GIRLS’ CINEMA CLUB
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#24『スケート・キッチン』
実際に観ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
プレスリリース引き写しのサイトでは読めない情報をお届けします。
この映画は全年齢の女性に見てほしいやつ。スケート・キッチンのクルーが全員カッコかわいいし、
映像もストーリーも編集もいい=映画そのものの出来がいい。
早い人はもうチェック済みで舞台挨拶がある回はすぐにソールドアウト。
でも舞台挨拶なしでも素晴らしい作品なので心からお勧めします。
Text_Kyoko Endo
ジェイデン・スミスがフォローした最高な女子たち。
映画『スケート・キッチン』は、実在するニューヨークの女子だけのスケートクルー「スケート・キッチン」が登場する映画。彼女たちを地下鉄で偶然見かけてすごくいいと思ったクリスタル・モーゼルが〈ミュウミュウ(miumiu)〉制作で彼女たちのショート・ドキュメンタリーを撮ったのですが、それがヴェネチア映画祭で上映され話題に。その後サンダンス映画祭のプログラマーに彼女たちで長編劇映画を撮ったら?と勧められて、実際に起こった出来事などをもとにして脚本に落とし込んで、彼女たちが自分自身を演じたのが本作なのです。
スケート・キッチンという名前は、もともと女性はキッチンにいろというような風潮があったことから、じゃあキッチンでスケートすりゃいいんじゃん、とレイチェル・ヴィンベルクが言った冗談からつけられたそうです。映画に登場するクルーは、全部で7人。カミール役のレイチェル、カート役のニーナ・モラン、ジャネイ役のディーディーことアーディーリア・ラブレス、ルビー役のカブリーナ・アダムズ、インディゴ役のアジャーニ・ラッセル、エリサ役のジュールス・ロレンゾにクイン役のブレン・ロレンゾ。みんなすごくチャーミング。ファッションは個性的でばらばら。地声で喋るし作り笑いとかしなくて自然。でもかわいい。最高です。
内容は、ロングアイランドに暮らすスケートボード好きなカミールが、インスタで見つけたスケート女子会に出かけ、クルーと仲良くなって成長していくキラッキラの青春ストーリーなのですが、恋愛や女の子同士の友情ばかりでなく、女の子が女性になる入り口に立ったときのめんどくささや、スケートボードそのものや都会の危険を過剰に心配する母親との関係なども描かれていて、女子なら誰でも「うわーこんなことあったな!」と共感すること必至。しかも映像もゴージャスで、スケートする彼女たちやカミールの髪が風になびくのを眺めているだけでかなり幸せになれちゃうのです。
なおかつ台詞がおもしろい。クリスタル・モーゼルは電車で声をかけたのは彼女たちの話がすごくおもしろかったからと言っていますが、おそらくはニーナが話していたと思われ。字幕はかなりお上品に「男ばっかりだね」とかに直されていますが、ニーナってば「too many penises」とか普通に言うんだよね。あと「混み始める前にパークに行かなきゃ」っていうのも「assholesが来る前に」って言っていた。挑発的な口の悪さながら辛辣なユーモアがあって、笑ってしまうのです。
彼女らの傲岸不遜ぶりもかっこいいんですよ。スケートパークだけじゃなく普通の歩道を歌ったり踊ったりしながら、さらにはバナナを食べたりしながら歩いちゃって。乱暴に走ってくる車にさらに悪態つきながら我が物顔で滑ったり、車道の真ん中どころかトラックの後ろにつかまって滑って行ったり、東京ならすぐおまわりさんが飛んできそうな悪ガキの所業なんだけど、そもそもスケートカルチャーってこういうものだったよね?って再確認させられます(スケボーが五輪競技なんかになるらしいけどその挙句選手のお行儀がどうとかオトナが言い出したらほんっとにウンザリ…)。
弁護すれば、彼女たちがあえて我が物顔に滑るのにも理由があるのです。そもそもスケートパークは男子が占領していて、女子なんて滑るわけがないくらいに思われていた。そこで彼女たちは自分たちで居場所を作っていったのです。ニーナはTEDxTeenでスケート・キッチンを結成するまでの話をしていますが、最初は技を教えてくれたりしていた男子の友だちですらニーナが上手くなってくると女子はスケートするもんじゃないとか言い出す。それで、女子のスケーターを探さなきゃと思ったそうです。ちなみにすごくいいスピーチなので、英語が読める人はTEDxTeenのサイトで探してみてほしい。現時点では日本語字幕は出ないのですが、自動生成の英語字幕が出ます。
閑話休題。で、YouTubeで滑ってる女の子を検索したらレイチェルが出てきたそう。それでニーナも投稿し、お互いに連絡を取り合ったと。同時に学校でディーディーにスケートパークにいたでしょ、と声をかけられたりして友だちが増えていき、お互いにトリックを教えあったりして仲間を増やしていったそうです。そうしてスケート・キッチンとしてインスタなどで投稿したらジェイデン・スミスにフォローされたりして。で、ジェイデンも映画に出ることになったりして。だから映画に出る前からフォロワーが付いていて、人気もあったのです。インスタ見てるとみんな自分が転んだりするところも撮っていて、痛そうだけどイタくない。それよりトリックに挑戦するほうがかっこいいんだよと全身で言ってるみたいなんです。
この映画見てると彼女たちが生き生きと好きなことを好きなようにやってる姿にだんだん感動してくる。だから、好きなことができてなかったりやりたいこともとくに見つかってない、という人にも是非見てもらいたいです。人の目とか気にしないでなんかやらないと!って気になると思うし、怪我しようがなんでもやってみる人生のほうが何もしない人生より絶対楽しいです。
『スケート・キッチン』
(2018/アメリカ/106分)監督:クリスタル・モーゼル
出演:レイチェル・ヴィンベルク、ニーナ・モラン、ジェイデン・スミスほか
配給:パルコ
5月10日(金)より渋谷シネクイントほか全国ロードショー
© 2017 Skate Girl Film LLC.
公式サイト
『スケート・キッチン』を観た人は、こっちも観て!
スケボー映画だとどうしても男の子目線のものばかりになっちゃう…なので今回は女子の友情やジェンダーテーマの作品を集めてみました。そうしたら思いがけず女性監督の作品ばかりになりました。
『裸足の季節』
トルコ人女性監督が五人姉妹の成長を描いた美しい映画。結婚するまで彼女たちを家に閉じ込めておこうとする家族から逃げて成長。よかれと思って親世代がやることって必ずしも望まれないんですよね。あと、主人公たちの動きを見ているだけでうっとり。公式サイト
『ランナウェイズ』
ちょっと古い作品ですが、これもまた女子の先駆者の物語。ロックが女子のものじゃなかった時代にロックを自分のものにしたジョーン・ジェットと、彼女が結成したランナウェイズのボーカル、シェリー・カーリーとの友情はほろ苦くて…。『ニューヨーク最高の訳あり物件』
邦題がアレだが『ハンナ・アーレント』のマルガレーテ・フォン・トロッタ監督の新作。夫を取り合った女性同士の間に友情は芽生えるか? この作品の場合は芽生えるのです! コメディですが骨太。あとドイツケーキがおいしそうすぎる。公式サイト
PROFILE
遠藤 京子
東京都出身。出版社を退社後、フリーのライター、編集者に。『EYESCREAM』『RiCE』に寄稿。