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2021.3.23 Tue

Talk About The Dope Sounds. #02
grooveman Spotの
日日是好メロディ。

write_ Sakuo

Talk About The Dope Sounds. #02 grooveman Spotの日日是好メロディ。

きらめく星が都会の夜空では見えにくいように、心を打つ名曲も情報の煙霧にかすれて届きにくい。古今東西の音を聴き、自らも曲を鳴らし作る匠人 grooveman Spot に学ぶ音楽の楽しみ方。いまこの時代に耳を傾けたいメロディを、私的な観点とイマジネーションを持って紹介する、きわめて内輪的な音楽談義。

Special Thanks_HEY

#2 ヒップホップだけどサビが歌の曲。

編集部:さて、今回は第2回目ということで、ヒップホップだけどサビが歌になっている曲をご紹介いただけると。

grooveman Spot(以下、グルスポ):そうですね。2回目どうしようか悩んだんですが、いきなりヒップポップ行っちゃうのもあれかなと思って、ラップと歌が良い具合に混ざっている曲たちをピックアップしてみました。

編集部:なるほどですね。今回の曲を選んだ基準はどんな感じですか?

グルスポ:そもそも話なんですが、中学生の頃にタワーレコードでCDを買ってたんですが、タワレコのフリーペーパーで「bounce」ってあるじゃないですか? あれを毎回持ち帰ってはチェックしてたんですね。で、いろいろとジャンルごとにレビューが書かれているなかに、ラップ/ソウルってジャンルが当時あったんですよ。

編集部:何ですかそれ(笑)。

グルスポ:そうなんです。何それ? って感じですよね(笑)。当時91年頃なんですけど、ニュー・ジャック・スイングがだんだんと低迷してた時期で、ソウルとかディスコをサンプリングした、ラップなんだけどサビの部分は歌みたいな曲が結構あって、それがつまりラップ/ソウルだったんです。なんかこういう感じの曲っていいなあ~って思って、僕のサビ歌好きの歴史はそこから始まっていくんですね。

編集部:歌モノ好きの原点はここだと。具体的にはどんな曲が好きだったんですか?

グルスポ:当時いちばん「うわ~やべ~!」と思ったのが、ファーザー・MCの『All I Want』です。

01 Father MC / All I Want

グルスポ:これは後々にMUROさんのミックステープの『Diggin’ Heat』で、元ネタがタ・マラ&ザ・シーンの『Affection』って曲だってことを知るんですけど、『All I Want』はこの曲のサビをそのまま歌ってるんですよね。で、さらに後々に僕自身もこの『Affection』をカバーしてて、そこまでつながっていくという、僕にとってはとても重要な曲なんですよ。

編集部:そうなんですね~。それは思い入れしかない極上のエピソードですね!

グルスポ:基本的にはテンポが良くてノリが良くて、だけどラップと歌でサビが気持ちいいっていう形ですよね。これがメアリー・J・ブライジの登場以降で、ウィットなソウルネタとかも使うようになって、その流れがだんだん確立していくんです。次のビッグ・ダディ・ケインの『Very Special』なんかは、まさに先駆けって感じですね。

02 Big Daddy Kane / Very Special

編集部:ですよね~。これなんて“まさに”ですよね。

グルスポ:この曲はいつ聴いても良いし、元ネタのデブラ・ローズの『Very Special』を知らなくても、みんな歌っちゃう的な感じありますね。

編集部:こうやって改めて聴くと、ラップと歌な構成とかサンプリングされた聴きやすい曲とかって、90年代初頭のヒップポップにおける、定番のひとつの形のような気がしますねえ。

グルスポ:確かに。こういう曲って山のようにありますからね。ビッグ・ダディ・ケインの『Very Special』みたいに、ソウルの名曲をサンプリングしてる曲は大体売れてるんじゃないですかね。なかには、サンプリングしてる曲の歌じゃなくて、別の曲の歌をサビにしちゃってるという変則パターンもありますよ。例えばジュニア・マフィアの『 I Need You Tonight』なんて、サンプリング元はパトリース・ラッシェンの『Remind Me』なんだけど、フィーチャリングのアリーヤが歌ってるサビは、リサリサ&カルト・ジャムの『I Wonder If I Take You Home』って曲なんです。何でこの歌だけここに使ったんだろう? って。リサリサ&カルト・ジャムの方のサビ部分で、「I wonder if I take you home Would you still be in love, baby Because I need you tonight」って歌ってるから、ジュニア・マフィアの方の曲名が『 I Need You Tonight』なんだ~、って。そういうのがおもしろいんですよね。ぜひ聴き比べてみてください。

03 Junior M.A.F.I.A. / I Need You Tonight

編集部:本当だ(驚)。この曲メチャクチャ好きでいっぱい聴いてたのに、そんな裏話知らなかったです…。合わせ技な感じがすごい。

グルスポ:昔のヒップホップってサンプリングが基本だったから、相当頭を使っていろいろなことをやってるんですね。

編集部:同じネタで言うと、フェイス・エヴァンスの『Falling In Love』もそうですよね。

グルスポ:これもいいですよね~。アルバムにしか入ってない曲で、当時DJするときによくかけてました。シングルになってない曲を現場でかけるっていう、MUROさんイズムみたいなところは10~20代の頃に洗礼を受けましたね。

編集部:そう考えるとアルバムを通して聴くとか、シングルのB面の曲もちゃんと聴くって大事ですよね。

グルスポ:そうですね。いまのサブスクやデジタル音源では、まずない感覚ですよね。あと、アリーヤがフィーチャリングされてる関連で、ノトーリアス・B.I.G. の『Fuck You Tonight 』って、今夜お前と~みたいなとても下品な曲なんですけど、そこはやっぱりR・ケリー師匠が素晴らしくって(笑)。

04 The Notorious B.I.G. / Fuck You Tonight

編集部:改めてタイトルを見るとヒドイですねえ(笑)。

グルスポ:こういう汚い曲ほど気持ちいいのが多いんです(笑)。これとか本当に良い曲でいまでもよくかけますね。そういうふうに聴いていくと、メアリー・J .ブライジが台頭した90年代中期以降のヒップホップには、必ずこういう感じの曲が入ってましたよね。あの頃のヒップホップって、いまよりずっと悪い怖いイメージで、ちょっと聴けないな~と敬遠してた人たちにとっては、ちょうど良い入り口になったんじゃないですかね。

編集部:なるほど。そういう考え方はありますね。てゆーか、ヒップホップの曲は未だにこのスタイル多いですよね。ラップと歌が混ざってるというか。

グルスポ:あと時代を経てラップと歌モノの境目がなくなっていく時期があって、大体2000年代の後半くらいからなんですけど。要するにラッパーが歌えちゃうと。いまの新譜のラッパーはほとんどが歌えるんで、そこが昔とは大きく違うところですね。日本でも“歌ラップ”っていうのがあるじゃないですか。

編集部:歌ラップ? 何ですかそれ?

グルスポ:例えば、SOUL’d OUTあたりがそれですね。ラップだけどメロディがついてるような感じで、日本のマーケットにズバッと入ってきた感じ。これだったらヒップホップだけど歌っぽく聴けますし。あとは普通にリップスライムもそうですよね。

編集部:確かに。聴きやすいし入りやすい。

グルスポ:…という感じで、どんどん進めちゃったんですが、ちょっと古い曲に一回話を戻したいんですが。『RUMPSHAKER』って曲がヒットしたレックスン・エフェクトというグループがあって、これはテディ・ライリーがプロデュースしてて、実弟のマーケル・ライリーもいたんですが。で、彼らのセカンドアルバムに入っている『Tell Me How You Feel 』って曲が僕はすごい好きなんです。でもこれがまったく日の目を見ない曲なんです。

05 Wreckx-N-Effect / Tell Me How You Feel

編集部:この曲は初めて聴きました。

グルスポ:この曲のサビを歌っているタミー・ルーカスって誰か分かります?

編集部:タミー・ルーカス…誰でしたっけ? なんか聞き覚えありますね?

グルスポ:タミー・ルーカスは、みんな大好きな超名曲、テディ・ライリーの『Is It Good To You』を歌っているあの人です!

編集部:それだー!

グルスポ:彼女にはおもしろいエピソードがあるんで紹介しますね。プロデューサーであるテディ・ライリーが見出したアーティストとして一般的に有名なのは、ネプチューンズのファレル・ウィリアムスとチャド・ヒューゴですよね。

編集部:はい。

グルスポ:で、前述の『Is It Good To You』をテディと作ったのがタミー・ルーカスです。

編集部:はい。

グルスポ:このネプチューンズとタミー・ルーカスが後に引き合うんです。

編集部:ほう!

グルスポ:タミー・ルーカスってリード曲がほとんどないんですね。で、この人ってなにやってるんだろう? て気になって調べてみたんです。ネプチューンズが注目されるきっかけになった、ノリエガの大ヒット曲『Superthug』というのがあって、この曲ってイントロのヘリコプターの音と、フックのノリエガの「ワッ! ワッ! ワッ!ワッ! ワッ! ワッ!」って、スリリングな連呼がすごい印象的なんですね。で、それにかぶさるように「ワ~ワ~ワッワッワ~」って声も入ってて。その声がまさかのタミー・ルーカスなんですよ!!!!

編集部:えええええええ~~~~~!!!! マジですか????(笑笑笑笑)。

グルスポ:マジです(笑)。びっくりでしょこれ? すごくないですか?(笑)。

編集部:てゆーか、逆に何でそんなの知ってるんですか?

グルスポ:もうメチャクチャ調べたんですよ。タミー・ルーカスのクレジットを。そうすると調べていくうちにいろいろと出てきて。そのうちに…あれ? 待てよ? キューバン・リンクの『Still Teling Lies』の「ラ~ラ~ラ~ラ~ラ~」ていうのも、タミー・ルーカスじゃん! と(笑)。あれもプロデュースがネプチューンズなんですよね。

編集部:やばい、やばい、やばい(恐笑)。

グルスポ:でしょ(笑)。おそらく、ちょっと手伝ってくれない? 的な感じで、コーラスのみの参加だったと思うんですよね。テディ・ライリーとの関係は『Is It Good To You』の一曲だけで終わってしまったんだけど、テディつながりで知り合っていた(であろう)ネプチューンズとは、その後もつながっていて要所要所で一緒にやっていたと言うわけです。

編集部:いや~。これはかなりディープな話ですね。よっぽどのR&B好きだって知らないでしょ? ここまでたどり着いてる人は10人もいないんじゃないかな?

グルスポ:これはじーりゅーくんも知らなかったですね(笑)。(注:じーりゅーくん=グルスポさんのお友達。オタク的なR&B好きDJ。)

編集部:そもそも、なぜそこまでタミー・ルーカスを追っかけてたんですか?

グルスポ:それはもう『Is It Good To You』が好きすぎるからです(笑)! あの曲は中3で『Juice』のサントラを買って、何て良い曲だ!と。もうそこから永遠の一曲ですよ。

編集部:そうですよね~。 もう何百回と聴きましたねえ。映画のなかであの曲が流れるシーン覚えてます? レコード屋のセクシーな店員さんが強烈で(笑)。

グルスポ:「EPMDの新譜と君の電話番号を教えて!」っていうナンパですね(笑)。

編集部:あの映画がきっかけでDJをやりたいって思いましたからねえ。

グルスポ:そうですよね。僕らの世代はあの映画でDJとかヒップホップがぐっと身近になりましたよね。『Juice』はDVDも再発されてるし、いまの若い世代にもぜひ観てもらいたい映画ですね。

編集部:確かに。ヒップホップ作品のなかでも傑作のひとつですもんね。

グルスポ:というわけで、ちょっと興奮しすぎたんですが、テディ・ライリーとタミー・ルーカスからは一回離れて。バスタ・ライムスの『It’s A Party』も傑作ですね。クラブでかかったときなんかは、もうみんなでワッショイって感じで。

06 Busta Rhymes / It’s A Party

編集部:2021年のいま大箱なクラブで聴きたい! 気持ち良さそう。

グルスポ:バスタのいかついラップと、ジャネイのメロウでスムースな歌の対局感が良いですよね。当時もいまも大好きな曲です。

編集部:バスタとジャネイの組み合わせって、言ってみれば焼肉とお寿司みたいな。いちばん良いやつを組み合わせましたって感じありません?

グルスポ:そうですね(笑)。本当に90年代の名曲って未だに色あせないな~。いまの若い子たちにとってのこういう曲って、2010年以降の曲がそうなるんですかね? 僕らにとったら、そのへんはもはや新譜ですね(笑)。

編集部:2000~2010年くらいの曲もいずれやりたいですね。ロッカフェラ、ジェイ・Z、ティンバランドあたりとか。

グルスポ:やりたいですね! そのへんも良い曲いっぱいありますもんね。だとすると、パフ・ダディ(=ショーン・コムズ 注:別名がいっぱいあり…ショーン・パフィ・コムズ、P・ディディ、ディディ)の『You Could Be My Lover』は彼の最近の曲なんですけど、最後ビートがなくなってしっとり歌い上げるところがメチャクチャ良いんですよ。

07 Puff Daddy / You Could Be My Lover

グルスポ:あとはこのジェイ・ロックの『Redemption』。これとかラップと歌がしっかり分かれてるんだけど、どこか懐かしい感じがあって何だかすごくいいなあって。

08 Jay Rock / Redemption feat. SZA

グルスポ:そしてもうひとつ。OXPの『Let’s Go』も最近の曲だけどすごく良いです。これはフィーチャリングがデヴィン・モリソンですね。彼は一時日本に住んでて僕やジャジスポのメンバーともつながってるんですけど、はっきり言ってオタクです(笑)。

09 OXP / Let’s Go feat. T3 & Devin Morrison

グルスポ:漫画の『スラムダンク』に出てくる彩子さんて分かります?

編集部:もちろん。マネージャーのですよね?

グルスポ:デヴィン・モリソンはその彩子さんの曲を作ったんですよ。

編集部:ん? どういうことですかそれ?

グルスポ:まあ聴いてみてください。

編集部:こ、これは…。オタクですね完全に。才能の無駄遣い(笑)。

グルスポ:初めて『AYAKO』を聴かされたときはぶっ飛びましたね。もうちょっとこの人は頭おかしいなって言うか、センスやばすぎるでしょって。

編集部:歌詞を読んでさらにやばさが分かりますね(笑)。

グルスポ:日本でこんなことやってた人が、いまや手の届かない人気者になってしまいました(笑)。アルバムもすごくよかったし。その彼が人気ブロデューサーのオンラのユニットの曲に参加してるのがこの『Let’s Go』です。なんて言うか、いまのLAのトレンドとGファンク期の空気感がちょうど合わさったような、メロウで心地良いヒップホップですね。

編集部:新譜も良い曲がいっぱいありますね。やっぱりちゃんと聴かないとですね~。

グルスポ:…という感じでつらつらと紹介していったんですが、なんだか今回はうまくまとまらないですね。

編集部:そしたら質問なんですが、90年代くらいの日本の曲で、今回のテーマの“ヒップホップだけどサビが歌の曲”っていうと何ですかね?

グルスポ:う~ん。『ECDのロンリーガール』?

編集部:あれは違いますねえ(笑)。

グルスポ:あ! m-floの初期はそうじゃないですか? 『flo jack』とか。

編集部:『been so long』もそうですね。

グルスポ:m-floがデビューした頃、看板屋で働いてて『flo jack』の看板作ってたんですよ。ラキムみたいなラップで超かっこいいな~と思って、HMVにレコード買いに走りました。m-floのデビュー当時は、モロにヒップホップだけどサビが歌ですね。

編集部:スチャダラの『今夜はブギー・バック』も?

グルスポ:ブギーバックもそうなりますね。でも何か文脈がちょっと違いますかねえ(笑)。

編集部:あ!? 『DA.YO.NE』は?

グルスポ:『DA.YO.NE』があったか~(笑)。イヤ、でもあれって全部ラップじゃなかったですか? そうそう『DA.YO.NE』と言えば、この曲の元ネタってジョージ・ベンソンの『Turn Your Love Around』って曲なんですが、これを作ったビル・チャップリンて人が来日してたときに偶然ラジオか何かで『DA.YO.NE』を聴いちゃったらしく、これ俺が作った曲じゃん! と。それで無断でサンプリングしてたのがバレて、使用料を払ったというのは有名な話ですね。

グルスポ:てゆーか、そもそもこれを読んでる人たちは、『DA.YO.NE』なんて知ってるんですかね?

編集部:いや。絶対に知らないかと(笑)。

グルスポ:じゃあ今回のまとめとしては、『DA.YO.NE』じゃなくて、スチャダラだったというオチで良いですか?(笑)。

編集部:そーDA.YO.NEってことで(笑)。

※Father MC / All I WantはSpotifyに曲がないのでYouTubeなどで聴いてください。

PROFILE
grooveman Spot

音楽とスポーツをこよなく愛する『女性に優しいハードコア集団』JAZZYSPORTに所属するDJ / トラックメーカー / プロデューサー。国内外のさまざまなジャンルのアーティストの楽曲、リミックスを手掛ける。最近はなかなか外食ができないため、自宅でナチュラルワインをしこたま買い込んで飲みまくっている。南アフリカ産のすっきりとしたワインがお気に入り。
@groovemanspot