GIRLS’ CINEMA CLUB
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#118『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』
実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
今回ご紹介するのは『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』。
シンデレラのガラスの靴を履くために、足の指まで切り落としたシンデレラの義妹の物語の新解釈映画です。
「美」というより、“世間”が押しつけてくる「美のフォーマット」に翻弄されがちな私たちが見ておくべき映画ですよ。
Text: Kyoko Endo
鼻を削り足指を切断!シンデレラ義妹の事情とは
タイトルのアグリーシスターとは「醜い」と描写されたシンデレラの義姉妹のこと。英題ではUgly Stepsisterとなっています。でも絶世の美女のシンデレラよりはちょっと鼻と足が大きかったってだけで、絶対少数の絶世の美女以外の大多数の女子にむしろ近い存在なのよね。『ウィキッド』の原作者もグリムやペローに雑に脇に置かれたこの女子を救済していますが、この映画はそれともまた別の完全オリジナル。足の指を切り落とすほど追いつめられてたってどういう状況? という疑問からノルウェーの女性監督が脚本を書き制作しました。これが長編デビュー作という才能です。
シンデレラを知らない女子はいないと思います。父が死んで、父の再婚相手に女中としてこき使われていた少女が魔法使いにドレスをもらって舞踏会で王子に見初められ幸せになりましたというアレ。いまから考えれば華奢な足フェチの富豪男と結婚したとて、財力や権力を握っているのが男側では、そのうち華奢な足の若い女の出現を心配することになり、王家の権力闘争に巻きこまれていく結末にしかならないのですが、そもそもなんでシンデレラほかメルヘンは少女を王子とくっつけたがるのでしょうか。そりゃ、女性が社会進出できなかった時代、食べていく主な手段が結婚だったからですよね。
最近も婚約不履行者を追う女性を嗤う作品がまだあったけど、女性が差別されている状況を知らないにも程があると言いたい。昔は女性が一人で働いて人生をまっとうできる環境が整っていなかったから、みんな結婚しようとしていたのです。いまの日本も似たようなもんですが、女性の人権が軽んじられる社会では出生率も下がります。
主人公は、ロマンス小説を読んで王子に憧れるティーンのエルヴィラ。ロマンス小説というのも洗脳道具ですな。エルヴィラは貴族の令嬢として周囲の状況に疑問を抱かずゆるふわ女子として育ってしまったのですが、母が生活のために別の貴族と結婚します。そこにはアグネスという美しい娘がいて、姉妹として育つはずでした。ところが母の再婚相手がタイトルが出る前に死んでしまう。泣き伏すアグネスを慰めに行ったのにそのアグネスに「無神経な人ね」と八つ当たりされたエルヴィラは、義父がまったく財産を残していなくてエルヴィラの母との結婚も金目当てだったことを知ってしまいます。
そうして母はエルヴィラを美女に仕立てて財産家と結婚させようと奔走することになります。母だって老後の生活がかかっているので、エルヴィラに投資するしかないと考えてしまう。麻酔なしの鼻の美容整形手術や栄養失調になりそうなダイエットをさせられるエルヴィラ。食べ盛りで隠れ食いするので全然痩せなくて、貴族のバレエ学校の先生に寄生虫の卵をもらって飲んだりします。
一方、アグネスは家中の労働者と恋愛中で王子になんかまったく興味なかったのに、恋愛発覚で義母の怒りを買い女中として扱われることに。はい、シンデレラ誕生。恋人も追い出されてしまい、アグネスも結婚で一発逆転を狙うしかなくなります。彼女もまたどうでもよかったはずの競争に駆り立てられていくのです。
鼻の手術のほか、つけまつげを瞼に縫いつける手術(!)など整形手術描写がグログロで「シンデレラ×クローネンバーグ」とグロ部分ばかりがクローズアップされている作品ですが、そこにしか注目しないのはおそらく男性鑑賞者だと思います。女性が見るとむしろ身につまされる映画で、年長者から見れば若いお嬢さんには「こうならないでね!」と祈りたい気持ち。
身につまされるのも当然で、ファッションには苦痛を引き換えに美を提供するものもまだまだ多い。私もブラやらヒールやらに苦しんだ経験があります。ヒールを履かなくてもいいんだ!と気づいたのはヨガを習って足の健康を気にするようになってから。同じころ、ネザーランド・ダンス・シアター(NDT1)のハイティーンのダンサーたちの私服姿を見たら全員ぺったんこのヒールなのに、めっちゃおしゃれだったことからも考えが変わりました。おしゃれ=ヒールじゃなかったんでした。ブラもまた取ったら死ぬわけでもなかったんです。ブラをしたければしてもいいし、ヒールを履きたい人は履いてもいいと思いますが、窮屈なのとか痛みとかは私はイヤ。どっちの状態が好きかで選べるのがいいと思います。
整形だってしたい人はしてもいいんですが、そもそも鼻と耳はずっと成長し続けるので一時的に理想的な形になっても年月が経てばまた形が変わっちゃうことはお伝えしておきたい。ティーンのころ鼻が低いと思っていても中年になるとちょうどいい高さになったりします。あと経年変化ってことで言えば、最終的にはどんな美人もどんなブスもお年寄りになるとあんまり変わらない……最終的には自分が培ってきた人相と健康で勝負ということになろうかと思いますよ。さらに健康で勝負となれば、骨粗鬆症リスクをはらむ過度なダイエットも考えものなんです。
この作品のエルヴィラも、王子をはじめとする貴族の男たち(全員ゲス)や母親やバレエ学校の教師たちという“世間”が押し付けてくる「美のフォーマット」に追いつめられるのですが、最後には真のシスターフッドに救われる爽快な結末が用意されています。美以外にも年齢とか身分とかいろんな要素が入っているところもいい。お正月太っちゃって……とネットで痩せサプリ検索して時間溶かすなら、この映画見て走りに行ったりするほうがいいと思います。
『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』
監督・脚本:エミリア・ブリックフェルト出演:リア・マイレン、デア・ソフィー・ロックネス、フロー・ファゲーリ(2025/ノルウェー/109分)
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
全国公開中
© Mer Film / Lava Films / Zentropa Sweden / MOTOR / Film i Väst / Mediefondet Zefyr / EC1 Łódź 2025
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遠藤 京子
東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』、『RiCE』、『BANGER!!!』に寄稿。
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