扉を開けると、「こんにちは!」と、満面の笑顔が迎えてくれた。挨拶のあとに続く歓迎の言葉が、気づかいに満ちた流暢な日本語でとても感心する。
今年の6月にオープンした「SAI」。
店内には、和紙の灯りや端正に並べられた花器、陶器。静かに生けられた花。決して日本風というわけではなく、元々フローリストだったボバエさんらしい感性によるものと言える。
加えて盆栽好きだった父の影響もあって、花や植物が着想源にある和菓子づくりに惹かれたという。
この日のために特別に仕込んでくれたのは、冬の石垣をイメージしたお菓子「浮島きんとん」と、巣を模したモンブラン。「浮島きんとん」は黒胡麻味。雪と氷とが降ったあとの石肌が繊細に表現されている。モンブランは、孵化を待っている希望を抱いた小さな卵。
もったいなくて、華奢なフォークをひとさしする覚悟に迷いが生じる。すぐには食べられない……。
「あんなに素敵なお菓子があるのに、どうして日本にはそれをカジュアルに会話しながら味わえる場所がないんだろう」
そんな思いをたずさえて日本を後にし、韓国で構えた「SAI」。
日本の女の子たちがわざわざここに足を運ぶ理由が腑に落ちた。
やはり日本にない場所だからなんだろう。
日本の文学や音楽が大好きなんだと、日本語でうれしそうに伝えてくれたボバエさん。それは彼女の流暢な言葉運びで充分に感じられる。好きな作家は太宰治で、高校生の頃『人間失格』を読破したらしい。渋い。
日本のカルチャーにまっすぐな敬愛を向けながら、日本人が気がつかない魅力を持ち帰り、韓国で日本人を魅了する彼女をリスペクトする。
旅の締めくくり。まずは今回触れた韓国の人々の総じてあたたかな姿勢を、そしてさまざまな一面を、大切に日本に持ち帰りたいなと思った。