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2021.12.14 Tue

Talk About The Dope Sounds. #06
grooveman Spotの
日日是好メロディ。

write_ Sakuo

Talk About The Dope Sounds. #06 grooveman Spotの日日是好メロディ。

きらめく星が都会の夜空では見えにくいように、心を打つ名曲も情報の煙霧にかすれて届きにくい。古今東西の音を聴き、自らも曲を鳴らし作る匠人 grooveman Spot に学ぶ音楽の楽しみ方。いまこの時代に耳を傾けたいメロディを、私的な観点とイマジネーションを持って紹介する、きわめて内輪的な音楽談義。

#6 テディ・ライリー

編集部:プロデューサー縛りでお送りした前回のジャム&ルイスに続いて、今回は満を持してこのお方、テディ・ライリー御大です! しかもこの連載で初のゲストをお迎えしての特別版。これまでもたびたび名前が挙がっていた、グルスポさんのお友達でオタク的なR&B好きDJのじーりゅーくん a.k.a. RYJZ1さんです。じーりゅーくんよろしくお願いします。

じーりゅー:ほんとにオレでいいのかなー(笑)。

グルスポ:じーりゅーくん期待してますよ(笑)。というわけで始めていきましょうか。そもそもテディ・ライリーは僕が神と崇めるスーパープロデューサーなんですが、まずはどんな人なのかを軽く説明しますと……本名はエドワード・セオドア・ライリーと言って現在54歳のおじさんです。

じーりゅー:テディって54歳なんだね。

グルスポ:ニューヨークのハーレム生まれのミュージシャン&プロデューサーで、14歳でキッズ・アット・ワークという、いわゆるジャクソン5的なキッズグループでデビューします。が、これが全然売れませんでした(笑)。さらにその後に、デリシャスっていう80’sファンクっぽいグループもやるんですけどそっちもあまり売れず…。

じーりゅー:この時代っていわゆるボーイズグループっていっぱいあったけど、いずれもあまり売れてないよね。ニューエディションくらいかな?

グルスポ:で、87年にガイ(Guy)というグループを結成してここから快進撃が始まっていくわけです。で、伝説的なファーストアルバムなんですが。ファーストは…てゆーか、ガイに関してはアルバムタイトルが微妙で、1枚目が『Guy』、2枚目が『The Future』、3枚目が『Ⅲ』。

じーりゅー:セカンドアルバムだけそれっぽいタイトルだよね。

グルスポ:そうなんですよ。昔のソウルとかファンクのアーティストのアルバムもこういうのが多くて、アーティスト名=アルバムタイトルみたいなのがけっこうあるんですよね。これやめてほしい(笑)。言いづらいし。で、ファーストの『Guy』は何年だっけ?

じーりゅー:88年じゃない?

グルスポ:そう88年。そのファーストアルバムで、ニュー・ジャック・スウィングという音楽を打ち出して、それがテディの代名詞になっていきます。そもそもニュー・ジャック・スウィングって何ぞや? という人のために説明すると、跳ねたビートのR&Bだったりファンクっぽかったり、例えばいまだったらブルーノ・マーズみたいな、ちょっと楽しい感じのサウンドですね。

編集部:ブルーノ・マーズの曲って、それっぽい感じしますもんね。けっこう意識してるんですかね?

グルスポ:そうだと思いますね。昨今のニュー・ジャック・スウィングのリバイバル要因のひとつですね。で、ニュー・ジャック・スウィングという言葉が初めて世に出たのが、テディがプロデュースしたラップ・グループ、レックスン・エフェクトの『New Jack Swing』という曲名からでした。これが1989年。ちなみにこのグループにはテディの実弟が所属しておりました。

じーりゅー:マーケル・ライリーね。

グルスポ:この曲自体はヒップホップなんですけど、サウンド的にはここで確立された感じがあります。これ以降でテディが作っていく楽曲をニュー・ジャック・スウィングと言うようになっていきました。ちなみに、ニュー・ジャック・スウィングという言葉そのものを作った(名付けた)のは、バリー・マイケル・クーパーという脚本家で、彼がテディにインタビューをしたときに、君のやってる音楽は何なの? R&B? ファンク? どれでもない感じがするよね? で、彼がこの新しいサウンドは「ニュー・ジャック・スウィング」と名付けようと。そんな経緯らしいです。

じーりゅー:そのエピソードはウィキペディアのニュー・ジャック・スウィングの項目にも少し書いてあるよね。

グルスポ:え? そなの? 僕この話、英語のインタビューを調べて翻訳したのに~。本当だ書いてあるじゃん(笑)。

じーりゅー:ちなみになんですが、「ジャック」って男の子って意味らしくて、その対義語が「ジル」で女の子って意味らしいですよ。だから一時期はメアリー・J・ブライジとかの曲のことを、「ニュー・ジル・スウィング」なんて呼び方をしてたこともあったんですよね。まあ浸透せずにすぐに廃れていったんですけど。

グルスポ:ほほ~そうなんだ! じーりゅーくんさすがですね。で、このバリー・マイケル・クーパーさんは、ウィズリー・スナイプスとアイスTが出ているブラックムービー『ニュー・ジャック・シティ』の脚本の人で、この映画は、これはこれでおもしろい&サントラも秀逸なので機会があればぜひ観てみてください。

じーりゅー:サントラは確かに良いね。カラー・ミー・バッドの『I Wanna Sex You Up』、クリストファー・ウィリアムスの『I’m Dreamin’』、ガイの『New Jack City 』とかね。

グルスポ:ガイの『New Jack City』は初めて聴いたときに、ニュー・ジャック・スウィングってハウスなのか? って惑わされた一曲でしたねえ(笑)。

じーりゅー:確かに。軽い4つ打ち感あるよね。

グルスポ:ニュー・ジャック・スウィングを分析していくと、ヒップホップを主体としながらファンク、ソウルの汗臭さを取り入れ、そこにハウスや4つ打ちの要素も加わった、言わば88~89年頃の若者たちの“いちばんナウいダンスミュージック”だったわけです。このサウンドは一気に流行ってフォロワーもたくさん登場しました。ベイビーフェイスだったり、ジャム&ルイスだったり。でも僕的には彼らが作った曲は、ニュー・ジャック・スウィングを取り入れてはしてるけど別物だと思ってるんですよ。

編集部:そこくわしくお願いします。

グルスポ:まずニュー・ジャック・スウィングを定義する上で「オーケストラ・ヒット」という重要な音があって「チャン! チャン! チャンッ!」っていうやつなんですけど。省略して「オケヒ」って言われたりもします。こんなやつです↓

じーりゅー:ジョニー・ケンプの『Just Got Paid』とかがわかりやすいんじゃない?

01 Johnny Kemp / Just Got Paid

編集部:あ~とてもわかりやすい(笑)。

グルスポ:オケヒってなんて言えばいいんだろう? こういう感じ…ですかね?

編集部:何ですか? その手は(笑)。

グルスポ:バイオリンですね(笑)。オケヒは元々はその名の通りオーケストラで使われる弦楽器の音なんですよ。

じーりゅー:オケヒの音ってシンセサイザーでしょ? なにか特殊な機材に入ってる音なの?

グルスポ:いやいや。当時から普通のシンセに入ってたと思いますよ。オケヒの音を聴くと、あ~ニュー・ジャック・スウィングだね~って思いますよね。

じーりゅー:それこそコウジくん(グルスポさんのことです)が作ったZEN-LA-ROCKくんの『New Jack Ur Body』の出だしってオケヒ使いまくりだったよね。

グルスポ:そーなんです。

編集部:他にオケヒがわかりやすい曲ってありますか?

グルスポ:トゥデイの『GIrl I Got My Eyes On You』もわかりやすいですよ。さっきのジョニー・ケンプもどっちもテディ・ライリーのプロデュースです。

グルスポ:で、ニュー・ジャック・スウィングを定義する音で、僕的にもうひとつ重要なのがあって。ヤマハが80年代に作っていたDX-100っていう小さなシンセサイザーがあるんですけど、そこに入ってるベース音がそれなんですよ。ヘヴィ・Dの『Somebody For Me』を聴いてみてください。イントロ後(0:16くらい)のこの音! このベースの音です! これが僕のなかでは、ザ・ニュー・ジャック・スウィングなんですよ!

曲もかっこいいけど、ヘヴィ・Dのダンスもキレキレですな。

じーりゅー:マニアックだな~(笑)。

グルスポ:ちょっと前にDOMMUNEでニュー・ジャック・スウィングの企画があって、そのときにこの話をしたらみんな引いてましたね(笑)。あ、ちなみにZEN-LA-ROCKくんの『New Jack Ur Body』にもこの音を使っています。

編集部:この音ってこのシンセにしか入ってないんですか?

グルスポ:そうだったんですが、近年になってヤマハから出たMOTIF(モチーフ)っていうシンセに『DXベース』という名前で入ってて僕はそれを使ってます。余談ですが、トークボックスの生みの親とも言える、ZAPPのロジャー・トラウトマンも、ライブではDX-100を使ってトークボックをやっていましたし、そもそもテディ・ライリーもトークボックス奏者としての一面も持っているんですよ。

編集部:なるほど~。

グルスポ:なのでまとめると……僕的にはニュー・ジャック・スウィングを定義するときに、オーケストラ・ヒットとヤマハのDX-100の音がとても重要だぞ! ということが言いたかったわけです。

じーりゅー:こうやって改めて説明してもらうと非常にわかりやすいね。

編集部:そしたら話を前に進めていきましょうか。おふたりのテディ・ライリー定番曲いってみましょう。

グルスポ:テディの定番曲…。うーん。てゆーかやっぱり『Is It Good To You』がテディ・ライリー名義だし、それしかないんじゃないかなーって(笑)。

じーりゅー:そうなんだよね(笑)。これしかない。

編集部:いきなり話が終わっちゃうじゃないですか(笑)。

02 Teddy Riley / Is It Good To You

グルスポ:今回の取材のためにレコード持ってきてるんですけど…あ、でも持ってきたのプロモ盤だからなー。

じーりゅー:あ、一緒のやつ持ってきてるよ。

グルスポ:USのプロモが2種類あって好きなバージョンが入ってるんですよ。もう一個の方にはヒップホップ・ミックスが入ってて。いわゆる僕らが持ってる方が人気盤じゃないかな?

編集部:ちょっと聴きくらべさせてくださいよ。

グルスポ:も~~~ほんんんんっとに良い曲だな~(シミジミ)。僕『Is It Good To You』が嫌いって人とは友達になれないもん(笑)。

編集部:(笑)。

グルスポ:この曲もそうなんですけど、ニュー・ジャック・スウィングの特徴として、イントロとサビは盛り上がるんだけどAメロはほぼ音がないんです。

じーりゅー:確かに~。ビートだけになってピアノとかどっかいっちゃうよね。

グルスポ:ニュー・ジャック・スウィングは本当にこのパターンが多くて、歌が始まるとドラムだけになって、だんだん盛り上げてってサビでドン!みたいな。これを最初にテディがやっちゃったんですね~。イントロはすごくアカデミックなシンセサイザーで入ってきて~ダンダンダンッ! って。でも歌になるとめちゃくちゃジミ~なドラムだけ(笑)。そういうのいっぱいありますから。

編集部: 『Is It Good To You』もそんな感じですもんね。

グルスポ:あと定番曲って言ったらガイの『Teddy’s Jam』ですかね。この曲って80年代中期にワシントンDCを中心に流行ったゴーゴー・ミュージックの要素が盛り込まれてて、エクステンデッド・バージョンなんてモロですから。

03 Guy / Teddy’s Jam

グルスポ:ゴーゴーってファンクにラテンのパーカッションを入れた音楽なんですが、例えばトラブル・ファンクの『Pump Me Up』なんかがわかりやすいです。

じーりゅー:ポンスカン、ポンスカンみたいなね。ニュー・ジャック・スウィングより前の80年代のダンスミュージックってイメージかな~。

グルスポ:ニュー・ジャック・スウィングって88年から93年くらいまでの時期に流行ったとされているけど、人によっては90年代に入ってからの曲はそうじゃないっていう解釈もありますよね。僕らの先輩世代でディスコとかで遊んでた人たちからすると、それこそさっきのオーケストラ・ヒットとかがバキバキな曲こそニュー・ジャック・スウィングだって人もたくさんいますから。

じーりゅー:そうだよね。上の世代のDJはユーロビートとミックスしたりするくらいだもんね。

グルスポ:それで言うと、テディ・ライリーはハウスとニュー・ジャック・スウィングを融合させたりしてますよ。いちばん有名なのは、ヘヴィ・D&ザ・ボーイズの『Now That We Found Love』です。かっこいいな~。

04 Heavy D & The Boyz / Now That We Found Love

じーりゅー:僕ら中学生のときに流行ったなー。『ダンス甲子園』ですよ。

グルスポ:僕も中学のときにお小遣い貯めてタワーレコードにCD買いに行きましたもん。ヘヴィ・Dはデビューからテディ・ライリーがプロデュースしてますから長い付き合いですよね。

じーりゅー:それこそ『Is It Good To You』はもともとヘヴィ・Dの曲だったんだもんね。何かで読んだけどあまりに気にいっちゃって自分名義でも出したとか。

グルスポ:これに関しては僕なりの見解があって。ヘヴィ・Dの方の『Is It Good To You』は、みんな大好きジュニアの『Mama Use To Say』のベースラインを使ったオマージュ的なアーヴァン・ヒップホップなんです。で、曲のサビを歌っているのが、テディ・ライリー版の『Is It Good To You』と同じタミー・ルーカス。つまり、じーりゅーくんが言うようにヘヴィ・Dのために作った曲なんだけど、自分でもすごく気に入ったもんだからタミー・ルーカスに全編歌わせて個人名義でも出したってことなんだと思うです。

じーりゅー:さすが日本でいちばんタミー・ルーカスにくわしい男(笑)。きっとコウジくんの考察通りだね。

05 Heavy D & The Boyz / Is It Good To You

編集部:これは聴きくらべが必要ですね! てゆーか『Is It Good To You』の話ばっかしてません?(笑)つまりこの曲がテディ・ライリーの定番曲ってことで良いですか?

グルスポ:賛成!

じーりゅー:そしたら逆にコウジくん的なテディのスロージャムで好きな曲って何がある? (※スロージャムとは。ゆっくりとしたテンポの曲で、ロマンチックで叙情的。つまりエロい曲です。)

グルスポ:スロージャムか~。う~~~ん。僕的にはガイの『Goodbye Love』と『Let’s Chill』かなー。ブラックストリートになってからのバラードは別物って思っちゃうんだよね。

06 Guy / Goodbye Love

07 Guy / Let’s Chill

じーりゅー:え~そうなの!? 意外だな~。

グルスポ:もちろん好きな曲もいっぱいあるよ。『Deep』、『Never Gonna Let You Go』、『(Money Can’t)Buy Me Love』とか。でも、いざ聴くとなると。ガイの2曲なんだよね~。

08 Blackstreet / Deep

09 Blackstreet / Never Gonna Let You Go

10 Blackstreet / (Money Can’t)Buy Me Love

じーりゅー:ガイは『Piece Of My Love』もいいよね~。

11 Guy / Piece Of My Love

グルスポ:わかるわ~。でもやっぱり不動の1位は『Let’s Chill』かなあ。あ~でもバラードだったら、キース・スウェットの『Make It Last Forever』も入ってくるよね。

12 Keith Sweat / Make It Last Forever

じーりゅー:マライヤ・キャリーのカバーもいいよね。ジョーとナズとやってるやつ。

グルスポ:あ~。ジョーいやらしいですね~。めちゃくちゃ良い(笑)。

じーりゅー:さらにケニー・ライティモアとシャンテ・ムーアのカバーもありますよ。

編集部:この手の定番曲は話題が尽きないですねえ。

グルスポ:そしたらみんなが知らないエピソードをひとつ。ビバリー・コーダーというアーティストをご存知でしょうか?

編集部:存じ上げないです~。

グルスポ:ホイットニー・ヒューストンとかベイビーフェイスのバックコーラスをしていた人なんですけど、ブラックストリートのセカンドに入ってる『I Can’t Get You (Out Of My Mind)』で、ちょっとだけ歌ってて、いい声だな~って聴いてたんですね。で、同じくブラックストリートの5枚目。『レベルⅡ』。僕の大好きな『Deep』の最後を歌ってるのが、これまた彼女なんですよ!

13 Blackstreet / I Can’t Get You (Out Of My Mind)

2:11くらいからビバリー・コーダーさん歌ってます。『Deep』は上↑にも出てきたのでそちらでチェック。2:54くらいから歌ってます。

編集部:細かいな~(笑)。なぜそんなの気がついたんですか?

グルスポ:この声って!? アレ? って気になって超調べたんですよ(笑)。そしたらいろいろ分かりました。当時2000年くらいに彼女はアルバムを出す予定だったらしいんです。しかもプロデューサーにはロドニー・ジャーキンスとかもいて、レコーディングも終わってたっぽいんですが、なぜかデビューできないまま消えてしまったんです。

じーりゅー:なんで?

グルスポ:謎なんですよ~。調べるとCD-RのアルバムがあってYouTubeにも音源があるんです。……で、これ。前も話したかもなんですが。テディ・ライリーと関わる女性ボーカリストはなぜかデビューできない説なんですよ! 『Is It Good To You』を歌ってるタミー・ルーカスもデビューできてないですからね。

じーりゅー:つまり…テディさげちん説!?

編集部:それだ(笑)。

グルスポ:もうひとつエピソードを。さっきも話に出たガイの『Teddy’s Jam』。これのベースコード……口で歌うとわかりやすいんですが「テッツテッテッテ~テッテッテテテテテ~テッテ」ってな感じでとても気持ち良いですね。世の中にはこれを使った曲がいくつかあるんですよ。

編集部:そうなんですか!?

グルスポ:例えばみんな大好きR&B、カット・クロースの『LoveLy Thang』。ちょっとイメージして聴いてください。

編集部:え~~~難しい! 素人の耳では全然聴こえないです(涙)。

グルスポ:あれ~。そしたら他にもざっと紹介すると。エラ・メイの『Anymore』、ジェネイ・アイコの『10k Hours』、FNCYの『AOI夜』もそうですよ。

じーりゅー:なるほどね。FNCYは分かりやすいね。

グルスポ:『AOI夜』を聴いたとき、これって『Teddy’s Jam』じゃん! と思ってこっちのバージョンを作りました↓

編集部:これは完全に『Teddy’s Jam』ですね(笑)。

グルスポ:という感じで、この曲のコード進行とベースラインがいろんな人の耳に残っていて、それがアレンジされながら巡り巡っていると。そんなことが言いたかったわけです。でも『Teddy’s Jam』より時代が前の曲で、ソウルとかファンクとかで『Teddy’s Jam』を感じたことはないんですよね。まあでもきっと何かしらあるんですかね? オリジナルが。というのが僕の『Teddy’s Jam』論でした。

編集部:いやいや、さすがはプロ。曲の聴き方とか目線が違いますね。

グルスポ:そしたらさらに違うエピソードを。テディ・ライリーが使い回しをしているのは知ってますか? 自分で作った曲と同じような曲を出しちゃうんです(笑)。ザンの『Want To Be With You』ってわかります?

グルスポ:この曲にそっくりなのが…。

じーりゅー:『ウィッ ウィハブ サムシンッ インッ カ~モン フ~フ~』でしょ(笑)。『Something In Common』!

14 Bobby Brown,Whitney Houston / Something In Common

グルスポ:当たり! もうひとつありますよ。デジャの『Made To Be Together』です。

15 deja / Made To Be Together

編集部:まったく一緒ですね(笑)。

グルスポ:あと日本のフル・オブ・ハーモニーの『G.O.O.D TIMES』って曲がテディ・ライリーのプロデュースなんですけど、これがブラックストリートの『Don’t Leave Me』とまったく一緒です(笑)。

16 Blackstreet / Don’t Leave Me

じーりゅー:こういうのって意図的にやってるのかな?

グルスポ:たぶんアーティスト側から、あの曲の感じで~みたいのがあって、そうなっちゃうんじゃないですかねえ?

編集部:それっぽいなー。逆にじーりゅーくん何かおもしろエピソードあったりします?

じーりゅー:オホンッ!(咳払い)。そしたら僕なりのテディ・ライリーにまつわるエピソードなんですけど。テディが作るスロージャムで曲のラストが、全世界の人たちがロマンチックになってしまう……そんな曲があるのを知ってますか?

グルスポ:う、う~ん。僕の視点と角度が違いすぎるなあ(苦笑)。

じーりゅー:え~~~(笑)。 ちょっとこの曲を聴いてみてください。タラルの『Anyway』って曲でアルバムオンリーでシングルカットされてないんですけど、この曲のラストがまさに“全世界の人たちがロマンチックになってしまう”感じなんです。タラルって言うと『Distant Lover』が人気なんだけど、僕的には断然こっちですね。

17 Taral / Anyway

じーりゅー:もう一曲ありますよ。ブラックストリートの『Before I Let You Go』これのラストもすごくいいんですよ。

18 Blackstreet / Before I Let You Go

じーりゅー:ロマンチックになってしまうな~。どうですか?

グルスポ:言ってることはすごくよくわかりました(苦笑)。サビの歌の流れでそのまま終わるんじゃなくて、そこからもうひとヒネリ展開があってドラマチックに終わっていくと。そんな感じの曲ってことですよね。

じーりゅー:そうです。こういう終わり方をする曲ってブラック・ミュージックだとあまりないなあと思ってて。ミュージカルのようなディズニーのような。ベイビーフェイスとかだったらありそうだけど、これをテディ・ライリーがやるってところにグッとくるんですよね~。

グルスポ:それだったら同じくブラックストリートで『I Wanna Be Your Man』の後に入ってる『Taja’s Lude』っていうのもいいよね。テディの息子が超かわいく歌ってるやつ。

じーりゅー:そんなんあったっけ?

グルスポ:ええ~~~知らないの!? 2枚目のアルバムの『Another Level』に入ってるやつよ? ちなみに『Deja’s Poem』ってもう1人の息子が話してるのも入ってますよ。

19 Blackstreet / I Wanna Be Your Man

20 Blackstreet / Taja’s Lude

この2曲をSpotifyとかで続けて聴いてみてください。息子ちゃんかわいい!

じーりゅー:これはかわいいですね~。

編集部:スロージャム好きなじーりゅーくんらしいエピソードでした。ありがとうございます!

グルスポ:そしたらぼちぼちテディ・ライリーの好きな曲ベスト3いっちゃいましょーか。

編集部:そうしましょう! もう2時間近く話してますしね(笑)。ベスト3はどんな基準で選んでますか? まずはグルスポさんからどーぞ。

グルスポ:え~と、これまで43年間生きてきて、テディ・ライリーのプロデュース曲でいちばん聴いてるであろう3曲です。自分で曲を作っていて行き詰まったりしたときに聴き直したり。アルバム単位でもそうなんですけど、まずはボビー・ブラウンの『Bobby』ってアルバムはもう……(沈黙)ムッフッフフ~(笑)。

じーりゅー:ムッフッフフ~ムッフ~(笑笑)。

編集部:何なんですか? その気持ち悪い笑いは。

グルスポ:いや。お互いこのアルバムが好きすぎて、じーりゅーくんは僕が何が言いたいのか分かっちゃってるですよ(笑)。え~と。こっちがUS版で、こっちがヨーロッパ版でこれは2枚組なんです。

じーりゅー:ヨーロッパ版はレアなんですよ。しかも音が大きい。僕はそれを知らなくてコウジくんに教えてもらったんですよね。

グルスポ:この『Bobby』からは5曲もシングルカットされていて、とにかく良い曲が満載なんです。でも僕的にはダントツで『Get Away』なんですよ。聴きどころはラップの後の、いわゆるブリッジって言われるところなんですが、僕はここで何回心が高揚したことか! も~~~~~ブリッジがやたらと気持ち良いんですよ(笑)。さらにこのアルバムからもう一曲『Til The End Time』も、同じようにブリッジがやたらと気持ち良い~じゃね~か!と(笑)。

21 Bobby Brown / Get Away

やたらと気持ち良いブリッジは2:56あたりから(笑)。

22 Bobby Brown / Til The End Time

こちらは2:52あたり。

グルスポ:この2曲はヴォコーダーが入ってるんですけど、それが当時の僕はたまらなく気持ち良く感じてたんでしょうね。『Til The End Time』も「トゥ~チャ~トゥ~チャ~」ってずっと入ってて、この気持ち良さは一体何なんだろう? って当時は分かんなかったんですよね。

編集部:なるほどね~。

グルスポ:しかもですよ。『Bobby』が発売されたのが92年なんですけど、前の年の91年にマイケル・ジャクソンの『Dangerous』を作ってるんですよ。このアルバムの前半の5~6曲をテディがやってるんですけど、それってつまり『Bobby』の製作期間と完全にかぶってるわけじゃないですか? そう考えるとヤバくないですかこの人?

じーりゅー:確かにそうだー!

グルスポ:でもやっぱり作風がそれぞれちょっと違う感じになっていて、たぶん『Dangerous』の方はマイケルのディレクションが入ってるからでしょうね。逆に『Bobby』は当時テディがいちばんやりたかったことがギューっと凝縮されている気がするんです。おそらくマイケルの方のフラストレーションもあったでしょうし。

じーりゅー:いや~それマジでありそう。その視点はなかったな~。

グルスポ:でもテディ曰く。自分の仕事でいちばん気に入ってるのは『Dangerous』に入ってる『Remember the Time』って公言してるんです。で、僕その理由がなぜかわかっちゃったんですけど……マイケルと一緒に作ってる他の曲は、彼好みのシンプルなサウンドになっているんですけど『Remember the Time』だけ、どーしたことかテディっぽいんですよ。要するにさっき話したような高揚感とか気持ち良さが詰まってる感じ。きっとテディがやりたかったいろいろなことが、マイケルからOK出たんでしょうね。「うんうん。テディちゃん、これ最高やん。これでええよ~ポウッ!(声高めで)」みたいな(笑)。

じーりゅー:モノマネきたね(笑)。

グルスポ:で、採用されたもんだから自分も熱くなったんですよきっと。でね、テディってどの曲でもそうなんですけど、プロモ版にはいろんなバージョンをたくさん入れるじゃないですか? 『Remember the Time』にも実はそういうのがあって、そのなかでもテディの“欲”で作ったような世に出なかったものがあるんです。これすごいですよ!

じーりゅー:おおおおおおおおっ!! これ何~~~~??

グルスポ:ヤバいでしょ?(笑)。CD-Rのラベルに書いてある通りスタジオ用? とかで出回ったものっぽいんですが、もうこれ聴いてるだけでお漏らししちゃいそうですよ(笑)。たぶん正規版には入れられなかった音をこっそり書き出して持っとこ! 的な、そんなやつです。

編集部:これはすごいな~。驚きました。 え~とそしたらグルスポさん的なベストは『Get Away』、『Remember the Time』ときて、もう一曲は何でしょ?

グルスポ:最後の一曲は……『Teddy’s Jam 2』でお願いします! 『Teddy’s Jam』には「1」「2」「3」と3曲ありまして。しばしばどれが好きか論争が巻き起こります。僕はダントツで「2」で、なかでもLPバージョンが推しです。

23 Guy / Teddy’s Jam 2

グルスポ:(曲を聴いてジ~ンとして)やっぱりこれだな~(涙)。最高。ちなみにセク山さんも「2」が好き派と言ってました(笑)。でもまあDJでかけるときは大概「1」なんですけど、プレイするのと好きなのはまた違いますからね~。

じーりゅー:「2」のやるぞー! って感じは確かにいいよね。コウジくんはやっぱりヴォコーダーが好きなんだね。

グルスポ:ということで、僕はガイの『Teddy’s Jam 2』のLPバージョン、マイケルの『Remember the Time』、ボビーの『Get Away』ですね。

編集部:ありがとうございます! そしたらじーりゅーくんお願いします。

じーりゅー:僕もやっぱり『Remember the Time』は入れたいんです。最強すぎるんですよこの曲は。アルバム前半のテディがやってるパートの流れも良いし、それまでのマイケルの曲との差がありすぎて、新しい感じで当時衝撃がすごかったなあ。

グルスポ:確かに! 『Bad』から『Dangerous』の変わり様はすごいよね!「フーズ べーッ!」からのこれですから(笑)。

じーりゅー:あとはさっきも挙げたけどブラックストリートの『Before I Let You Go』かな。テディのスロージャムはやっぱり良いんです。順位は付けられないな~。

グルスポ:でもブラックストリートのファーストは、テディ・ライリーの変化がいっぱい見られるアルバムだよね。

じーりゅー:そうそう。『Booti Call』が最初に出てね。

グルスポ:いやいや。『Baby Be Mine』が先だから。

じーりゅー:あ、そうだね。ちゃんと言うと『CB4』のサントラで『Baby Be Mine』が先にリリースされたから、『Booti Call』は2枚目だね。当時はテディの新しいグループだけどニュー・ジャック・スウィングでもないし、どうなっていくんだろ? って感じだったなあ。

24 Blackstreet / Booti Call

25 Blackstreet / Baby Be Mine

グルスポ:僕は『Givin’ You All My Lovin’』も好きだな。『パラッパッパパッパッパッ~』って。あれ1人で聴いてエモくなったりしてたな~(笑)。

26 Blackstreet / Givin’ You All My Lovin’

編集部:じゃあ最後の一曲はなんでしょ?

じーりゅー:う~ん。最後の一曲は……コウジくんも挙げてたけど、ガイの『Goodbye Love』。やっぱこれだなー。これがいいなー!

27 Guy / Goodbye Love

グルスポ:スロージャム好きのじーりゅーくんらしい曲だね。この曲ってアルバムにしか入ってないよね確か。

じーりゅー:そうそう。そういうところにも惹かれるよね。

グルスポ:てゆーか、このまとまりのない話をどうやってオチに持っていくんですか?

編集部:困りましたね(笑)。

グルスポ:つまり僕ら2人とも選んでるのがマイケル・ジャクソンの『Remember the Time』なんで、やっぱりそれが僕ら的なニュー・ジャック・スウィングの軸になるんですかね? 時代で言ったら91~92年ってことかな?

じーりゅー:そうだね。つまりニュー・ジャック・スウィング後期のテディ・ライリーが好きな感じだね。

グルスポ:物心が付いて、初期のニュー・ジャック・スウィングをあれこれ聴いて、何となく消化されて、テディ・ライリーってどんな人なんだろう? って思い始めた時期……それが91~92年頃で、その頃にたくさん聴いてた3曲がそれぞれのベスト3なんだろうね。

編集部:そんな感じがしますね。

グルスポ:でもちょっと目先を変えると、同じ時期にSWVとかが台頭してきて、シングルに入ってるテディ・ライリー・ミックスがめちゃくちゃ良い! みたいなパターンもけっこうあるじゃない? 『I’m So Into You』、『Right Here』とか。って考えたらテディ・プロデュースの名曲が多すぎるだろ!って。

28 SWV / I’m So Into You

29 SWV / Right Here

グルスポ:90年代初期のR&Bって、ニュー・ジャック・スウィングの流れもありつつ、さらに新しいサウンド、スタイルが登場していろいろ混ざり合ってたんだろうね。テディもニュー・ジャック・スウィングの冠だけじゃなくなってきてる時期だったし。

じーりゅー:まさにその通りだね。

グルスポ:そしたらまとめると。テディ・ライリーが好きなら、まずはマイケルの『Dangerous』を聴け!と。『Dangerous』を聴いてない君がデンジャラスだ! という感じでいかがでしょうか?

じーりゅー:無理やり落としたね~(笑)。

編集部:素敵なオチありがとうございます!

※というわけで、今回のテーマに合わせてグルスポさんが作ったプレイリストはこちらから↓
日日是好メロディ#6 Teddy Riley History

と、今週末の12/17(金)下北沢カウンタークラブにて、一晩中テディ・ライリーの曲をかけまくるイベントを開催。DJはグルスポさんとじーりゅーくんの2人。スペシャルゲストも登場するかも!? 上のプレイリストを聴いて、ばっちり予習しておきましょう!

PROFILE
grooveman Spot

音楽とスポートをこよなく愛する『女性に優しいハードコア集団』JAZZYSPORTに所属するDJ / トラックメーカー / プロデューサー。先日、香川県で讃岐うどんを食べるという夢が叶いました。讃岐うどんと言ってもお店によって全然味が違ってホント美味しくて大満足でした。余韻が冷めぬまま自宅で手打ちうどんに挑戦。全然美味しくなかったです…。まずは仙台にある居酒屋「松」さんのすだちうどんを食べに行こっと!
@groovemanspot