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GCC拡大版! ジア・コッポラと考えるSNSと私たち。
GCC拡大版!  ジア・コッポラと考えるSNSと私たち。

STARDOM and FANDOM.

GCC拡大版!
ジア・コッポラと考えるSNSと私たち。

2021.10.08

映画ファンにとってはソフィアの姪で御大フランシスの孫、ファッション女子にとってはインフルエンサー。
映画監督、ジア・コッポラ。新作は、SNSで成功するけれど暴走してしまう青年と、
彼を世間に送り出したことで振り回されていくアーティスト志向の女の子の物語。
SNSについて、音楽について、カミング・オブ・エイジを撮る理由について、
一問ごとにすぐに結論を出すというよりは、ゆっくりと考えながら答えてくれる
ジアのチルな人柄が感じられるインタビューとなりました。

Text_Kyoko Endo

カミング・オブ・エイジに惹かれる理由。

―『1984』のビッグブラザー的にガーフィールドが描かれている映像もあって、失言や侮辱が多かったアメリカ前大統領がどうしても思い出されます。オープン・エンディングにしたのは現在も起こっていること、現実の話だという意味が込められているんでしょうか。
そうですね。もちろん現実に起こっていることです。1950年代の映画にインスパイアされてこの映画を撮ったんですが、ある部分はやっぱり現在進行形で起こっていることで、私たちがそこにばかり気を取られるエゴの世界で、まさにいま抱かれている疑問だと思います。おそらくは教育が行き渡っていなかったり、コマーシャリズムと私たちの生活が結びつきすぎていることも理由で、SNSが私たちの信条にますます関わってきている……。何がいい何が悪いとかSNSに反対するってことではなく、本当に人生で重要なのは何かっていうこと、愛とか家族とか友だちとか幸せとか自然とか人とのつながりが重要なんじゃないかとオープンエンディングにしました。でもこの映画を作りたかったのには、自分の中で答えを見つけたかったというのもあるかもしれません。

―ガーフィールドの演説やキャッチフレーズに民衆が簡単に乗せられてしまいます。『メインストリーム』というタイトルはSNSだけでなく人気など大衆心理そのものを動かすことを表しているように思えます。
その通りです。ストーリーはSNSについてですけど、こういう感情はどんなプラットフォームでも起こりえますよね。これは昔からある話で、集団として私たちがどこに価値を見出すのか、どんなことが起こるのか、有名人になるというのがどういうことなのか、そこにどんな理由があるのかを示しています。スターとファン、そうして有名になるということ、たった一人の崇拝されるスターの後ろに多くの犠牲者がいるカルチャーがあるってことが面白いと思うんです。誰にでもスターダム、ファンダムがあって、何かが起こることが。
―マヤ・ホークは成功を夢見て動画を投稿していますよね。多くの人が目指しているSNSでの成功について監督ご自身はどのように考えていますか。
いい質問ですね。映画の冒頭でフランキーはまだ若くて親元を離れたばかりで、映画の終盤には、人生の成功はちょっとしたこと――人気とか物質的な何かを手に入れることじゃなくて、人とのつながりが大切だってことを学んでいます。死ぬときになってそういうつながりを思い出すものですよね。人と分かち合える際立った思い出ってあるでしょう。ときどき私は大事なものを失いかけてしまうんですけど…友だちとか約束とかを、仕事のために。でも私は仕事のことなんか思い出さないで、ただ、一緒にいられたらよかったのにっていう人を思い出すでしょう。だから成長すれば人生の価値というものを学ぶようになると思います。それに、世界はもう爆発寸前なんですよ。温暖化してるし、自然や愛や、そういうもののほうが大事だってことに気づくべきでしょう。
―ご自分自身もインフルエンサーですが、SNSをどのようなものと考えていますか。
この映画を作ってからSNSと新しい関係が結べたように感じています。以前は犠牲者みたいに感じていました。いまでもSNSはあんまり好きじゃないし、こういうものから離れていることもできると思います。スマホを持ち歩くのは嫌いだし、その種のものから離れていたい。何がイヤって、SNSって私たちを飼い慣らすように設計されているものだし、だからメンタルに影響を受けちゃう人がいるわけで。私は写真が好きだからSNSを始めましたけど…写真や作品をシェアするのは好きでしたが、感情的に結びつくようになっちゃうと、大変すぎて続けられないと思います。
―私は正直に言えば自分がティーンのころSNSがなくて本当によかったと思っているんです。
私も。私は20代のころだったので、いまみたいな関係性じゃなかったですし。いとことか若い子といると、とくにコロナで学校もリモートになってSNSが唯一のつながりになってしまっています。でも、SNSって何百万もの人がこっちを見ているようなものでしょう。誰も何も言えなくなっちゃう。大変ですよね。
―一方でSNSは新しい音楽や映画を探したり時代の空気感を感じるにはうってつけのツールでもありますね。
そうですね。映画を作ってよかった別の理由は、フアンパみたいなユーチューバーと知り合えたこと。フアンパは素敵な人でいい演技をしてくれたし、彼らの発言にもインスパイアされました。素晴らしいイメージも得られましたし。それにインディペンデント映画が多くの人に見られるのにはすごくいい媒体。精神的な危険性もあるけれど利点もいっぱいありますね。
―2014年の『パロアルト』ですでにブラッドオレンジを使っていますよね。いつも新しい音楽をピックアップされていますが、SNSで音楽を探したりすることもありますか。
じつはいまは音楽には全然くわしくなくてトップ40しか聴いてないんです。若いころはよく聴いていてクールな音楽を見つけたりするのももっとうまかったんですけど…ごめんなさい、私の猫が…(猫を抱いてなでながら)でもそのころ私はデヴのファンで、彼はまさに私がほしい音楽をいろんなスタイルで作っていたんです。それで彼と仕事したんですけど、サウンドトラックってことでは『パロアルト・ストーリー』では彼がほかの友だちに作ったプレイリストの中からトラックをピックアップしただけなんです。
―じゃあ、もともと彼のファンだったんですか?
そう。大ファンでした。共通の友だちもいたんですけど、彼のファンで自腹でコンサートも行ったってツイートしたんです。『パロアルト・ストーリーズ』で仕事してくださいって頼んで、それから一緒に仕事してます。
―今回の映画もそうでしたが、女の子の鬱々とした感じとデヴの音楽性がすごくマッチしていて、どうやって作曲してもらったんでしょうか。
彼には映画の断片を伝えて、どういう意味があるのかを伝えて書いてもらっただけです。あんな天才に余計なこと言いたくなかったんです。ミスガイドしたくなかったですし。でも彼は私に苦もなくトラックを送ってくれました。
―主人公はモンスターの近くでお金を稼ぐより、安らげるジェイク(『パロアルト』にも出演したナット・ウルフ)の方に行きますが に惹かれるようになりますが、これは心をむしばむお金や人間関係よりもヘルシーな生き方を選ぼうという監督からのメッセージなんでしょうか。
私は女の子と不良少年の物語を見るたびに、目の前に優しい男の子がいるのに気づけばいいのに、と思うんですよね。女子はいつも危ないタイプのほうに行っちゃって、その男の子に大変な目に合わされるでしょう? でも、これは、こうあってほしいと思っていた願いが正しくないときにその願いを手放す物語とも感じているんです。ときにはタフな決断をしなければならない。モラル的に正しい選択をしなければなりません。あと、自分にはどんな相手がいいのかよくわかっている女子にとっても恋愛はすごくトリッキーなものですよね。私は三角関係とかそういうストーリーが好きなんです。失恋ものが好きなんですよね。
―これは女性が大人になっていくカミング・オブ・エイジストーリーでもありますよね。『パロアルト』もティーンが大人になる物語でした。成長とか大人になるとはどんなことだと思いますか。
私はいま30代半ばで、私が思うに…私はまだキッズみたいな気がしています。答えになっているかわからないけど『パロアルト・ストーリー』を作った時は20代で、あの年代をああいうふうに見ていました。ティーンのころすごくヘビーなことがあっても、20代になって振り返ってみると懐かしく感じる。そうして30代になると、20代を振り返ることができて、また違う視点を持つようになります。それも新しい形のカミング・オブ・エイジで、どの年代でも10年代ごとに起こってくることだと思うんです。それに私が40代になったら、絶対私は自分の30代をカミング・オブ・エイジと捉えるようになると思います。皆、人生のそれぞれの時期で変わっていくんです。でも私は、そういうカミング・オブ・エイジという短い期間の人と人との関係性に興味があって、そこにすべてが描かれていると思うんです。それって内面的な旅みたいなものでしょう。

『メインストリーム』

(2021/アメリカ/94分)

監督:ジア・コッポラ
出演:アンドリュー・ガーフィールド、マヤ・ホーク、アレックス・ウルフ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©︎2020Eat Art, LLC All rights reserved.
10月8日より新宿ピカデリー他、全国ロードショー
happinet-phantom.com/mainstream/

PROFILE

遠藤 京子

東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』、『BANGER!!!』に寄稿。

Instagram @cinema_with_kyoko
Twitter @cinemawithkyoko