GIRLS’ CINEMA CLUB
上映映画をもっと知りたい! 語りたい倶楽部。
#46『コンテイジョン』
実際に見ておもしろかった映画しか紹介しないコラム。
プレスリリース…今回はあんまり関係なかった。
2011年公開作でありながら、いまNetflixでもっとも見られている映画をご紹介します。
人気監督の作品で豪華キャスト多数、しかも新型コロナウイルスの世界的大流行を予言したかのような内容。
おもしろさは保証しますし、それ以上に見ていただきたい理由があります。
いつもながら、多少のネタバレはご容赦ください。
Text_Kyoko Endo
コロナそっくりすぎ『コンテイジョン』が予見する“この先”。
皆さま、お元気でお過ごしですか? とすら気軽に聞きづらいすごい時代が来てしまいました。まるで数週間前に暮らしていた地球とは別のパラレルワールドに迷い込んでしまったかのよう…。こんな昨今、Netflixで日本人がもっとも見ている映画、それが本作でございます。
何がすごいって、ウイルス感染のコロナウイルスへの激似ぶりです。これでこの映画はすごくバズっていて「コン」と入力すれば出てくるほど。アメリカ本国でもAppleTVで一位になり、オリジナルストーリーを書き上げた脚本家のスコット・Z・バーンズは多くのメディアからインタビューされています。
この映画は未知のウイルスに侵された世界を描く群像劇で、キャストが超豪華。製薬会社のエグゼクティヴ役にグウィネス・パルトロウ。で、夫がマット・デイモン。グウィネス(役名はこの際書きません。すみません)が香港出張から咳をしながら帰ってきて、開始から15分で死んでしまう。グウィネスは脳まで開けられて検視官が「うわ」とか言っている。病院に送り届けたマット・デイモンが茫然自失で帰ってくると、グウィネスの連れ子も死んでいる。
同時期に香港、ロンドン、東京で感染が広がっていきます。ウイルスがヒトの手から感染るのです…コロナそっくりに! 感染拡大ってこうやって起こるのか! ってことが如実にわかり、何に気をつけるべきか理解しやすいところもお勧めポイント。この映画のキャストたちが「手を洗って! 」と訴えるフッテージもSNSなどでバズってますよね。
ストーリーは綿密なリサーチに基づいています。スコット・Z・バーンズが『ワシントン・ポスト』に語ったところによれば、科学者である父親との会話中に「鳥インフルエンザのようなウイルスが人間に感染するとしたら」という着想がふと湧き上がったそうです。ロンドンで一週間、ニューヨークで一週間と人々が頻繁に移動する時代にそんなウイルスが現れたらどうなるか疫学者に尋ねたら「(パンデミックは)起こるかもしれないのではなく、いつ起こるかが問題だ」と言われたとのこと。
それで米国国土安全省の疾病管理防衛センター(CDC)などを取材してまとめたのがこの脚本というわけ。科学者も納得の骨太なストーリーに加え、キャストが豪華。グウィネスとマット・デイモンのほか、米国国土安全保障省の職員を演じるのがローレンス・フィッシュバーン、CDCの医師がケイト・ウィンスレット、危機管理担当の海軍大将がブライアン・クランストンです。病院に患者を収容しきれないと予測したケイトが体育館にベッドを手配したりして、彼らが国民の安全のために奔走する姿に頭が下がりますが、このへんは取材に基づいていると言います。WHO(世界保健機構)の医師がマリオン・コティヤール。
ところが、彼らの努力が市民に伝わってません。パニックを抑えるために発表を抑えたことも裏目に出て、ローレンス・フィッシュバーンが婚約者に街を出るよう告げたことから危機がバレて人々が買いだめに走ってしまったりします。ブロガーの記事を信じた市民がウイルスには効かない漢方薬を求めて薬局を襲いさえする…。このブロガーをジュード・ロウが演じています。
マリオン・コティヤールに至っては、調査中の香港で誘拐されてしまいます。ワクチンが開発されても香港は後回しだろうというのです。いまの中国の国力を考えるとありえないと思うかもしれませんが、格差社会で起こりうることとして見ればリアル。
監督はスティーヴン・ソダーバーグ。彼の監督作ということでも本作の注目が高まっているのですけど、私はやはり脚本のスコット・Z・バーンズが気になります。バーンズは気候変動に警鐘を鳴らして話題となった『不都合な真実』のプロデューサーでもあるんですよね。
で、『スレート』のインタビュアーの「気候変動の否定論者とコロナを軽視していた人々は似てますよね」という言葉に対し、バーンズはトランプ政権がCDCなど保健の現場の予算や医学研究費をバッサバッサ削ったことを批判しています。「私たちのことを壁をつくって守ると言ってたくせに、検査キットすら満足にない」。目先の金儲けばかり考えてカジノはつくろうとするくせに公立病院を次々潰して医療崩壊を招き、そのくせ危機対応のときはヒーローぶる、どこかの国の政治家たちの話を読んでいるような気がしました。
バーンズはまた「僕が心配しているのは、いま比較的低い患者数しか報告されていない場所にいる人たちが、これから何が起こるかよくわかっていないんじゃないかってことなんだ」とも発言しています。まさに日本では患者数が抑えられていますが、だから危機感がない人も多い。煽るわけではないですが、この映画を見る前と見た後では自分の生命を守ることへの真剣味が変わると思います。流行に敏感なガールフイナム読者の皆さまですから、とっくに見た方も多いかと思いますが、忙しかったりしてまだだったら是非ご覧ください。元気で映画館に遊びに行けるのも健康あってこそですよね。
『コンテイジョン』
(2011/アメリカ/106分)監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:マット・デイモン、ローレンス・フィッシュバーン、ケイト・ウィンスレット、マリオン・コティヤール
配給:ワーナー・ブラザーズ
MOVIE PHOTO_IMDb
Netflixなどで配信中
公式サイト
『コンテイジョン』を観た人は、こっちも観て!
ソダーバーグ&バーンズの映画でサブスクで見られるものの中から選びました。2009年公開の『インフォーマント!』以外は日本での劇場未公開作。『ザ・レポート』は監督・脚本ともバーンズです。社会派映画もたまにはいいでしょう?
『インフォーマント!』
実際の国際価格カルテル事件を元にした作品。飼料添加物製造会社の重役が、場当たり的に嘘をつき人生踏み外していく様子をマット・デイモンがコミカルに演じます。話をちゃんと聞いてなくてすぐバレるような嘘つく困ったちゃん、あなたの職場にいませんか。『ザ・ランドロマット 〜パナマ文書流出〜』
富裕層の隠し資産を管理していた法律事務所の情報がリークされ国際的なスキャンダルとなったパナマ文書事件を、中産階級のおばあちゃんの視点から軽妙に描きます。メリル・ストリープにゲイリー・オールドマンにバンデラスとこの作品も豪華キャスト。『ザ・レポート』
アラブ人を拉致して拷問しまくったCIAの愚行は『ゼロ・ダーク・サーティ』などでも描かれましたが、これはその秘密を暴こうとする上院議員スタッフの10年以上の辛苦を描いた映画。ソダーバーグが製作者に名を連ね、主演はアダム・ドライバー。PROFILE
遠藤 京子
東京都出身。出版社を退社後、映画ライターに。『EYESCREAM』『RiCE』に寄稿。