『旅と日々』河合優実さんインタビュー “言葉にならない気持ちを表現することこそが演じるってことかなって思います”
『旅と日々』河合優実さんインタビュー “言葉にならない気持ちを表現することこそが演じるってことかなって思います” 『旅と日々』河合優実さんインタビュー “言葉にならない気持ちを表現することこそが演じるってことかなって思います”

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『旅と日々』河合優実さんインタビュー
“言葉にならない気持ちを表現することこそが
演じるってことかなって思います”

2025.11.07

11月7日公開の三宅唱監督の新作『旅と日々』は、
つげ義春の漫画『海辺の叙景』と『ほんやら洞のべんさん』を元にした映画です。
物語は河合優実さん演じる渚が夏の海で青年と知り合う『海辺の叙景』パートと、
仕上がった映画を見た脚本家が冬の旅に出かける『ほんやら洞のべんさん』パートに別れていて、
つまり、河合さんは映画の中の映画の登場人物なんです。
脚本家を演じるのはシム・ウンギョンさん。
言葉と格闘するシムさんに対し、むしろ言葉が絞られた役の河合さん。
その独特な役どころと作品の魅力について聞きました!

Interview & Text: Kyoko Endo
Photography: Kazuki Iwabuchi(TRON)
Styling: Mayu Takahashi
Hair and Make-up: Yuko Aika

― 映画を見てから読み直して、原作どおりだったんだ! っていうことに改めて気がつきました。言葉にならない気持ちを言葉に翻訳しないでそのまま映像化している映画ですよね。河合さんが演じられているシーンを見た佐野史郎さんが「五感を刺激されるような映画だ」っていう台詞もありました。ああいった言葉にならない気持ちを演じるときって、どんなことを考えていらっしゃるんですか?
でも、それこそが演じるっていうことかなって思いますね。普通に生活していて全部言葉にするわけじゃないし、言葉にできない気持ちとか、誰にも話してないこととか、話さなかったこと、些細なこととかはすごい普段の生活の中で溜まっていくものだし、まず根本的に、それを言葉を介さないで、自分の身体で表現できるっていうところにすごくおもしろみを感じてますね。だからそういう意味で普段の作品と違うっていうふうにはとらえてなかったかもしれないですね。確かに(今回の役は)台詞は少ないですけど。
―台詞も少ないですし、役どころがすごく独特で、三宅さんの映画の中のシム・ウンギョンさんが描かれた映画の主役っていう役で、原作のつげさんから数えたらフィクションの中のフィクションの中のフィクションみたいな入れ子構造になっていて、台詞もそこまで多くないけれども存在感は示さなければならないっていう演技はとても難しいことではないかと私は感じたんですけれども、とくにどんなことに気を使われていましたか?
「フィクションの中の登場人物であるっていうことはどういうふうに意識したらいいですかね。っていうか、私はそれをちゃんと思ってたほうがいいですかね?」って監督に聞いたら「あんまり考えなくていいんじゃない?」っていう。「それは僕が考えます」みたいなことだったので、頭の片隅に置いとく程度であんまり意識せず、夏編を一本の映画として作るっていうことを考えてましたかね。でも、なんか……渚っていう役なんですけど、渚のことが原作を読んでもわからないし、脚本を読んでも原作よりは解像度が上がってるけどまだわからないし。あんまり渚のことを理解しないまま神津島に行って、その場その場を体感してみるみたいなことをやってたんですけど、それで完成したものを見たときに、すごく浮遊感があるというか、撮ってても、役のこともあるけど、夏男とすごく深く結びつくわけでもないし、渚が何かを発見するわけでも成長するわけでもないし、もう確たるものが何もないまま撮影をしていて、それはそれで探している時間はすごく幸せだったし面白かったんですけど、なんかなんとなく浮遊感があるな、地に足がついてない感じがするなあっていうのは撮ってるときから思ってて、映ってるもの見てもやっぱりそう思って、それがある意味反省でもあるけど、その映画の中の登場人物っていう意味では、不思議な、あんまり実存感がない感じが作用してたらいいなあと思いました。
―なぜ反省されたのでしょうか? むしろ素晴らしく演技なさったと思うんですけど。
なんかこう……ふわふわしている感じというか。結果的に、その映画の中にパチッとはまるように監督が撮って編集してくれて、やれてよかったなあって心から思ってるんですけど。台詞だったり、自分の身体と……なんだろう? なんか……この映画が好きすぎて、自分が自分に及第点あげれてない感じで。説明しづらいんですけど。
―先ほど「探してる確たるものがなくて、でもその探してる時間が幸せだったし面白かった」っておっしゃったのが私はすごく印象的で。確たるものを探す、確たるものが見つからないっていうのは怖いとは感じなかったですか。
「まあ基本怖いし、迷うし。やっぱり自分で見たときに、ちょっと不安定だなって感じる部分の原因はそこだと思うんですけど、何をやってるかわからないままそこにいる感じ。ただ、なんか、そういう人だったんです、その役が。目的がなく何も求めてないままそこに来て、っていうことはわかっていたし、ものすごく繊細でつかみどころがなくて、そのまま撮ったら何も起きてないような映画だと思うし、それを三宅さんが映画にして行くうえで、どんな空気をとらえようかとか、そういうことをすごく悩みながら、選びながら、現場で一緒に作ってくれたので、そういう意味で探す時間がすごい楽しかったですね。」
――三宅監督の『きみの鳥はうたえる』がとても好きな映画だとおっしゃっていました。どんなところがお好きでしたか?
「三宅監督と出会う前に見ていたときは、どうやったらこの人たちの姿を撮れたのかなっていうのがすごい気になって。すごい知ってる人を撮ってる感じがしたんですよね。だから撮影前に一緒に過ごして仲良くなってからやってるのかなとか。あとクラブのシーンがあったと思うんですけど、三宅さんはクラブっていう所をよく知ってて、音楽が好きで、なんかそういう、もう身体になじんでいるところを撮ってる感じがものすごくしてて、その作り方がすごく気になってたし、そのときは質感がものすごくリアルだなって思ってたけど、一緒にやってみてわかったのは、たぶんリアリティみたいなことっていうよりも、本当に起こったことしか撮らないみたいな、何か空気が軽くなったり、重くなったり、そういうことを、素晴らしいテクニックもあるんですけど、本当に発見してから撮るっていう感じがしました。」
――そうですね。三宅監督の作品は地に足が着いているリアルな感じがしますね。神津島の撮影はいつごろだったんですか?
「去年の7月です。」
――ご自分が出演するシーンを撮られて東京に帰られてから完成したものを初めてご覧になった感じですか?
「アフレコとかで夏だけ見たりしてたんですけど、全体が完成したのは初号試写で初めて見ました。」
――冬のシーンも一緒にご覧になってどんな感想でしたか?
「大好きな映画だな、と思いましたね。「すごいいいな!」と思って。ものすごい細かく見ていったらいろんな要素があるんですけど。自分が参加したところも含めて、生と死みたいなことだったり、自然だったり、出会いと別れがあって、季節があって、すごい豊かな要素が散りばめられていたと思うんですけど。でも見終わるときは、本当に『旅と日々』っていいタイトルだなと思うんですけど、人生は旅だなみたいなことしか思わないっていうか、気持ちいいなあっていうすごいシンプルな感情が、最後のころは……。素晴らしいなあと思いました。」
――先ほどうかがったように、河合さんはフィクションの中の夢のような女性で、一方でシムさんは作家の分身で、シムさんの内面を語る台詞もとても多くて、言葉っていうものを自分の中で突き詰めていく、言葉についてのシムさんの台詞を聞いて、どのように感じましたか?
「“言葉に囚われてしまった”っていう?」
――そうです。“言葉に追いつかれてしまった 私は言葉の檻の中にいる”。
「すごくわかるなと思うし、あんまり原作にない要素なのかなと。つげさんの言葉とかから、もしかしたら取ってたりするのかなと思ったんですけど。私たちはこういう仕事してるとすごくああいうことを考えるし、最初の話にもつながりますけど、言葉にできないから、言葉じゃない表現……お芝居したり映画を作ったり漫画描いたりっていうの全部、言葉じゃできないことをやってるから、なんかそこの……だから旅に行きたくなるっていうのもすごいわかるし。自分の感性をずっと保っておくためとか、共感っていう感じもすごいありましたね。」
――そうですね。“生きていくと言葉にならないことがある 旅行とは言葉から離れようとすることかもしれない”っていうシムさんの台詞を、私は三宅監督の言葉のように感じて。それで、河合さんが言葉が少ない役柄を演じられたあと、あの場面を見てどう感じられたか、とても興味があったんです。
「(シムさんが)独白するシーンは私がやったときにシナリオにない部分だったので、全部新鮮に見たんですけど、私もすごい感動しました。本当にシムさんの声がよくて、韓国語の、母国語の喋るトーンとかと日本語を話すときの頭の動かし方とたぶん全然違うんだろうなって思ったり。すごく感動しました。」
――この映画がまだ身体の中に残っているぐらいの感じかもしれないんですけど、今後一緒にお仕事したいとか、気になってる監督さんとか俳優さんとか、海外も含めてどなたかいらっしゃいますか。
「なんか今回取材を受けてて、改めて考えさせてもらいましたけど、三宅さんともう1回やるのが目標。かもしれないです。」
――私も是非拝見したいです!
「なんか本当にそう思うぐらい尊敬できる方だなと思いましたね。」
――ありがとうございました。
「ありがとうございました」

『旅と日々』

伊豆諸島の一島の夏の海辺、夏男は「なんにもしたくなくて」なんとなく旅行に来た渚と出会う。夏男もまた将来の展望はなく、台風が近づく日も二人は泳ぐ……その映画を見る脚本家の李。李は言葉を書くことの限界から逃れるかのように旅に出て山間の旅館に泊まることになり、当主べんさんの行動に巻きこまれていく。

監督:三宅唱 出演:シム・ウンギョン、堤真一、河合優実、髙田万作(2025/日本/89分)
配給:ビターズ・エンド
11月7日(金)より全国ロードショー
https://www.bitters.co.jp/tabitohibi/
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