作者のフランク・ハーバートはドラッグをスパイスと呼んで意識変容という要素を小説に入れてるわけです。
未来を見られるスパイスは宇宙飛行に欠かせないので、スパイスがなければ貿易もできない。スパイスを制するものは宇宙を制するというのはそういうことで、いまで言えば石油を押さえているのと同じようなことになります。砂漠のフレメンはパレスチナ人やアラブのベドウィンのように描かれてもいます。
あと押さえておいてほしいのはベネ・ゲセリットですね。ローマ・カトリック教会の女性版みたいな女性だけの宗教集団で、表に立つことなく宇宙をコントロールしてきた彼女たち。ヨガみたいな独自の肉体訓練法や武術をもち、皇帝家や太公家の女性たちも全員弟子で、目標は救世主を誕生させること。教母はシャーロット・ランプリング…いや、ガイウス・ヘレン・モヒアム。しかし、教母の教えに反してパートナーの男性の希望を聞いちゃうジェシカみたいな弟子もいて苦労も多いようです。
ベネ・ゲセリットが救世主信仰を布教しておいたため、アラキスのフレメンたちも救世主を待ち望んでいます。それが時代が流れて流派が違う別の宗教みたいになってる。スティルガー(ハビエル・バルデム)も救世主が現れてアラキスが緑の惑星になることを夢見ています。フレメンの現代っ子チャニたちに「南の田舎にしか信者なんかいないよ」と笑われても。
前回チラッとしか出なかったゼンデイヤが今回はその娘チャニ役で活躍。リンチ版ではスティングが演っていたフェイド・ラウサにオースティン・バトラー、皇女イルーランをフローレンス・ピュー、父皇帝をクリストファー・ウォーケンが演るのも見もの。
ひとまず『デューン 砂の惑星』はひと段落ですが、原作シリーズは長大。いま胎児でしかないけれどすでに意識がある妹が生まれたらもっとすごい話になり、しかもその妹が今回未来ビジョンとして一瞬出てくるので、まだまだシリーズを楽しめそう。ちなみにアメリカではMBOがすでにベネ・ゲセリットを描くスピンオフシリーズを準備していて今秋配信と報道されています。日本版はいつになるやら。見たすぎる…!
『デューン 砂の惑星PART2』
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ出演:ティモシー・シャラメ、ゼンデイヤ、オースティン・バトラー、フローレンス・ピューほか(2024/アメリカ/166分)
配給:ワーナー・ブラザース映画
3月15日(金)全国公開
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『デューン 2』だけじゃない!今月のおすすめ映画
こちらも実際に見ておもしろかった映画しか選んでいません。そしてまたしても必見作ばかりなのでレディースデー のご予定はもうほぼ決定ですね。花粉症から逃げる場所としても映画館はアリなのでは。
『ボーはおそれている』
『ミッド・サマー』のアリ・アスターが描く、ペシミスト、ボーの巻き込まれ型災難。こんなにすべてが悪い方に転がる人生ってある? あまりに予想外の展開に目を離さずにいられません。ホアキン・フェニックスってやっぱり情けない男を演じたときこそ光るような気がしますね。公開中。『テルマ&ルイーズ』
早くも90年代にレイプや暴力にさらされた女性たちを描いたリドリー・スコット監督の名作。いま見ると最初のうちはテルマにイラついたりもするのですが、後半が本当に素晴らしい。ブラピも出てますが、マイケル・マドセンやハーヴェイ・カイテルなどレザボア出演者も好演。公開中。『落下の解剖学』
カンヌパルムドールを見逃すわけには行かないですね。女性作家の夫が別荘の窓から落下。自殺か、事故か、それとも…と裁判が進み、本来の家族間の平等が問われる。法廷モノとしてもスリリングで「真実より陪審員からどう見えるかが問題」と大問題を喝破しちゃった問題作。2月23日公開。『マダム・ウェブ』
スパイダーマンのスピン・オフで、大人向けに作られたミステリー・サスペンス。救急救命士のカサンドラは事故現場で川に落ち瀕死の状態に陥ったことから予知能力が目覚めてしまいます。目前の女子高生たちが殺されると察知した彼女は…マーヴェル版『グロリア』みたいなシスターフッド映画。2月23日公開。『ヴェルクマイスター・ハーモニー』4Kレストア版
ジム・ジャームッシュやガス・ヴァン・サントも憧れるハンガリーの生きる伝説タル・ベーラ監督。いまなお評価が高い傑作が劇場公開。早送り動画だらけのいまだからスローに観るべき余白たっぷり映画の魅力を知ってほしい。冒頭部、おじちゃんたちの日蝕遊戯からもう目が離せません。2月24日公開。『アーガイル』
スパイ小説で大人気の作家エリーは、国家機密を予言しているとある組織に狙われることに…何にも考えずに見られる痛快スパイアクション。『キングスマン』でコリン・ファースにアクションをやらせたマシュー・ヴォーン監督、今度はサム・ロックウェルに007みたいなことをやらせてますよ。3月1日公開。『かづゑ的』
10歳から家族と引き離されてハンセン病療養所に入所、指や足を失いながらも野菜を作り家事をこなし、80歳近くになってワープロを覚えて名著『長い道』(これは泣く…)を出版した宮崎かづゑさんのドキュメンタリー。本当に背中を押されるというか、元気出ます。元気がない人はすぐ前売り買ったほうがいいです。3月2日公開。『津島 ―福島は語る・第二章―』
山形ドキュメンタリー映画祭でも話題になった土井敏邦監督の力作。福島・津島の証言を集めた189分。証言が強いとインタビュー映像だけでも作品が成り立ってしまうわけですが証言を集め続けた情熱にも圧倒されます。日本人のメンタリティについても考えさせられる重要作。3月2日公開。『すべての夜を思いだす』
生活空間でありながら均質で未来都市のように見え、しかし高齢化で荒廃も心配される不思議な場所、ニュータウン。そこに生まれ育った清原惟監督がニュータウンを舞台に描く群像劇。いなくなってしまった人がいた痕跡に触れるときの心の動きを映像化した美しい映画。3月2日公開。『ビニールハウス』
パク・チャヌク、ポン・ジュノ、イ・チャンドンと名匠揃いの韓国から、彼らの作風を正当に受け継いだ凄い新人女性監督が登場。29歳でこれが長編デビューとは思えないプロット、世界観、映像。それに応えたキム・ソヒョンの演技も流石。これも今年の必見作です。3月15日公開。『12日の殺人』
仏版『ゾディアック』とも『殺人の追憶』とも言われる未解決事件もの、しかもヘイトクライムを描いているのですが、希望を感じられる結末で、女性の社会参加の重要性もさりげなく描いたドミニク・モル監督の傑作。セザール賞で監督賞作品賞など6冠も納得。3月15日公開。『モンタレー・ポップ』
デビュー間もないジャニス・ジョプリンが見られる貴重すぎるフィルム。ミュージシャンと観客の距離も近く、ミック・ジャガーが通行人的にフラッと通り過ぎたりする驚くべきドキュメンタリー。全盛期のラヴィ・シャンカールの神技は衝撃的。3月15日公開。PROFILE
遠藤 京子
東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』、『BANGER!!!』に寄稿。
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