Girls Just Want To Have Fun!

Youth is beautiful.

コミュニオンズが、ブルーという言葉に込めた想い。
Photo_Tetsuo Kashiwada 
Interview&Text_Yukiko Inoue
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ここ数年、良質なバンドを多く輩出しているコペンハーゲンの音楽シーンにおいて、
ストーン・ローゼスやリバティーンズと比類される存在として
インディー・ロック・ファンが来日を心待ちにしていたコミュニオンズ。
初となる日本公演を終えた彼らに、デビューアルバム『ブルー』について話を聞きました。

バンドを結成したのは、みんな友達だったから。自然なことさ。

ようやく。日本のファンからするとこの表現が一番ふさわしいと思うのですが、ここ2年くらい大きな話題となっていたデンマーク•シーンの中枢であるコミュニオンズの来日が実現して嬉しい限りです。まずはバンドの結成の経緯を聞かせて下さい。
マーティン(Vo)
コミュニオンズはぼくの弟のマッズと友だちのフレデリック、ジェイコブによって結成されたんだ。フレデリックとジェイコブは元々他のバンドをやっていたけど、ぼくと弟が彼らと何か一緒にやりたいと思ってね。なぜなら、みんな友達で互いに居心地が良い存在だったから。ぼくらは同じ種類の音楽も聴くけど、それがバンドを始めた理由ではないんだよ。
バンドは“メイヘム”というデンマークの有名なリハーサルスペースから自然発生的に生まれたそうですね。この場所は何か特殊な場所なのでしょうか?
ジェイコブ(Gt)
メイヘムはいわば、ワークスペースのような場所かな。めちゃくちゃなんだけどクリエイティブなムーブメントの発祥地となっていて、集まっているやつらもみんな友達でね。ひとつの大きな部屋に10組くらいのバンドがいてみんなそこで練習して、隣には生演奏できるライブハウスもある。リハーサルスペースでもありライブハウスでもあるから、クリエイティブに進化したウエアハウスといえるかもね。ぼくらは、そこで他のバンドが音楽を作るのを見るのが好きなんだ。
次々とカルチャーをクリエイトしていったアンディ・ウォーホルのファクトリーを想像してしまいますね。今もそこで制作活動をしているんですか?
マーティン
うん、そうだね。
コペンハーゲンという小さな街から、この短期間にこれだけ世界で話題になるインディー・バンドをたくさん輩出されたのはなぜでしょう? 
ジェイコブ
これまでも常にそうだったと思うけど、コペンハーゲンの若者は音楽を作る傾向がある。音楽やアートなど、“クリエイティブであること”に彼らは大きな必要性を感じているんだ。そして、クリエイティブな人が集まる環境にいれば、自分探しもできる。だからコペンハーゲンからの音楽的なアウトプットが多いんだと思うよ。
小さい街の中で、みんなが切磋琢磨し合っているんですね。
マーティン
音楽をやりたいと思う若者は当然音楽活動することを望むけど、様々な理由で「バンドなんてできない」と諦めてしまう。バンドをやるためのちょうどいい跳躍板がないと思ってしまうからね。でも、友達がバンドをやっている姿を見ると「自分にもできる」と思えるようになるだろ? だからといって、みんなが同じ音に作っているだけのムーブメントだとは思わない。それぞれが異なる個性的なサウンドを持っていて、互いにクリエイティブになるという意味でインスパイアされ合っているんだ。
ジェイコブ
音楽を作ることを渋らない人々からもインスパイアされているかな。
クリエイティブなアティテュードは国民性なんですね。羨ましいです。
マーティン
うーん、どうなんだろう。本当はたった50人くらいしかクリエイティブな人はいないかもしれない(笑)。それでもコペンハーゲンには、若くて才能がある人はたくさんいると思うよ。絵画や映画、アートを作っている人もたくさんいるし。
ジェイコブ
最近ギャラリーを開いた友達も何人かいるしね。
コミュニオンズの所属レーベルPOSH ISOLATIONの主宰であるロークや、あなた方のレコーディングにも関わっていたマルテ・フィッシャーらが所属する地元の人気バンドLust For Youth以外に親交の深いミュージシャンはいますか?
ジェイコブ
First Hateかな。
マーティン
周りにいるバンドの中では彼らは仲が良い方かな。実はぼくは音楽をやっているやつらを大勢知っているというだけで、毎日一緒に遊んでいるとか、そういう関係ではない(笑)。お互いに知り合いでLowerやIceageとは同じ場所でリハーサルをしているけど、同じクリエイティブな場所から派生したというだけ。もちろん人によるけどね。ジェイコブはIceageのメンバーともたまにつるんでいるし、Lust for Youthのマルテは個人的には一番親しい。彼はぼくらのアルバムのプロデューサーを務めてくれたし、本当に良いやつなんだ。
「音楽性よりも居心地の良さからバンドを結成した」とおっしゃいましたが、ともに過ごす時間が家族よりも長い4人の関係性の中で、この豊かな音楽が生まれる大きな理由は何だと思いますか? 音楽作りのプロセスについても教えてください。
マーティン
他のバンドもみんな友達同士だと思う。ぼくらも友達からバンドを始めた。何か一緒に実験をするためにね。後になってもっと真剣になっていったというだけで、何か具体的なプランがあったわけではないんだ。とても自然な事だね。
それぞれが異なるテイストの音楽を聴くということですが、特に影響を受けたアーティストやバンドはいらっしゃいますか?
マーティン
ザ・スミスからは多大なる影響を受けたね。あとは、マドンナのような音楽。共通点としていえるのは、80年代のポップ・ミュージックをたくさん聴いているということ。それがぼくらが目標としているバイブに大きな影響を及ぼしているんだ。オアシスのような90年代の音楽やザ・ストロークスに代表されるインディー•ロックの影響も受けているよ。
良い意味でのインディー•ロック感がコミュニオンズからは感じられるので、その嗜好が王道なことは驚きです。80年代のポップ•ミュージックから感じる“目標にしているバイブ”とは、言葉にするとどういうものですか?
マーティン
踊りたくなるところがポップ・ミュージックの魅力。
ジェイコブ
とにかくキャッチーだよね。
マーティン
ダンスっぽいリズムに共鳴しているんだと思う。ぼくらは好きなもののエッセンスを少しずつ取り入れるから、いろんな要素が混ざり合っているんだ。強いメロディーがあるのも大切だし、それがいつだってぼくらの音楽の特徴だと思っている。
ジェイコブ
今回はそれが自然とできた。無駄なものを少しずつ取り除いていくことで、ストレートな音楽を作るとこがね。あまりシンプルにしすぎると歌が決まり文句のようになってしまうこともあるけど、ぼくらのサウンドには合っているから問題ない。
マーティン
そうだね。多くのポップ・ミュージックはとてもシンプルなんだ。歌の中にはいくつかの要素が混在しているけど、決して複雑ではない。少ない要素で上手く作るのは難しいけど、いまのぼくらはそれが自然とできている。
ジェイコブ
もちろん、すべてを取り除くわけではない。そこにはまだ何かがあって、完全にシンプルにはしていない。そういう音楽を作るのがバカみたく難しいんだけどね…。
シンプルで無駄が無いものを作ることこそ、難しいですよね。
マーティン
本当に難しいね。たくさんの要素を詰め込むのは簡単。逆に無駄を取り除くのは難しい。
王道という意味では、ストーン・ローゼズやオアシスの影響を感じさせる骨太なエッセンスが以前より増していて、またワンステージ上がったように感じました。その辺りは自分たちではどう感じていますか?
ジェイコブ
アルバムを聴いてもらうと、以前より自信がついたと感じてもらえるはず。自分たちがやっている音楽に信念があるからね。
今回初めて和訳をきちんと読ませていただいて、そのリリックの完成度、素晴しさにも注目しました。詩人として、或いは物書きとして影響を受けた人はいますか? 最新作『ブルー』の制作時にインスパイアされたものがあれば、それについても聞かせて下さい。
マーティン
14、5歳のころに父親にボブ・ディランやレナード・コーエンを教えてもらって以来、60年代前半に活躍した彼らのような音楽をよく聴いているよ。それから、文学もたくさん読む。音楽より文学からインスパイアされるケースも多くて、初期の作品では詩的になろうとしていたけど、今回は特に音楽がストレートだから歌詞もシンプルにしたかったんだ。新しく何かを作るときは、以前のものの見方やアプローチの方法を超越するように心がけている。結果的にそれがうまくいったから、今後も違う方法で歌詞を書くかもしれないね。
歌詞を書くときは、どのようなアプローチで?
マーティン
音楽を作るように書くんだ。自分の読んだ文学や雑誌から良いと思ったフレーズをピックアップして、そこからインスピレーションを引き出す。そして、自分にとって意味のあるものに変えるという…。
ジェイコブ
貯金口座のようにね。
マーティン
ぼくらの美的感覚にはうぶで無垢な側面があるから、ある特定の精神状態を表現したいんだ。

さまざまな意味が込められた『ブルー』というタイトル。

デビューアルバムとなる『ブルー』のオープニング•ナンバー『Come On, I’m Waiting』についても聞かせて下さい。特にこの作品の歌詞の完成度が高いように感じました。パープルとピンク、ブルーといったカラーのコントラスト、それに上下左右への躍動感など。無感覚とは対象的な、今この瞬間の生をセレブレイトするようなブレイク寸前の若者のフィーリングが上手く表現されているように感じます。この曲を作るにあたって、何かテーマはありましたか?
マーティン
多くの曲には、“時間”に関する何かしらのテーマがあるように思う。過去へのノスタルジアを歌っていることもあれば、未来について歌っていたり。この曲は後者だね。若者は常に未知の瞬間にいるから、自分の人生に何かが起こるのを待っているんだ。切望する感情というか。あとは、人生そのものについても祝福している。多くの物事は並行して起こっているから、ぼくにとってひとつの歌にはいろいろな意味が含まれているね。それはまるで絵を描くことのようで、ストーリーを語るよりバイブを伝えようとしているんだ。もしかしたらストーリーかもしれないけど、その場合はひとつの意味ではない。歌詞を説明するのは難しいね…。
全体的にはやはり焦燥感や絶望する思い、あるいはいまを生きる喜びなど、思春期の若者特有の気持ちが詰まっています。あとは、愛についても。例えば、寄り添うことの重要さだったり。ときにそうした感情をドラマティックに歌われているように感じますが、今作で一人の人として最も関心があったテーマがあったならそれについても教えてください。もしかしたらそれは、『ブルー』という壮大なアルバムタイトルに込められているものなのかもしれませんが。
マーティン
アルバムタイトルはひとつのことを指しているのではなく、そこには相反する感情が絡み合っていると思う。ぼくには“メランコリー“と“空“のように、霊妙で壮大な感覚が想起されるかな。この世界に圧倒されるような。あとは、「ブルーズ」じゃなくて「ブルー」だけど、実はブルーズ・ミュージックについても間接的に言及しているんだよ。
ジェイコブ
(ブルーは)とても美しい色でもあるよね。
マーティン
それからぼくの目の色であり(笑)、ぼくたちのイメージの一部でもある。EPも“蒼”だった。もはやコミュニオンズのテーマみたいなものだね。
お話を伺っていて、現時点での自分たちに対峙し、無駄を削ぎ落として、シンプルさと深みのあるものに今回はこだわられているように感じました。
マーティン
その通り。
アルバムのアートワークはどう生まれたのですか?
ジェイコブ
写真を撮ったのは友人でもあるジョー・スキルトンで、ここに写っているのも友達なんだ。
マーティン
アルバムのフロントカバーが必要で、ともに仕事をしている写真家のラッシー・デアマンの家で写真を見ていたところ、偶然にもジョーが撮ったこの写真が見つかって。
ジェイコブ
別のアルバムカバーを作っていたんだけど、それに満足できなくて。この写真を紹介されたとき、みんな一目で気に入ったよ。
マーティン
写真に写っているのは人だとわかるけど、抽象的なところが気に入った。何となく絵のようにも見えるし。あと、今作の“時間”というテーマにもうまく繋がるんだ。凍っているように見えるけど、そうでないようにも見える。溺れているのか水面から出てくるところなのかもわからないからね。
ジェイコブ
写真の中では何かが起こっているけど、フレームのおかげで背後にストーリーがある静止画像のように見える。この写真にはたくさんの歓びが現れているけど、記憶を思い浮かべるような感情もある。アルバムテーマにぴったりの写真と出会えたことは、本当にラッキーだったといえるね。